『解かれた魔法 運命の一日』〜第96話〜










       
                                                      投稿者 フォーゲル





  「・・・・・」
 俺はジッと考え込んでいた。
 結局俺は―――
 脳裏に一つの考えがよぎる。
 そんな時―――
 「・・・君!!カズ君!!」
 思考を断ち切るように大きな声が響いた。
 「あ、ああ・・・どうしたんだ?姉ちゃん?」
 「『どうしたんだ?』じゃないわよ。せっかくカズ君に一番最初に見て貰おうかと思ったのに」
 白拍子が基本になっている巫女さん風の衣装に身を包んだ姉ちゃんが腰に手を当てて怒っている。
 今日は、姉ちゃんの『藤林家後継者襲名式典』の日だ。
 式典の開始前に姉ちゃんの控室に呼ばれたのだ。
 「どうかな?おかしくない?」
 その場でクルリと一回転。
 「ああ、大丈夫だよ」
 その俺の答えに、しかし姉ちゃんは訝しげな表情のまま。
 「やっぱり、心配なの?伊織さんのこと?」
 姉ちゃんの問いに俺はコックリと頷く。
 昨日、俺が助かった時の状況を伊織さんに話した。
 それは、伊織さんにとっては、『自分の最愛の人の最期の様子』を聞くことにもなる訳で―――
 きっと、身を裂かれる程に辛かっただろう。
 それに結果的に、俺は柾影さんを救えなかった。
 正直、俺は伊織さんに罵倒されるのも覚悟していた。
 だけど―――

 「そうですか―――」

 伊織さんは取り乱すことも無く、淡々と俺の言葉を受け止めていた。
 
 「一つだけ、聞いてもいいですか?」
 伊織さんは俺の目を真っ直ぐにみつめて聞いた。
 「柾影さんは、幸せそうでしたか?」
 「・・・はい」
 あの最期の瞬間、確かに柾影さんは穏やかに笑っていた。
 「そうですか・・・」
 伊織さんはそう呟いた後、俺に向きなおり、そして―――
 「吾妻さん、ありがとうございました」
 そう言って俺に深々と一礼した。



  
  「・・・伊織さん、大丈夫だよな?」
 俺の口からそんな言葉が漏れる。
 もし、伊織さんが早まったことを考えたりしたら―――
 「・・・大丈夫よ」
 いつの間にか俺の目の前に回り込んでいた姉ちゃんが呟いた。
 「伊織さんはカズ君が思うよりずっと強い人よ。私が保証するわ」
 姉ちゃんは力強く頷く。
 その時だった。
 「渚様。準備が出来ました。お父上様達がお呼びです」
 「分かったわ」
 「じゃあ、カズ君。また後でね」
 「ああ、分かった」
 俺はそう言って部屋を出る。
 それでも、俺の心の若干の不安は消えなかった。





 姉ちゃんとの会話を終えた後、俺は式典会場に戻った。
  「あっ、和志くん!渚さんとのお話は終わったんですか?」
 「ああ、ただ衣装が似合ってるかどうかって話だったよ」
 伊織さんのことは話に出さずに俺はすももと合流した。
 「そうですか・・・そ、それで、あの〜・・・」
 何故だがモジモジしだすすも。
 「?」
 「わ、わたしのドレスは・・・似合いますか?」
 こういう式典に出る場合はフォーマルな衣装が基本ということですももも明るいグリーンのドレスに身を包んでいる。
 「ああ、大丈夫だよ。とっても良く似合ってる」
 「そうですか・・・良かったです」
 「だから、言ったのに。吾妻くんに聞かなくても似合ってるよって・・・」
 「すももはもうちょっと自分の容姿に自信を持ってもいいんだけどな」
 白いドレスに身を包んだ神坂さんと俺と同じくタキシードを着た雄真さんが声を掛ける。
 「うう・・・でも姫ちゃんを見ると自信無くしそうです・・・」
 「まあ、確かに春姫は似合いすぎよね〜」
 「本当にな〜すももちゃんも似合ってるし・・・杏璃は『馬子にも衣装』って感じだけどな」
 「奏・・・アンタも失礼なこと言うわね。あたしだってちゃんとすましていれば・・・」
 黄色いドレスの柊さんと奏さんが呟く。
 「でも、もう限界に来てるんだろ?」
 「うっ・・・ま、まあ確かにあたしはこういう格好はちょっとね〜」
 俺達がそんな会話をしていると・・・

 「皆さま、大変長らくお待たせいたしました。これより、『藤林家後継者指名式典』を開催したいと思います」

 司会者の人の厳かな声が流れる。

 「それでは、藤林家次期後継者 藤林渚殿の入場です」

 大きな拍手と共に姉ちゃんが入場してくる。
 その横には姉ちゃんの護衛役に指名された三浦君が付き従うように入って来る。
 そして、壇上で先に入場していた謙三さんから一本のマジックワンドを受け取る。
 最も、それが姉ちゃんの新しいマジックワンドという訳では無く、
 藤林家と関西魔法連盟トップの証である象徴のワンドということらしいが。
 そのワンドを受け取り、姉ちゃんはマイクの前に立つ。

 『皆さま、今ご紹介に預かりました。藤林家後継者・藤林渚です』

 深々と一礼する姉ちゃん。
 『これから藤林家後継者・関西魔法連盟会長として頑張らせて頂きますので、よろしくお願いいたします』
 堂々とスピーチする姉ちゃんの姿は早くも関西魔法連盟会長としての自覚が出てきたようだった。
 『それでは、これから私の改革案をご披露したいと思います』
 会場の空気が一瞬引き締まったような気がした。
 姉ちゃんは今回の後継者指名に当たり、『ある改革』をすることを決めたらしい。
 それに対する反発があるかもしれないから、いっそのこと式典の時に発表して早めに動揺を抑えておきたいということらしかった。
 
 『それでは、発表いたします―――まずは―――』






  「あ〜疲れた〜」
 「お疲れ様、姉ちゃん」
 式典の行事を全て終え、さらに魔法連盟の人達に挨拶周りを終えた姉ちゃんがようやく俺の隣に座る。
 ちなみに今の時間は、式典に出た人達が全て帰り、身内だけのささやかなお祝いの宴会みたいなものだ。
 「だけど、姉ちゃん・・・あんまり反発無くて良かったな」
 「うん・・・そこはホッとした」
 姉ちゃんが言っているのは、関西魔法連盟に対する姉ちゃんの提案―――
 『関西魔法連盟は関東魔法連盟と正式に提携します』という姉ちゃんの『改革案』に付いてだった。
 姉ちゃんが言うには、関西魔法連盟は今回の柾影さんの事件でかなり力が衰退してしまった。
 そこで、姉ちゃんがもっと会長としての力量を付けるまでは、関東魔法連盟から後見人を付けることにしたらしい。
 本当は護国さんにお願いする予定だったのだが、関東魔法連盟会長としての仕事が激務らしく、とても無理だということになった。
 そこで代わりに姉ちゃんの後見人として指名されたのが―――


 「ゆずは、ウチの渚をこれからよろしく頼むで〜」

 「分かってるわよ〜さっちゃんのお願いとあらば全力でやらせてもらうわよ〜」

 2人でワインを飲みながらそんなことを語りあうゆずはさんと小百合さん。

 「お母様・・・少し飲みすぎね」

 姉ちゃんの後見人に指名されたのはゆずはさんだった。
 何でも、姉ちゃんの両親からのたってのお願いだったらしい。
 「姉ちゃんのお母さんって、あんな人なの?」
 「普段は、ある意味で猫被ってるようなもんだからね・・・」
 ちなみに、謙三さんは現実逃避しつつ、雄真さん達と何か話していた。
 (やっぱり、古来から男は女には勝てないものなんだろうか)
 「だけど・・・ゆずはさんが姉ちゃんの後見人か・・・」
 「どうしたの?カズ君?」
 「いや、ゆずはさんって高峰さんの母親だからさ・・・」
 「そうですが・・・吾妻さん、何か言いたいことでもあるんでしょうか?」
 「いいっ!!た、高峰さん!!」
 いつの間にか、後ろに立っていたのか高峰さんが立っていた。
 『吾妻の兄ちゃん。何かよからぬことを考えていたんやないか〜』
 タマちゃんのツッコミに俺は固まる。
 (い、言えない・・・ゆずはさんの影響で姉ちゃんも変な方向に好奇心が湧いたりとかしないよな・・・とか考えてたとは)
 いずれにせよ、そんなことは言えないので―――
 「吾妻さん?どこにいかれるんですか?」
 「い、いやちょっと、トイレに・・・」
 慌てて逃げるようにその場を離れた俺だった。






  「ふう、ビックリした〜」
 何とか、その場を離れて俺は、廊下を歩いていた。
 (相変わらず神出鬼没すぎるぞ。高峰さん)
 比喩抜きに、背中に書いた冷や汗を感じて俺は―――
 (・・・誰だ?)
 廊下の一角、暗がりに人影が見えた。
 俺はゆっくり近づいていき―――
 「・・・伊織さんか?」
 「吾妻さん・・・」
 そこには物思いに耽ったような表情で庭を見つめる伊織さんの姿があった。
 「どうしたんですか?」
 「・・・」
 しかし、俺の言葉に伊織さんは返事をしなかった。
 (これは・・・怒ってるのか?)
 そう思った俺は思わず言葉を紡いでいた。
 「・・・すいませんでした」
 「え?何がですか?」
 「結局、俺は柾影さんを助けられませんでしたから」
 理由はどうであれ、俺は伊織さんが愛した人を救えなかった。
 それは俺が背負って生きていかなかればならない業なのかも知れない。
 「いえ、吾妻さんは頑張ってくれました」
 「そんなこと無いです。・・・伊織さん、俺に何か出来ることはありませんか?」
 伊織さんはしばらく考えた後―――
 「じゃあ、一つだけ―――」





  
  「う〜ん、気持ちいいですね〜」
 清水寺の舞台から京都の町並みを眺めて、すももが呟く。
 無事に姉ちゃんの式典も終わり、後は瑞穂坂に戻るだけだった。
 「帰る前に、京都観光でも楽しんで来たら?」
 そう言う姉ちゃんの言葉に甘えて、俺達は京都デートを楽しんでいた。
 ちなみに雄真さんと神坂さん、奏さんと柊さんもそれぞれデートに出かけて行った。
 (最も、奏さんと柊さんは散々『デート』と言う事実を否定していたが)
 「・・・和志くん?大丈夫ですか?」
 ふと気が付くと、すももが心配そうな表情で、俺の顔を見つめていた。
 「どうしてだ?」
 「とっても、悲しそうな表情をしてますから・・・やっぱり伊織さんのことですか?」
 「すももには隠せないな?」
 俺はため息を付きます。
 「・・・伊織さん。どうして俺のこと、責めないんだろう?」
 俺はポツポツと話す。
 伊織さんは柾影さんを助けられなかった俺を、怒るでもなく、責めるでも無かった。
 ただ一つ、昨日の夜―――

 

 「じゃあ、一つだけ―――」
 そう言った伊織さんは、ゆっくりと両手を俺の身体に回し―――
 ギュッと抱きついて来た。
 (え、あ、あの、伊織さん!?)
 俺は驚いたが―――
 「柾影さん・・・」
 その言葉に俺の動きが止まる。
 俺の今の魔力の3割は柾影さんの魔力で構築されている。
 「【ここ】にいるんですね。柾影さん・・・」
 今、柾影さんの存在を伊織さんは感じているんだろう。
 しばらくして、伊織さんは俺の身体から離れた。そして―――
 
 「ありがとうございました。柾影さんを『助けて』くれて―――」

 それだけ言うと伊織さんは俺の前から立ち去った。




  「そうですか・・・伊織さんが和志くんに抱きついていたのはそういう理由だったんですね?」
 「す、すもも、お前見てたのか?」
 すももの言葉に俺は驚く。
 「はい、最初はちょっと怒りかけましたけど、雰囲気が重かったので声は掛けられなかったんですよ」
 「そっか・・・」
 俺はそう言ってため息を付く。
 しばらく、俺もすももも沈黙する。
 風がすももの栗色の髪を撫でる。
 「さっきの和志くんの質問ですけど」
 口を開いたのはすももが先だった。
 「きっと、伊織さんにとっては『自分が前に進むため』に必要なことだったんですよ」
 「自分が前に?」
 「和志くんの体内から、柾影さんの魔力を感じることで柾影さんが亡くなったことを受け入れる必要があったんだと思います」
 「・・・」
 「そして、和志くんが柾影さんの魔力を持ってることで、柾影さんをそばに感じることが出来たんですよ。
  ある意味で、和志くんは柾影さんを助けてくれた―――
  そう感じたからこそ、伊織さんは責めないんですよ。もちろん、和志くんが最後まで努力したことも分かってるんでしょうけど」
 「そうなのかな・・・」
 「そうですよ。後は―――」
 すももはそこまで言うと、何故か、一段高いところに立った。
 背丈が俺よりも高くなる。
 そして―――
 俺の身体が暖かくなった




  “ギュッ”
 わたしは和志くんの頭を優しく抱きしめました。
 「す、すもも?」
 戸惑ったような声を上げる和志くん。
 「後は、和志くんが『柾影さんを救えなかった』って負い目を持たないで下さい」
 「・・・」
 「和志くん、辛いんですよね。『大切な人を失う』っていうのがどれだけ辛いのか、和志くんは理解出来ている人だから」
 和志くんも、わたしと同じで辛いことがあると隠してしまうことがある人です。
 そのくせ、人には辛いことがあったらちゃんと話せと言う優しい人でもあります。
 和志くんは黙ったまま、何も言いません。
 だから、わたしは―――、一言だけいいました。

 
 『和志くん、よく頑張ったね・・・泣いてもいいんだよ』


 「す、すもも・・・うっ・ぐっ・・・うわああああぁぁぁ・・・」
 わたしの胸の中で和志くんの嗚咽が聞こえて来ました。
 和志くんの背中を子供をあやすように撫でるわたし。
 恐らく、一人脱出した時から感じていた和志くんの負い目―――
 それが少しでも消えるように、わたしが支えていきたい―――
 そんなことを考えながらわたしは和志くんの背中を撫でていました。








                                   〜第97話に続く〜


              
                            こんばんわ〜フォーゲルです。第96話になります。

                                  今回は京都編の最後ですね。

                         前半部分は渚の式典の様子と、関西魔法連盟の改革についてです。

                           関東から後見人が来るのはいいが、ゆずはだというのは、

                                   そこはかとなく不安だ(笑)

                     後半部分は、伊織の想いと和志の負い目・それを支えるすももという構図でした。

                          これで、伊織と和志はそれぞれまた前を向けて歩いていけるな・・・

                              読者の皆さんにはそう感じて頂けると嬉しいです。

                        次回以降は実質エピローグ部分になりますね(もうちょっと続きますが)

                            和志とすももの『高校時代』の話はこれで終わりです。

                          次回がいつの時の話になるのか、楽しみにして頂けると嬉しいです。

                                    それでは、失礼します〜





管理人の感想

フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の96話をお送りして頂きました〜^^

今回は、柾影を救えなかったという自己嫌悪に陥る和志がメインでしたね。

特に、伊織に対して負い目を感じる和志。和志はもしかすると、彼女に責められることで罪の意識から抜け出したかったのかもしれません。

それでも、伊織は言う。「ありがとう」と。最期に柾影の「心」を救ってくれて、ありがとうと。

それはとても優しくて、本人にとってはとても辛い言葉。でもだからこそ、彼女は強くこれからも歩いていけるのでしょう。

そして、和志の心情を理解し、癒すすもも。彼女の言葉は、和志を理解しているからこそ、誰よりも何よりも彼の心に届いた。


次回からはエピローグ的な話ということで。皆さん、楽しみにしましょう!^^



2011.2.7