「・・・何でこうなったんだろうなぁ?」
どこまでも突き抜けるような青空と、それを彩る桜の花びらを眺めながら、雄真は全力で現実逃避の真っ最中だった。
「ちょ〜っと、雄真ぁ〜〜。じぇんじぇん呑みが足りらいわよぉ〜〜?」
そんな彼の右腕に絡み付いているのは、見事な金髪をツインテールにした美少女――柊杏璃。
「えへへ〜、にいさ〜〜〜ん」
背中にべったりと、まるで幼児のおんぶのように纏わりついているのは、普段はしっかり者の妹――小日向すもも。
「ささ、小日向くん。グイッと逝っちゃってください♪」
左手に持つコップに絶え間なくお酒を注いでいるのは、明らかにいつもと様子が違う、学園きっての優等生――神坂春姫。
「ふふっ、雄真さん。学園の綺麗どころを集めてお花見・・・相変わらず鬼畜ですねぇ♪」
そして雄真の対面に座り、優雅にコップを口に傾けながら誤解を招くような発言をする先輩――高峰小雪。
確かに傍から見れば、今の雄真は小雪の言う様に両手に華――いや、四方に美少女を侍らせたハーレム王。
しかし、それよりも彼の状態をより明確に表した表現は―――。
「らによぉ〜、あたしの酒がのみぇないっていうの〜〜〜?」
「にいさ〜〜ん・・・すりすり」
「小日向くん、早く飲み干しちゃってくださいね?」
「クスクス、良い眺めですねぇ」
「・・・はぁ」
――四人の酔っぱらい達に絡まれている、不運な少年といったところだろう。
はぴねす! SS
「Secret Wizard」
Written
by 雅輝
<18> お花見騒動(後編)
話は一時間ほど前に遡る。
雄真の肩で眠りこけていた春姫が目を覚まし、雄真に対して赤面しながら謝っていた丁度その頃。他の花見のメンバーが騒ぎながら到着した。
具体的には、杏璃、準、ハチ、そしてすもも。
結果的に二人きりとなっていた雄真と春姫に対して、準は冷やかしの言葉を送り、すももは何故か微妙に不機嫌になり、そしてハチは予想通り血の涙を流しながら襲いかかってきた。
雄真がそんなハチを軽くいなしていると、その視界の隅ですももがどこか所在無さ気に立ち尽くしているのが見えた。どうやら、自分以外は上級生ということもあり緊張しているらしい。
「ああ、神坂さん。ウチの妹を紹介するよ」
雄真はとりあえず、とすももを呼び寄せ、春姫の前に立たせる。すると、春姫を一目見た途端、すももの目は驚きで見開かれて。
「・・・姫ちゃん?」
「へ・・・?」
「やっぱり、すももちゃん?」
見ると、隣の春姫までもが驚いた声を上げたので、雄真は軽く混乱した。
話を聞けば、春姫とすももは幼少期によく一緒に遊んだ仲だったらしい。いわば、幼馴染というやつだろうか。
しかし春姫が少し離れた場所へ引っ越したため、それ以来疎遠になっていたようで・・・久しぶりの感動の再会、というわけだ。
「よしっ、じゃあそろそろ始めるぞ〜!」
そんなドタバタ騒動の中、いざ始めようと皆がビニールシートに座ると――。
「・・・(ニコニコ)」
「「「「「「・・・小雪さん(先輩)!?」」」」」」
いつの間にかそこには、神出鬼没のミステリアスな先輩が正座でお茶を飲んでいましたとさ。
『その小雪さんが提供してくれた「タマちゃん水」を呑んだ辺りから、みんなおかしくなり始めたんだよなぁ・・・』
タマちゃん水・・・勿論その効果からお酒であるのだが、何でも原料はタマちゃんらしい。メロンソーダのようなドギツい緑色をしていたので、あながち否定も出来ないのだが。
ともかく、それを皮切りに小雪がエプロンから引っ張り出した冷蔵庫からは、次々と酒が提供され続け――そして現状に至る。
「あぁ・・・桜が綺麗だなぁ・・・」
「ねぇ、雄真。現実逃避してるところ悪いんだけど・・・」
「そろそろ片付け始めないと、陽が暮れてしまいますよ?」
「・・・分かってる」
雄真はしぶしぶ視線を空からビニールシートへと戻し・・・そして再度ため息を吐いた。
「す〜・・・んっ・・・」
「はるひぃ〜、しょうぶよぉ〜・・・むにゃ」
「すうすう・・・にいさ〜ん・・・すう」
死屍累々。
大きめのビニールシートの上では、うら若き三人の乙女たちが、酔い潰れて心地よさそうな寝息を立てていた。
そして残ったのは、もともとあまり飲んでいなかった準と、アルコールに強いらしく平然としている小雪、そして春姫に注がれまくりながらもちびちびと飲んでいた雄真の三人だけ。ちなみにハチは、開始直後に杏璃に一升瓶を口に突っ込まれて、今はビニールシートからは微妙に外れた場所で爆睡している。
「でも雄真、ホントにどうするの? みんな起きそうにないんだけど・・・」
準が「お手上げ」といった具合に雄真に問う。対して雄真は後頭部を掻きながら、しょうがないかと三度目の嘆息を吐いた。
「小雪さん」
「はい、何でしょう?」
「不可視と、魔力遮断のフィールドをお願い出来ますか?」
「あらあら・・・ということは?」
「ええ、幸いなことに神坂さんも柊も寝ているようですし・・・俺がやります」
「・・・ふふ、わかりました。雄真さんの魔法は滅多に見られませんからね。・・・それでは、タマちゃん。よろしくお願いしますね?」
「あいあいさ〜〜!」
小雪の指示を受けたタマちゃんは、そのまま上空へ飛翔し、彼らの周辺を囲むように何重もの輪を描く。すると数秒後には、円柱状のフィールド――不可視と魔法遮断の効果が付与された――が生成されていた。
「はい、準備完了です。雄真さん」
「助かります。あまりフィールドの生成に魔力を取られるわけにはいかなかったもので・・・アリエス、起動」
『はい、マスター』
「魔法使いの表情」となった雄真の凛とした声に反応したアリエスが、本来の状態――杖状のマジックワンド――に戻る。
「そういえば、私も雄真の魔法を見るのは久しぶりねぇ〜。カッコいいところ見せてよね♪」
「茶化すなってーの。・・・ああ、準。ハチをフィールドの中まで引っ張ってくれ」
「りょーかい。・・・これでいいの?」
「ああ、サンキュー。・・・さて、と」
雄真がスッと意識を集中させ、アリエスを平行に構える。
今から行使する魔法は、学生が使う魔法としてはかなりの難易度を誇る魔法だ。ClassにしてB。だからこそ、余力を残すために小雪にフィールドの生成を依頼したのだが。
「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・カルティエ――」
ポウッと、紫色をした魔力光が、眠りこけている四人の体に纏わりつくように寄せられる。そして――。
「――エル・イグニファスッ!!」
収束のワードと共に、紫色の魔力がスーッと融けるようにして彼女たちの体の中へと消えていく。一見何も起きていないようにも見えるが、魔法の成功を確信した雄真が一息吐いたところで、小雪が語りかけてきた。
「なるほど・・・重力操作の応用、ですか」
「ええ。アリエス、お疲れ様」
【いえいえ、マスターこそお疲れ様です】
雄真の言を受け、アリエスが元の指輪の状態に戻り、再び彼の指へと収まるのと同時に、今度は準が雄真に問いかける。
「成功したみたいだけど・・・結局どんな魔法を掛けたの?」
「ああ、重力の操作――まあ口で言うより体験した方が早いか。ほらよ」
「わわっ」
雄真は転がっていたハチを持ち上げると、そのまま準に渡す。準も男子とはいえ、その細腕ではガタイのいいハチの体を支えることはできないだろう。そう、あくまで”普通は”。
「え・・・? うそ、軽い・・・?」
「そういうことだ。今、ハチの体に掛かっている重力は、普段の3分の1。これなら準でも持てるだろ? ま、効果は一時間程度しかもたないけどな」
雄真は簡単にそう言うが、これはそんなに単純な魔法ではない。
例えば、魔法使いが使う飛行魔法。これは闇属性の重力操作によって体に掛かる重力を失くし、さらに頭に描く魔法式でそのベクトルを決めることで成り立つ、ClassDの魔法。いわば、魔法使いにとっては入門用の魔法といったところか。
しかし、それを自分に施すのと他者に施すのとでは、難易度は段違いだ。しかもそれを一人ではなく、四人同時に行う。
それがいかに難しいか、傍で彼の魔法を見ていた小雪の少し驚いたような表情が物語っていた。
「さて・・・じゃあ準はそのままハチを運んでくれるか?」
「は〜い」
「小雪さんは・・・ワンドに二人、乗せられます?」
「ええ、雄真さんの魔法のおかげで、何とか大丈夫だと思います。送るのは、神坂さんと柊さんでいいのでしょうか?」
「そうですね。小雪さんも含めて、三人とも寮ですし・・・お願いします。・・・あ、あと」
「はい?」
「もし二人が目覚めて体の重力変化に気づいても・・・」
「ええ、私が使った魔法ということにしておくので、安心してください」
何もかも見透かしている小雪の微笑みに、雄真は苦笑と共に『この人には敵わないな・・・』と内心思いつつ、「お願いします」とだけ返しておいた。
「それじゃあ、帰ろうか」
「ええ」
「うん♪」
こうして最後までドタバタのまま、雄真たちの花見は幕を閉じたのであった。
ちなみに、翌日。
「杏璃ちゃんっ、おっはよ〜〜〜〜〜!!!」
「・・・エルートラス・レオラ」
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおっ!!」
二日酔いで生ける屍と化していた杏璃に、ハチが騒々しく話しかけて撃沈したのは語るまでもない。
19話へ続く
後書き
ども〜、雅輝です。二日遅れての18話をお送りします^^
先週は卒研で忙しく、心にも余裕が無かったんですよねぇ。とはいえもう完全に終了したので、後は卒業までテストだけという気ままな学校生活を送っているのですが。
新しくまた別の連載を始めるのもいいかなぁと思いつつ。しかし今でも二つの連載で隔週状態なので、せめて一つが終わってからじゃないとなぁとも。
む〜・・・とりあえず、プロットだけ考えとこうかしら。
さて、18話の内容は前話に続いてのお花見。本編の要点だけかいつまんで、後はオリジナルで〜って感じでした。
オリジナルというのは、もちろん雄真の魔法。少し読者の方には通じにくいかなぁとも思いつつ。
そしてオチも弱くなってしまいました。反省反省。
それでは、また19話でお会いできることを願って・・・。