『解かれた魔法 運命の一日』〜第79話〜
投稿者 フォーゲル
“ストンッ”
俺は魔力が満ちた空間の中に着地する。
目の前には大きなクリスタルのような物体が立っていた。
「へえ、これか・・・」
『そうだ、これが『式守の秘宝』だ。確かお前達の日本人の間では・・・』
「式守家が管理する魂の安定する場所だと言われてるな」
『ユグドラシル』の問いに答える俺。
『そうか、なら私の考え通りだとするならば、『使える』ということになるな』
俺達はそんなことを話しながら『式守の秘宝』へ近づく。
その間、俺の心には様々な感情が浮かんで消える。
喜び、哀しみ、怒り、楽しさ・・・
きっと、この『式守の秘宝』によって眠りに付いている魂がその人生で感じた感情が、
俺の心に流れ込んでいるのだろう。
そして、それは俺も過去に感じたことのある感情だ。
人っていうのはそういう感情を感じながらそれでも生きている。
(・・・そういうもんだ、柾影・・・)
「!!」
俺は一瞬聞こえてきた声に戸惑う。
今、聞こえてきた声は確かに・・・
しかし、『あいつ』はユグドラシル復活の時に・・・
『どうした?柾影?』
「・・・いや、何でも無い」
俺は気を取り直して、『式守の秘宝』の前に立つ。
「で、俺はどうしたらいいんだ?」
『簡単なことだ、『式守の秘宝』に触れればいい』
『ユグドラシル』の指示に従い、手を伸ばした、その時だった。
「―――やめて―――」
脳裏に蘇る懐かしい顔。
しかし、その顔は俺の知っている笑顔じゃなかった。
頭を振ってその顔を脳裏から振り払う。
『どうしたんだ?柾影』
「い、いや・・・何でもない」
改めて『式守の秘宝』に右の手のひらを触れる。
“ドクンっ”
俺の身体が脈打つ。
それと同時に、膨大な魔力が流れ込む。
『やっぱり、私の考え通り、『式守の秘宝』は強力な魔力増幅装置だったか』
その言葉を裏付けるかのように、白く輝く『式守の秘宝』が赤く染まって行く。
それは俺の身体を介して『ユグドラシル』が『式守の秘宝』を取りこんでいる証だった。
「・・・和ちゃん!!美和ちゃん!!」
近くで聞こえる私を呼ぶ声に、目を覚ます。
「良かった、無事だったのね」
「・・・伊織さん?」
確か、私は健太郎と『胎動の鳥居』を監視していた。
柾影さんは、どうにかして『式守の秘宝』にコンタクトを取ろうとするはず。
『胎動の鳥居』は『式守の秘宝』と繋がっているという伝説がある。
それを、柾影さんも知っているはず。
柾影さんを止めるために私達に協力してくれることになった姉さん達の情報を元に私と健太郎は
『胎動の鳥居』の監視を続けていた。
そして(私の時間的には)ついさっき。柾影さんが私達の目の前に現れた。
当然、私も健太郎も柾影さんを止めようと戦った。
けど、力の差は圧倒的で・・・
倒れた自分の身体から流れる血を見ながら、こっちを気にする柾影さん。
それが私が気を失う前に最後に見た光景だった。
「だけど、どうやら柾影さんは手加減してくれたみたいね」
見ると、確かに私の魔法服は血で汚れているけど、見た目の流血量が多く見えるだけで、
傷自体はそんなに深くはなかった。
「それより、伊織さん!!健太郎は?」
私が伊織さんに問い掛けたその時。
地面の下から何か気配がする。
それに気がついた私は伊織さんの身体を抱えてその場を離れる。
“ガガガガガッ”
地面を抉って『何か』が飛び出して来る。
見た目はモグラに近い大きな生き物。
だけど、ドリル状の角と鋭い牙を持ったものを『モグラ』とは言わないと思う。
私は魔法を使えなくなっている伊織さんを背後に庇うとマジックワンドを構える。
「いくわよ!『百花(ひゃっか)!』
『分かりました。美和様』
私のマジックワンド『百花繚乱』。私は百花を手に呪文を唱える。
『咲き誇れ!!桜切斬(おうきりざん)!!』
私の呪文と共に、桜の花びらが大量に出現し、その一枚一枚が斬れ味鋭い刃になり、
モグラモドキの身体を切り裂く。
「美和!!」
まるでそれを見計らったかのように健太郎が姿を見せる。
「健太郎!アンタは大丈夫なの!?」
「ああ、何とかな」
そういう健太郎の背後に上空から大きな鳥が接近する。
「健太郎!!後ろ!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
振り向き様に健太郎は持ってた剣を振り下ろす。
真っ二つに斬られた鳥もどきは地面に落ちる。
・・・って魔法を使えない健太郎でも倒せるってことは。
「やっぱり溢れた魂がこの森の中に入る動物達に憑依してるのね」
伊織さんは後ろにある赤く変色した『胎動の鳥居』を見ながら言う。
「溢れた魂って・・・」
「魔力も魂も元は『人間の精神』である以上、その本質は似たような物よ。そして魂が溢れた原因は・・・」
「柾影さんですか?」
コクリと頷く伊織さん。
「綾乃さんや、義人さんもこの山の中に散って凶暴化した動物達が外に出ないようにしているわ」
遠くで気合いの声と共に何かが倒れる音が聞こえる。
「師匠も頑張ってるな」
純聖さんも来てくれているみたい。
「でも、伊織さん。どうにかならないんですか?」
伊織さんの動物との会話能力に期待しているのか、尋ねる健太郎。
「残念だけど、私が会話するより早く、魂が動物の身体を乗っ取るから、対応は出来ないのよ。
止めるには、向こうで渚達が柾影さんを止めてくれないと・・・」
「つまり、無尽蔵に増える凶暴化した動物達を倒し続けるしかないってことかよ」
「そういうことね」
「でもやるしか無いわよ。渚さん達を信じて」
私はそう言って百花を握り締める。
「それと、美和ちゃん、あなたはなるべく魔力を温存して」
「どうしてですか?」
「それは、あなたの魔力が最後の最後に必要になるかも知れないからよ」
伊織さんはそう言って、『胎動の鳥居』を見つめていた。
“ハァ・・・ハァ・・・ハァ”
俺達は『使鬼の森』の中を突き進む。
師匠や高峰さんの『四神』の後継者達は異変を察知していたらしく、俺や雄真さん達が駆け付けた時にはもう来ていた。
御薙先生達は、溢れた魔力が学園の外に漏れるのを防ぐため、学園全体に強力な結界魔法を掛けている。
その結界魔法には、ゆずはさんや護国さんも協力しているということだから、どれだけ強力かが分かるだろう。
「だが、何故『式守の秘宝』の封印が解けたんですか?」
「多分、柾影さんが、『式守の秘宝』に触れたからだと思います」
高峰さんの答えに今度は雄真さんが問い掛ける。
「でも、前の事件の後、母さん達が封印したはずだろ?」
それに答えたのは師匠。
「恐らくは、藤林柾影が『式守の秘宝』に触れたからだろう」
そう答えた師匠の前に、目の前の木の枝が勝手に動いて襲いかかる。
『幻想詩・第3楽章・天命の矢!!』
沙耶さんの唱えた呪文によって生まれた光の矢がその木の枝に突き刺さり、動きを封じる。
「すまぬ!沙耶!」
「でも、どういうことよ。御薙先生達が掛けた封印なら、そう簡単に解けないでしょ?」
柊さんの疑問に神坂さんが自分の考えを話す。
「杏璃ちゃんだったら、自分の強い魔法を防がれたら、次にどうする?」
「決まってるじゃない?もっと強力な魔法をぶつけるだけよ」
「多分、柾影さんも同じことをしたんじゃないかな?」
「つまり、母さん達より強力な魔力をぶつけた、単純に力押しで『式守の秘宝』の封印を解いたってことか?」
雄真さんの問いに頷く神坂さん。
「それって要は、柾影さんは『式守の秘宝』の魔力を手に入れてる可能性が高いってことだよね?」
「・・・そうなるな」
姉ちゃんの言葉に頷く師匠。
だんだん、魔力が濃くなってくる。
『式守の秘宝』が封印されている場所に転送される魔法陣がある場所に近づいている証拠だった。
“ガァァァァッ!!”
茂みから唸り声と共に鬼の姿を模した化け物が現れる。
森の中に入った時は、植物や動物を乗っ取った化け物が現れていたが、この鬼モドキは純粋に魔力だけで存在している。
それはそれだけ周囲に漂っている魔力濃度が濃くなっていることの証明だった。
「はぁぁぁぁっ!!」
しかし、その鬼モドキはすれ違いざまに、「建御雷」を手にした信哉さんによって斬り伏せられる。
この連携プレイで俺達はほとんど立ち止まらずに転送魔法陣の元へ近づいていた。
「師匠!まだですか!」
「もうすぐだ!」
俺の言葉に師匠が答えたその瞬間―――
“ズォォォォォォ・・・”
俺達の目の前に突然今までよりも遥かに強力な魔力が出現する!!
とっさに防御呪文を唱えた俺の手をすももが握る。
その手が金色に輝き、俺の構成した魔法式に流れ込む魔力の密度が濃くなる。
『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ダグ・ウェルド!!』
出現した鎖状の防御呪文にすももの金色の魔力が流れ込み防御力が上がる。
“スガガガガガァン!!” “スガガガガガァン!!” “スガガガガガァン!!”
出現した3つの魔力弾を俺の防御呪文が防ぎきる。
「すもも、ありがとう。助かった!!」
「どういたしまして!」
師匠との特訓の過程で分かったことだが、すももの魔力は『神融合能力』の他に、俺の魔力限定で威力を増幅させることが出来るらしい。
その原因は分からないが、あるいは『お主達の絆』が生みだしたものかも知れないな。
師匠はそんなことを言っていた。
「2人共、油断している場合じゃないわよ!」
スワンを構える姉ちゃん。
防いだ魔力弾の爆煙の中からゆっくりと『それ』が姿を現す。
ドラゴンのような大きくて黒い身体。3つの首が順番に上下する。
北欧神話に出て来る、地獄の番犬『ケルベロス』を模したようなモンスターがそこにはいた。
〜第80話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第79話になります〜
今回はついに始まったラストバトルの序章ですね。
前半部分は関西サイド、後半は和志達の動きです。
『式守の秘宝』の魔力も取り込み、更に強力になった、柾影を止められるか?
美和の魔力温存の理由なども心に止めておいて頂けるといいかなと。
後半部分で誰が柾影のところに向かっているのかを戦いながら表現しているんですが、
分かって頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
ども〜、管理人です。フォーゲルさんより、解かれた魔法の第79話をお送りしていただきました〜。
ラストバトルの序章は、いきなり激しい展開。緒戦は、まあ数だけの雑魚キャラというある意味王道なシチュですね。
そして一方、既に式守の秘宝に触れてしまった柾影。一瞬頭を過ったのは、去りし日の彼女・・・?
結構な大所帯で移動していますが、実際に柾影と対峙するのは何人になるのか・・・その辺りにも注目していきたいですね!