折々の記へ

折々の記 2003 B

【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】06/15〜        【 02 】06/20〜
【 03 】06/26〜        【 04 】08/13〜
【 05 】09/02〜        【 06 】09/24〜
【 07 】10/17〜        【 08 】10/31〜
【 09 】11/26〜        【 10 】12/03〜


【 09 】11/26〜

  11 26 井東さんのML●ジャパンナレッジ
  11 29 優の誕生日贈り物
  11 30 困った天候
  12 02 「ネオコンの論理」

 11 26(水) 井東さんのML

no more war に寄せられた < ito tomohiko : gyuta@mac.com > さんの投稿内容です。



井東です。みなさまこんにちは。
神奈川は朝から大雨です。長文ですがお許しください。

「言葉」を発するのは人間です。そこにはその人が生きてきたそれぞれの時代の空気があるのではないでしょうか。それを酌み取ることが、「言葉」を「理解する作業」の第一歩だと思います。

私は現在41歳です。敗戦から16年後に生まれました。もし10年早く生まれていたら、学生運動をやっていたかもしれません。40年早く生まれていたら、学徒動員などで戦争に参加したかもしれません。いや、大学すら行けなかったかもしれません。もし戦争に行っていたとしたら何をしたかわかりません。昭和36年生まれの私は、自分自身を「非暴力平和主義者」だと思っています。「人を殺すことはいけないこと」など当たり前です。しかし、状況が変わればわかりません。他国が日本を軍事侵略しようとした時に、自ら望んで銃を持つ可能性 もあります。ふだんはどうしようもない国だと思っていますが、やはりこの国を守りたいと思います。家族を守りたいと思います。そのためになら「人」を殺すかもしれません。侵略戦争云々にかかわらず、自らの意思で人を殺すかもしれません。目の前に自分を殺そうとしている人間がいれば、「死にたくない」という本能から人を殺すかもしれません。殺気立った空気の中で、飲まず食わずでいていつまで平常心を保てるかわかりません。人間なんてそんなものだと思っています。時代というのもそんなものだと思っています。

現在このMLで自らの戦争体験を語ってくださる方々は、たまたまそういう時代に生まれ、そういう時代の流れの中で生きてこられたのです。私たちが決して経験することのない経験を、ご自分の意思とは関係なくされて来たのだと思っています。検証し糾弾すべき対象は国家です。政治家、職業軍人、戦争を利用して甘い蜜を吸おうとした経済人でしょう。

人間から経済欲と攻撃性が消滅しない限り紛争、戦争は無くならないでしょう。しかける戦争は全て侵略戦争です。古代の英雄もすべて殺人者です。現在、この国は軍事的に他国の国民を抑圧してはいません。しかし、経済的にはどうでしょうか。不況不況と言ってもこうしてMLに参加し、衣食住事足りていませんか。この生活は経済的小国の犠牲の上に成り立っているのかもしれません。5歳以下の子供が3.6秒に一人、飢餓が原因で死んでいるといわれ、1日の生活費が1USドル以下の貧困ラインには約12億人がいるといわれています。目に見える暴力で抑圧・侵略はしていませんが、違う形でしているのかもしれません。

人間に本当に学習能力があるのならば、教育などで戦争・紛争を回避する可能性があると信じます。歴史は振り子ではなく、螺旋状に少しずつ上昇しています。過去をふり返り、軍事的な戦争だけでなく、経済的な侵略も含め、このような状況を回避する方法を一人ひとりが考え行動することが最も大切だと思っています。

そういう意味において「理解する」という事はとても大切です。しかし、「言葉」は理解できても人の心を理解するのはとても大変なことではないでしょうか。家族の心情すら理解できないこともあるのですから。それでも「人」の「心」を理解しようとしない限り、本当の意味での「理解」「信頼」は築けないと思っています。平和というのはこのような理解や信頼があってはじめて成り立つものではないでしょうか。

しばしばこのMLで「言葉」だけが先走っているように感じることがあります。投稿は昨日が初めてで投稿するつもりもありませんでした。体験者のお話に耳を傾け、自分なりに理解すればよいと思っています。しかし、宮島さまの投稿(メッセージNo:3940/件名 : Re: 絶句/送信日時 : 2003/11/22 15:28)に対しレスが少ないこと、宮島さまの投稿に91歳の多田清さまが返された文章を読み投稿しました。324人の方が入会していらっしゃいますが投稿者は限られています。戦争体験者の投稿はごく少数です。投稿したくても投稿できない空気があるのではないでしょうか。デリカシーの欠如を感じる時もあります。最近、「レイプ」という言葉が飛び交っていましたが、レイプをリアルに想像したことがありますか。レイプされた人間の気持ち、その後の人生をリアルに想像してみてください。324名の中には女性も多数いらっしゃると思います。中には被害に遭われた方もいらっしゃるかもしれません。MLでの発言とはいえ、公での言葉は慎重に扱っていただきたいとお願い致します。

十分に長文で心苦しいのですが最後にまた文章を引用させていただきます。

「知識人ほど大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすいのです。なぜでしょうか? 彼らは現実を、生の現実を自分の目と自分の耳で捉えないからです。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練り上げられた現実を安直に捉えようとするのです」
『ヒトはなぜ戦争をするのか? - アインシュタインとフロイトの往復書簡』
(花風社)よりアルバート・アインシュタインの言葉

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ito tomohiko gyuta@mac.com



< no more war > というML(Mailing List)は独特の話題が豊富に出されるし、自由に論議できるので大変にぎわっている。

みんな戦争は否認しているのだが、その意味合いとか内容とかになると議論百出なのである。それぞれの人は自分の論陣を構えていて、夜空に花火をうちあげるように己の考えを打上げる。いきおい細かい論拠になると意見の相違が現われてきます。

平易な文章でわかりやすく書こうと思っても、白熱してくるとつんのめりそうになって、頭の中の論理的な言葉がめた飛び出してしまうんですね。 だから理屈っぽくなってしまいやすいんです。

ito tomohira さんは、そうした空気をみていて投稿されたものと思いました。田中知事ではないが、しなやかな優しさと的確性をもたれている考え方のように受けとめました。

アインシュタインの言葉がとても参考になりました。その通りだと思うとともにだいじな自戒の言葉にしていきたい。

●<検索…ジャパンナレッジ
MLというのははっきりしないので、調べるには次の方法が万事に好都合です。
http://www.japanknowledge.com/に接続して「コンテンツ一覧」と「入会はこちら」を参考として、会員になっておきますと万事好都合なのです。いろいろの辞書を手に入れればいいのですが、索引の手軽さと膨大な資料から検索できることから誰にも入会をお勧めしております。

MLというのはメールのグループに入って一定の形式でメールを出しますと、グループ全員に配信されるという方式のものです。ジャパンナレッジで調べますと、いろいろの話題を提供してくれます。

 11 29(土) 優の誕生日贈り物

孫の誕生日になにを贈ったらいいのかいろいろと考えていました。メルマガの SOURCENEXT をチェックしていると「電子辞書」が何回か紹介されていて、それを贈り物にしようと思いました。

“知徳体食”これは基本的にだれにも欠かせない開拓分野であり、なかでも〈知的訓練〉は誕生からはじまって20才前半までの人には大切な分野である。

この SHARP 製品の電子辞書「速辞書3」は、知的分野を拡充するばあい貴重な、手放せない手段になると言えましょう。まだ早いというかもしれないけれども、満8歳の誕生日の贈り物としては素敵なものに違いない。

辞書の「製品仕様」と「収録辞書」は次のようなものである。
■製品仕様

型番 PW-A8000
表示 320×240ドットマトリックス液晶表示
漢 字 : 6文字×4行 (48ドット表示時)
13文字 × 8行 (24ドット表示時)
20文字 × 13行 (16ドット表示時)
26文字 × 17行 (12ドット表示時)
32文字 × 18行 ( 9 ドット表示時)
液晶 5.4型 高反射FSTN液晶
計算機能 計算桁数:12桁(加減乗除、メモリー、パーセント計算など)
消費税電卓、通貨換算、単位換算、年号計算、年齢計算
電源 DC 1.5V アルカリ乾電池 単4形(LR03)×2本
使用時間 本体辞書使用時:約105時間(温度25℃で、連続表示の場合)
消費電力 0.15W
使用温度 0℃〜40℃
外形寸法 幅141mm×奥行106.8mm×厚さ10.8mm (閉時)

質量 約220g(電池含む)
付属品 アルカリ乾電池 単4形 2本、取扱説明書、お客様ご相談窓口のご案内
キー配列 JIS準拠タイプライターキー配列

■収録辞書

【国語系】
 ● 広辞苑[第五版] (岩波書店) 収録項目 約230,000項目
 ● 逆引き広辞苑[第五版対応] (岩波書店) 収録項目 約230,000項目
 ● 角川 類語新辞典 (角川書店) 収録語数 約50,000語
 ● 全訳古語辞典 (旺文社) 収録語数 約22,000語
 ● 故事ことわざ辞典 (学習研究社) 収録項目 約4,500項目
 ● 四字熟語辞典 (学習研究社) 収録項目 約1,450項目
 ● パーソナルカタカナ語辞典 (学習研究社) 収録語数 約28,000語
 ● 学研監修 漢字辞典 (学習研究社) 収録漢字 6,355字
 ● 岩波書店監修 分野別小辞典 (岩波書店) :(広辞苑のデータを活用)
   人名 収録語数 約8,500語
   地名 収録語数 約5,300語
   作品名 収録語数 約3,300語
   季語 収録語数 約3,500語
   慣用句 収録項目 約7,000項目

【英語系】
 ● オックスフォード現代英英辞典[第6版]
   (Oxford University Press)
   収録語数 約80,000語 収録例文 約82,000例
 ● ジーニアス英和辞典[第3版] (大修館書店) 収録語数 約95,000語
 ● ジーニアス和英辞典 (大修館書店) 収録語数 約80,000語
 ● 英語類語使い分け辞典 (創拓社出版) 日本語見出し 約1,800語
 ● 英語見出し 約1,200語
 ● 英文ビジネスレター事典 (三省堂)
   収録項目 約1,600項目 収録例文 約4,000例

【旅行・英会話】
 ● 英会話 Make it! 基本表現編 (語学春秋社) 収録例文 約2,600例
 ● 英会話 Make it! 場面攻略編 (語学春秋社) 収録例文 約2,400例
 ● ブルーガイドわがまま歩き旅行会話
   ヨーロッパ5カ国語 (実業之日本社) 収録例文 約1,700例
   収録単語 約12,000語
   韓国語+英語 (実業之日本社) 収録例文 約2,500例
   収録単語 約8,500語
 ● 英会話とっさのひとこと辞典 (DHC) 収録例文 約8,000例
 ● らくらく旅の中国語 (三修社) 収録例文 約150例
 ● 世界の料理・メニュー辞典 (学習研究社) 収録語数 約3,200語

【健康・生活】
 ● [最新] 家庭の医学[第12次改訂版] (時事通信社) 収録索引 約8,000項目 図・表 約540種
 ● 医者からもらった薬がわかる本2003年版 (法 研) 収録項目 約8,000項目
 ● 食の医学館 (小学館) 収録項目 約650項目
 ● 塩月弥栄子 冠婚葬祭入門 (光文社) 収録項目 約710項目
 ● Q&A暮らしの中の法律相談 (明石書店) 収録項目 76項目
 ● 手紙文例集 (学習研究社) 収録例文 約600例
 ● スピーチ文例集 (学習研究社) 収録例文 約100例
収録項目や収録語数、収録例文の数をみると驚嘆の一語に尽きる。外形寸法 幅141mm×奥行106.8mm×厚さ10.8mm (閉時)といえば、ちょっとした大きさのものである。

だが、人間の大脳は質においても量においても、もっともっと驚嘆に値する潜在能力を備えているという。

より豊かな生活のために大脳の開発をやらない手はないのである。

 11 30(日) 困った天候

日記を書いていないので秋の天候がどうだったかを的確には書けない。だが今月の10日過ぎの天候は例年になく奇妙な天候であった。

第一降霜がないのである。みやましい霜はきたことはない。若かった頃には11月の半ばには冬柿はとらなければならなかった。霜がだんだん強くなって柿が凍るようになるからである。また、10月下旬か11月上旬には里芋を収穫しなければならなかった。初霜があるとすぐ葉がダメになり、芋にしみが下りるといったからである。

秋の温暖とともに、干柿の大敵である雨降りの断続があった。

森田アナウンサーがフランスで取材報告してくれていたが、夏の異常高温による老人の死亡が社会問題となったことや渇水の被害についての話があった。地球温暖化という言葉も使われていた。

まさに、地球の温暖化の現象があちこちに見られるようになった。秋の奇妙な天候は異常気象の一環とおもわれる。……困ったことである。

干柿がうまくできないからである。カビがでる。除湿機でカビを防いでいると柿が完熟しなくて黄色みをもつことになる。外側が乾燥して中側が乾燥していない。

干柿は高温が必要だし、干し上げ時期は乾燥しなければならないのである。
熟させるのには乾燥した高温が必要であり、干しあげるのには乾燥した低温が必要なのである。

黄色くなっては困るし、カビがきても困る。

 12 02(火) 「ネオコンの論理」

    ネオコンってなに?

no more war のMLの中に橋本裕という人のmailが載っていた。思考の基本的部分についての認識の仕方についての記事でした。

自分では客観的な立場であると思っていることも、自分がおかれていた環境によって基本的部分に制約のあることを改めてしらされた。思考段階のいくつかの範疇には順序とかレベルの段階があることを改めてしらされた。

そういう意味でデータとして載せたものである。



ロバート・ケーガンの「ネオコンの論理」という本が以前話題になりました。福田和也が「現在、国際情勢とわが国の運命を考える上で、本書ほど重要な著作はない」と書いている本です。ロバート・ケーガンはアメリカ・リーダーシップ・プロジェクトの責任者で、かっては国務省に勤め、政策立案スタッフの一員として、国務大臣のスピーチライターの責任者をしていた「ネオコンの旗手」といわれる学者です。「ネオコンの論理」から引用してみましょう。現在のアメリカを動かしている政治家の本音が浮かび上がってきます。

<ヨーロッパは軍事力への関心を失った。少し違った表現を使うなら、力の世界を越えて、法律と規則、国際交渉と国際協力という独自の世界へと移行している。歴史の終わりの後に訪れる平和と繁栄の楽園、18世紀の哲学者、イマヌエル・カントが「永遠平和のために」に描いた理想の実現に向かっているのだ>

<これに対してアメリカは、歴史が終わらない世界で苦闘しており、17世紀の哲学者、トマス・ホッブスが「リバイアサン」で論じた万人に対する万人の戦いの世界、国際法や国際規則などあてにならず、安全を保障し、自由な秩序を守り拡大するにはいまだに軍事力の維持と行使が不可欠な世界で、力を行使している>

<18世紀から19世紀初めにかけては、国際法による」制約を歓迎しえなかったのは、ヨーロッパ列強の側であった。それから2世紀たって、アメリカとヨーロッパの立場が逆転した。そして見方も逆になった。その一因は、過去200年に、そしてとくに過去十数年に、欧米の力関係が劇的に変化したことにある>

<アメリカは弱い国だったとき、間接的な方法で目的を達成する戦略、弱者の戦略を採用していた。いまではアメリカは強力になり、強国の流儀で目標を達成する戦略、強国ろ流儀で行動している>

<ソ連の軍事力という抑制要因がなくなったことから、アメリカは事実上いつでもどこでも、自由に軍事介入できるようになった。この事実は、アメリカによる海外への軍事介入件数が増加していることに反映されている。第一次ブッシュ政権は1989年にパナマに介入し、91年に湾岸戦争を戦い、92年には人道的な観点からソマリア内戦に介入した。クリントン政権もハイチ、ボスニア、コソボに軍事介入している>

<軍事力が強い国は自然に、軍事力が弱い国とは違った目で世界を見る。リスクと脅威の測り方が違い、安全のとらえ方が違い、安全が脅かされた状態への許容度が違う。軍事力が強い国は、軍事力が弱い国よりも、国際紛争を解決する手段として軍事力が役立つと考える可能性が高い>

<アメリカでは大量破壊兵器の拡散、テロ、「ならずもの国家」などの外国の「脅威」が注目される。ところがヨーロッパでは、民族紛争、移民、犯罪組織、貧困、環境破壊などの「課題」が注目される。しかし、最大の違いは文化や考え方ではなく、能力にある>

<ヨーロッパ人はアメリカ人によくこう問いかける。「アメリカはきわめて強力だ。どうして脅威があると騒ぎ立てるのか」。しかし、アメリカは強力な軍事力をもち、他国を守る責任を負う意思をもっているからこそ、主な標的にされるのであり、往々にして唯一の標的にされるのである。ほとんどのヨーロッパ人は、当然ながらこの状態が続くことに満足している>

<ヨーロッパは軍事力で劣ることから、ホッブスのいう万人に対する万人の戦いの世界の冷酷な法則、国の安全保障と成功を決定づける最終的な要因が軍事力である世界の冷酷な法則を否定していき、いずれは根絶することに深い関心をもっているのである。これは非難されるべきことではない。軍事力が弱い国が昔から望んできたことだ>

<18世紀には公海での国際法を強く主張したのはアメリカであり、強く反対したのは七つの海を支配していたイギリス海軍であった。無秩序の世界では、弱い国は餌食にされるのではないかとつねに恐れている。これに対して強国は、無秩序よりも、自国の行動を制約しかねないルールを恐れることが少なくない。無秩序の世界であれば、強国は軍事力に頼って安全と繁栄を確保できる>

<ヨーロッパが政治権力を拒否し、国際紛争を解決する手段として軍事力の役割を軽視しているのは、ヨーロッパにアメリカ軍が駐留を続けている事実があるからだ。ヨーロッパがカント流の永遠平和を実現できるのは、アメリカが万人に対する万人の戦いというホッブス流の世界の掟に従って軍事力を行使し、安全を保障しているときだけである>

<1990年代、アメリカの軍事費が年2800億ドルだったとき、ヨーロッパが各国の軍事費の総額を年1500億ドルから1800億ドルに増やす計画には意味があった。だが、アメリカが軍事費を年4000億ドルに増やす方向にあり、おそらくは今後数年にさらに増額されると見られる中で、ヨーロッパはこれに追随する意図をまったくもっていない>

<アメリカは冷戦の終結を、海外から撤退する機会としてではなく、さらに進出する機会としてとらえた。・・・・アメリカには「孤立主義」の伝統があるとする神話はきわめて強い。しかし、これは文字通り神話にすぎない。領土の拡大と影響力の拡大が、アメリカの歴史で否定のしようのない事実になっているし、そうとは意識しないまま拡大してきたわけではない。世界の舞台で大きな役割を果たしたいという強い意欲が、アメリカの性格に強く根付いている>

<アメリカが国外での行動の正当性を主張するとき、その根拠を国際機関に求めることなく、自国の理念に求めてきた。だからこそ過去のどの時代にも、現在でも、アメリカ人の大多数は、自国の利益を追求すれば人類全体の利益を追求できるとの見方を容易に受け入れられるのだ。ベンジャミン・フランクリンが論じたように。「アメリカの大義は全人類の大義」である>

ケーガンは<アメリカは良心を持った怪物だ>という。そして、<アメリカはどこまでも自由で進歩的な社会であり、軍事力が重要だと考えるときも、自由な文明と自由な世界秩序を広める手段でなければならないと信じている><アメリカの文事力は人類の最善の手段、おそらくは唯一の手段だともいえる>と書いている。

一読して、アメリカの支配層が考えていることを、よくもまあ本音でここまで書いたものだと、感心した。ケーガンも認めているように、アメリカの論理(ネオコンの論理)は強者の論理である。しかし、これは正しい論理だろうか。たしかにこの論理には真実らしい部分がたくさんある。しかし、すべてが正しいわけではない。いや全体として見るとき、これはとても「論理」といえる代物ではないと思うのだがどうだろう。

<世界の安全と自由主義的な秩序、そしてヨーロッパの「ポストモダン」の天国を長期にわたって維持するには、ヨーロッパ以外の地域に広がっているホッブス流の危険な世界でアメリカが軍事力を行使するということが不可欠だと信じている>

 ここに語られていることは、たしかに一面の真実である。しかし、ここに決定的に欠落しているものがある、それは、だれが「ホッブス流の危険な世界」をもたらしたのかということについての反省である。つまり、「ネオコンの論理」、ケーガンの言う、「強者の論理」に欠落しているのは、こうした歴史的・社会的視点である。さらにいうならば、そこから当然導き出されるであろう「モラル」が欠如していることだ。

私が危惧を覚えるのは、この「ネオコンの論理」が、国際連盟を脱退したころの日本の軍国主義者の思想や行動ときわめて親和性が高いことである。このことについては、また別の機会にじっくり分析してみたいと思っているが、その本質を言えば、この世界が「ホッブス流の弱肉強食の世界だ」ということだ。

ケーガンもこの世界は「ホッブス的な弱肉強の世界だ」、そしてこれが「世界の本質であり、人間の本性なのだ」、という前提で論を展開する。そして、こうした殺伐とした世界に平和と繁栄をもたらすのは「こざかしいカント流の理性」などではなく、「軍事力」しかないと主張する。この似非論理を打ち砕くには、ただそれが「モラル」に反しているというだけではいけない。その「暴力主義」の前提となっているもの、その「世界観」「人間観」「人生観」そのものを粉砕するしかないと考える。

参考までに、私が随分以前にHPに書いた「ホッブスからロックへ」という文章を以下に引用します。何かの手がかりにしていただければ、幸いです。

ーーーーーーホッブスからロックへーーーーーーー


ホッブス(1558〜1679)は人間の本質をエゴイズムだと捉えました。したがって、自然状態とは、人間が人間に対して狼である状態であり、そこでは「万人の万人に対する闘争」が支配すると考えました。

それではどうしたら、こうしたおぞましい自然状態を抜け出すことが出来るのか。そのためには人は契約によってそれぞれが自然権として持っている権利を放棄して、国家に譲り渡すことが必要だと考えました。つまり平和を実現するためには強力な国家権力が必要だと考えて、絶対主義国家を擁護したのです。

ホップスは王権神授説を批判し、契約という近代的な考えに立っています。つまり国家や権力を神懸かりに崇拝するのではなく、必要性と功利性において認めようという立場です。戦前の天皇機関説のようなものです。あるいは大審問官のような立場です。

これに対して、私の立場はロック(1632〜1704)に近いのだと思います。ロックはホッブスのいう自然状態はひとつの仮説であると考えました。そしてエゴイズムは人間の本性というより、環境によって形成される面が強いと考えました。

われわれの心はちょうど白紙(タブラ・ラサ)のようなものであって、多くの経験によってそこに内容が書かれる。だから、ホップスが人間の本性をエゴイズムだと考えたのも、かれが生きた時代とかれの個人的な経験の産物だということになります。

彼は「寛容に関する手紙」のなかで、「国家は人民の福祉にあずかるべきだ」と書いています。また、「政府論」のなかで、「法の目的は自由を撤廃しあるいは拘禁することにあるのではなく、自由を保存し、拡大することである」と書いています。

つまりおなじく「法」というものを考えながら、それを人間の自由を縛るべき規範だと考えたホップスとは違って、法は人間の自由を拡大するためにあると考えました。考え方が180度違っています。

ロックのこうした自由主義的な思想は、彼が政治亡命をしていたオランダの先進的な思想によるものだと考えられます。当時オランダは世界の出版物の大半を出すほどの自由な国でした。シェークスピアの描いた弱肉強食の時代を生きたホッブスとは、時代や環境が違っています。

ロックはモンテスキューに先駆けて、権力の分割を唱えました。すなわち立法権、行政権、外交権に分けました。そしてこのなかで、立法権をとくに尊重しました。

ロックは「人民主権」を唱え、その現実的発動の機関として「議会制度」を提唱し「多数決原理」を主張しました。こうしたロックの考え方はもちろん王党派の迫害を呼びましたが、やがて名誉革命が成功して、彼の提唱した議会制民主主義が実現したのです。

ロックはこの他にも1699年に北米カロライナ州の憲法草案を託されましたが、そこでは「個人の良心の自由」を強く擁護し、「宗教と政治」を分離する近代国家にふさわしい法案を書いています。

このように、おなじく王権神授説を批判して、社会契約説の立場に立ちながら、強力な権力の必要性を説き、絶対王制を擁護した国家主義者のホップスと、人間の自由意志を尊重し、基本的人権を認め、議会制民主主義を提唱した個人主義思想家のロックではずいぶん違っています。

この違いが生まれる原点に、両者の人間観の違いがあったのだと思います。性悪説の立場をとったポッブスに対して、ロックはこれをしりぞけました。人間の心は白紙で、彼がどのような人間になるかは経験や教育が大きくものをいうと考えたのです。

そしてここから、よき人間を創るためには、よき社会制度をつくらなければならないという、実践的な社会変革の姿勢がうまれてきます。ロックは個人の幸福を実現するためには、国家というシステムがよくならなければならないと考えたのです。そして権力の暴走や腐敗をふせぎ、民主主義を実現するために三権分立を考案しました。

ロックのこの考え方は、アメリカの独立戦争やフランス革命の理論的支柱になり、市民革命を推進する力になりました。現在地上に存在する国家はおおよそロックの思想から生まれたものだと考えてもいいと思います。



【折々の記 2003 Bへ】