翌日、その日最後のHRにて。
「やっぱ『モノパリー』で勝負っしょ」
「いやいや、男なら『プロレス』だ!」
「『因数分解の計算』というのはどうだ?」
「ふははは!ここは公平に、『誰が一番大声で愛を叫べるか選手権』だろう!!」
「「「どこが公平だよ、この大声魔人!!」」」
雄真のクラスは――主に男子たちによって――カオスと化していた。
議題は男女一名ずつのクラス委員の選抜。各クラスの代表であり、簡単に言えばクラスの雑用係であるこの役割は、通常は人気がなく立候補者も滅多にいない。
――そう、あくまで「通常」は。
「・・・なんつーか、改めてこのクラスの奴らって、面白いなぁって思うよな」
「あら、それだけ春姫ちゃんの人気が高いってことじゃない♪ 友達として誇りに思わなくちゃ」
そんな騒動を他人事のように静観していた雄真の呆れ半分の言葉に、このカオスに乗じて近寄ってきていた準が笑顔で言う。
確かに、と雄真は思う。実際、先ほどまで誰も立候補者などいなかったのに、ある一人の女子がクラス委員をすると立候補した途端、雄真・準・信哉を覗く男子全員の目の色が変わったのだから。
つまり、結果がこの惨事であり・・・その原因を作った、ある意味被害者とも言える春姫に視線を向けてみると、顔を引き攣らせながら苦笑していた。
「でも決まらないだろ、このままじゃ」
「そうねぇ、みんな我が強いというか・・・餓えた獣?」
言い得て妙である。しかし担任も生徒の自主性に任せているのか、特に注意も指導もせずに事態を静観している今、決まりそうにないのは確かであり。
「・・・しょうがない、か」
雄真はため息まじりで、そう呟くのであった。
はぴねす! SS
「Secret Wizard」
Written
by 雅輝
<19> 壊された結界
「? なになに、何か思いついたの?」
「準も気づいてるんだろ? この状態を、効率よく収拾する方法くらい」
「まあね〜。それで、どっちがするの?」
「・・・準に頼みたいんだが」
「あら、私はてっきり雄真がするものだと思ってたけど?」
「ちょっと事情があってな。俺と神坂さんが揃ってクラス委員になったら、疎かになってしまうことがあるんだよ」
「ふーん。ま、別にいいけどね。愛しの雄真のためだし」
「サンキュー。じゃあ、早速やりますかね」
ポンポンと交わされる、どこか含みのある会話。
腐れ縁という間柄から生まれるものなのか、はたまた準の頭の回転が速いのか。相手の意図を即座に汲み取って会話を繋げる準は、やはり雄真にとっても頼りになる存在であった。
――だからこそ、クラス委員になってもしっかりと仕事をしてくれるだろう。
「提案があるんだけど」
「あっ、はい。小日向君」
このHR限定の臨時のクラス委員を務めている出席番号1番の青木くんに、雄真は手を上げて発言権を貰ってから堂々とその場に立った。
男子も一旦言い争いを止め、雄真の方へと自然と視線が集まる。
「このままじゃ埒が明かないし、もう推薦と多数決という形でいいと思うんだが。・・・ちなみに俺は、渡良瀬準を推薦する」
そう、効率よく事態を収拾させる方法。それは、言い争いをする男子以外の第三者の存在と、それを立てる存在だ。
こうすることで、他の男子たちとは違う立ち位置となり・・・そして。
「そっか、そうよね」
「渡良瀬さんが男子だってこと、忘れてたわ」
「準ちゃんなら、神坂さんも安心だしね〜」
色欲に餓えた男子たちよりも、当然多数決において圧倒的に有利になる。それは準の人望のおかげでもあるし、そもそもこのクラスは魔法科の生徒の増員で、女子の方が多くなっているのだ。
「どうだろう? 神坂さん」
「そうですね、私も準さんがパートナーを務めてくれるなら、安心して仕事が出来ると思います」
そして何より、当事者である春姫が軽く安堵のため息を吐きながらこう言ったことで、他の男子たちは何も言えなくなってしまったのであった。
『ここ三日は、動き無し・・か』
そして放課後。学校裏手の広大な森の中には、警戒しながら地面を歩く春姫と、気取られないように木々を移動する雄真の姿があった。
春姫はキョロキョロと辺りを見回しながら、時折手頃な大きさの木に感知型のトラップを仕掛ける。
クラス委員に選ばれた彼女だが、その仕事も毎日あるというわけではない。そしてパートナーとなった準には、予め雄真から事情――もちろん、浅いところまでだが――を教えているため、仕事中であっても有事の際には引き受けてくれるだろう。
『ま、学食のケーキセットくらい奢ってやるか・・・ん?』
何かを感じたかのように、その方向へと顔を向ける雄真。下にいる春姫も同じような行動を取っていたが、その表情からは緊張感は覗えず、どこか優しいまなざしすらしていた。
【雄真さん、魔力を感知しました。おそらくこれは・・・柊さんの魔力波長だと思われます】
『やっぱりか。本当に努力家だな、あいつ』
アリエスの言葉に感心するのと同時に、春姫の表情にも納得がいく。
おそらく、彼女は嬉しいのだろう。自分のライバルと称する親友が、ひたむきにその腕を磨いているのだから。
『・・・さて、アリエス。今日はそろそろ上が――っ!!』
雄真の念話が、途中で途切れる。それは杏璃に感じたものより大きな魔力を察知したからであり、視線を下に向けると春姫も駆けだしていた。
【雄真さんっ! 方角は南南西、ここより200mです!】
『よしっ、先行しよう。・・・アリエス、足と目に強化魔法を頼む』
【はい、ディ・ラティル・ファルナス!】
身体強化により得た脚力で、雄真は地面を走る春姫より早く木々を移って行く。
『予想より動き出すのが早い。長期戦になることも覚悟してたけど・・・向こうも焦っている、のか?』
そしてもうすぐ目的地というところで、強化された視力が感知魔力を扱っていたらしき人影を捉えた。
「あれは・・・っ」
思わず声が漏れ出る。長身痩躯な後ろ姿。学園の制服に、背中に張り付いた木刀。
「・・・くっ」
このまま追いかけ、捕まえようとするのを何とか踏み止まる。ここで下手な行動を取って、相手側に自分の存在を悟られるのは拙い。
一瞬でそう判断した雄真は、そのままその場に残って現場の分析を始める。
『・・・こりゃ酷いな』
十数本単位で薙ぎ倒された木々に、色濃く残された魔力の残滓。
【・・・雄真さん。おそらくこの木々は・・・】
それらの木々からは、また別の魔力反応もあった。雄真もアリエスもよく知る、自分たちとかなり近しい魔力波長。
『母さんの魔力・・・ということは、今回倒された木は――』
【ええ、学園の開設当初に張られた強固な結界だったのでしょう。この場所の奥にある、「何か」を護るための】
アリエスの言葉に、雄真は森の奥へと視線を向ける。先ほど見えた後ろ姿――おそらく信哉は、その方向とは真逆へ走り去ったため、撤退したと思われるが。
『・・・一応、様子を見に行ってみるか。杞憂ならそれでいいし』
きっともうすぐ春姫もここに駆けつけるだろう。ならばこの場の処理は彼女に任せ、敵の正体を知っている自分が向かった方がベターか。
『行こう、アリエス。もう一度強化を頼む』
【はい、ディ・ラティル・ファルナス】
雄真は効果の切れかけていた脚にもう一度強化魔法を掛けつつ、そのまま森の奥――相手が狙っているであろう場所を目指すのであった。
20話へ続く
後書き
新連載に引き続き、久しぶりの二夜連続UPです。テスト前だというのに、何やってんでしょうかねぇ(笑)
まあ、それはともかくとして。相変わらずなかなか進まない展開ですが、今回は少しだけ進展させてみました。
原作よりはかなり早いイベントですが。雄真が魔法使いであることで、若干の差異が出ていると考えてください^^;
壊された森の結界。これでいつでも相手側は侵入できる状態となったわけであり・・・同時にこちら側の緊張感も高まることに。
さて、次はおそらく、原作には無い展開です。お楽しみに!