『解かれた魔法 運命の一日』〜第78話〜












                                                       投稿者 フォーゲル





  俺は、大きく輝く白い鳥居の前に立っていた。

 『胎動の鳥居』

 『大丈夫だな、ここから直接『式守の秘宝』のある場所にいけるぞ』
 「そうか・・・」
 『ユグドラシル』の問いに、俺はそう答える。
 『魔法の完全消滅のために、『式守の秘宝』を利用する』
 その『ユグドラシル』の方針に従って俺はこの場所に現れた。
 (そういえば、伊織と再会したのはこの場所だったな・・・)
 『私は柾影さんのことが好きです。愛しています―――』
 ついさっきの伊織の告白の言葉がよぎる。
 
 “ポツッ・・・ポツッ・・・”

 いつの間にか、さっきまで出ていた月は隠れて、雨が降ってきた。
 ますます半年前、伊織と再会した時の状況に似て来た。
 (まいったな・・・)
 俺はそんなことを考えながらその時のことを思いだしていた。
 


  シンシアを弔ってから、俺は『ユグドラシル』の方針に従って世界各地の『神の力』とコンタクトを取っていた。
 ある『神の力』は俺達に降り、『ユグドラシル』と同化した。
 また、別の『神の力』は俺達と徹底抗戦する道を選び、滅びの道を選んだ。
 その度に、俺は手に入れた神の力を自分の身体に馴染ませるために眠りに付いた。
 手に入れた神の力は、『ユグドラシル』と同化するため、眠っているのは大体半年から1年程。
 そうしたことを、繰り返しながら、いつしか月日は流れていた。
 そして、後俺達に対抗出来る『神の力』は日本に眠る『四神』だけになった。
 『四神』に関しては、俺も日本にいた頃、噂で聞いたことがある。
 確か、『朱雀』『白虎』『玄武』に関しては、藤林家と並ぶ名門である、
 御薙家・式守家・高峰家に受け継がれているという伝説がある。
 そして、残る一つの『青龍』を受け継いでいる家は、不明だということだ。
 何でも、日本でも『四神』による力を利用した権力争いの中、歴史の中に消えて行ったらしい。
 (日本でもヨーロッパみたいなことが起こってたんだな)
 そして、それは現在も尾を引いて―――
 なまじ、『ユグドラシル』の力を使いこなせる可能性のあったシンシアが―――
 俺は、強く拳を握りしめる。
 『ユグドラシル』と同化したことで、人間の血生臭い過去を見せられて、
 俺の心には『人間を滅ぼす!!』という感情が芽生えていた。
 その目的のために、俺達は日本に戻って来た。
 まずは、『四神』の居場所を突き止めなければ・・・
 そこまで、考えたその時だった。
 
 “ガサッ”

 不意に物音がした。
 「誰だっ!!」
 物音のした茂みに声を掛ける。
 「ひょっとして・・・柾影さんですか?」
 姿を見せたのは、15・6歳くらいの黒髪のショートカットの女の子。
 俺の記憶に『柾影お兄ちゃん』と俺を慕ってくれて、そして、ヨーロッパ留学の見送りの時にに一番泣いていた女の子と、
 今、目の前にいる女の子のイメージが重なった。
 「・・・伊織ちゃんか?」
 「柾影さん!!」
 俺の胸に飛びこんで来る伊織ちゃん。
 「良かった・・・ヨーロッパで行方不明になったって聞いて、心配してました・・・」
 俺の胸の中で泣き続ける伊織ちゃん。
 だが、俺は―――
 (クソッ・・・何でこんなことに・・・)
 俺の目的上、今ここで俺が生きていることを藤林家や『四神』の関係者に知られるのは危険だった。
 となると―――
 (・・・殺すしかない。シンシアのような人を出さないためにも―――)
 伊織ちゃんが、俺の胸の中で泣いているのをいいことに、俺は魔力弾をこっそりと生み出す。
 (大丈夫。せめて苦しまないように・・・)
 俺がそう考えた時―――
 不意に、伊織ちゃんが顔を上げた。
 その瞳はキラキラと輝いている。
 まるで、辛いことを何も知らない純粋で無垢な輝きを持った瞳だった。
 「・・・どうしたんですか?柾影さん?」
 「いや、何でも無い・・・」
 いつの間にか、伊織ちゃんを殺すために生み出した魔力弾は消えていた―――




 
  その後、何とか伊織ちゃんに俺が生きていることは伏せて貰って、計画を進行させた。
 その過程で綾乃達とも再会した。
 綾乃達は、俺の計画を知った後、俺のことを止めようとするかと思った。
 だけど、結果は全くの逆だった。
 以前、義人に『後悔はしてないのか?』と聞いたことがある。
 その答えは―――

 『親友が辛い目に合ったのに助けない義理は無いだろ』だった―――



  『・・・影!!柾影!!』
 「あ、ああ」
 『ユグドラシル』の声に俺は反応する。
 『全く、いよいよ計画の最終段階だと言うのに・・・』
 「分かってるよ・・・だからあいつらを始末したんだろ」
 そう言って俺は近くの木に叩きつけられている2人の姿を見る。
 一人は、純聖さんの弟子の一人である、確か、健太郎とかいったか。
 そして、もう一人は綾乃の妹である美和ちゃん。
 2人には、この場に居たのが不幸だと思ってもらうしかないだろう。
 『では、行こうか、柾影』
 「・・・ああ」
 俺は、『胎動の鳥居』をくぐる。
 ふと、倒れている2人を見る。
 美和ちゃんの身体からハッキリと血が流れているのが見えた。






  「楽しかったですね〜」
 月明りが照らす中、俺の隣を楽しそうに歩くすもも。
 今日は、休日だったので、久々にデートを楽しんできたのだ。
 ここのところの『ユグドラシル』絡みの事件のこともあるけど、
 御薙先生に言われた普段通りの生活を送る必要もあったし。
 で、やっぱり俺達は『四神』の使い手である以前に学生でもあるから、やっぱり勉強も頑張らないと・・・
 クリスマスが近いということは当然その前に期末テストがある訳で。
 その勉強をこなしつつ、息抜きも兼ねてデートをして来たのだ。
 「そうだな〜大変な思いもしたけど・・・」
 俺はそう言って、すももが持っている小さなトロフィーを見つめる。
 「わたしも貰えるとは思いませんでしたよ〜それに和志くんが『出て見れば?』って言うから出たんですよ」
 すももがこのトロフィーを貰ったのは、デート先の遊園地で行われていたミスコンイベントで準優勝したからだ。
 最終投票の結果は、優勝した女の子とすももの差はわずかだった。
 「でも、優勝したら、特典としてファッション雑誌にモデルとして出れたのに、勿体ないな〜」
 すももの可愛さならそこからアイドルも狙えたかも知れないのに。
 ちなみに、すももが『彼氏は居ますか?』という質問にハッキリと『はい!!』と答えて、
 俺の方を見て『和志く〜ん!!』と手を振ったのはご愛敬だった。
 (その後の会場にいた男子の嫉妬の視線はキツかったが・・・)
 「わたし、そういうのに興味はありませんし・・・それに」
 「それに・・・何?」
 「わたしは、『和志くんだけのアイドル』ならそれでいいです。というかそれ以外は嫌です」
 「すもも・・・お前はハッキリと言うな〜」
 「これがわたしの取り柄ですよ〜」
 そんなことを言いあいながら、俺達は小日向家の前に辿り着く。
 「さて、着いたな」
 「あの・・・和志くん?」
 すももが少し赤い顔をしながら。自分の人差し指を唇に当てる。
 「分かってるよ」
 そのしぐさの一つ一つを愛おしく感じながら、俺はすももを抱きよせる。
 そして―――

 「和志、何やってるんだ?一体?」


 「ゆ、雄真さん!?な、何でこんなところに!?」
 まさにすももにキスしようとしたところに、聞こえた雄真さんの声に俺は慌てて離れる。
 「お前は・・・公衆の面前で何をやってるんだ・・・」
 腕組みして呆れた表情で俺を見る雄真さん。
 「い、いや、これはですね・・・」
 「誰もいないところでならともかくさ、もっと時と場所を選べよ」
 不機嫌になりながら言う雄真さん。
 文句はメチャメチャあるが、すももの気持ちも考えて強くは言えないそんな感じだった。
 「ダメだよ、雄真くん。あんまり怒っちゃ」
 「姫ちゃん。どうしたんですか?」
 俺達の後ろから、ひょっこりと神坂さんが顔を出す。
 「私達は、期末テストの勉強だよ。テストも近いしね」
 「そういうことだ。和志、お前みたいにデレデレして一日過ごしてた訳じゃないぞ」
 「だ、誰もデレデレなんかしてませんよ!!」
 「どうだか・・・」
 ふと、思い出したようにすももが口を開く。
 「そういえば、今日は、お母さんは『Oasis』の人達と会議があるから帰ってこないはずですけど・・・」
 その言葉に、俺は閃く。
 「なるほど〜つまり、俺達に会うまで、雄真さん達も2人きりだったって訳ですか〜」
俺の言葉に意味を察したのか、すももも意味深に笑う。
 「兄さん。姫ちゃんと、ラブラブだったんですね〜」
 「す、すももちゃん!?なに言ってるの?」
 「そ、そうだぞ、お前らじゃあるまいし。モラルはわきまえてるぞ」
 そう言いながらも、反論する2人の顔はみるみる赤くなっていく。
 (ビンゴかよ・・・)
 俺がそんなことを考えたその時―――


 “ズグンッ!!”

 俺の心が揺れた。
 「和志くん!?」
 しゃがみ込んだ俺に走り寄るすもも。
 ふと見ると、雄真さんもしゃがみこんでいた。
 こ、これは・・・
 「ゆ、雄真さん・・・」
 「ああ、どうやら『動いた』みたいだな・・・」
 顔を見合わせて頷き合う俺と雄真さん。
 瑞穂坂学園の方を見る。
 そこから、禍々しい魔力が感じられるようになっていた。
 そして、この瞬間―――
 俺達の一番長い夜が始まった―――








                                 〜第79話に続く〜


                         こんばんわ〜フォーゲルです。第78話になります〜

                  今回は伊織と柾影が再会した時の様子と、つかの間の平和を満喫する和志&すももと

                               雄真&春姫という感じですね。

                   メインは柾影パートで、伊織が全く柾影に影響を与えてない訳じゃないというのは、

                                分かって頂けたかと。

                             そして、美和と健太郎の運命は!?

                              次回はいよいよバトル開始です。

                       どこでどういうバトルになるのか注目して頂けると嬉しいです。

                                それでは、失礼します〜


管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法の第78話をお送りしていただきました〜^^

柾影の独白から始まる今回のお話。なぜ伊織や義人が柾影と行動を共にすることになったのか、という謎も解けましたね。

伊織と再会してしまい、口封じのために殺そうとする柾影。しかしその純粋無垢な瞳を前に何も出来ない。

まだ柾影に人間の心が残っていると、強く感じることができる場面でしたね。

一方、束の間の平和な日常を楽しんでいた和志たち。

しかしそれも、瑞穂坂学園から流れる不穏な魔力に打ち砕かれて――――。

美和と健太郎も気になりますね。美和の方が重傷っぽいかな?



2009.12.8