いつもの日曜日と同じように、今朝もオパールと連れ立って信濃川の堤防まで散歩に出かけた。
３、４０分ほど歩いての帰り道、大きなホームセンターのある交差点に差しかかった。ここは４車線の広い国道と、ここ数年の開発で、交通量が激増している８メーターの市道が交わっている所。
　私とオパールは来た時と同じ広い歩道を、車道を右に見ながら歩いていた。横断歩道の手前でオパールが止まった。私に横断歩道であることを知らせるとともに、安全確認をするためだ。
しかし盲導犬は横断歩道があることは教えても、信号の色まで認識してはくれない。
目の見えない主人が他の歩行者の動きや走る車の方向を聞き分けながら信号の色を推測する。そういった意味では視覚障害者が横断歩道を渡っている時には、一般の人より数倍の緊張状態にあって、なおかつ命がけであるとも言える。
そのためにも音響式信号は視覚障害者の命を守る大切な手段なのである。
この交差点の信号も２、３年ほど前から地元の小学校の子供たちと一緒に警察署に陳情してはいるものの、残念ながら未だに実現していない。
　車が私たちの進行方向と同じ縦方向に流れていることを耳で確認してから、子供のそれと同じようにサッと右手を挙げ、オパールに「ＯＫ！」と静かに指示を出した。
横断歩道を５、６歩進んだ所で、突然、音も無くいきなりドンと大きな塊が右方向からぶつかってきて、私とオパールは一緒に跳ね飛ばされた。相手はエンジン音からするとどうやら軽自動車らしい。私は一瞬、何がおきたのか皆目見当がつかなかったが、倒れている自分に気がつき、車に跳ねられたことを知った。オパールはどうしたかと手探りで探すと、ハーネスもリードもバラバラになっていたが、それでも私に寄り添うように平然とたっている。幸い怪我は無かったらしい。
車は私たちと同じ進行方向から来て、ここで左折をしたのだった。黄色の信号で交差点に入り、走り出そうとした横方向のバイクに気をとられて、横断歩道を歩いていた私たちにはまったく気がつかなかったと言う。ぶつかった右大腿部はかなりの痛みがあったが、幸い下になった左ひじや左の膝もかすり傷程度で済んだようだ。車を止め、降りてきた人の良さそうな本屋の主人が警察を呼ぼうかと言ったが、気の毒だし、それにその時は大した事も無いと思い、少し話をしてから名刺をもらって別れた。
もしかしたら私の前の歩行者信号も青の点滅だったのかも知れないが、それは知る由も無い。ただ言えることは信号が変わる一瞬の時間が、推察で渡っている私たち視覚障害者にとっては魔の時間であるということだ。
　その後、朝食をすませてから業界の記念式典に出席。たいした事は無いと思っていた右大腿部の打撲や、手をついたと見られる左手首の痛みが、時間がたつにつれ次第に強くなってきた。
　帰宅して風呂に入り、シップをして寝たが、ぶつかってきた本屋の主人もさることながら、以前から何回となく音響信号の設置を陳情しながら、予算を理由に未だに実現しない当局の対応を思うと、痛みがなお一層増してきた。
視力を失ってから、またオパールと歩くようになってからこれまで事故にあった事が無かったので、私には交通事故など無縁のものだと思っていたが、それは間違いだったようだ。これが軽自動車でなく、大型のダンプカーだったらと思うと、今さらながらゾッとする。
　これを機会に今週末には市内の盲導犬ユーザー３人で警察に赴き、しっかりと実情を訴え、視覚障害者が安心して歩くことができるよう、音響信号を増設するなど、交通整備の早期実現を訴えて来るつもりだ。

（03年７月13日　　ふう）

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