私は佐渡に本拠を置いて活動しています。 佐渡は沖縄本島を除いて国内最大の離島です。面積はおよそ
東京23区の1.5倍あり、1,000mを越える山々をも抱えています。 人口は年々減少傾向にあり、全国でも人口に
占める高齢者率は極めて高くなっています。 その高齢者をターゲットにした悪徳商法の被害も後を絶ちません。
その手口の一例を挙げてみます。
まず、島外の業者が健康食品や健康器具等の展示会、即売会、セミナーを開催します。 参加者には無料で
○○○を進呈とか△△△を特別サービスなどと謳った広告を新聞チラシで配布し勧誘します。 業者は言葉巧みに
参加者に商品の説明を始めます。 時に笑わせたり、逆に恐怖心を煽ったりしてまるで催眠術をかけるように商品
購入へと誘引していきます。 ひととおり説明を終えた後、その場ではすぐに購入させることはしません。 何千円、
何万円単位ではなく、何十万円単位以上のものだからです。 そして、アンケート用紙が配られ、参加者に氏名、
住所、年齢などの基本情報は勿論ですが、必要とあらば健康状態や病歴、家族構成、収入など機微な情報も記入
させられます。 帰りには、おみやげを持たせて催事はひとまず終了となります。
さて、このような個人情報を取得したアンケート用紙はデータベース化されます。 できあがった名簿をもとに
電話をかけたり、DMを発送し、確度の高い対象者を個別に訪問し、商品を購入させるのです。 なかには、確実な
年金収入を担保にクレジット・ローンを組ませたりもします。 これは無防備な地方の高齢者の善良さや弱みにつけ
こむ常套手段ですが、後を絶ちません。 他にも高価な和服、宝飾品やリフォーム詐欺などがあり、クーリングオフ
などの解約手続きの知識を知らずに、無駄で高額な不要物が家の中に放置されてしまうことになります。
業者に残っているアンケート用紙やデータ化された名簿は、次々と使いまわされていきます。 訪問販売業界は、
業務委託契約社員やフルコミッションの社員が多く、この名簿を持ち出し名簿ブローカーに売り渡すことがあります。
いったん出回った名簿は何処でどう使用されるかわかりません。 さらに、何度も騙された被害者の名簿は俗に
「カモリスト」(このネーミングは「脅せば金を出すおいしいカモ」からきているそうです)としてブラックマーケットで
取引され、このリストを利用する詐欺グループは、次に手口を変えて振り込め詐欺や架空請求をしかけてきます。
国民生活センターによると、架空請求の被害者の60歳以上の高齢者の割合は30.5%を占め、特に女性が多い
と報告されています。 個人情報保護法が全面施行されて1年半以上が経ち、個人情報に係わる漏洩事故・事件が
連日、テレビや新聞等でも大きく取り上げてられているにも関わらず、前年度の3倍近くに被害は急増しています。
佐渡でも一昨年、80歳代の一人暮らしの女性が1,300万円を振り込め詐欺で騙し取られたケースがありました。
急速に進展する情報社会に大多数の高齢者は追いついていけません。 特に地方では、その弱みにつけ込んだ
詐欺が顕著に数字に表れています。 個人情報はより良いサービスを提供する上において必要不可欠であることは
言うまでもありません。 我が国はますます高齢化が進み、それも地方からその速度は速まります。 地方の特性で
ある相互援助のコミュニティが崩壊し、都鄙を問わず、他人に親切することができないような社会になってはなりま
せん。 有用な個人情報を悪用させないためにも、高齢者や子どもに対して疑心暗鬼な社会にさせないためにも、
個人情報の保護と適切な流通のバランスをひとりひとりが再認識していかなければなりません。
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