「―――カルティエ・ラティル・アダファルス・ディ・シルフィスッ!!」



「―――え?」

雄真の詠唱が終わるのとほぼ同時。春姫はその聞きなれないワードに、思わず声を漏らしていた。

『アダファルスと・・・シルフィス?』

それらは確かに、自分も使っている魔法式の収束のワードだ。しかし、問題はそこではない。

そう、収束のワードということは、本来ならばどちらか一語で十分なはずだ。それが一つの詠唱の中に二つ。

しかも、火属性と風属性という異なる属性のものが含まれていたのだ。

「まさか、合成魔法って・・・」

先ほど雄真が口にした言葉を思い出し、春姫は絶句した。

話には聞いたことがある。書籍でも読んだことがある。しかし、実際に目にするのは初めてであった。

それはClassSの、紛れも無い上級魔法。いくらなんでも学生が使いこなせるような代物ではない。

「ち―――っ!」

見れば、伊吹は以前に見た黒いドーム状の障壁を張っていた。確かに、以前はそれで雄真の天蓋魔法を防いだ―――が。

                  も の
「ダメ・・・そんな障壁では、防げない」

もし、本当にあれが「合成魔法」ならば。

そして――――――。

「―――ライノス」

静かな・・・でも確かな雄真の声を合図に。

天空に浮かんでいた巨大な魔方陣から、轟音と共に閃光が迸った―――。





はぴねす! SS

            「Secret Wizard」

                             Written by 雅輝






<34>  破砕の雷





―――嫌な予感がした。

目の前の男――突然現れて魔法使いを名乗った小日向雄真がつむぐ詠唱に、本能が警鐘を鳴らしていた。

『この私が、恐れているだと・・・? 何を馬鹿な』

もう既に障壁は張った。自身の中でも最高クラスの障壁、以前も森の戦いで天蓋魔法を防いで見せた、黒色のドーム。

『だというのに・・・私は何を不安がっている!』

「―――ライノス」

『来る―――!』

天上の魔方陣の魔力が、一瞬にして膨れ上がるのを感じた伊吹は、築いていた障壁にさらに魔力を込める。

だが、そんな彼女を嘲笑うかのように。

「な――――っ!?」

                                          いかずち

轟音と共に打ち出された迅雷の一撃―――魔力の「雷」は、伊吹の障壁に易々と亀裂を走らせた。







合成魔法とは読んで字の如く、魔法と魔法を合成させて放つ魔法だ。

もっと正確に言えば、二つの異なる属性を合成させる。そこでキーとなるのが、属性の中で「変化」という特化能力を持つ風属性。

その「変化」には多くの意味がある。そもそもにして風というものは、その形を持たずにどこまでも自由なもの。

そんな風属性の真髄が、「属性変化」。つまり、他の属性に風を合わせることで、全く別物の魔法にしてしまうところにある。

                                                        バースト

例えば、雄真の放つ合成魔法。火属性に風属性を掛け合わせれば、破砕能力に特化した「雷」属性となる。

それはまさに、今の雄真が使えるものの中で間違いなく最も威力が高い魔法。

だが、誰でも使える魔法かと問われれば、もちろんそんなことはない。

一人の人間が二つの異なる属性を操る。それは、左右の手で同時に違う字を書く感覚に似ているかも知れない。

それを雄真は、アリエスと精神をリンクさせ、二人で両の手を操ることで完成させた。―――師である鈴莉にすら扱えぬその魔法を。

「―――ライノス」

そして雄真は紡ぐ。それは天上に浮かんだ合成天蓋魔法の射出を促す、真の収束のワード。

“ゴゴゴゴゴゴ・・・ピッシャーーーーーーーーーーーンッ!!!”

空気が裂ける轟音と共に、ソレが伊吹に向かって牙を剥く。

放たれたのは一閃の豪雷。だが破砕能力を持つその雷撃は、通常の天蓋魔法では穿てなかった黒色のドームに、一撃で亀裂を奔らせた―――。





「なっ――――!?」

驚愕。だが伊吹は即座にその感情を切り捨て、障壁の修復と共に次善策を練る。この辺りは、一流の魔法使いと言わざるを得ない。

『どうする・・・』

とはいえ、なかなか対抗策は浮かばない。

自身も天蓋魔法を繰り出すか。―――否、真っ向勝負では分が悪い。あの威力の前に押し負けてしまう。

このまま耐え凌ぐか。―――否、一撃であそこまで障壁が破壊されたのだ。連撃を食らえばひとたまりも無い。

転移魔法で奴の背後、あるいは攻撃の範囲外まで移動するか。―――否、集中力を要する転移魔法を、この局面で使うのは論外だ。

「次はもう容赦はしないぞ、伊吹。頼むから降参してくれ。流石にこれを食らったら、お前でもただでは済まないだろ」

天上の天蓋魔法は充填した魔力を帯びながら、しかし襲い掛かってくる気配はない。それは、雄真によって完璧に制御されているという証拠。

だからこそ、彼がその気になればボクサーのラッシュの如き雷雨が降り掛かってくることだろう。それを理解しつつも、伊吹は奥歯を噛み締めて叫んだ。

「っ―――黙れっ! 私は! 誓いを立てるんだ!! 立派な式守家の当主となって、天国の那津音姉さまに笑ってもらうんだぁっ!!」

まるで駄々をこねる子供のように。曝け出された伊吹の感情に、雄真は一瞬瞑目する。

『やっぱり、根っこの部分じゃ変わってないんだよな・・・』

でも、だからこそ―――目を覚ましてやらなくてはならない。

「・・・残念だよ」

非情に徹しきり、アリエスを振るう。それが、伊吹を救う道に繋がるのだと信じて。

『くっ――――!』

伊吹もその瞬間、障壁に一層魔力を込める。しかし、全てを破砕する雷の前では、それも所詮は焼け石に水。

僅か四撃で障壁を崩され、もう駄目だと思った。―――その、聞き慣れた声が傍で響くまでは。

「「伊吹様っ!!」」

伊吹が往く道を補佐する、双子の従者。式守家内でも異分子とされていた自分を、ずっと支え続けてくれた者達。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ、風神の太刀ぃぃぃぃぃぃっ!!」

双子の兄は、迫り来る雷に恐れることもなく、最早お馴染みとなった木刀で雷撃を斬り捨て。

「幻想詩、第一楽章―――混迷の森!!」

双子の妹は、いつもは後ろを付いていくだけの兄の真横に立ち、局所的な転移魔法で主君を害そうとする雷を何処かへと飛ばす。

しかし相手は合成魔法。全てを防ぎきるなんて到底不可能だ。

だから彼らは、主に届きそうな雷から優先的に排除していく。―――例えそれで、己の体が焼かれようとも。



「――――っ、くそっ!!」

予想だにしなかった双子の登場に、雄真は咄嗟に天蓋魔法の射出をストップさせた。

破砕能力を持った雷は、実際には相手の人体を損傷させるわけではない。衝撃こそあるが、基本的には相手の魔力を損耗させるだけ。

それは通常の魔法弾にも言えることなのだが・・・だからこそ、雄真はある程度伊吹から魔力を奪うことで再起不能にするつもりだった。

だが、上条兄妹相手ともなれば話は違う。彼らはきっと、いくら己の魔力が奪われようとも主を守り続けるだろう。

しかし魔法使いにとって、魔力の枯渇とは―――死に繋がる恐れがある。

だからこれ以上は拙い。事実、もう攻撃が降ってこないと分かると、二人はそのまま片膝を付いてしまった。



「そ、そなた達・・・」

「―――伊吹様、「あの」場所に通ずる鍵を手に入れて参りました。・・・お往きください」

「この場は、我々が食い止めます故」

膝を付き、息も絶え絶え。しかし伊吹の目に、そんな二人の背中は―――。

「―――ああ、任せたぞ。二人とも」

―――とても、頼もしく映った。

だから、往く。二人の揺るがない忠義心に、応えられるのは自分しかいないのだから。

「ア・グナ・ギザ・ラ・デライド――――レイディム」

そうして、沙耶の手から「鍵」を預かった伊吹は、転移魔法でその場から文字通り消え去る。

「―――さて、お相手頂こうか、小日向殿」

「絶対に、主の元へは行かせません」

屋上に残ったのは、雄真と春姫。そして、再度ワンドを構え直す信哉と沙耶。

それは奇しくも、あの森での戦いの時と同じ面子であった――――。



35話へ続く


後書き

ども、最近更新が遅れ気味な雅輝です(滝汗)

くっ―――、地球のみんな、オラに時間を分けてくれええええ!!(ぇ


はい、SWの34話のUPです。

力の一端を見せた、合成魔法。それは伊吹の障壁をも易々と打ち砕く、まさに規格外の魔法。

そして遂に追い詰められた伊吹を守るように、守護者が登場。雄真の魔法を見事に打ち払い、主に道を促す。


――なんか思ったんですけど、むしろ雄真が悪役側な気がしてきました(笑)

いや、まあ漫画などの創作では、強いものが正義――ではなく悪役になってる確率が高いですが。

まさかこんなことになろうとは^^; 伊吹の視点で書かれてる部分などは、より顕著かも?

その辺りのパワーバランスは、今後もう少し考える必要があるかもしれません。


ではでは、次回の更新をお楽しみに!!



2009.12.3  雅輝