『解かれた魔法 運命の一日』〜第91話〜
投稿者 フォーゲル
【ドクンッ】
不意に『胎動の鳥居』から溢れる魔力が大きくなる。
「くうっ・・・」
私はその魔力を必死に抑え込む。
「美和!苦しいだろうけど何とか頑張って!?」
姉さんの声に私は、無言で頷く。
そんな私に、またモンスターが狙いを定め―――
方向転換をして、仲間のモンスターを打ち倒す。
私達が、戦い始めてからしばらくして、現れた姉さん。
姉さんは、魔法を使えなくなった分、扇花家に伝わる秘術『精神同調術(せいしんどうちょうじゅつ)』を使っていた。
『精神同調術』とは簡単に説明すると、『相手の精神を一瞬だけ支配する』という能力だ。
それで攻撃側のモンスターの精神を一瞬乗っ取り、攻撃させる。
その後、すぐに狙われた側のモンスターの精神を乗っ取り防御出来ないようにする。
それを繰り返しながら、同志討ちをさせていった。
その向こう側では、同じく私達の助っ人に来た義人さんが、
魔力の籠った武器を次々に交換しながら、戦っている。
だけど、敵は後から後から再現無く、出現していた。
2人だけでは無く、健太郎や純聖さんも肩で息をしていた。
(い、いつまで頑張ればいいんですか・・・)
私の心に、弱気な考えが浮かぶ。
その時―――
(・・・!!)
私の目の前に口に魔力弾を蓄えたモンスターが出現した。
『胎動の鳥居』を挟んで、後ろ側に。
「美和っ!?」
鳥居の前の方を警戒していた姉さん達は対応が遅れた。
私は鳥居の魔力を抑えるのが、精一杯でその場から動けなかった。
そのモンスターの目が一瞬笑ったように見えた。
私の視界一杯に魔力弾が膨れ上がり―――私は思わず目を閉じる。
そして―――
何も衝撃は来なかった。
モンスターは魔力弾を発射する状態のまま、固まっていた。
そして、魔法弾は光の粒子になると、虚空に消えた。
いや、魔法弾だけじゃありません。
そのモンスター本体も、同じように風に吹かれるように消滅していきます。
見ると、私を狙っていたモンスターだけではありません。
姉さんや健太郎が相対していたモンスター達も同じように消えていきました。
「これは・・・」
「・・・決着が付いたということね」
姉さんの声が聞こえたと同時に、木々の間から朝日の光が差し込んで来ました。
―――長い夜が間もなく終わろうとしていました。
『グオオオオオオッ!!』
『ユグドラシル』が『黄龍』を抑え込もうと全力で抵抗する。
『黄龍』もそれをねじ伏せようと、『ユグドラシル』の身体を攻撃する。
「クッ・・・」
俺はそれを必死にコントロールしていた。
「か、和志くん・・・」
俺のサポートをしているすももが俺の名を呼ぶ。
その声には余裕が無くなっていた。
(ま、マズイ・・・)
『黄龍』のコントロールは俺が担当しているとはいえ、融合部分はすももが担当していることには代わりはない。
つまり、急いで決着を付けないといけない。
俺が焦り始めたその時―――
不意に俺の前の前の景色が変わった。
何も無い広い空間。
そのかなり奥の方に、何かが見える。
(あれは・・・杖?・・・マジックワンドか?)
そのワンドは蔦が絡まったような文様が浮かんでいた。
(『ユグドラシル』の本体か?)
(さあ、攻撃するのだ―――)
さっきとは違う、だけど聞き覚えのある声が俺の頭に直接響く。
俺は、そのワンドに向かって、構えていた腕を振り下ろした。
龍の牙がそのワンドに噛みつき、粉々に打ち砕く。
再び、景色が切り替わっていく。
その最後の瞬間―――砕けていく『ユグドラシル』の内側から美しい紫色の文様を持ったワンドが出現したのを、
和志は見逃さなかった。
“ズガァァァァァン!!”
和志の耳に一際大きな爆発音が響く。
『ユグドラシル』の魔力が段々消えて行くのが分かった。
「終わったみたいだぞ、すもも・・・」
俺がすももに声を掛けたその時―――
音も無く、すももの身体が崩れ落ちた。
「すもも!?」
俺はとっさにすももの身体を抱きしめる。
「すもも!?すもも!!」
俺の声にもすももは何の反応も示さない。
脳裏に、護国さんの言葉が蘇る。
『『朱雀』を加えた『四神融合』は宏之殿が残したブレスレットを使ってもおそらく1回が限界だろう」』
しかし、結果的には2回『四神融合』を使ってしまった。
「おい!すもも!!しっかりしろよ!!すもも!!」
俺は、自分の脳裏に浮かんだ悪い考えを必死に打ち消しながら、すももに声を掛ける
やがて―――
「うっ・・・」
うめき声を上げて、すももが目を覚ます。
「か、和志くん・・・!?」
「すもも!!すもも!!」
俺は思わずすももの身体を抱きしめた。
「か、和志くん・・・苦しいですよ」
「あ、ああ、ゴメン・・・」
俺は思わず、すももの身体を離す。
「・・・終わったんですね」
「・・・ああ、終わった」
「和志!すももは大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
すももの無事を伝える俺。
「柾影さん!!」
倒れている柾影に近寄る伊織さん。
危険が無いように俺とすももも一緒に付いて行く。
「柾影さん!!柾影さん!!」
泣きながら呼び掛ける伊織さん。
その声に、全身ボロボロになった柾影がゆっくり目を開ける。
その目はもはや焦点があっていなかった。
「い・・・お・・・り・・・」
「何ですか?」
必死に柾影の言葉を聞き取ろうとする伊織さん。
「に・・・げ・・・」
その言葉が俺の耳にも聞こえた次の瞬間―――
『ユグドラシル』の魔力が溢れだす!!
「・・・すもも!!伊織さん!!」
俺はとっさの判断ですももと伊織さんを残った魔力で吹き飛ばす!!
『きゃあっ!!』
2人の悲鳴がハモって聞こえた。
そして、2人の身体を雄真さんと師匠が抱き止めるのが見えた。
気が付いた時には、『ユグドラシル』の魔力が俺の身体を包んでいた。
『我はこのまま滅びぬ・・・せめてお主だけでも道連れだ』
「クッ・・・クソッ・・・」
俺は全力で抵抗する。
しかし、『ユグドラシル』の魔力は『四神融合』で弱った今でも俺を凌駕していた―――
『きゃあッ!!』
「大丈夫か!?すもも!!」
吹き飛ばされた私の身体を兄さんが抱き止めていました。
「か、和志くん!?和志くんは!?」
わたしは和志くんの姿を探します。
和志くんは、さっきまでわたしがいた場所で、黒い霧状の魔力に飲みこまれかけていました。
「み、みんな・・・早く逃げて下さい!!」
「ふざけるな!!待ってろ、今―――」
兄さんを始め、皆さんが和志くんに近寄ろうとしたその時―――
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・”
不気味な地響きが聞こえて来ました。
「な、何だ!?」
「マズイ・・・空間の崩壊が始まったぞ」
「どういうことですか!?伊吹ちゃん!!」
「この空間は、柾影さんと『ユグドラシル』・それと『式守の秘宝』の魔力が融合して出来ている空間です。
柾影さんの魔力が尽きた今、『ユグドラシル』と『式守の秘宝』のバランスが崩れて空間が崩壊を始めています」
わたしの問いに答えたのは小雪さんでした。
「急いで脱出しなければ、みんな死ぬぞ!!」
「みんな、早く逃げて下さい!!・・・・俺も必ず脱出しますから!!」
そう言ってこの場に合わない笑顔を見せる和志くん。
「・・・!!」
わたしには、その笑顔に見覚えがありました。
あの夢―――和志くんがわたしの前から居なくなってしまう夢で和志くんが見せていた笑顔です。
「イヤです・・・」
わたしはフラフラと和志くんに歩み寄ろうとします。
「そんなの絶対イヤです!!わたしは・・・わたしは和志くんと一緒にいます!!」
「すもも!!」
「すももちゃん!!」
和志くんに近づこうとしたわたしを兄さんと姫ちゃんが押しとどめます。
「兄さん!?姫ちゃん!?離して!!離して下さい!!」
「伊吹!!」
兄さんの言葉に伊吹ちゃんが問答無用で転移魔法を唱え始めます。
「すももさん・・・」
わたしの耳元で伊織さんが囁きます。
「気持ちは分かります。でもここで私達まで死んでしまえば、吾妻さんが何のためにあんなことをしたのか、意味が無くなってしまいます」
そう言う伊織さんの身体が震えていました。
(本当は伊織さんも柾影さんを助けに行きたいんですね・・・)
わたしがそんなことを考える間にも伊吹ちゃんの転移魔法が完成します。
「和志!!」
兄さんが大きな声で呼びかけます。
「ちゃんと帰って来い!!・・・すももを幸せに出来るのはお前だけなんだからな!!」
「・・・分かりました!!」
精一杯の笑顔を浮かべる和志くん。
それが、その空間内でわたしが見た和志くんの最後の姿でした。
その後、何がどうなったのか、わたしはほとんど覚えていません。
断片的に、『こちらの出入り口の魔法陣は破壊されたから―――』という渚さんの声や、
『じゃあ、『胎動の鳥居から脱出しましょう。その手順は美和ちゃん達がやってくれているはずです』という指示の声。
そして、その鳥居からわたし達が元の世界に脱出して―――
その直後でした。鳥居が空間崩壊の爆発で破壊されたのは。
モウモウと煙が立ち込める中、わたしは我に返りました。
「和志くん!!和志くんはどうなったんですか?」
わたしは兄さんや姫ちゃんに聞きます。
しかし、2人は何も答えてくれません。
その反応と、そして何より『魔力の反応』に敏感になってしまったわたしにも分かりました。
和志くんの魔力反応がどこにも感じられないということに。
わたしはそのままその場にへたり込んでしまいました。
「和志くん・・・イヤだ、イヤだよぅ・・・イヤァァァァァァァァァッ!!」
わたしの絶叫が朝焼けに包まれた森の中に響きました――――
〜第92話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第91話になります。
ついにラストバトル決着!!何とか『ユグドラシル』を倒したが、
その脱出の過程で悲劇が・・・
すももの悪夢が現実のものに、
果たして和志の運命は?
次回はとりあえずすもも視点が多いかと。
楽しみにして頂けると嬉しいです
それでは、失礼します。
管理人の感想
フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の91話をお送りして頂きました〜^^
遂に決着!ですね。 しかしユグドラシルの最後の抵抗に、すももと伊織を庇った和志は、そのまま成す術なく・・・。
柾影とユグドラシルと秘宝が揃って成立していた空間。崩れゆくその世界で、和志は笑う。最愛の人を安心させるように、たとえ勝算なんて無くとも。
すももの悲痛な叫びが耳に痛いですね。果たして、和志は無事戻ってこれるのか・・・。
というわけで、次回もお楽しみに!