『解かれた魔法 運命の一日』〜第92話〜
投稿者 フォーゲル
『すもも・・・』
懐かしい声が聞こえました。
「か、和志くん!?」
目の前には、懐かしい和志くんの姿がありました。
「和志くん・・・和志くん!!」
わたしは和志くんに抱きつきました。
「ゴメンな。すもも。心配させて・・・」
「ううん、そんなのどうでもいいです」
わたしの髪を優しく撫でる和志くん。
「これからは、ずっとわたしのそばにいてくれるんですよね?」
わたしの質問に、だけど和志くんは黙ったままです。
「・・・ゴメン、すもも」
いつもの優しい声で、和志くんはわたしに話し掛けます。
「俺、いかなきゃ行けないところがあるんだ」
見ると、和志くんの後ろには一人の女性が見えます。
「・・・!!」
その姿に、わたしは驚きました。
長い髪の優しそうな印象の女性―――
(れ、玲香さん?)
それは、もう亡くなっているはずの和志くんのお母さんでした。
(今、玲香さんに付いていったら和志くんは―――!!)
「じゃあ、俺、もう行くから」
「ダ、ダメです!!」
わたしは思わず、和志くんの手を掴もうとしました。
だけど―――
“スルッ”
わたしが必死に手を伸ばしても、和志くんの腕を掴むことは出来ませんでした。
(そ、そんな・・・)
和志くんはゆっくりと玲香さんに向かって歩いていきます。
「和志くん、行っちゃダメです!!」
わたしは、必死に和志くんに呼びかけます。
だけど、わたしの声が聞こえていないのか、和志くんは振り向きもしません。
「和志くん!!和志くん!!」
わたしの叫びは涙声になっていました。
やがて、和志くんの姿は暗闇に消えて行きました。
「和志くん!!」
わたしはその場に飛び起きました。
目に飛び込んで来たのは、わたしの部屋の見慣れた風景。
「な、何だ・・・夢だったんですね」
思わずホッとするわたし。
枕を見ると端の方が濡れています。
(わたし・・・泣いてたんですね)
和志くんがいなくなってからもう一か月が経ちます。
あの後、急いで『式鬼の杜』に戻ったわたし達は必死に和志くんを探しました。
だけど、爆発でボロボロに破壊された『式守の秘宝』があるだけで、和志くんの姿はどこにもありませんでした。
『レイアちゃんの元の姿のペンダントも無いわね』
『ということは和志は生きておる可能性もあるな』
渚さんと伊吹ちゃんの会話がわたしの耳に聞こえて来ました。
それが、わたしにとっても唯一の救いでした。
でも、未だに和志くんの魔力反応は感じられなくて・・・
(・・・)
頭に浮かんだ想像を振り払ったその時でした。
「すももちゃん〜起きたの?」
下からお母さんの声が響きました。
「は〜い!今、行きます〜!!」
わたしは明るく返事をしました。
「すももちゃん、お疲れ様」
柊さんがわたしにねぎらいの言葉を掛けます。
今日は瑞穂坂学園の2学期終業式でした。
学園は午前中で終わりですが、その分お昼を『Oasis』で食べていこうという生徒さんが多いみたいでした。
『人出が足りないわね〜』とお母さんが言っていたので、
わたしがお手伝いすることにしました。
動いていた方が、いろいろと変なことを考えずに済みそうでしたし・・・
「何とか、終わったな・・・」
わたしと同じくお手伝いをしていた兄さんがため息を一つ付いてわたしの隣の席に座りました。
「本当に忙しかったですね」
「やっぱり、渚が居なくなったのはイタイわね〜」
腕を組みながら言う柊さん。
「仕方ないだろ?藤林はやることが出来たんだから」
あの事件の後、渚さんのご両親はいろいろと事後処理をした後、正式に藤林家の当主の座を辞退しました。
そして、後継者に指名されたのが、渚さんです。
「それは分かってるけど・・・」
柊さんが呟いたその時でした。
「すももちゃん、お疲れ様、もう上がってもいいわよ。・・・行くところあるんでしょ?」
「あっ・・・そうですね」
時計を見ると時間は午後3時を指していました。
「じゃあ、お母さん、暗くならないうちに行って来ます」
「行ってらっしゃい」
「じゃあ、兄さん、柊さん・・・」
「ああ、行って来い」
「片付けはあたし達にまかせといてね」
「すいません。ありがとうございます」
わたしが、挨拶をしてドアを開けようとしたその時。
「あ、すももちゃん」
「どこか行くのか?」
丁度、お店に入るところだった姫ちゃんと伊吹ちゃんに出会いました。
「はい。ちょっと用事がありまして・・・2人共ゆっくりしていって下さいね」
わたしは、そう言うと『Oasis』を出ました。
すももと入れ替わるように春姫と伊吹が入って来た。
「雄真くんもお手伝いしてたんだね」
「まあな。結構客も多かったし」
「むしろ、雄真目当ての女子も多くて、かえってお客さんが増えてたわよ・・・
あれなら、まだあたしとすももちゃんだけの方が良かったかもね〜」
笑いながら言う柊。
「・・・そうなんだ」
何か異様なプレッシャーを撒き散らす春姫。
「な、なに言ってんだよ」
「慌てると、ますます怪しくなるわよ、雄真」
「べ、別に慌ててなんか・・・だいたい、女子に声掛けられたとしても、相手にもしねーよ。俺は春姫だけだからな」
「ゆ、雄真くん・・・」
頬を染める春姫の表情に、俺も思わず照れる。
「お主達、痴話ゲンカはもうよいのか?」
呆れたような表情で呟く伊吹。
「だ、誰も痴話ゲンカなんて・・・それよりも!伊吹は何しに来たんだ?」
強引に話題を変えつつ、伊吹に話を振る俺。
「ああ、ようやく『式守の秘宝』の封印が終わったのでな、そのことを報告に来たのだ」
「じゃあ、『四神』も?」
「本来の役目を終えて、再び眠りについただろうな」
確かに、自分の魔力の中から『朱雀』の気配が消えたのを俺も感じていた。
つまり、それは『ユグドラシル』がこの世から完全に消滅したことを意味している。
「あたしは、まだ『麒麟』の力を感じてるけど?」
「『麒麟』は『四神』とはまた違う『神の力』だからな。ちゃんと元の場所に封印しないといけないのだろう」
柊の問いに答える伊吹。
「あとは・・・『あいつ』の『青龍』か?」
「ああ、とはいえ『青龍』の魔力反応は感じられぬ・・・もちろん私も小雪も必死に探しているのだが・・・」
そう言って肩を落とす伊吹。
「本当にそうか?見落としとか無いのかよ」
もちろん、伊吹達が必死にやっているのは頭じゃ分かっている。
だけど・・・
『うっ・・・ヒック、和志くぅん・・・』
毎晩すももの部屋から聞こえる泣き声。
それを知っている俺としては、言わずにはいられなかった。
「それは、式守家と高峰家の探知能力を疑っておるのか?小日向雄真」
怒りを込めた目で俺を見つめる伊吹。
「だいたい、『式守の秘宝』の封印の方が忙しすぎたとかじゃないのかよ!!」
「ふざけるな!私達だって必死に探しておる!!」
「ち、ちょっと2人共、落ち着いて!!」
口論を始めそうになった俺達を、慌てて春姫が制止する。
「そうよ。ここであんた達が口論したところで和志が帰ってくる訳じゃないでしょ!!」
柊も春姫に同意する。
「・・・悪い、伊吹」
「いや、私も大声出したりして悪かった」
お互いに謝る俺達。
「全く、俺達にこんなに心配させやがって・・・」
「その点に関しては、私も同意だ・・・帰って来たらどんな修行を課してやろうか・・・」
「それは、俺も一枚噛ませろよ?伊吹?」
「もちろんだ」
「・・・和志、帰って来たら死ぬわね」
「・・・2人共、程ほどにね」
そんな会話をしていたの、俺達4人。
正確には『意識して』そういう会話をしていたと言った方がいいだろうな。
どうしても、『最悪』の可能性を考えないようにしていたから。
「よし、これで・・・大丈夫ですね」
お花屋さんで買って来た、スイセンなどの花を綺麗に並べるとわたしは頷きました。
ここは、玲香さんのお墓です。
和志くんが、毎月玲香さんの月命日になるとお花を供えていることをわたしは知っていました。
『来てあげないと、母さんが悲しむからな』
それが和志くんの口癖でした。
(玲香さん・・・和志くんを連れてっちゃったんですか?)
思わず心の中でわたしは問い掛けます。
朝、見た夢を思い出します。
“ポタッ”
不意に見ると地面に水滴が落ちていました。
(お、おかしいですね。雨は降っていないですけど・・・)
しばらくして、それが自分の涙だということにわたしは気づきました。
「・・・!!」
わたしは必死に涙を拭います。
いつか、和志くんがわたしに言ってくれた言葉があります。
『だから、笑ってくれないか?俺はやっぱり笑ったすももが一番好きだ』
和志くんがいなくなった後、その言葉を思い出したわたしは、
勤めて、明るく振舞うようにしました。
兄さん達に心配掛けないようにというのもありましたが、何より、
『和志くんが好きなわたし』でいられるように。
だけど―――
「和志くん・・・もう無理だよ」
気付かされたことがありました。
『和志くんが好きなわたし』は『和志くんがそばにいないと存在出来ない』ということに。
「和志くん・・・和志くんがそばに居てくれなきゃ、わたし、笑えないよぅ・・・」
「会いたい・・・会いたいよぅ・・・和志くん・・・」
泣いて、泣き続けて、枯れちゃったと思った涙が後から後から溢れて来ます。
その時でした。
“バキッ!!ベキッ!!ズガガガガガガガッ!!”
不意に大きな音がしました。
(な、何ですか?)
音は玲香さんのお墓の後ろ―――林の方から聞こえて来ました。
「・・・!!」
わたしは、その音の方に向かって走り出しました。
“ドキン・・・ドキン・・・”
心臓の音が段々大きくなっていきます。
やがて、その音の場所に辿り着きました。そこには―――
「痛てててて・・・大丈夫か?レイア・・・」
『何とかね・・・』
「だけど、おかしいな?俺の部屋に転移するように座標は設定したんだけど」
『それたぶんすももちゃんの魔力に引っ張られたんじゃない?』
「すももがこの近くにーーー」
そこまで言った時わたしとその男の子の視線が会いました
少し伸びた背、長くなった髪。どことなく逞しくなった身体―――
確認するまでも無く、わたしは駆け出し―――
その男の子の胸に飛びこみました。そして―――
「バカ!!」
わたしの口から出たのはそんな言葉でした。
「和志くんのバカバカバカバカバカ!!わたし・・・わたしがこの一カ月どんな気持ちでいたか・・・」
後はもう言葉になりません。
わたしはただ、和志くんの胸の中でひたすら声をあげて泣き続けました――――
〜第93話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第92話になります。
今回は、戦い終了後の話ですね。
渚は藤林家の再興のため、再び京都に帰り、
それぞれの元の生活に。
すももは和志の言葉を思い出し、日々を過ごすもそれも限界に。
そして、ついに―――
次回は少し時間が進みます。
和志が何故助かったのかも次回以降の話になります。
とりあえず、ラブラブ話になることだけは確定しているので、
楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の92話をお送りして頂きました〜^^
戦いは終わり、けれどそこに和志の姿は無く。一月の間、式守と高峰の力を以ってしても手掛かりすらつかめない。
最愛の人がそんな状況の中、それでも耐えていたすももの目から、とうとう零れ落ちる涙。その想いが篭った雫は、一つの奇跡を生む――――。
これ以上ないハッピーエンドですね。良かった良かった。・・・まあまだ気が早いですが^^;
そろそろエピローグ部に入るのかな? 皆さま、最後までお楽しみくださいませ〜。