『解かれた魔法 運命の一日』〜第98話〜








                                                        投稿者 フォーゲル









  「よし・・・これでOKかな」
 俺は洗面所の前で身だしなみを整える。
 「和志くん、準備出来ましたか?」
 同じく身だしなみを整えたすももが俺に声を掛ける。
 「ああ、大丈夫だと思う・・・」
 だが、すももは納得いかなかったらしかった。
 「ネクタイ曲がってますよ〜しょうがないですね」
 すももは俺に近寄ると、キュッとネクタイを直す。
 「なかなか、ネクタイなんて付けないからな」
 魔法植物学の特性上、スーツを着ることが多くないから、やっぱり慣れない。
 「わたしは、こういう機会なかなか無いですから、嬉しいですけどね・・・し、新婚さんみたいですし」
 頬を染めるすもも。
 そのすももも今日は白いワンピースという落ち着いた服装だ。
 「だけど、緊張するな〜」
 「やっぱり、そうなんですか?」
 「それは、そうだろうよ・・・男としては勝負の時だぞ」
 そう、今日はすももの家に改めて挨拶に行く日なのだ。
 もちろん、『すももと結婚させて下さい』とお願いに行くために。
 「お父さんもお母さんも和志くんのこと気に入ってますけどね」
 「それは分かってるんだけどさ・・・居るだろ?もう一人?」
 「ああ・・・そうですね」
 すももも苦笑いを浮かべる。
 2人の脳裏には同じ人物の姿が浮かんだ。
 「まあ、それで悩んでてもしょうがないし・・・そろそろ行くか」
 「和志くん、頑張って下さいね」
 すももが笑いながら呟いた。





  「・・・・・」
 俺はただ黙っていた。
 テーブルを挟んだ目の前には、すもものお父さん―――大義(たいぎ)さんと音羽さんがいる。
 そして、その横には雄真さんがいた。
 俺は一度大きく深呼吸すると、意を決して座っていた椅子を立つとその場に土下座した。
 
 「大義さん!音羽さん!すももを・・・すももさんを僕に下さい!!きっと幸せにします!!」

 2人からは何の反応も帰って来ない。
 (・・・ひょっとして、一筋縄じゃいかない?)
 よく考えれば、音羽さんも再婚するまではすももを女手一つで育てて来たのだ。
 こんな若造に大切な娘との結婚を「はい、そうですか」と素直には認めてくれないだろう。
 俺にとっては永遠に続くかと思った沈黙が続いた。
 「和志くん、顔を上げなさい」
 音羽さんの言葉に俺はゆっくりと顔を挙げた。
 目の前に音羽さんのとても優しい顔があった。
 音羽さんは俺の手を取って言った。
 
 「和志くん、すももちゃんのことよろしく頼むわね」
 
 それって・・・
 「私は音羽と違って吾妻くんとはそんなに付き合い長い訳じゃないが、すももがとても幸せそうだということは分かったよ」
 大義さんが音羽さんの言葉をフォローするように続ける。
 音羽さんが俺の目を覗き込みながら、改めて今まで見たことない真剣な顔で続けた。
 
 「和志くん、すももちゃんを幸せにしてあげてね」

 「は、はい!!必ず・・・必ず幸せにします!!」
 「お母さん!お父さん!ありがとう!!」
 俺とすももが2人にお礼の挨拶をする。
 やっと、俺の中で緊張が解けていくのを感じていた。
 「じゃあ、せっかくだし、みんなで夕食でも食べましょうか」
 「あ、お母さん。わたしも手伝いますよ」
 「吾妻くん。ワインはいける口か?」
 「は、はい海外生活が長いので・・・」
 俺達が、それぞれに会話を始めた、その時だった。

 「ち、ちょっと待てよ!!」

 声を挙げたのは、それまで沈黙を守っていた雄真さんだった。
 「どうしたのよ?雄真くん」
 「い、いや・・・その父さんもかーさんもいいのか?」
 「何が?」
 心底不思議そうに答える音羽さん。
 「何がって・・・すももと和志のことだよ」
 雄真さんは俺の方を見ながら呟く。
 「和志、お前がすもものことを心から愛してくれているのは俺も知ってる。だけど・・・結婚は・・・早過ぎないか?」
 た、確かに、賞を貰って、魔法植物学の世界でやっていける自信がついたとはいえ、俺はまだ20代前半の若造だ。
 「どうしたのよ。雄真くん。・・・すももちゃんを取られるのがそんなに嫌?」
 「それに、雄真。お前も吾妻くんと変わらない年で春姫さんと結婚してるじゃないか?」
 「ち、違うぞ!!」
 音羽さんと大義さんの言葉に反論する雄真さん。
 「俺が心配しているのは、和志の職業だよ」
 雄真さんはそう言って何かを取りだす。
 それは新聞記事をプリントアウトしたもの。
 それに載っていたのは、こういう内容の記事だった。


 【○○山で雪崩が発生、魔法植物学者が死亡】


 【□□研究所で魔法植物合成実験の事故、重軽傷者多数】


 それは魔法植物学者が事故にあったことを伝える記事だった。
 「和志、お前の功績は素人の俺が見ても凄いことだというのは分かる。けどな・・・」
 雄真さんの言いたいことは分かる。
 魔法植物学は栽培・育成以外にもすることはたくさんある。
 新種の調査に、人がなかなか入らない危険な山の中に行ったり、
 魔法植物同士を掛け合わせて、新種を開発したりなどだ。
 その過程で、新聞記事のように事故が起こる可能性は否定出来ない。
 「和志、俺はすももには幸せになってほしい」
 雄真さんは淡々と言葉を続ける。
 「和志、魔法植物学の研究をするのはいい。だけど程々にしてくれないか?」
 「・・・・・」
 俺は雄真さんの言葉を黙って聞いていた。
 雄真さんの言い分は分かる。だけど・・・
 「それは、出来ません」
 俺は言葉を続けた。
 「この仕事は、俺にとっての使命だと思っています。だから―――」
 「分かった」
 俺の返事を最後まで聞かず、雄真さんは席を立った。
 「兄さん!どこ行くんですか!?」
 「すもも、俺は和志との結婚、認めないからな」
 雄真さんの口調は怒りと悲しみが混ざった感情だった。






  「なるほどな〜それで雄真の奴機嫌が悪かったんだな」
 研究で分からないことがあって、俺は奏さんの家を訪ねた。
 俺の目の前にコーヒーカップを差し出しながら、奏さんが笑いながら呟く。
 結婚の挨拶に言ってから、一週間。
 俺は雄真さんにすももとの結婚を認めて貰うために、何とか雄真さんと話そうとした。
 だけど、雄真さんは全く取り合ってくれなかった。
 「どうすればいいんだろう・・・」
 「そんなに心配する必要も無いんじゃないか?」
 不安な表情を浮かべる俺に、むしろ笑顔を浮かべながら奏さんは言った。
 「和志、お前だって雄真のすももちゃんに対する溺愛ぶりは知ってるだろ?」
 「それはもちろん・・・」
 学生時代から雄真さんのシスコン振りは有名だった。
 俺がすももと交際していたのすらある意味『奇跡』と言われていたくらいだ。
 「雄真が本気でお前とすももちゃんの結婚を認めないのなら、家の敷居すらまたがせないと思うぞ」
 「そうですかね・・・」
 「そうだよ、もっと自信を持て!!僕は今回ばかりはお前の味方だ」
 「ありがとうございます」
 俺はそう答えて、席を立った。
 「行くのか?」
 「ええ、これから魔法植物の様子を見て来ないといけませんし」
 「もうお昼近いぞ。食べていったらどうだ」
 「いえ、アテがあるので」
 「そうだよな〜やっぱり婚約者の手料理の方がいいか」
 「え、ええ・・・」
 「何だよ〜照れなくてもいいだろうが」
 笑いながら言う奏さん。
 「ありがとうございます。奏さん・・・そういえば今日杏璃さん姿見てないですけどどうしたんですか?」
 「ちょっと出かけてるんだ」
 「そうなんですか?よろしく言っておいて下さいね」
 「ああ、分かったよ」
 俺はそう言うと奏さんの家を後にした。







  「で、シスコン雄真は、どうあっても和志とすももちゃんの結婚を認めないって訳ね」
 「俺はシスコンじゃないっつーの」
 苦笑いを浮かべる杏璃に全力で否定する俺。
 「今回のことでもはや決定的な事実だと思うわよ・・・」
 「妹の将来を心配してるだけだがな」
 「まあ、確かに雄真くんの言い分も分かるけど」
 杏璃と同じく苦笑いを浮かべながら春姫も呟いた。
 昼下がりの日曜日、春姫と家でのんびりしていたら、久しぶりに杏璃が遊びに来た。
 せっかくだから、どこかに出かけようということになった。
 珍しく奏が一緒じゃないから、『奏はどうしたんだ?』と聞いたら、
 「奏は和志の用事があるからって家にいるわよ」
 「・・・そうか」
 俺の表情の変化を見逃さなかった杏璃が冒頭のセリフを呟いた訳だ。
 「でも、すももちゃんの幸せを考えるなら、やっぱり和志くんとの結婚、認めてあげた方がいいと思うよ」
 「そうよ。いい加減妹離れしなさい。雄真」
 春姫と杏璃の意見が正しいのは分かっている。
 それでも、素直に頷けないのは兄貴としての最後の抵抗なんだろうか・・・
 「それに雄真、今すももちゃんと口聞いて貰えないんでしょ?」
 「うっ・・・」
 そうなのだ。あれ以来すももの携帯に掛けても着信拒否されるし・・・
 「和志とすももちゃんがムチャな行動に出る前に素直に認めた方がいいと思うけどね」
 「な、何だよ。ムチャな行動って・・・」
 「そりゃ、結婚を反対された男女がすることっていったら、かけおちとか」
 「かっ・・・」
 「あ、杏璃ちゃん、さすがにそれは・・・」
 考え過ぎじゃないかと春姫が窘める。
 「そうかしら?すももちゃんのいざって時の行動力は雄真、アンタが一番良く知ってると思うけど」
 「・・・」
 俺が思わず黙り込んだその時、
 「あ、すももちゃん」
 「!!」
 春姫のその声に俺は思わず路地の影に隠れた。
 俺の背後に、春姫と杏璃も隠れた。
 「な、何で私達まで隠れる必要があるんだろ?」
 「雄真が隠れるから思わず反射的に・・・」
 ドタバタしている俺達とは対照的にすももは俺達には気が付いていないようだった。
 「すももちゃん、珍しい格好してるね」
 どっちかというスカートを好むすももが珍しく長袖のシャツにGパンというラフな格好をしていた。
 「それにあの荷物は何よ」
 すももは大きなバックを抱えていた。
 まるで、どこかに旅行に出かけるような格好だった。
 「・・・本当にかけおちする気じゃないわよね」
 「ま、まさかいくら何でも・・・」
 「・・・追うぞ」
 『へっ?』
 背後から2人の返事を聞くまでも無かった
 「後を付ける」
 すももの姿が角を曲がって消えたのを確認してから、俺は路地裏から飛び出した。
 「ち、ちょっと雄真くん!?」
 「全く、もうどうあっても『俺はシスコンじゃない』なんて言い分は通らないわよ。雄真!!」
 春姫と杏璃も何だかんだ言いながら後を付いて来る。
 最も2人の口調は『心配しすぎだ・・・』という感情が滲み出ていたが、
 こうして、俺達のすももの尾行が始まった。







                                〜第99話に続く〜


                         こんにちは〜フォーゲルです。第98話になります。

                              今回は結婚のご挨拶編ですね。

                      雄真が反対するというのは皆さん予想通りだと思うんですが(笑)
 
                       一応、ただ『シスコンだから』という理由だけじゃないです。

                        次回は『和志とすももは本当にかけおちするのか?』と

                    和志の『魔法植物学』に対する想いなどをもう少し掘り下げて書きたいと思います。

                               それでは、失礼します〜





管理人の感想

フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の98話を送って頂きました〜^^

「雄真・・・お前さんは、立派なシスコンだよ・・・」

思わず雄真の肩に優しく手を置き、そう告げたくなる一話でしたね(笑)

まあ確かに雄真の気持ちも分かんなくもないですけどね。ただもうすももも和志も二十代前半の大人。その辺も考えての決断・・・だということも分かっているのでしょうが。

それでも納得出来ないのが、シスコンたる所以ですかね^^;

そしてすももは、まさかの駆け落ち!? はともかく、どこに向かうのかは気になりますね。

雄真は尾行していることを気付かれたら、マジで一生すももに会話してもらえなさそうだ(汗)


ではでは、次回もお楽しみに!



2011.7.3