『解かれた魔法 運命の一日』〜第93話〜










                                                           投稿者 フォーゲル








  “トントントン・・・”
 リズミカルな音が聞こえてきた。
 俺は、その音で目を覚ます。
 枕元にある携帯のディスプレイを見つめる。
 (また、今日はえらく早いな・・・)
 俺がそんなことを考えていると・・・
 「和志く〜ん!!朝ですよ〜!!起きて下さい〜」
 制服の上からエプロンを付けたすももがドアのところに立っていた。
 「おはよう、すもも・・・だけどさ」
 俺はもう一度携帯のディスプレイを見つめる。
 「今日は、入学式があるんだし、登校時間はもっとゆっくりでも・・・」
 「何言ってるんですか、新学期でもあるんですし気合を入れないとダメですよ」
 (そうはいっても時間よりも2時間も早いのは・・・)
 「和志くん、何か言いたいことでもあるんですか?」
 「いいえ、何にも無いです」
 「朝ご飯出来てますからね。早く準備して下さい」
 「ああ、分かったよ」
 俺は、そう答えるとノソノソとベッドから這い出した。





  「今日は、和食なんだな」
 「そうですよ〜和志くん、和食が好きですよね」
 身支度を整えて、キッチンに降りて来た俺にすももが声を掛ける。
 お互いに椅子に座り、向かい合う。
 『頂きます』
 お互いに挨拶をしてから、俺は鮭の切り身に箸を伸ばす。
 「うん、美味しい、丁度いい味だよ」
 「そうですか?やっと和志くんの味の好みを理解出来ました」
 俺の言葉にホッとするすもも。
 「だけど、すもも、いつもありがとな」
 俺が帰って来て以来、すももは時間の空いている時には俺のために朝ご飯を作ってくれるようになった。
 今では、俺の家のキッチンの料理道具の配置は「すももが使いやすい位置」においてあったりする。
 「気にしないで下さい。わたしがやりたくてやってるんですから・・・それに・・・一分でも一秒でも和志くんのそばにいたいですし」
 頬を赤く染め言うすもも。
 「すもも・・・」
 今更ながら照れまくる俺。
 「でも、大丈夫なのか?家の方も大変だろ?」
 「大丈夫ですよ。自分の役割はちゃんとこなしてますから。お母さんも許可してくれてますし」
 胸を張るすもも。
 確かに音羽さんは許可するだろうな。
 むしろ『毎日行ってもいいわよ♪』とか言いそうだ。
 俺としては、むしろウキウキ気分で家を出ているであろうすももの背中を苦虫を噛み潰したような顔で見ているであろう、
 雄真さんの姿が容易に想像出来た。
 (そういえば、この間のバレンタインでもとんでもないことになったしな・・・)
 みんなの間で通称『血のバレンタイン事件』とか呼ばれることになった出来事を思い出した。

 “ブルブルッ”

 思わず背中に走り抜けた悪寒を振り払う。
 「・・・?どうしたんですか?和志くん?」
 「い、いや何でも無い」
 すももの言葉を否定すると、俺はご飯を口に入れた。






  「ごちそうさまでした!」
 「はい、お粗末さまでした」
 食後の挨拶をする俺達2人。
 ふと、時計を見る。
 (まだ、一時間もあるな・・・)
 ふと、すももを見る。
 (あ、そうだ・・・)
 「なあ、すもも」
 「はい、何ですか?」
 「何か、してほしいことあるか?」
 「どうしたんですか?突然?」
 食器を流し台に置きながら、返事をするすもも。
 「いや、いつも何かして貰ってばっかりで、俺から何もしてあげて無いし・・・」
 食事だけじゃなく、すももには居なかった間の勉強を教えてもらったりもしたし、
 「う〜ん・・・そうですね、じゃあ・・・」
 他のみんながそういうことを言うと『大丈夫ですよ!』と言うすももが俺には
 素直にリクエストをしてくれるのが嬉しかった。
 「あっ!・・・思いつきました♪」
 そう言いながら笑うすもも。
 その笑顔が一瞬音羽さんに被って見えたのは俺の気のせいだろうか?





  「えへへ・・・暖かいです」
 俺の膝の上ですももが嬉しそうな声を上げる。
 すもものリクエストは『抱っこして下さい』というものだった。
 「今日は春なのに寒いですからね。こうして貰いたかったんですよ」
 窓の外に舞う桜の花びらも心なしか震えて見えた。
 「だけど、すもも、こんなことでいいのか?」
 「いいんです!それに、和志くん、なかなかこんなことやってくれませんからね」
 「そりゃそうだろ?恥ずかしいし・・・」
 俺はそう言いながら、腕が少し疲れて来たので少し手の位置を動かす。
 「キャッ!!」
 不意にすももが可愛らしい悲鳴を上げる。
 「か、和志くん。どこ触ってるんですか!?」
 「あ、ゴ、ゴメン!」
 手を動かした時に、すももの胸に触れたらしい。
 その時に、気が付いたことがある。
 「す、すもも・・・あのさ、胸・・・大きくなった?」
 「〜〜〜〜!!」
 顔を真っ赤にしながら、それでもコクリと頷くすもも。
 「だって、和志くんが・・・その・・・ベッドで揉むからですよ」
 「い、いや確かに、それは否定しないけどさ・・・」
 そう言いながらも、男の本能で俺はすももの胸を揉んでいた。
 「ふあッ!!か、和志くぅん・・・わたし、身体が熱くなってきました」
 「お、俺もだよ」
 いつの間にか、お互いに抱っこしながら、キスを交わす。

 【♪〜♪〜♪】

 携帯の電話が鳴ったのはその時だった。
 (何だよ、いいところなのに・・・)
 俺は携帯を通話状態にする。
 「はい・・・もしもし」

 『和志!!』

 携帯の向こうから聞こえて来たのは雄真さんの声だった。
 「ゆ、雄真さん。どうしたんですか?そんな大声で」
 『どうしたもこうしたもあるか!!もう遅刻寸前だぞ!!』
 「えっ・・・そんなはず・・・」
 俺は改めて部屋の時計を見る。
 やっぱり、一時間ある―――
 その時に気が付いた。
 秒針が動いてないことに。
 改めて、携帯の時間表示を見る。
 さっきまで興奮していた俺の顔が一気に青ざめる。
 (始業式まで後20分!?)
 『俺も準もハチもさっきから待ってるんだぞ!早く来い!!』
 「わ、分かりました!!」
 俺は慌てて携帯を切った。
 「ヤバイぞ!!すもも!!」
 「わ、分かりました!!」
 さすがにラブラブしている場合じゃないことに気が付いたのか、
 すももも少し乱れた制服を直すと、立ち上がる。
 そうして、俺達は家を飛び出した。






  (あ〜大変だった・・・)
 あの後、全力疾走で雄真さん達と合流し、学園へ向かった。
 幸い直前まで何をしていたのか、雄真さん達には感づかれなかった。
 (最も、準さんは女(?)の感なのか俺の耳元で『朝からラブラブね』などど囁いていたが)
 クラスは俺とすもも・師匠も同じクラスということになった。
 ちなみに余談だが、今年度から魔法科と普通科の合同授業が正式に実施されることになった。
 何でも、普通科の生徒の成績が格段に伸びたこと、魔法科生徒の普通科生徒との交流も増えたこともあって、
 正式に実施の運びになった。
 「わたしは嬉しいです。和志くんや伊吹ちゃんと同じクラスなんですから!」
 俺の隣を歩くすももが嬉しそうな声を上げる。
 「私もそれは歓迎だが・・・もう少しお主達の周りの空気を抑えてくれればな」
 笑いながら言う師匠。
 「努力します」
 苦笑いを浮かべながら、俺達は3年のクラスを目指していた。
 雄真さん達と合流して、『Oasis』にでも行こうかという話になったのだ。
 「・・・何か、異様に賑やかじゃないか?雄真さん達のクラス?」
 「そういえば、さっき姫ちゃんがクラスに転校生が来たっていってましたね」
 雄真さん達のクラスを覗きこみながら言うすもも。
 転校生が座っている机の周りには、生徒達が集まっている。
 (大変だなぁ・・・)
 一年前の自分を思い出し苦笑する俺。
 何故かその転校生を守るように柊さんがしているのが気になるが・・・
 俺は身を乗り出しその転校生を見つめる。
 スラッとした身体付きに綺麗なサラサラの黒髪の少年。
 その姿に俺は見覚えがあった。


 『奏(かなで)さん!?』

 自分の名前を呼ばれたその少年もこちらを見て驚いた表情を浮かべた。


 『和志か!?』

 お互いに驚く俺達を柊さん達がもっと驚いた表情で見ていた。







  「いや〜奏さんと柊さんが知り合いだとは思いませんでしたよ」
 質問責めに合っていた奏さんをどうにかこうにか救出し、俺が幸鳥(ゆきとり) 奏さんの紹介をすももと師匠にしてから俺達は『Oasis』に来ていた。
 「それはこっちのセリフだよ。杏璃と和志が知り合いだなんて・・・」
 聞けば、奏さんと柊さんは小さい頃からの幼馴染らしい。
 「2人して和んでないで!あんた達はどういう経緯で知り合ったの?」
 「簡単に言うと、奏さんは俺の命の恩人なんですよ」
 「どういうこと?」
 神坂さんの問いに答えたのは奏さんだった。
 「一か月くらい前かな?僕が山の中を散歩していたら、高さ20メートルほどの木の上に、気絶した和志が引っかかってたんだ」
 『最初は驚きましたね?奏?』
 奏さんのマジックワンド『ルピナス』の言葉に頷く奏さん。
 「ああ、全身酷い怪我で死んでるんじゃないかと思ったよ」
 「一か月前って・・・」
 奏さんの言葉に、雄真さんを筆頭にすもも・師匠・神坂さん・柊さんが俺を見る。
 「そうです、あの空間から脱出した後、俺は奏さんに助けられたんです」
 「さすがに、イギリスの山の中にいる怪我した日本人を放っておけなくてさ」
 「そうなんですか・・・奏さん。和志くんを助けてくれてありがとうございました」
 頭を下げるすもも。
 奏さんはそんなすももの姿を見つめて―――
 「ひょっとして、君が和志の恋人?」
 「なっ・・・なんで分かったんですか?」
 「本当は、最初和志に、イギリスの魔法連盟から日本の魔法連盟に連絡してもらって身分保障してもらった方がいいって言ったんだよ
  あの時点じゃ和志は密入国者扱いになっちゃうしね」
 奏さんが説明を続ける。
 「最初は和志もそれに同意してくれたんだけど、『一年間はイギリスから出れない』ってことを知ったら、『どうしても会いたい人がいるから』何とかならないか?って言われたんだ」
 「なるほどね・・・」
 腕を組みながら柊さんが頷く。
 「仕方がないから、一か月間だけ、僕の家にホームステイしてたって手続きをして、密入国の疑いだけは消したって訳」
 「その後、吾妻くんは転送魔法で瑞穂坂に戻って来たんだね」
 神坂さんの問いに頷く俺。
 「そういうことです。・・・奏さん。大地さんと百合奈さんにもよろしく伝えて下さい」
 一か月のイギリス滞在の間、良くしてくれた奏さんの両親の名前を出してお礼を言う。
 「大丈夫だよ。お父様もお母様もとても楽しかったって言ってたし」
 笑う奏さん。
 
 「あっ・・・そうだ。和志。俺とすももに藤林から手紙が来たんだが」
 話題が途切れたところで雄真さんが思い出したように口を開く。
 「ああ、俺のところにも来ましたよ」
 「私にも」
 「あたしにも来たわ」
 「私にもだ。恐らく小雪や信哉・沙耶達のところにも来ているのだろう」
 姉ちゃんから届いた手紙。
 それは、俺達を『姉ちゃんが藤林家の後継者になるための式典』への招待状だった。








                                    〜第94話に続く〜


                            こんばんわ〜フォーゲルです。第93話になります。

                   今回は、前半は超ラブラブ、後半は皆さんが気になってたことの一つについて書きました。

                          前半は作者としては久々のラブラブ話のなので気合いが入りました。

                              すももがすっかり『通い妻』状態になってます。

                           『雄真、電話してくるなよ〜』と思っていただければ嬉しいです。

                        後半は『和志が居なくなってた一か月どこで何をしていたのか』を書いて見ました。

                   和志の命の恩人である幸鳥 奏くんは鷹勝さんが運営しているサイト『彩りの羽』に掲載されている

                            『咲き誇りし魔法の奇跡』と言う作品の主人公です。

                             彼の活躍は是非『彩りの羽』に行って読んで見て下さい。

                              鷹勝さん、使用許可を頂きありがとうございました。

                                  次回は京都編第2弾になります。

                               渚の後継者式典で起こる展開に注目して下さい。

                            和志がどうやってあの空間から脱出したのかも書く予定です。

                                   それでは、失礼します〜




管理人の感想

フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の93話をお送りして頂きました〜^^

前回とは一変して、ラブ度100%でお送りしておりますね。

何気に半同棲生活な二人。確かに、雄真は苦虫を噛み潰したような顔をしてそう(笑)

それでも、すももと和志が「コト」に至る寸前に電話を掛けたのは、遅刻寸前という以外にも男の―――いえ、漢の勘もあったのではないかと。

後半部分は、和志がどうやって日本に帰ってきたかが、新キャラも交えて語られています。

ちなみにフォーゲルさんの仰るように、奏は鷹勝さんのところのオリキャラです。ウチから相互もしてるので、宜しければどうぞ♪

ではでは、今回もありがとうございました〜^^



2010.9.26