0歳教育関係へ

私製本「0歳教育」

【私製本「0歳教育」の概要】 【躾・その考え方と親の責務 】
【胎児教育・その1     】 【幼児の能力を育てる・その1】
【胎児教育・その2     】 【幼児の能力を育てる・その2】
【誕生と乳児・その1    】 【幼児の能力を育てる・その3】
【誕生と乳児・その2    】 【幼児の能力を育てる・その4】
【0歳児の年間計画    】 【幼児の能力を育てる・その5】



誕生と乳児・その1

誕生と乳児・その1
「親の愛情とは、わが子のしあわせを願って、何かを、してやること」


誕生と乳児・その1(昭和63年3月3日)

 今日は誕生と乳児についてお話申しあげます。今日「誕生と乳児」という題でお話しますのは、実は0歳教育とか幼児教育の、とても大切なことが誕生直後に秘められているからであります。

 私達の大脳は、古い大脳と新しい大脳の二つに分かれて、それぞれの役目を担っております。そこで古い大脳は、この前お話したような35億年にもわたる人間の進化の過程がプログラムされており、僅か10ヶ月の間に立派な人として誕生するという、そういう役目をもっております。

 一方新しい大脳は全くの白紙状態で、赤ちゃん自身が周囲からの情報とか刺激によって、大脳を発達させていくという役目、いいかえると、人柄や知識技能など身につけていく役目をもっておるといわれております。

 さてそこで大事なのは、このニューブレインといわれる大脳新皮責の発達についてであります。

 このニューブレインといわれる大脳は、われわれの想像を遥かに越える能力をもっておって、あらゆるデーターをインプットし、その情報を組織化し、認識を深め思考し、判断し、行動する、というようになるんだといわれています。全くの白紙状態の大脳に、ある情報が入ってきたとき、脳細胞は他の脳細胞にその情報を伝え、同じ情報が何回か入ってきますと、細胞間にはニューロンとよばれる神経繊維がのびて連結回路ができ、情報伝達がたやすく行なわれるようになるといわれております。

 多いものでは1つの細胞から1万の連結回路が他の細胞との間にでき、間接的には60万にもなるんだそうです。そしてこの細胞は140億あるといわれています。

 ニュートンとかアインシユタインとか大脳に大量のインプットをした人達ですら、脳細胞の4〜5パーセン卜しか使っていないといいますから、まさに想像を絶する能力をもっているわけでございます。

 このニューブレインのスタート時点では、総てのもののインプットから始まります。赤ちゃんがあらゆるものをインプットするというのは、いいかえれば、赤ちゃんの周囲のものをすべてインプットすることであり、具体的には母親から受け取る情報が最大のものになるわけでございます。

 生まれてから3歳頃までは、基本的に赤ちゃんは自分のまわりのものを無批判・無抵抗に素直に真似をしていくものであり、すべてを受け入れることが赤ちゃんの特性であります。私達が一番気をつけたい赤ちゃんの特性であります。

 赤ちゃん時代はとにかく自分を作りあげる時期で、自分のものにする力はものすごいものであります。この時期の親子の相互作用の、知・徳・体にわたる質と量によって赤ちゃんはどのようにでもなっていきますので親の責任は重大といわざるをえません。挨拶から始まって優しさ、物覚えから健康にいたるまで、総てにわたるのであります。

 まず第一に、心づくりについて考えてみたいと思います。ここ数年、青少年の親子の問題・学校での問題は気にかかることであります。新聞紙上やラジオの「こどもと教育相談」番組の中昧とか、先日の掛川市長さんの親孝行のお話など胸を痛める課題があれこれとあります。

 そこで私は親子の絆という面から考えたいと思います。

 小学館の国語辞典をひいて見ますと、絆とは「たちきりがたい気持」と書いてあります。親子の絆といえば親子のたちきりがたい気持だというわけであります。たちきりがたい気持といえば、他郷にあって故郷を思うたちきりがたい気持とか、親兄弟とのたちきりがたい気持とか、幼少の友達や心をゆるしあった友達とのたちきりがたい気持など誰もがあるものでございます。

 こういうたちきりがたい気持というのは、自分とは何で結ばれているんだろうかと考えてみますと、キリスト教では「愛」かも知れません、仏教では「慈悲」かも知れません。もっと具体的にいえば、いとおしい眼差しとか、優しい心配りとか、温かい言葉づかいとか、思いやりのある行動とか、そういうものが幼児時代までに大脳にインプットされていたのだろうと思います。

 そこには学問とか技能といった類のものはありません。そこには心があります。愛があります。儒教でいうところの恕があります。

 ことに親子のことを考えてみますと、出産直後の母子相互のいつくしみは、かけがえのないものといわれております。母親のいたわりに満ちた優しい目、そのほほえみや言葉がけ、なでたりさすってやる、いとおしい所作、これらは何と素晴らしい姿でしょうか。それはそのまま優しい心であり愛であり恕であります。赤ちゃんは目醒めているときの80バーセントは母親の顔に釘付けだと報告されています。これは素晴らしいことであり、子供の素晴らしい成長につながっております。

 それは素晴らしい幼児教育、教育というそんな言葉ではなく、もっと、生物として、感情をもっている親子の自然そのものに返った姿ではないだろうかと思いますし、これが絆の原点だと私は思います。

 もとに戻って、親子の絆を問題として、「今の(あるいは現代の)子供はよくない」という言葉を聞きますと、実はそういうことをいう人がよくない、と考えざるを得ません。

 私がこんないい方をするのは、そういういい方をする人が悪いというのではなくてほんとは誰でも親を有難く思い、親に心の中で感謝し、親にいつも済まないという気持を持っていると思うんです。それでいて、今の子供はよくないというのは、論理的にも矛盾しているわけで、そういわざるを得ないと思うのであります。自分の愛情を注いだその子供達を、もっと信頼してあげなくてはいけないと思います。

 吉田松陰という人は29歳で投獄され、処刑されましたが、そのとき親にこんな歌を送っています。「親おもう心にまさる親ごころ、今日のおとずれなんと聞くらん」と、切々として親への思いを吐露しております。吐きだしていっております。この歌には、ほかの要素はなんにも入っておりません。

 また、あえなく自殺した子供たちが、どんなに親とわだかまりがあったとしても「お父さん、お母さん、ごめんなさい」といっております。人の子として誰でも持っている心情であります。

 ともあれ、絆づくりは出産直後に始まります。人づくりは出産直後に始まりるわけであり、出産直後の親子のかかわりが、重大な問題をもっていることがわかってきたのであります。

 そこで、日本やアメリカ、ヨーロッパなど多くの研究者は、誕生直後の母親と赤ちゃんの係わりあいを問題として、大事なことを指摘しています。

 いろいろみておりまして、つまるところ何かといいますと、人以外のあらゆる動物は自分で子供を生み自分だけで育てている。そこには誰もいません。それと同じように、人は人なりきに、自分で子供を生み自分で育てることを大事にしないと、大変なことになる、ということにまとめることができます。

 もっと具体的にいいますと、昔から行なわれてきたように自宅で生み、昼夜いつも一緒にいて赤ちゃんを育てるようにすすめています。

 病院出産の場合は、感情障害や知能障害がおこりやすいということと、充分な望ましい親子関係を築きにくいということであります。

 このことについては多くの調査があり、その主張の細かいことは、ここでは時間がないので省くことに致します。

 私達は万一のことを考えて病院を選ぶわけでありますが、分娩室は白壁に囲まれ、産婦は寝台にのせられ、いろいろの道具が準備され、医者がマスクをかけ・・という風な環境であり、産婦は大なり小なり緊張してストレスをうけ、またそうした緊張故の陣痛促進剤の注射などあって機能的処置をされるわけですけれども、産婦の精神的・情緒的安堵感はある意昧ては確保できない状態におかれます。

 また末熟児とか酸欠の場合には、保育室に入れられ出産直後の母子接触が一番必要なときに、それは殆ど望めません。

 こんなときこそ母親に抱かれ精神的な安堵感でかかえてやる必要があるといわれます。

 また、へその緒を切る時間がはやく酸欠を生じやすくなる。こうした酸欠は時間が長引いたとき脳障害を引き起こしやすいといわれています。

 そしてもう一つは、自宅ならば産湯以外母子はいつも一緒におれるのに、病院ではそれが出来にくいといわれます。

 わが子の誕生という感激の一瞬をリラックスしてゆっくり言葉がけしたり愛撫したりすることが、病院では出来にくいんです。これはその子の将来にわたって大きな影響を残すといわれています。

 昔は、実家へ戻って、いいかえれば気兼ねも何もないところで、座敷ではなくどちらかといえば奥の方の少し暗い、お客様がきても邪魔にならない部屋で、優しい慣れた助産婦さんの励ましのもとでお産をしたわけでございます。

 そして、産湯をつかったあと親子はいつも一緒でおれたわけであります。

 今でも産屋あけというしきたりは残っているのですが、ほんとの意味の産屋で生まれる赤ちゃんは少なくなってきております。

 出産直後からの母子相互の係わりを強めてこそ、赤ちゃんは胎内にいた時にもっとも近い状況におかれ、感情的不安もなくすくすくと伸びることができるわけであります。母子相互の絆もしっかりでき、細かな愛情も伝わり、知能の発達もすくすく伸びるのであります。

 ですから、昔のように産屋をきめて、そこで赤ちゃんの誕生を迎え、親子水いらずの素晴らしい相互関係をつくりあげたいのであります。

 それが今日的な大きい課題だというのであります。是非そんな方向を目指したいものだと思います。

 来月は誕生と乳児・その2として、赤ちゃんが生まれた時の望ましい働きかけを、まとめてお話したいと思っております。

 今月は以上で終わります。

戻る