政府は、「テロ対策基本法」制定に向け来年の通常国会に提出する考えをまとめた。この法案は、テロ対
策として情報収集、入国審査、テロ使用物質管理、重要施設警備など関係機関や国民の責務として規定し
ている。米国は、9・11テロ以降「愛国者法」の制定や「国土安全保障省」の創設など、過剰反応といえるほ
ど躍起になってテロ対策に取り組んでいる。入国審査においても、米国国土安全保障省は日本に対して協
力要請を促したばかりである。国家安全保障で協力関係を締結している日本も、これに呼応するように米国
並の監視社会を招来することになるであろう。安全保障という大義のもと、街のいたるところに監視カメラが設
置され、各種行政機関と民間データベース会社は情報の共有をし、氏名、住所、性別などの基本情報はもち
ろんのこと、家族構成、交友関係、閲覧したウェブページ、通話、趣味、嗜好、政治信条さらには、いつ・どこ
で・何を・どのように買ったかなど些細な情報さえも記録されファイリングされていく。当局は、これらのデータ
ベースをプロファイリングすることにより危険人物を割り出していく。
権力が個人データを掌握すれば個人情報保護法にいう「本人の開示請求」など国土安全保障の前では何の
役にも立たない。実際、米国ではこれが現実である。ジョージ・オーウェルが描いた近未来小説「1984年」の監
視社会における絶対的独裁者であるビッグ・ブラザーとは次元が異なるものの、個人のプライバシーが存在しな
くなる点においては同じである。「あなたの身の安全のためには、やむを得ません」といわれ、選択の余地さえ
なく、自らのプライバシーを他者にゆだねてしまう。日本国憲法13条の「人格権の尊重」すら脅かされつつある
社会の入口に現代人は一歩、足を踏み入れているのかも知れない。
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