『解かれた魔法 運命の一日』〜第77話〜







                 


                                                        投稿者 フォーゲル






  俺はゆっくりと目を開ける。
 目の前には、何も無い空虚な空間が広がっている。
 俺は、右腕を振り上げて、その腕を一閃する。


 “ズガァァァァァン!!”


 そこから生まれた魔力の衝撃波が強烈な爆発を生み出す。
 右腕は何とも無かった。
 一か月前、式守家で使った時は、衝撃波の破壊力に腕が耐えきれなかったが、右腕の血管が破れ、血が噴き出していた。
 同化した完全体『ユグドラシル』の再生能力のおかげで傷はそうそうに治った。
 それから、俺はこの『ユグドラシル』の能力を使って作った結界空間の中で『ユグドラシル』の能力を完璧に、使いこなすための特訓をしていた。
 そして、今、放った衝撃波によるダメージは、俺の身体に返って来ることは無かった。

 『我と完全に同化したようだな、柾影』

 『ユグドラシル』の声が直接頭の中に響く。
 その事実が、『ユグドラシル』の言葉を肯定していた。
 『では、そろそろ行こうか・・・全てを滅ぼすために』
 「ああ」
 俺は頷きかける。その時―――

 『お願い―――もうやめて―――』

 『良かった―――目を覚ましたんですね』

 脳裏に2つの声が流れる。
 最初の声は、懐かしいシンシアの声。
 次の声は、どこかで聞いたことがあるけど、誰の声かは思いだせない―――
 『どうしたのだ。柾影』
 「い、いや、何でも無い・・・」
 俺は、『ユグドラシル』の疑問を交わしながら、『ある場所』を念じる。
 次の瞬間、俺はその場所に転移した。





  森の中に柔らかな日差しが差し込んで来る。
 木の葉は紅葉も終わりかけ、枯れ葉になって散っていた。
 今日は晩秋の割には、気温も温かく、過ごしやすい日だった。
 そんな中、私は自分の実家、藤林家の裏山に来ている。
 いつ、柾影さんが襲って来るかも分からない状況で、何故私がカズ君達から離れて実家に帰って来ているのか―――
 それは、柾影さんが現れるかもかも知れない場所の一つに個人的に心当たりがあったから。
 ちなみに、出現場所の最有力候補は、瑞穂坂学園の裏の『使鬼の杜』。
 『ユグドラシル』を扱うには、なるべく多くの魔力が必要。
 『使鬼の杜』に封印されている『式守の秘宝』が膨大な魔力を秘めているのは、先の式守さんの起こした騒動でも実証済みだった。
 そして、もう一つの候補地が、藤林家が管理しているこの山の中にある場所だった。
 唐突に視界が開ける。
 そこには、白く輝く大きな鳥居があった。

 通称『胎動の鳥居』

 『式守の秘宝』がある『使鬼の杜』は魔力を封印する効果がある。
 そのことから、古代の人々は亡くなった人達の魂なども集まると言われていた。
 そして、集まった魂は『使鬼の杜』で安らぎを得られるとも。
 だからなのか、『使鬼の杜』は別名『鎮守の森』とも言われている。
 それとは逆に、この『胎動の鳥居』は『魂が活性化する場所』だとされている。
 そして、この場所は『使鬼の杜』・『式守の秘宝』がある場所に繋がっているとも言われている。
 柾影さんが裏をかいて、この場所に現れる可能性もゼロじゃ無かった。
 とはいえ、あくまでも候補の一つでしかない。
 そこで、少しでもこっちに詳しい私が来て、調査をしてみるということになった。
 それに、気になることもあるし。

 「藤林先輩!!こんなところにいたんですか」

 「!!」
 慌ててスー君を向ける私。
 茂みの中から現れたのは、長い銀色の髪を後ろで結んだ一人の男の子。
 「何だ・・・健太郎(けんたろう)君か?脅かさないでよ」
 三浦 健太郎君。瑞宝学園に居た頃からの私の親友の一人。
 年は一つ下で、カズ君やすももちゃんと同級生。
 「せ、先輩。危ないですからスワンを下げて下さいよ」
 「う、うん、ゴメンね」
 スー君を下げる私。
 「それで、健太郎君、何か用?」
 「ああ、そうだった。美和の奴が用事があるみたいで今すぐ戻ってくれって」
 「分かったわ」
 そう言って健太郎君の後に付いて歩き始める私。
 ふと振り返ると『胎動の鳥居』は静かに佇んでいた。





  「あの、先輩」
 裏山を降りて、家に向かって歩いている私に向かって健太郎君が話し掛ける。
 「何?」
 「・・・何か、僕に手伝えることはありませんか?」
 「・・・」
 思わず、無言になった私に健太郎君は慌てる。
 「い、いや、不機嫌になったのなら、すいません」
 「そんなことないけど・・・でも、そんなに私、疲れてるのかな?」
 頷く健太郎君。
 「先輩の家が今、大変な騒動に巻き込まれているのは、魔法は理論しか出来ない剣術バカの僕でも分かりますよ・・・師匠も謹慎中ですし」
 健太郎君の剣術の師匠は純聖さん。
 柾影さんの陰謀に加担していたことが発覚した綾乃さん達『風流四家』の当主達は謹慎処分を受けていた。
 お義父さん達も、柾影さん達の暗躍に気が付けなかったことにより、この一件が決着したら、関西魔法連盟の会長の座を退くことになっている。
 その後はどうなるのかは、今のところ不透明だった。
 「僕には、魔法連盟の内部事情はよく分かりませんけど、忘れないで下さいね」
 健太郎君は、私の目を見て呟く。
 「ちゃんと、こっちにも先輩の味方はいるってことを」
 「うん、分かった」
 そう答えながら、私はあることを考えていた。
 (健太郎君も、カズ君に少し似てるかな・・・)
 「渚さん、お待ちしていました」
 門の前に立っていた美和ちゃんがそう声を掛ける。
 そして、私と健太郎君を見て訝しげな視線を向ける。
 「健くん。まさか渚さんを口説いてたんじゃないわよね?」
 「ち、違うよ!疲れているみたいだったから、励ましてただけだよ」
 「まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
 幼馴染の2人の会話に思わず私も笑いだす。
 もちろん、2人共私を元気付けるためにやっているのだと分かる。
 (正直、くじけそうにもなるけれど・・・励ましてくれる2人のためにも頑張ろう)
 私はもう一度自分に気合を入れ直した。
 「それで、美和ちゃん。私に用事って?」
 「そうでした。伊織さんが渚さんと話したいことがあるそうです」
 「分かったわ」
 私は伊織さんが謹慎している場所に向かった。






  「・・・」
 真夜中の静寂が支配した。
 私は眠れない夜を過ごしている。
 昼間、私は渚と会った。
 もう、私に出来ることは、ただ柾影さんを助けて欲しい。それだけを渚にお願いすることだけだった。
 渚はただ黙っているだけだった。
 (もう、無理なのかしら・・・)
 俯く私に渚は声を掛ける。
 「カズ君は、柾影さんを助けたいと言ってた。私もそれは同じよ。あんな過去を知ったしね」
 渚は立ち上がる。
 「もう、行くの?」
 「ええ、恐らく、柾影さんが現れるとしたら、瑞穂坂学園の可能性が高いです」
 柾影さんが姿を消してから一か月が過ぎている。私達に与えていた魔力を戻して、コントロール出来るようになっているはず。
 『胎動の鳥居』から狙うなら、すぐに出現している。
 それが、渚の読みだった。
 「伊織さん・・・」
 渚は部屋を出る直前、言った。
 「私はまだ、伊織さんにも柾影さんを止める可能性があると思います」
 「ち、ちょっと待って!それは・・・」
 渚はそれ以上、何も言わずに出て行った。



 
 (あれは、どういう意味なんだろう・・・)
 私が渚の言葉の意味を考えている時だった。
 不意に私の部屋に差し込んでいた月明りが翳る。
 今、私がいるのは謹慎用に用意された和室。
 月明りが翳ったのは、障子の前に誰かが立っているから。
 (・・・!!)
 『ユグドラシル』の力を5分の1とはいえ一度身に付けた私にはその魔力の持ち主が分かった。
 「柾影さん!!」
 「・・・静かにしろ。伊織・・・」
 「ご、ゴメンなさい・・・」
 周りの人達がそれに気が付いた様子は無い。
 結界を使っている様子は無いから、『ユグドラシル』の魔力波動を出して、私だけに気が付くようにしたのだろう。
 「時間も無いからな・・・お前に礼を言いに来た」
 「お礼って・・・」
 「山の中で行き倒れていた俺を助けてくれた礼だ」
 「そ、そんな、あの時は当然のことをしただけで・・・」
 返事しながら、私は必死で考えた。

 『私はまだ、伊織さんにも柾影さんを止める可能性があると思います』

 昼間の渚の言葉が私の脳裏に蘇る。
 (どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・)
 柾影さんを私が止められるのは、最後のチャンス・・・
 その時だった。式守家で出会った女の子―――すももちゃんの言葉を思いだした。

 『どうして、伊織さんが柾影さんの『愛した人』の代わりにならなきゃいけないんですか?それは伊織さんの心の弱さです』

 『伊織さん、今からでも遅くありません。伊織さんが伊織さんとして向き合えばきっと柾影さんも、耳を貸してくれますよ!』


 私は確かに、柾影さんのシンシアさんに対する想いには勝てないと思い込んでいた。
 それは、私の心の弱さ―――だから、わたしは決意した。
 
 「柾影さん、もうやめて下さい。こんなこと」
 言葉を絞り出す私。
 「・・・」
 無言の柾影さん。
 「私は綾乃さんや義人さん、純聖さん・・・そして何より柾影さんに生きていて貰いたいんです」
 私はそこで言葉を切ると、告げた―――


 「私は柾影さんのことが好きです。愛しています―――」

 時間が止まったんじゃないかと思うほどの沈黙が落ちた。
 やがて―――
 「ありがとう・・・」
 その声は、ヨーロッパ留学に行く前の優しい柾影さんの声だった。
 「でも、さよならだ・・・」
 「待って下さい!!」
 その言葉に私は慌てて障子を開ける。
 もう、そこには誰の姿も無かった。
 ただ、そこに落ちていた赤い鱗のようなものがそこに確かに柾影さんがそこにいたという証明だった―――








                                〜第78話に続く〜


                        こんばんわ〜フォーゲルです。第77話になります。

                        今回は関西魔法連盟の動きを中心に書いて見ました。

                   今回初登場の健太郎は本編より、この後のストーリー用のキャラですね。

                         ストーリー的には最後の、伊織と柾影ですかね。

                   伊織の告白がどういう影響を与えるのか、楽しみにして頂けると嬉しいです。

                   次回は和志達に戻って、いよいよ最終決戦の開始になるかと思います。

                               それでは、失礼します〜



管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法の第77話をお送りして頂きました〜^^

最終戦前日、って感じですね。実際にそうなのかは定かではありませんが(汗)

色々な視点で語られる、最終戦に対する想い―――主人公たち(和志かすもも)が全く登場しなかった話って、もしかして初めてかも?

そして、遂に告げられた伊織の告白。しかし柾影がそれを受け入れることはなく、ただ一言返してまた姿を消す。昔のような、優しい声音で。

次回は最終戦の開始ということで、楽しみにしましょう!



2009.11.15