『解かれた魔法 運命の一日』〜第88話〜












                                                      投稿者 フォーゲル






  『いい?玲香?我が吾妻家の人間は他の家とは違うのよ?だから、なるべく控え目に行動しなさい。分かったわね』
 『はい、分かりました。お母様』
 それは、玲香が瑞穂坂学園に入学する前に言い聞かされた言葉。
 今は没落しているとはいえ、時代が時代なら魔法の名家扱いなのだ。
 それに、玲香が扱う魔法式は、『青龍』の魔力が組み込まれている。
『青龍』の魔力は他の『四神』に比べると魔力が暴走しやすかった。 
 簡単に説明すると、術者の『感情の起伏』に反応しやすい。
 それゆえ、どちらかというと玲香はなるべく、感情を抑えるようにしていた。
 そうすることで、周りに迷惑を掛ける可能性は低くなる。
 だけど、そうすることで周りには、誤解を与えることになる。
 
 曰く“付き合いが悪い”“一緒に居ても楽しくなさそうに見える”

 それでも、玲香はそれが間違ってはいないと思っていた。
 しかし、その考えは音羽との出会いで一変する。



  「へ〜じゃあ、魔法ってそんなことも出来るのね」
 「あ!じゃあ例えば、好きな男の子を確実にゲット出来る魔法とか無いの?」
 「そ、そう言うのはちょっと無いかな」
 「う〜ん、残念・・・」
 玲香の問いに肩を落とす女生徒達。
 彼女達は、音羽の友達の『普通科』の生徒。
 ある日、音羽が玲香の元に連れて来たのだ。
 普通科と魔法科は、クラスどころか校舎も違う。
 同じ学校とはいえ、なかなか触れ合う機会は少ない。
 それもあって、玲香に対する普通科生徒の好奇心はかなりのものだった。
 玲香も『普通科の生徒なら・・・』と質問責めにも答えていた。
 「・・・ふうっ?」
 「どうしたの?疲れちゃった?」
 質問責めが一段落し、一息付いた玲香に音羽が問い掛ける。
 「えっ?ううん、そんなこと無いよ」
 玲香にとってあんなにたくさんの友達と会話をしたこと自体が久々だったのだ。
 「う〜ん・・・」
 そんな玲香の横顔を音羽がジッと見ている。
 「ど、どうしたの?」
 「え、やっぱり、玲香ちゃん、笑ってる方が可愛いな〜って」
 「そ、そんなことないよ・・・」
 「そんなことあるよ〜普通科の男子の間でも人気あるんだよ。玲香ちゃん」
 音羽が笑いながら言う。
 「玲香ちゃん。私より先に彼氏作っちゃイヤよ」
 「か、彼氏って・・・」
 顔を真っ赤にしながら、呟く玲香。
 「う〜ん、やっぱり可愛いですね〜あっ・・・」
 音羽がふと、ある方向を見て立ち止る。
 「ゴメン、みんな!!ちょっとお金、下ろして来ていい?」
 音羽の目の前には、銀行があった。
 「いいよ、じゃあみんなで行こう。玲香ちゃんも!」
 女生徒の一人が玲香の手を引いて銀行に入る。





  「音羽〜お給料どれくらい入ったのよ」
 「そんなに多くは貰ってないわよ」
 「『Oasis』の初代看板娘が何を言ってるのよ」
 音羽は瑞穂坂学園内にある喫茶店『Oasis』でウェイトレスのアルバイトをしている。
 ATMでお金を下ろした後、
 音羽達は、そのまま店の外に出ようとする。
 最後尾に付いていた玲香もその後に付いて―――
 「・・・?」
 玲香とすれ違った2・3人の男達。
 その男達から玲香は『妙な雰囲気』を感じ取った。
 (気のせいかな・・・)
 そのまま店を出ようとしたその瞬間。
 
 “パァンッ”

 乾いた銃声が響く。
 「キャアッ!!」
 女性銀行員の悲鳴が響く。
 「手を上げろ!!・・・そこの女達もだ」
 さっき、玲香とすれ違った男達が拳銃を構えて、威嚇をしていた。
 (ぎ、銀行強盗!?)
 玲香達は指示に従い、手を上げる。
 (レイア・・・)
 (分かってるわ・・・)
 この中で唯一の魔法使いである玲香は強盗達に気づかれないように魔法式を―――
 「おっと、そこの女。魔法は止めることだ」
 銀行強盗の一人が、玲香を睨む。
 (気づかれた!?)
 見ると、その男もマジックワンドを持っている。
 (あいつも魔法使い!?)
 「さあ、ではお前らにも大人しくして貰おうか」
 「その魔法使いらしいお嬢さんは、ワンドを渡して貰おうか」
 強盗の成功を確信した男の一人が笑いを浮かべた。



  
  「確かに、一億だな」
 要求した金を確認する強盗達。
 手を縛られ、抵抗出来ない玲香達
 (余談だが、玲香は更に呪文を唱えられないようにガムテープで口を塞がれていた)
 「後は・・・」
 強盗のリーダー格の男が人質である玲香達と、行員を見つめる。
 「よし、お前だ」
 そう言って音羽の腕を掴む。
 「は、離して!!」
 「お前には、俺達が無事に逃げきるまで人質として付いて来て貰う」
 (!!)
 「ムーッ、ムーッ!!」
 呻き声を上げる玲香。
 「おっと、お嬢さん・・・抵抗するだけムダだ」
 燃え上がるような瞳でその男を睨みつける玲香。
 「何だ、その目は!!」
 
 “バシッ”

 殴り倒される玲香。
 「玲香ちゃん!!」
 音羽の悲鳴のような叫びが響く。
 「おっと、動くな!!」
 その時だった。
 
 “パァンッ”

 乾いた銃声が再び響いた。
 そして、音羽がグッタリする。
 (―――イヤ、イヤ―――――!!)
 それを最後に、玲香の意識は消えた。


  

  床に投げ捨ててられていた『レイア』はその一部始終を見ていた。
 幸い発射された銃弾は、音羽の顔を掠めていった。
 ショックが大きく、音羽はその場で気絶していた。
 (ホッ・・・)
 レイアはひとまず息を付く。
 だが、次の問題が差し迫っていた。
 蹴り倒された、玲香の身体から膨大な魔力が溢れ始めている。
 『レイア』は確信していた。間違い無く『青龍』の魔力の暴走だと。
 玲香の身体から静かに溢れる魔力が次々に小さな龍の身体を創る。
 それらが一斉に、強盗達に襲い掛かる。
 「な、何だ!?これは」
 「クソッ!?」
 魔法使いらしい男が呪文を唱えようとして―――
 「ぐわっ!!」
 あっという間に龍に打ち倒される。
 ものの2・3分もしない内に、強盗達は倒される。
 しかし、龍達は消えることなく、飛び回り続ける。
 (拙いわね・・・)
 『レイア』がそんなことを呟いた時だった。
 
 「き、君達、中は危険だ!!」

 「スイマセン、通して下さい!!」

 そんな叫び声と共に、銀行の中瑞穂坂学園の制服を来た2人の美少女が入って来る。
 「な、これは・・・」
 「ゆずはの考え通りね・・・うん?」
 長い黒髪の少女が私の姿を捕える。
 「あなた、吾妻さんのマジックワンドね」
 「え、ええ、それよりも・・・」
 彼女達が私と玲香の考えている通りの人物だったら・・・
 「分かってるわ。ゆずは!!」
 「ええ!!」
 黒髪に眼鏡のもう一人の少女が私を手に取る。
 「鈴莉、あなたは『龍』の動きを拘束した後、音羽ちゃんとみんなを」
 「分かったわ・・・『オル・ダ・アムギア!!』」
 すかさず、鈴莉さんが唱えた魔法で玲香の『龍』が拘束される。
 そして、その足で音羽ちゃんの方へ。
 ゆずはさんは、私を握ると倒れている玲香に近づく。
 「やっぱり、あなたには『青龍』が暴走した時の『封印魔法式』が記録されているわね」
 「ええ、・・・お願いします」
 ゆずはさんは、目を閉じると呪文を唱え始める。

 『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・レイ・ファルス・アス・シールト』

 その呪文と共に鈴莉さんが拘束していた『龍』が消える。
 その時だった―――

 「な、なんなの!?これ・・・」
 気絶していた音羽ちゃんの声が聞こえてきた。





  玲香は戸惑っていた。
 あの銀行強盗事件に遭遇した時、自分が意識を失ってからの記憶は無い。
 ダウンしていた銀行強盗や、壁に付いていた傷からして、『青龍』が小規模とはいえ暴走したのは間違いなかった
 その場にいた、音羽ちゃんや普通科の友達達もそれを見ていたはず。
 『青龍』の暴走はその場に居合わせた鈴莉ちゃんやゆずはちゃんが止めてくれたらしい。
 でも・・・
 (きっと、音羽ちゃん達は怖がっちゃって近づかないだろうな・・・)
 それは、しょうがないことだと思う。
 魔法の暴走は一般人から見たら、十分に怖いし、実際に私が魔法使いだと知っただけで離れていった子もいた。
 だけど・・・

 「あ、玲香ちゃん!おはよ〜昨日は怖かったね〜」

 次の日、学園で再会した音羽は普通のリアクションだった。
 それどころか、他の友達も昨日までと全く変わらなかった。
 玲香は、その一人に聞いた。
 「どうして、昨日のことがあっても、私と普通に話せるの?」
 その答えはこうだった。

 『だってアレは、私達を守るためにしてくれたことでしょ?」

 そしてその説明を音羽がしてくれたことを話してくれた。
 で、今現在―――
 「どうしたの?玲香ちゃん。何か考え事ですか?」
 「えっ?・・・ううん、何でも無いよ」
 お昼、一緒にお弁当をパク付きながら、音羽がそんな疑問を口にする。
 「ウソね」
 「玲香。素直に答えた方がいいわよ」
 「そうそう。どうせ、音羽には嘘は通じないんだから」
 この日一緒にお昼を共にしている鈴莉とゆずはも笑いながら答える。
 「・・・音羽ちゃん。私のこと怖くないの?」
 その質問に音羽は心底不思議そうな顔をしていた。そして―――
 「全然。何でそんな質問するの?」
 「だって!!私は下手をしたら、友達を傷つける―――」
 「やっと、言ってくれたわね」
 玲香の声を遮り、音羽が声を呟く。
 「玲香ちゃん。私は玲香ちゃんがどんな危険な力を持っていても、玲香ちゃん自身が私を『友達』と言ってくれるのなら、友達であり続けるわよ」
 「音羽ちゃん・・・」
 それは、今まで、魔法の名門『吾妻家』の人間として、腫れ物に触るような扱いをされてきた玲香にとって目からウロコが落ちるような考えだった。
 
 “ポロッ”

 「れ、玲香ちゃん!?何泣いてるの?」
 「えっ?あ、ああゴメンね。でも嬉しくて・・・」
 「ああ、ほらほら、美人が台無しよ」
 ハンカチで玲香の顔を拭く音羽。
 「まるで、姉妹みたいね」
 その光景を見ながら、笑う鈴莉。
 「あ、2人共、ありがとう。レイアの話だと2人が私を止めてくれたって・・・それで・・・あの・・・2人には私が―――」
 2人の苗字から察するに、2人が『四神』の後継者であることは玲香も察しがついた。
 「さあ、何のことかしら?」
 「えっ?」
 「私達は、『友達』が困ってたから助けただけよ。ねえ、ゆずは?」
 「そうね。あなたのことは気になってたから、調査はしていたけど。『吾妻家』をどうこうする気は高峰家も式守家も無いです」
 「2人共、ありがとう・・・」
 「ねえ、何の話?」
 唯一、魔法科では無い音羽が不思議そうに問い掛ける。
 「う〜ん、魔法使いの秘密の会話ね?」
 「え〜それじゃ、私には、教えてくれないの?」
 「音羽には理解できるかどうか・・・」
 「ゆずはちゃんも、鈴莉ちゃんもヒドイわよ〜」
 「ふふっ・・」
 その会話につられて笑いだす玲香。
 続くように、音羽も、鈴莉も、ゆずはも笑いだす。


 4人の笑い声が抜けるような蒼い空に広がって行った。







                                〜第89話に続く〜


                        こんばんわ〜フォーゲルです。第88話になります。

                          今回は『青龍』が見た過去の後半部分ですね。

                      まあ、気が付くと玲香・音羽・鈴莉・ゆずはの友情ストーリーですね。

                     この流れだと普通に那津音とも知り合いでもおかしくないな。音羽(笑) 

                     しかし、瑞穂坂学園1期生として躍動する女子高生な4人は想像で(ry)

                 『ヒトラーの末裔』というだけで友人が離れていったシンシアとは対になってると思って下さい。

                                次回は現代に戻ります。

                        この話が『柾影=ユグドラシル』にどういう影響を与えるのか、

                            次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。

                                それでは、失礼します〜




管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法の第88話をお送りして頂きました〜^^

今回は玲香の過去話でしたね。

青龍の力を宿し、だからこそ他者との接触を断っていた玲香。そしてそんな玲香に声をかけたのが音羽。・・・まさに和志とすももの出会いを彷彿とさせますね。

四神の中で、青龍が一番暴走しやすいというのは初耳かな? 確かに、雄真の朱雀や小雪の玄武、伊吹の白虎が完全に暴走したシーンはまだありませんよね。

感情に起因する暴走。昔も今も、やはりそれは大切な人の危機に最も暴走し易いようですね。

それだけ和志や玲香が人との繋がりを大事にしているということなのですが・・・因果なものです。

では、次回もお楽しみに〜^^



2010.5.5