『解かれた魔法 運命の一日』〜第97話〜
投稿者 フォーゲル
窓からオレンジ色の光が差し込んでいる。
俺は一人、教室に佇んでいた。
いろんな思い出が詰まった教室に。
そう、今日は―――
「和志くん、ここにいたんですね」
顔に涙の跡が残っているすももが俺に話し掛けて来る。
その手には、卒業証書が入った筒が握られていた。
そう、今日は俺とすももの瑞穂坂学園の卒業式だった。
「ああ、・・・今日でこの教室ともお別れだからな」
俺はそっと自分の座っていた机を撫でる。
「そうですね・・・本当にいろいろなことがありましたよね」
すももは自分の机に座る。
「俺にとっては、劇的に変わったからな・・・」
母さんを失って、この瑞穂坂学園に転校して来てからは、本当に楽しかった。
いろんなことが印象に残ってるけど、やっぱり一番は・・・
「すももと出会ったことだよな・・・」
「えっ?」
自分の名前が聞こえたすももが聞き返して来る。
「すももと出会えたことが一番嬉しかったってことだよ」
「和志くん・・・」
すももが嬉しそうに微笑む。
「わたしも、和志くんと出会えたことが一番嬉しかったですよ」
そこまで言って、今度は少し表情が落ち込む。
「そんな和志くんと、今度はひんぱんに会えないのが寂しいですけどね」
「・・・」
瑞穂坂学園を卒業後、俺は魔法植物学を専攻するために基本となる地球環境を本格的に学べる大学に進学。
すももは、パティシェを目指して、専門学校に進学する。
『わたしの作るお菓子を食べて、喜んでくれる人の笑顔を見たいんです』
進路志望を提出した時に俺に話してくれた志望理由を聞いた時には、
(すももらしいな〜)と思った。
「楽しみだな〜すももの作ったオリジナルお菓子を食べるの」
「はい、楽しみにして下さいね」
力強く頷くすもも。
「和志くんも、頑張って下さい・・・と言っても月に一回くらいはそっちに行きますからね。サボっちゃダメですよ」
「だ、誰もサボったりしないよ」
そうして、2人で笑いあう。
だんだん、オレンジ色が濃くなって来る。
「・・・そういえば、あの時もこんな日でしたよね」
すももが思い出したように呟いた。
「あの時・・・?ああ・・・そうだな」
俺はすももが言っていることにピンと来た。
他でも無い、2人の関係が『友達』から『恋人』に変わったあの日のことだ。
「和志くん・・・」
すももが俺の身体を抱きしめる。
俺もその身体を抱きしめた。
2人の視線が交差する。
それだけで、意志の疎通が出来た。
すももが目を閉じる。
俺は、そっとすももの唇にキスをした。
あの日の、リプレイのように。
やがて、そっと唇が離れる。
「よ〜し、これで頑張れます!!」
すももが笑顔でそんなことを呟きます。
「あ、そうだ。すもも」
「何ですか?」
「今の内に言っておくけどさ、もし、いつか俺が―――」
言葉を続けようとした、その時、
「すもも、吾妻和志、こんなところにいたのか?」
「伊吹ちゃん。どうかしたんですか?」
俺達のことを探していたらしい師匠が声を掛ける。
ちなみに、師匠は師匠自身の意志で海外の魔法大学に留学することが決まっている。
「『どうかしたんですか?』では無いぞ。みんな待っておるぞ」
「あっ?そうでした!!兄さんや姫ちゃん達がわたし達の卒業祝いをやってくれるって言ってましたね」
今日はわざわざ雄真さん達や俺のために姉ちゃんも京都から駆け付けてくれていた。
「早く来るのだ。みんな待っておるぞ」
そう言って師匠は背を向けた。
「はい、分かりました」
遠ざかる師匠の足音を聞きながら、すももが口を開いた。
「それで、和志くん。さっき何を言い掛けたんですか?」
「えっ?」
話を振られて、戸惑う俺。
(い、いきなり緊張して来た・・・!!)
「な、何でもない!!」
俺はそう言って走り出す。
「あっ!和志くん!待って下さいよ!!」
俺の後を追ってすももも走り出す。
(・・・いつか、俺が自信を持てたらその時は・・・)
心の中でそんなことを思いながら、俺は教室を飛び出した。
―――いろいろな思い出が詰まった教室を。
それから、数年の月日が流れました。
和志くんは、大学2年生まで、日本の大学で学んだ後魔法植物学の本場・イギリスに留学しました。
向こうで、本格的に魔法植物学を勉強し、イギリスの研究所に入りました。
そして、わたしは―――
【―――以上、瑞穂坂市にある『プラン・デ・ノエル』から渡良瀬準がお伝えしました】
準さんの綺麗な声がお店の中に響きました。
「はい、OK!!準ちゃん。お疲れ様でした!!」
「はい、お疲れ様でした!」
テレビ番組のプロデューサーさんに挨拶して、準さんがわたしの方に歩いて来ます。
「準さん、お疲れ様でした。」
「いいのよ。すももちゃんもお疲れ様!!準備大変だったでしょう?お店のオーナーさんにも後で挨拶しないと」
「いいえ。大丈夫ですよ。オーナーも準さんみたいな綺麗な人に宣伝してもらっただけで喜びます」
準さんに紅茶を入れながら、準さんの座ったテーブルにわたしも座ります。
今回は、テレビ番組の企画で準さんおススメのケーキショップということで、
わたしが勤めているこのお店を紹介したいとのことで、お店が休日の時に取材に来たという訳です。
「だけど、準さん、スゴイですよね〜今や、芸能界のファッションリーダーなんですから」
大学在学中に本格的にモデルデビューした準さんは、注目を集めた後、
テレビドラマや今みたいにリポーターとしても活躍しています。
「そんなこと無いわよ〜むしろすももちゃんの方がスゴイと思うけどな」
「い、いえ、そんなことはないですよ・・・」
「そんなことあるわよ。このお店のオーナーさんってフランスの『ウィシュラン』で三つ星貰ったお店で働いてた人でしょ?
そのオーナーさんに直々に『ウチの店で働かないか?』って誘われたんだもん」
『ウィシュラン』と言うのは、世界各地のお店を格付けしているガイドブックです。
「誘われたといいますか・・・このお店だったらパティシェとして成長出来るかなと思ったんですよ」
「なるほどね〜ところで、すももちゃん、この記事見た?」
準さんがわたしに差しだしたのは、一枚の新聞記事。
そこにはこう書かれていました。
【今年のセイル・フリッツァー賞は日本の吾妻和志氏が受賞】
セイル・フリッツァー賞は魔法植物界に優れた功績を与えられた人に贈られる賞で、
魔法植物に関わる人間なら誰もが欲しい賞です。
以前、日本に帰って来た時に、和志くんがわたしにそう説明してくれました。
和志くんはその賞に奏さんが書いた『共通肉体形成方程式使用における医療魔法の論理』を魔法植物に応用した論文を書いて応募しました。
そして、見事に今回受賞したんです。
「だけど、和志くんらしいわね〜」
準さんは、その記事の最後の部分を指さしながら呟きます。
【なお、世界を飛び回っているいる吾妻和志氏はイギリスでの授賞式もそこそこに、次の魔法植物採集地に向かった。日本には、本日帰国予定】
「和志くんは、授賞式とか出てるヒマがあるなら、新しい魔法植物を育てたいって人ですから・・・」
魔法植物には、今まで人間が直せなかった怪我や病気を治せる力があります。
それを一つでも多く開発したい、和志くんは常々そう言っていました。
「だけど、このところお祝いごとが多いわね〜わたしやすももちゃんの周りは」
「そうですね〜」
この数カ月の間に兄さんと姫ちゃん・奏さんと杏璃さん、そして渚さんと健太郎さんと、
立て続けに結婚式を挙げました。
「幸せそうで羨ましかったわね〜ハチは泣いてたけど・・・」
「あ、アハハ・・・」
「和志くんの受賞記念のお祝いもやらないとね〜頑張るわよ」
「でも、準さん、お仕事は・・・」
「あ、大丈夫よ。今日はもうオフだから・・・春姫ちゃんや渚ちゃんも張り切ってたしね」
準さんがそう言って笑った。その時でした。
【♪〜♪〜♪】
わたしの携帯電話が鳴りました。
「はい、もしもし・・・和志くんですか?今日本に帰って来たんですか?」
「はい、はい・・・わかりました」
「和志くんから?」
「はい、みんなのところに行く前にわたしと会いたいそうです」
「そっか〜やっぱり、2人で会いたいわよね〜」
笑いながら言う準さん。
「・・・和志くんも決意したのかな?」
ポツリと準さんがそんなことを呟きました。
わたしは和志くんに呼び出された場所・・・瑞穂坂学園から少し離れた山の中の公園にやって来ました。
夜空には綺麗な星が見え始めています。
(和志くん・・・わざわざ呼び出して何の話でしょう?)
わたしがそんなことを考えていた時でした。
いきなり、わたしの視界が暗くなりました。
「だ〜れだ」
その声にわたしの口元にも笑みが浮かびます。
「和志くん、なにやってるんですか?」
わたしは手をどかしながら、振り返ります。
「久しぶり、すもも」
そこには数カ月振りに会う和志くんがいました。
「お帰りなさい、和志くん」
「ただいま、すもも」
瑞穂坂の夜景を見ながら、和志くんはわたしの隣に立ちます。
「和志くん。受賞おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
和志くんはそれっきり黙り込みます。
「そういえば、和志くんはこれからどうするんですか?」
和志くんの受賞を伝える新聞記事には、
【セイル・フリッツァー賞を受賞した魔法植物学者は、研究所を離れ独立することが多く、吾妻氏も独立することが
濃厚と見られており、どういう言動を取るのか注目されている】
と書かれていました。
「それなんだけどさ・・・日本に帰ってこようかと思ってるんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、日本には日本固有の魔法植物が多くてさ、研究しがいがあるんだよ。研究所も・・・瑞穂坂市に作ろうと思ってる」
「じゃあ、これからはまた一緒に過ごせるんですね!!」
思わず、声を挙げたわたしに和志くんは頷きます。
「それでさ、すもも・・・俺、実は瑞穂坂学園を卒業した時に言おうと思ってた言葉があるんだ。
そのときには、まだ自信が無くて言えなかったんだけど、今なら言える」
和志くんはポケットから何かを取りだしました。
『和志くんも決意したのかな?』
何故か脳裏に準さんの言葉が蘇ります。
和志くんは小さな箱を取り出して、それを開けました。
中には、花を模った小さな指輪。
「これ、母さんが好きだった花をモチーフにした指輪なんだ」
そう言って和志くんはわたしの目を見て言いました。
「すもも、これから俺と一緒に人生を歩いていってくれますか」
もちろん、わたしの答えは決まっています。
「はい、わたしは和志くんと一緒に歩いていきます。これから一生ずっと一緒です!!」
わたしの言葉を受けて、和志くんはわたしの左手を取りました。
その薬指に指輪を通してくれます。
月明りに、その指輪が―――
和志くんから贈られた婚約指輪がキラキラと光っていました。
〜第98話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第97話になります。
今回から始まったエピローグ編の序章になります。
前半は和志とすももの瑞穂坂学園の卒業と進路ですね。
何気に雄真達に混じって、渚も和志より先に結婚している点に注目(笑)
すももがパティシェというのは『何かありそうだ』と思って頂ければ嬉しいです。
後半は和志、一世一代の勝負を書いて見ました。
結果は分かっているのですもも視点です。
次回は・・・流れとしては
『プロポーズして婚約した以上は婚約者の家族にご挨拶に行かなければならない』とだけ言っておきます(笑)
それでは、失礼いたします。
P・S 今回も『咲き誇りし魔法の奇跡』の設定を使わせていただき、鷹勝さんありがとうございました。(奏の論文など)
管理人の感想
プロポーズキターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
というわけで(?)、雅輝です。フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の97話をお送りして頂きました〜^^
今回はエピローグ編の序章ということですが・・・もはやエンディングでも差支えないほどクライマックスでしたね。
瑞穂坂を卒業後、二人はそれぞれ別々の道へ。海を跨いだ遠距離恋愛でしたが、二人の愛にはそれも些細なことだったのでしょうね。
そして、偉大な功績を残した和志は、堂々と日本に凱旋し。あの卒業式から秘めていた想いを、すももに打ち明ける。
幸せそうなすももが印象的でした。
次回は実家に御挨拶。シスコンお兄ちゃんに勝つんだ、和志(笑)
ではでは、今回もありがとうございました〜^^