『解かれた魔法 運命の一日』〜第89話〜











                                                     投稿者 フォーゲル






  『これが、我が見た玲香殿の過去だ』
 話を語り終える『青龍』。
 「お母さんらしいですね」
 すももがそんな感想を漏らす。
 俺は、音羽さんと初めて会った時のことを思い出していた。


 『そう・・・あなたが玲香ちゃんの息子・・・』

 色んな感情が入り混じったような表情で、俺の頭を撫でていた音羽さん。
 まるで、本当の息子のように。
 あの表情の意味も、『青龍』の今の話を聞けば、理由が分かる。
 親友の残した忘れ形見となれば、それも当然なのだろう。
 『もちろん、我はその後も世の中の情勢を見続けた』
 『青龍』が言葉を続ける。
 『我は、代々の吾妻家の当主、そして玲香殿の中から世の中を見て来た。
  確かに、どうしようも無い奴もいたが・・・』
 『無理矢理にお前を手に入れようとした奴とかもな』
 皮肉を込めた口調で言う『ユグドラシル』。
 その視線は、師匠の方を向いていた。
 「確かに、それは否定はせぬ・・・人とは過ちを犯すものだ」
 師匠も重い口を開く。
 「だが、その悲劇を繰り返さぬことが、これからの私の宿命だ」
 母さんの事件・那津音さんの事件・そして俺の『青龍』暴走未遂事件・・・
 3つの事件に絡んでいる、式守家次期当主の師匠の言葉は説得力があった。
 『だが、人間とはバカな生き物だ、何度も同じことを繰り返す、私はそれを何度も見て来た』
 『ユグドラシル』も譲らない。
 『神々の黄昏』と呼ばれる魔法使いの最終戦争を起こしたユグドラシル。
 『現に、『神々の黄昏』と人間達の間で呼ばれているあの戦争―――あれも元々のきっかけは、
  人間の魔法使いが、恋人を無残に殺されたところからだ』
 
 『!!』

 『ユグドラシル』の言葉に驚く俺達。
 (じゃあ、そもそものきっかけも柾影が置かれた立場にいた人間がいたのか?)
 俺の考えをよそに『ユグドラシル』が言葉を紡ぐ。
 『我は、それを利用させて貰った。憎悪に取りつかれた人間にコンタクトし、精神を同調させた。
  そのまま、人間を滅ぼす予定だったのだが・・・』
 『そこで予定が狂ったのだな』
 『青龍』が割って入った。
 『その人間が、我を扱うには魔力容量(キャパシティ)が少なかったのだ。限界を超えてそいつは死んで、
  後にはそいつの使ったマジックワンドが残った』
 「それで、お前はそのマジックワンドに乗り移り、時が来るのを待ったんだな」
 『そうだ、我はその間に人間達の様子を窺った』
 雄真さんの言葉を肯定する『ユグドラシル』。
 『だが、我の目には人間は、同じに映った。こいつらは何も学ばない愚かな種族だと』
 「だから、同じ境遇に置かれた柾影さんと同調して、あなたは復活した。人間を滅ぼすために」
 『そうだ、こいつも人間を憎んでいるしな』
 高峰さんを警戒しながら、答える『ユグドラシル』


 ―――『こいつも人間を憎んでいるしな』―――


 『ユグドラシル』の言葉に俺は“違和感”を感じた。
 もしも、本当に柾影が人間を滅ぼしたいと思っているのなら、行動に矛盾が生じている。
 そう、例えば―――





  『さて、話はここまでだ』
 『ユグドラシル』の周りに魔力が膨れ上がる。
 『そろそろ、決着の付け時だろう』
 「来るぞ!!和志!!」
 「はい!!」
 雄真さんの声に頭を切り替える。
 とはいえ・・・
 チラリと雄真さんを見る。
 『青龍』と『ユグドラシル』の会話の間に多少の体力・魔力の回復時間があったとはいえ、
 そんなに回復はしていないはずだ。
 現に、雄真さんは肩で息をしている。
 いや、雄真さんだけじゃない。
 神坂さんや、高峰さんだって同じ状態だ。
 それに何より・・・
 「ハァ・・・ハァ・・・」
 俺の隣で手に膝を当てて息をしているすもも。
 すでに、『神融合魔法』を一回使っていることもあって体力・魔力の消耗が著しく激しい。
 柾影と戦い始めて、どれくらいの時間が経っているのか・・・
 正確なところは分からないが、かなりの長い時間が経過しているのは間違いない。
 俺達、魔法使いと違って、元々一般人のすももは、相当辛い状態だろう。
 ・・・正直なところ、俺も含めてそう長い時間持たない。
 なるべく、早く決着を付けないと。
 「大丈夫か?すもも・・・」
 「は・・・はい・・・大丈夫です」
 とても大丈夫に見えないが、気丈にも笑顔を浮かべながら答えるすもも。
 その表情を見た時、俺も覚悟を決めた。




  “ヒュウゴゴゴゴゴッ”
 『ユグドラシル』の生み出した魔力弾が一斉に降り注ぐ。
 狙いは―――すもも!!
 俺は、すももの前に立つと右手を前に付きだす。
 イメージ通りに防御魔法が展開される。
 
 “ズガンッッッン!!”

 派手な衝撃音と共に攻撃が相殺される。
 「か、和志くん・・・」
 柾影の狙いは明白だ。
 すももを倒せば、俺達には『ユグドラシル』を止める方法は無くなる。
 しかし、その行動自体、俺には『矛盾』の塊にしか感じられない。
 すももを倒せば、俺達はやられるしかないということは、裏を返せば、
 
 『俺達単体では『ユグドラシル』には決して勝てない』ということだ。

 事実、『ユグドラシル』にはその気になれば、俺達を殺すチャンスなんかいくらでもあったはずだ。
 なのに、わざわざ自分が倒される可能性のある状況を作り出している。
 これは、恐らく、『ユグドラシル』、いや、というより―――
 『チッ・・・ならば』
 『ユグドラシル』の魔力が更に膨れ上がる。
 (ま、マズイ・・・)
 『ユグドラシル』の腕から、魔力の帯が伸びる。
 その帯はやがて、樹の幹のように硬くなり、俺達に向かって来る。
 俺達はあるいは防御、あるいは逃げようとしたが―――
 
 “ブワァァァァァ!!”

 その樹の幹のようなものの先が急に何本にも分裂し、俺達を絡めとる。
 あっと言う間に、全員が動きを封じられた。
 「クッ・・・クソッ・・・」
 何とか脱出しようともがく俺。
 「無駄だ、それはお前達『四神』の力を封じている」
 俺達は、もはや、『四神』の力を中心に戦っている。
 その『四神』が封じられたとなると―――
 『・・・終わりにするぞ』
 その口調に俺は、また違和感を感じた。
 『やっぱり、お前から消させてもらう』
 『ユグドラシル』の生み出した魔力弾がすももに狙いを定める。
 「おい、やめろ!!」
 「ち、チクショウ・・・!!」
 全力で拘束を解こうと暴れる俺と雄真さん。
 しかし、どんなにもがいても拘束からは抜け出せない。
 すももは、攻撃された時のショックで気を失ったのか、反応を見せない。
 『・・・死ね』
 『ユグドラシル』の魔力弾が今、発射されようとしたその瞬間―――

 「やめて下さい!!」

 聞き覚えのある声が響いた。
 空間の一部が歪み、見覚えのある姿が入って来た。
 「い、伊織さん!?」
 そこには、確かに伊織さんの姿があった。
 それと、同時に―――
 俺達を拘束していた、魔力の樹が消滅する。
 「ソプラノ!!」
 比較的低い位置から落ちて地面に着地した、神坂さんがソプラノに命じてすももを空中でキャッチさせる。
 『すもも!!』
 慌てて走り寄る俺と雄真さん。
 「うっ・・・うん」
 身じろぎをしてから、目を覚ますすもも。
 思わずホッとして同時にため息を付く俺と雄真さん。
 すももは、周りを見渡して―――
 「い、伊織さん!?」
 ここに辿り着くまでに、ダメージを受けたのか、足取りはおぼつかない。
 それでも、一歩一歩確実に、『ユグドラシル』に近づく。
 「い、伊織さ・・・」
 声を掛けようとしたすももを俺は押しとどめた。
 「ここは、伊織さんに任せよう」
 伊織さんは、迷わずに『ユグドラシル』に近づく。
 その歩みには『恐れ』の感情は無かった。
 『ユグドラシル』は右手から魔力弾を放った。

 “ズガガガガガガアン!!

 だが、その魔力弾は伊織さんの脇を通過し、俺たちからも離れた場所に着弾した。
 みんなが伊織さんを見ている間に俺はこっそりと『青龍』と打ち合わせる。
 (伊織さんでも、恐らく『ユグドラシル』は何ともならないだろう)
 (『最終的には、『黄龍』の出番だろうな)
 (それでだ、『青龍』相談なんだが・・・)
 俺の『相談』を聞いた『青龍』は―――
 (・・・そんなことをしたら、どうなるか分からんぞ)
 (それは分かってる。でも・・・)
 俺はすももを見た。
 もう、限界に来ているすももに負担を掛けさせる訳には行かなかった。
 (覚悟は出来ているということだな)
 その言葉は同意したという合図だった。



 伊織さんは『ユグドラシル』の前に辿り着き―――

 「もう、やめて下さい、『柾影さん!!』」


 そうハッキリ叫んだ――――






                                  〜第90話に続く〜

                                こんばんわ〜フォーゲルです。

                         しばらくスランプで書けませんでしたが、ようやく書けました。

                            一か月程、無断で休んでたことをお詫びいたします。

                                 内容は引き続き、柾影戦です。

                         とはいえ、『神々の黄昏』の真相や伊織乱入、和志の決意など、

                                   話は動いたかな〜と。

                              次回はいよいよ本当にクライマックスです。

                            和志達がどうなるのか楽しみにして頂けると嬉しいです。

                                  それでは、失礼します〜




管理人の感想

フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の89話をお送りして頂きました〜^^

回想話から、時間軸が戻ってきましたね。柾影戦、再開です。

四神の融合による黄龍も、皆の体力を考えると残りは一度きりといったところでしょうか。

しかしそんな疲労困憊な和志たちを、ユグドラシルが倒しきれない理由があるようで・・・。

そんな中登場した伊織が呼んだ、柾影の名。それが意味するところは・・・?

次回もお楽しみに!



2010.6.6