12 10(金) パソコンのメモリー |
■遺骨の嘘――総書記はこの怒りを聞け 金正日総書記に問いたい。 このやり方はいったい何だ。自国の体制が行った犯罪についてまじめに総括し、始末をつける気があるのか。いつまで拉致被害者の家族や日本国民の心をもてあそべば気がすむのか。 横田めぐみさんの夫とされる男性が、めぐみさんの遺骨だとして政府代表団に渡した骨は、実はまったく別人のものだった。DNA鑑定の結果によると、複数の人間の骨だという。 あきれ果て、憤りで言葉もない。 北朝鮮に翻弄(ほんろう)され続ける家族の張り裂けんばかりの胸の内を思う。 「『お母さん、信じないで。私はここにいるのよ。助けて』とめぐみが言う声が聞こえます」。母親の早紀江さんは「遺骨」が日本に来た後もそう語った。鑑定結果を知らされた後「本当にほっとした」と述べたが、めぐみさんの安否を確かめる術(すべ)はまだないのだ。 北朝鮮は嘘(うそ)をつき通せると思っていたのか、それとも別人のものだと知らなかったのか。夫だという男性が掘り起こして焼き、骨つぼに入れておいたという説明は本当なのか。不審が広がる。 2年前にも、松木薫さんの「遺骨」が別人だったことが判明した。でたらめな死亡確認書もあった。疑問ばかりだから半年前、金総書記は小泉首相の求めに応じて「白紙からの再調査」を約束したのではなかったか。それが、ふたを開ければこのありさまだ。 日本の人々がどれほど怒っているかを総書記は知るべきだ。別人の骨だと彼自身が知らなかったのなら、担当者の責任を問うべきだ。そして、日本側が納得するまで調査をやり直し、拉致被害者に関する事実をすべて公表することだ。 細田官房長官は「平壌宣言の精神に反するものであることは明らかだ」と非難した。25万トンの食糧支援のうち残りの半分を当面凍結するのも当然だ。 2年前の日朝平壌宣言は、拉致問題を含む「諸問題」の解決に誠意をもって取り組むことをうたった。国交正常化の後には日本が経済協力を行うことも明記されている。しかし、今のような態度を続けていれば、それはますます遠のく。 どうせ日本の協力は取り付けられる。それで疲弊した北朝鮮の再建をしようという虫のいいことを考えているとしたら、とんでもない誤りである。 拉致問題の行方は、米国や中国、韓国やロシアも注視している。 北朝鮮の核問題をめぐる6者協議、なかでも米国との協議に、北朝鮮は体制の存続をかけている。拉致問題でいまのような態度を続ければ、6者協議も北朝鮮が望む方向で進むはずはない。 横田さんら拉致被害者の家族会は、経済制裁の即時発動を求めた。政界も世論も、制裁実施論にさらに傾くだろう。 北朝鮮に対してはまさに「対話と圧力」である。まず制裁ありきではいけないが、制裁もまた選択肢の一つであることを、金総書記は忘れてはいけない。 ■学力低下――いまこそ日本語を 「人生いろいろ、会社もいろいろ」「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」 道理も引っ込むこんな言葉の数々は、今のところ、幸いにも永田町に閉じこめられている。しかし、日本中にあふれ出る日がくるかもしれない。 経済協力開発機構(OECD)が行った一斉テストによると、日本の子どもたちが文章を読み、論理的に考え、表現する能力は明らかに落ちている。 この調査は昨年、世界41の国と地域の15歳の生徒を対象に行われた。自ら考え、さまざまな現実の問題に対応し、人と渡り合いながら生きていく、そういう実践的な能力をみる。単なる学力テストではないから、計算には電卓を持ち込んでもいい。 その中で、読解力を調べる試験の成績が、00年の前回調査の8位から14位に下がり、得点はOECD諸国のほぼ平均あたりになった。下げ幅はテストに参加した国の中で最も大きかった。 何が書かれているか。文章が理解できなければ数学の問題も解けないし、科学もちんぷんかんぷんだ。本や新聞を読むのもおっくうになり、私たちが生きる社会や世界に対する興味と理解も限られたものになることだろう。 文化審議会が今年2月に文部科学相に提出した答申「これからの時代に求められる国語力」は、この危機感を赤裸々に語っている。 国際社会を舞台に他国の企業と競うのも、外交も、英語の前にまず日本語である。自分の国の言葉でしっかり考え、他者の言葉を受けとめ、自分の考えを表現する。価値観が多様化し、国際化が進めば進むほど、日本語の力はいっそう重要になっている。 それなのに02年度実施の学習指導要領では国語の授業時間が減った。本を読まない子どもは増える一方だ。 答申は、国語教育を充実させて、もっと本を読むよう勧めている。そのためには小学校で習う漢字を倍増させて、6年までに1945字の常用漢字をほぼ読めるようにと提言している。ゆとり教育に真っ向から挑む、大胆な内容だ。 国語教育は学校だけの問題ではない。 子どもたちを、自分の国の言葉をきちんと使いこなせる人間に育て上げることは大人の責任だ。だれもが、それぞれの立場で本気で考えなければならない。事態はそれほど深刻である。 一斉テストで日本の子どもたちは選択式の問題には強かったが、記述式には弱かった。このことは大学の入試問題のあり方への大きな反省材料ではないか。 東京都世田谷区は、日本語で深く考え表現できる子どもを育てようと、「日本語特区」を国に提案する計画を進めている。総合学習や生活科の授業を減らして、国語の授業を増やすという。 英語特区を申請する自治体が相次ぐなかで、異彩を放つ。その危機感を共有したい。 |
12 13(月) 時の流れと教育 |
儒教の教えが戦後途絶えてしまっていることに起因することが多い。 戦後の日本の教育にはバックボーンになるものがなかった。 道徳という指導は、儒教教育の足元にも及ぶことができなかった。 家庭を基盤にした個人のとらえができなかったからである。 日本の国際的評価という面から考えると、転落の一途をたどる道筋が見えている。 バックボーンを築かない限りこの方向は変わらないであろうと思う。 生きる目的が親子間でも教育思想の中でもはっきり意識されていないからである。 |
12 14(火) 「政冷経熱」 |
■日中関係――「政冷経熱」で済むのか 12月12日(13日は休刊日) 経済は熱いのに、政治は冷たい。日中関係はそんな「政冷経熱」を、いつまで続けられるのだろうか。 シュレーダー独首相がドイツ経済界の一団を率いて中国を訪れた。首脳会談よりも数々の商談の成立が何よりのお土産だ。東京にも立ち寄ったが、欧米メディアの関心はもっぱら訪中に向けられた。 10月にはシラク仏大統領がやはり経営者らとともに中国に飛んだ。欧州連合(EU)は中国の貿易相手として、いまや日本、米国と並ぶ。ブッシュ米大統領も先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、胡錦涛国家主席と相互訪問の実現を確認し合った。 そんな動きを、指をくわえて見ているしかないのが日本の経済界だ。 経済同友会の北城恪太郎代表幹事(日本IBM会長)が最近の記者会見で「小泉総理が靖国神社に参拝することで、日本に対する否定的な見方、ひいては日系企業の活動にも悪い影響が出るということが懸念される」と語った。 このままでは日系企業への嫌がらせや不買運動が起こるのではないか。中国でビジネスをしている企業人からは、サッカー・アジア杯の騒動もあって、そんな心配の声を聞くようになった。 商談がうまくいった場合でも、相手の中国企業からあまり宣伝しないでくれと、くぎを刺されることがあるという。民衆の反発が怖いというのだ。 一部のことだと信じたい。だが「政冷」が冷や水を浴びせる懸念は広がっている。すでに「経熱」ではなく「経温」という声もある。北城氏の発言は、そうした不安を代弁したものだろう。 小泉首相と胡主席の肝いりでつくられた新日中友好21世紀委員会の日本側座長、小林陽太郎氏(富士ゼロックス会長)も、9月の記者会見で首相の靖国参拝に懸念を表明している。 むろん、ビジネスはビジネス、外交は外交だ。経済人の損得判断がそのまま国民全体の利益にかなうとは限らない。 しかし、これまで「経熱」は単に貿易や投資だけではなく、人と人との結びつきや交流に厚みを与え、日中関係を底支えしてきた。そうした経済人の危機感を見過ごすべきではない。 中国社会科学院の日本研究所が行った世論調査によると、過半数の中国国民は日本に親近感を抱いていない。その理由として、多くの人が「中国侵略の歴史を真剣に反省していない」をあげた。 日本のアニメやポップスが人気なのに、隔たりが一向に埋まらない。様々な背景があるにせよ、歴史問題は両国にあまりに重くのしかかっている。 中国には、戦前の日本だけでなく、アジアの平和や繁栄に貢献してきた戦後の日本にも、ぜひ目を向けてほしい。 一方、靖国問題を「適切に対処したい」と中国側に伝えた首相に求められるのは、長期的な日中関係を見据えたうえでの、大きな国益の判断である。 |
12 15(水) 金子みすずの世界 |
学力低下、理科も深刻 中2が6位、小4は3位に 世界の中学2年生と小学4年生を対象に国際教育到達度評価学会(IEA、本部アムステルダム)が昨年実施した学力調査の結果が公表された。日本は、理科では中学生が前回(99年)の4位から6位に、小学生が前回(95年)の2位から3位にそれぞれ低下した。数学(算数)は、中学生が5位、2回目の実施となる小学生は3位で変わらなかった。2教科の勉強が「楽しい」と答えた子どもは、前回に続き世界最低レベルだった。 経済協力開発機構(OECD)の調査でも学力低下が明らかになったばかり。文部科学省は「平均得点が下がったという事実を厳粛に受け止め、実効ある対策を取りたい」としている。 調査は64年に始まった。今回は46カ国・地域の中学生約22万5000人、25カ国・地域の小学生約11万7000人が参加した。日本は中学生約4900人、小学生約4500人が80〜60題あるテストを昨年2月に受けた。 中学生の数学は今回570点で、1位シンガポールと35点差。前回は1位の同国と25点差だった。理科は、今回の日本は552点でシンガポールと26点差。前回は、1位台湾と19点差だった。 テストに合わせて実施したアンケートで、理数の勉強がとても楽しいと答えた小中学生はいずれも全体でワースト2〜4位だった。学校外の過ごし方では、中学生の「宿題をする」が1時間と参加国中で最短、「テレビやビデオを見る」は2.7時間で最長だった。 (12/15) |
■学力低下、理科も深刻 中2が6位、小4は3位に 国際学会が調査公表 *日本の順位の推移 *印は図表の資料で取り込みができないため、 プリントアウトしてある。 *理科問題例 小学4年 *理科問題例 中学2年 *算数問題例 小学4年 世界の中学2年生と小学4年生を対象に国際教育到達度評価学会(IEA、本部アムステルダム)が昨年実施した学力調査の結果が公表された。日本は、理科では中学生が前回(99年)の4位から6位に、小学生が前回(95年)の2位から3位にそれぞれ低下した。数学(算数)は、中学生が5位、2回目の実施となる小学生が3位で変わらなかった。2教科の勉強が「楽しい」と答えた子どもは、前回に続き世界最低レベルだった。 知識の実生活への応用力をみる経済協力開発機構(OECD)の調査でも学力低下が明らかになったばかり。今回のテストは基礎学力をはかるもので、文部科学省は「平均得点が下がったという事実を厳粛に受け止め、実効ある対策を取りたい」としている。 調査は64年に始まった。今回は46カ国・地域の中学生約22万5千人、25カ国・地域の小学生約11万7千人が参加した。日本は中学生約4900人、小学生約4500人が80〜60題あるテストを昨年2月に受けた。 中学生の数学の平均得点は今回570点で、1位シンガポールと35点差。前回は1位の同国と25点差だった。理科は、今回の日本は552点でシンガポールと26点差。前回は、1位台湾と19点差だった。 中学生の数学では、前回と同一問題の正答率が70%から66%に低下。「代数」や「幾何」など五つの領域別でもすべて下がった。理科でも全体の正答率は63%から61%にダウンした。 全生徒の平均が500点になるように換算しているが、最高水準の625点以上に達した子の比率は中学生の数学で24%(前回比5ポイント減)、理科は15%(同1ポイント減)。 小学生の算数は21%(同1ポイント減)、理科は12%(同3ポイント減)だった。 テストに合わせて実施したアンケートで、理数の勉強がとても楽しいと答えた小中学生はいずれもワースト2〜4位だった。学校外の過ごし方では、中学生の「宿題をする」は1時間と参加国中で最短、「テレビやビデオを見る」は2・7時間で最長だった。 ◇ ◇ 《キーワード》国際学力調査 経済協力開発機構(OECD)と国際教育到達度評価学会(IEA)が、規模や影響力などから双璧(そうへき)をなす学力調査とされる。OECDの調査は、知識や技能を実生活の中に活用する力をみる。一方で、IEAのテストはカリキュラムの到達度をはかるために、基礎的な知識を問う問題になっている。 OECDの調査では日本の「数学的リテラシー(応用力)」は6位(前回1位)で、「科学的リテラシー」は前回同様2位だった。 ■《時時刻刻》実験前から「答え教えて」 ●教室で 今回の結果について、教育現場からは「いつも感じていた通りだ」との声が上がっている。 大阪府堺市の市立熊野(ゆや)小学校の山中哲夫教諭(50)は「理科嫌いの子が増えた」と感じている。 5年生の「物の溶け方」の授業。実験で様々な物質を水に入れ、かき混ぜる。あめとミョウバンと塩とでは溶け方が違う。「どう違うか確かめてみよう」と実験にかかろうとしたら「早く答えを教えて」とせがまれた。 92年度から1、2年生で理科と社会がなくなり、体系的な学習がしづらくなった。加えて、ゆとり教育の影響で理科の時間数が減った。「不思議だなと思う心や、じっくり考えようという気持ちが薄れているような気がする。子どもたちにとって、理科が暗記教科になってしまっている」 東京都内の区立小5年の教員(50)は理科の授業で、子どもたちを校庭の砂場に連れていき、スーパーのポリ袋に砂を入れさせ、鉄棒に木の棒を乗せて「てんびん」をつくった。棒の両側に砂入りポリ袋をぶら下げ、どこで釣り合うか学ぶのが狙いだった。 授業後に感想を聞いた。数人の子どもが「ポリ袋に砂を入れたのが楽しかった」と答えた。この先生は「授業は効果的だったのか」と自問した。「子どもの能力差が大きいので、まずは公式を教えてから、実験・体験型の授業をした方が教科に興味を引き出せるのかもしれない」と先生は迷う。 ●対策は――授業削減、「基礎」弱まる 研究者はどう見るのか。 80年代からIEA調査の分析を続けてきた日本数学教育学会長の澤田利夫・東京理科大教授は、かつての「お家芸」の計算問題が不振だったことに驚く。小学4年の15×9の問題で、アジア諸国やロシアを下回り、7位になっている。原因として指摘するのは、授業時間数の不足だ。澤田教授によると、小中学校全体で受ける算数・数学の授業時間は、70年代より283時間減っている。 今回の中学2年生の結果で625点以上の高得点者が減ったのは、上位5カ国では日本だけ。学校の授業を見てきた澤田教授には「習熟度別指導を導入しても、上位グループで考えさせる指導ができていないのではないか」と映る。 理科について、日本物理学会で小中高校の理科教育問題に取り組む並木雅俊・高千穂大教授が着目するのは、身近な現象を扱った設問の出来が悪い点だ。積み木をはかりにどう置いても重さが変わらないことを答える問題の正答率は66%で国際平均を下回っている。解決策として「体重計に片足でのっても重さが変わらないことを示すなど、教科書に具体的な事例をたくさん盛り込み、楽しく伝える工夫が必要だ」と述べる。また「学校教育だけでなく、科学館や博物館が理科の面白さを届ける努力を引き続き重ねるなど、社会全体で取り組む必要がある」と話している。 中山文部科学相は、二つの国際的な調査で学力低下傾向が示されたことで、「学校完全週5日制」や新学習指導要領で内容を3割削減したことに言及。「基本的なことを教えて子供たちが自ら考えて行動できるようにしようということだったのだろうが、必ずしもそうなっていない」と、「ゆとり教育路線」に否定的な考えを示した。
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