『解かれた魔法 運命の一日』〜第95話〜







                 


                                                   投稿者 フォーゲル





  「ど、どうして藤林さんの魔力を吾妻くんが持ってるの?」
 驚きの声を上げる神坂さん。
 「それは、柾影さんが俺を助けてくれたからです」
 「どういうことだ?」
 「それを話すには、あの時に起こったことを話さないといけないんです」
 「あの時・・・わたし達があの空間を脱出した時の話ですね」
 雄真さんの疑問とすももの問いに頷く俺。
 「・・・聞かせて下さい」
 か細い声で話す伊織さん。
 「柾影さんが、最期に何を考えていたのか、それを知りたいです」
 伊織さんの瞳に宿る決意の色。
 
 “ギュッ”

 ふと俺の隣にいたすももが俺の服の裾を握っている。
 その様子を見ながら、俺はその時のことを話し始めた。
 




  『和志くん!!かず・・・』
 すももの叫びは途中で掻き消えた。
 (良かった・・・これですももは助かる・・・)
 俺はホッと一息付き―――
 すぐに残った魔力を組み上げ始める。
 もちろん、この空間から脱出するためだ。
 
 『俺も必ず脱出しますから!!』

 この言葉に嘘は無い。このままここで抵抗せずに死んで、
 すももを悲しませるようなことはしたく無かった。だけど―――

 『ククク・・・無駄なことを』

 『ユグドラシル』の嘲笑う声と共に、黒い霧状の魔力が俺の身体を覆い始める。
 その魔力が俺の体力を、魔力をゆっくり確実に奪っていく。
 『タダで道連れにはしない・・・たっぷりと苦しみを与えながら滅ぼしてやる』
 魔力が俺の首を真綿で締めるように纏わりつく。
 いや、実際に首を絞められているように、苦しくなっていく。
 (く、クソッ・・・)
 だんだん、意識が遠くなっていく。
 俺は思わず何も無い虚空に手を伸ばす。
 薄れゆく意識の中で、俺はすももを思わせる金色の輝きを崩壊する空間の中で見た気がした。
 (す、すももっ・・・)
 思わず最愛の人の名を心の中で叫び―――
 俺の意識は闇に落ちた。





  『・・・志、和志』
 俺の名を呼ぶ声がする。
 その声で俺の意識が戻った。
 俺は思わず、その声の主を探す。
 そして、視線がある一点で止まる。
 そこには、母さんがいた。
 『和志・・・よく頑張ったわね』
 優しい声で呟く母さん。
 (俺・・・死んだのか?)
 まだ混乱する頭で考える。
 『さあ、こっちに来なさい。お父さんも待ってるわよ』
 その声には、とても俺を安心させた。
 俺は、フラフラと母さんに近づき、その手を―――
 取ろうとした、その時だった。
 不意に俺の背中が光り輝いた。
 それと同時に俺の周りの空間が暖かい空気に包まれる。
 俺は首だけを振り返る。
 そこにいたのは―――

 (すもも!?)

 何故か逃がしたはずのすももがそこにいた。
 すももは後ろから俺の腹に手を回して、必死に首を振っていた。
 良く見ると、その身体が透けて見える。
 (ひょっとして、精神体?)
 俺がそんな考えを巡らせていた時―――

 『ああっ!!グゥゥゥゥゥッ!!』

 目の前の母さんが苦しみ出した。
 みるみるうちにその姿が変わっていく。
 『おのれ・・・どこまでもジャマをするか・・・』
 それは紛れも無く、『ユグドラシル』の声だった。
 俺は慌てて、レイアを探す。
 『慌て無くても良い』
 目の前に小さな龍が現れた。
 「青龍か?」
 『ああ、そうだ。ここから先は、我ら【四神】の役目だ』
 そんな話をしている間に、『ユグドラシル』は一本の木の姿になっていた。
 恐らくこれが、『ユグドラシル』の真の姿なのだろう。
 いつの間にか、『青龍』の姿は金色の龍―――『黄龍』に変わっていた。
 『黄龍』は『ユグドラシル』の周りをゆっくり旋回する。
 その度に『ユグドラシル』の木は少しづつ光の粒子に変化していく。
 やがて、完全に『ユグドラシル』は消滅した。
 「何をしたんだ、黄龍?」
 『『ユグドラシル』の魔力を完全に分解して、我ら『四神』が取り込んだ』
 和志の説明に答える『青龍』。
 『後は、我らがゆっくり取り込みながら、消滅していくだろう』
 「そうか・・・」
 俺が答えたその時―――意識が急速に遠くなるのを感じた。
 思わず、頭を押さえる俺。
 それに合わせるように、精神体のすももの身体の輝きが増していく。
 「どうやら、別れの時が来たようだ。『ユグドラシル』が存在しない今、我らが具現している意味も無い。
  また、眠りについて、お前達の―――『人間』の生きざまをこの地球のどこかから見守らせてもらう」
 『青龍』の声がだんだん遠くなる。
 「願わくば、もうこんなことが起きないことを祈っておるぞ―――」
 そんな声を聞きながら、俺の身体はすももの身体が放つ光に飲みこまれていった。





 
  【ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・】
 俺が今度こそ本当に目を覚ましたのは、地響きのような音だった。
 目を覚ますと、まず確認しなければならないことがあった。
 「すもも!?」
 周りにすももが本当にいないことを確認して、俺はホッとした。
 (良かった・・・すももが脱出できなかった訳じゃなさそうだな)
 じゃあ、今度は何故あの場にすももの精神体が出現したんだという疑問が浮かぶんだが・・・
 ふと、視界に金色の輝きが入って来た。
 右手にすもものリボンが掛かっていた。
 俺は、『神融合魔法』をすももが使った時にリボンが解けて宙に舞ったのを思い出した。
 同時に、俺が意識を失った時に『金色の輝き』に手を伸ばしたのを。
 (そうか、それですももの精神体が出現したんだな・・・)
 そんなことを考えている間にも、地響きの音が大きくなっていく。
 (クソッ・・・急いで脱出しないと!!)
 そう考えて、思わず『レイア』を掴む動作をして―――
 (あ、そうか・・・)
 『ユグドラシル』との戦いで魔力を使い果たしてしまったことを思い出した。
 もはや、今の俺には『レイア』をワンドにするだけの魔力も無い。
 幸い、足元に落ちていたペンダント―――レイアの元の姿だ。を拾い、俺は考える。
 (何か、脱出する方法があるはずだ・・・何か)
 俺が何か無いかと、当たりを見渡すと―――
 その視界に倒れている柾影が入って来た。
 「!!」
 俺は慌てて、柾影に近寄る。
 「おい、しっかりしろ!!」
 大声で柾影に呼びかける。
 心臓に胸を当てて、鼓動を確認する。
 (・・・良かった、生きてる)
 ひとまず、無事なことを確かめて俺はホッとする。
 (とはいえ、これからどうする?)
 ハッキリ言って打つ手は無い。
 魔法も使えず、いつ崩壊するかも分からない空間の中だ。
 だけど、それでも―――
 (よし・・・)
 俺は決意をして行動することにした。




  
 
   気が付いたのは、身体が揺れていたからだった。
 もう何もかもに疲れ果てた。
 意識が戻ったことですら、鬱陶しく感じた。
 (このまま眠っていれば、『あいつ』のところに行けたのに・・・)
 俺はそんなことを感じながら、視線を動かす。
 身体が何故動いているのか―――それを知りたかったからだ。
 何者かが俺の身体を背負って移動しているみたいだ。
 (誰だよ・・・)
 「気が・・・付いたのか・・・柾影」
 「な、お前は・・・」
 「さっきまで戦っていた奴の名前くらい覚えてて欲しいんですけど」
 「吾妻・・・和志・・・か」
 何故か、吾妻和志が俺を背負って歩いていた。
 「な、何でお前がこんなところに居るんだ?」
 俺の問いに吾妻和志は説明をした。
 『ユグドラシル』を倒した後、最期の抵抗をされたこと。
 その攻撃から何とか伊織と『神融合魔法』の彼女を守ったこと。
 その時の影響でこの空間内に取り残されたこと。
 今は何とか脱出する方法を探して彷徨っていること。
 その説明を聞いて、俺は思わずホッとした。
 「そうか・・・じゃあ伊織は無事なんだな」
 「ああ、安心しろ」
 「で、お前は何で、俺まで一緒に担いで移動しているんだ?」
 「あなたが死んだら、伊織さんが悲しみますし。それに何より俺自身が放っておけなかったんです」
 「・・・俺を放置しておけば、お前が助かる確率は上がるのに・・・バカだな」
 俺の言葉に吾妻和志が反論する。
 「あなただって、シンシアさんを放っておけなかったじゃないですか?それと同じですよ」
 (シンシア・・・)
 俺は思い出していた。
 シンシアが死ぬ前に俺に囁いた言葉を。


 『柾影くん・・・お願い、人間を嫌いにならないで』


 あの時は、あんな目に合わされてもそんなことを言っているシンシアが信じられなかった。
 でも、『青龍』達が見てきた過去、この状況になっても俺まで助けようとしている吾妻和志。
 そして、俺に協力して、あんな目にあって―――
 それでも、俺を愛していると言ってくれた伊織―――
 俺の心に何かの感情が浮かぶのが分かった。
 次の瞬間、俺の口から笑いが漏れた。






  「クックックッ・・・」
 この状況で場違いな笑い声が聞こえてきた。
 背中の柾影が笑っている。
 「どうしたんですか?一体」
 「吾妻和志・・・聞こえるか?」
 「何がです?」
 そう言った俺の耳にも『音』が聞こえてきた。
 
 【ギシギシギシ・・・】

 地響きのような音ではなく、空間全体が軋むような音だ。
 「もうすぐ、この空間内に『特異点』が発生する」
 「特異点?」
 「簡単に説明すると、この空間は今爆発前の最期の状態で、急速に膨張しているんだ。
  限界ギリギリまで膨張した後、空間そのものが一点に収束して、大爆発を起こす。その中心点が特異点だ」
 「つまり、もうヤバイってことですか?」
 「だな・・・」
 (チクショウ!このまま死ぬしか無いのかよ!!)
 俺がそう歯噛みした時―――
 「脱出方法が一つだけある」
 背中の柾影がそう言った。
 「それは、どんな方法ですか?」
 思わず、柾影を背中から降ろし、座らせてから俺は柾影の言葉を待つ。
 「簡単だ、転移魔法で脱出すればいい」
 その言葉を聞いて俺はため息を付く。
 「あのですね・・・それが出来るんならとっくにやってますよ。第一、俺にはレイアをワンドに戻す魔力すら・・・」
 『私がどうしたのよ』
 「だから、レイア、お前を・・・」
 そこまで言って―――俺は目を見張る。
 ペンダント状態で首に下げていたレイアがワンド状態になっている。
 「レ、レイアお前、何で・・・」
 『私もよく分からないわよ・・・気が付いたらこうなってたんだし』
 それと同時に俺の身体に少しづつ魔力が戻って行く。
 「簡単だ・・・俺の魔力をお前の身体に流してるんだからな」
 背中の柾影の言葉に、俺は反論する。
 「どうやって?すももが居るなら可能でしょうけど」
 「彼女なら・・・いるだろう」
 柾影は俺の右腕―――括りつけてあるすもものリボンに触れていた。
 (そうか、すもものリボンに残っている『神融合魔法』を利用してるのか)
 「『ユグドラシル』も『四神』も『神の魔法』という意味では同じ系統だからな、可能だろうとは思ったが」
 「やめろ!!そんなことをしたらあなたは―――」
 『ユグドラシル』と完全融合した時点で、柾影は半精神体状態みたいなものだ。
 そんな状況で残り少ない魔力を俺に提供したら―――
 「心配いらない。俺の身体はこの状態だからな」
 その時、俺も気が付いた。
 柾影の身体が、脚の先の方から光の粒子になって消えて行っていることに。
 「元々、『ユグドラシル』をまた身体に戻した時点でいつかは魔力の過負荷に肉体が耐えられなくて、こうなることは分かってた」
 柾影の口調に自嘲気味の笑みが浮かぶ。
 「勘違いするなよ。お前のためじゃ無いからな。お前が死ぬとシンシアに似ているあの女の子が悲しむだろうしな」
 そう言っている間にも、柾影の身体は光の粒子になって消えて行く。
 先に、柾影はすもものリボンから手を離した。
 「これで転移魔法分の魔力くらいにはなるはずだ。もっとも転移座標の指定は出来ないから、
  助かるかどうかはお前の運次第だろうけどな」
 「・・・」
 その行動に何も言葉を返せない俺。
 「はぁ・・・疲れた・・・本当に・・・」
 天を仰ぐ柾影。
 その表情はとても穏やかだった―――
 やがて、その身体の周りに天から蒼い光が降り注ぐ。
 その光に包まれた瞬間、柾影の表情が柔らかくなった。
 まるで、『もう二度と会えないと思っていた人に会えた』というような嬉しそうな笑顔だった。
 その時、俺が構築した転移魔法の魔法式が頭の中で完成した。
 後は運を天に任せるだけだ。
 その時、俺は確かに見た。
 柾影の周りの蒼い光が確かに一瞬『蒼い髪のロングヘアーの少女』の姿に変わったのを。
 そして、その光に導かれるように柾影の身体も光になって虚空に消えた。


 (良かったな―――柾影。そして、ありがとう―――)



 俺は心の中でお礼を呟き―――転移魔法を発動させた―――






                                  〜第96話に続く〜


                          こんばんわ〜フォーゲルです。第95話になります〜

                          今回は和志が助かった理由についてがメインですね。

                          90話の『神融合魔法』ですもものリボンが解けたのは、

                         伏線でもあったんですが、気が付いた人がいたら鋭いなと(笑)

               柾影の最期は作者的に『最後にいいことして逝かせてやりたかった』という考えがあってこうなりました。

                    最期は『彼女』に会えて良かったな・・・読者の方にそう思って頂けると嬉しいです。

                      次回は京都編のまとめですね。今回がこんな終わり方をしてなんですが、




管理人の感想

フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の95話をお送りして頂きました〜^^

どうやって和志は脱出出来たのか・・・まさか柾影が最後の最期で和志を救っていたとは。

彼の人間性は、悪ではなく・・・ただひたすらに純粋だっただけ。だからこそシンシアの件が許せず、闇に堕ちてしまった。

でも最期は、「人間」として「彼女」と共に逝けたのではないでしょうか。

ちなみに、すもものリボンの件は、私は薄らと「何かあるなぁ」と読んだ程度でした。皆さまはどうでしたでしょう?


それでは、また次回もお楽しみに!



2011.1.16