『解かれた魔法 運命の一日』〜第87話〜
投稿者 フォーゲル
“ドクン・・・ドクン・・・”
まるで、心臓の鼓動のような音が響く。
しかし、それは、俺の心臓の音では無かった。
「・・・」
俺は自分が握り締めている『レイア』―――いや、今は『青龍』というべきか―――に目をやる。
蒼い魔力が『レイア』から溢れ始めている。
魔力が流れ出してることを示すように、『レイア』も蒼い輝きを放ち始める。
『・・・』
無言で右手を振り上げる『ユグドラシル』
(マ、マズイ!!)
俺は、慌てて呪文を唱え―――
『和志よ。腕を振れ!!』
「えっ!」
俺の一瞬の返事の間にも『ユグドラシル』の腕から生まれた呪文が俺に―――
(ええい!)
『青龍』の指示通りに俺は腕を振った。
“ブワッ”
(うわっ?)
俺の驚きをよそに、腕から生まれた魔力衝撃波は『ユグドラシル』が生みだした魔力衝撃波を相殺した。
「こ、これは?」
『和志の意識と、我の意識を同調させた。これで魔法の発動スピードは奴と同等になるはずだ』
だが、俺はそれ以外にも感じることがあった。
それは、身体から溢れる魔力。
俺は、その魔力に―――『恐怖』を感じた。
これだけの魔力は人間が扱うには手に余る代物だ。
『それは、正しい考えだ』
俺の心を読んだように『青龍』が呟く。
『なら、これはどうだ』
『ユグドラシル』が呟くと同時に数十発の魔法弾が生み出される。
『行け』
冷徹な声に俺は体勢を立て直し―――
『和志よ。生み出す魔法をイメージするのだ』
『青龍』の声に俺はイメージを始める。
俺の脳裏に浮かぶのは、魔法弾を付き刺せる槍。
それをイメージした瞬間、俺の頭上に魔法の槍が出現する。
『止めろ!!』
槍が次々と魔力弾を相殺する。
『ほう、なかなかやるな・・・だが!!』
いくつかの魔法弾が槍に当たる直前に2つに分裂した。
「何っ?」
分裂した魔力弾がすももと雄真さん達に向かう。
「し、しまった!」
すももの方にガードに向かおうとするが―――
「大丈夫ですよ!」
宣言と共に、すももの背中の金色の羽が舞い上がり、魔法弾の動きが止まる。
(干渉して動きを止めた?)
「え、え〜と、行って下さい!」
すももの弱気な指示に従い、金色の魔力を帯びた魔力弾がそっくりそのまま、『ユグドラシル』に向かって飛んでいく。
いや、すももの魔力を帯びている分、威力は確実に上がっている!!。
『くっ!!』
当たってもそんなにダメージは無いだろうが、念には念を入れてか、避ける『ユグドラシル』
「させぬ!」
転移魔法で移動していたのか、師匠が右腕を振り上げ―――下ろした!!
“グォンッ”
俺の目には一瞬『白虎』の双牙が見えた。
その双牙が、『ユグドラシル』を捕える!!
『ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!』
「和志!!」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
見ると雄真さんが俺に目配せをする。
その右腕には、赤い輝きが宿っている。
(やっぱり・・・)
さっきの師匠といい、今の雄真さんといい、恐らくは―――
(雄真さん達も、直接『四神』の力を使えるみたいだな)
今はそれよりも雄真さんの指示に―――
雄真さんの視線の先には―――
「!?」
俺は訝しげな視線を浮かべる。
疑問を浮かべてもしょうがない。
俺と雄真さんは全く同じタイミングで呪文詠唱無しに『朱雀』と『青龍』を召喚し、放つ!!
その向かう先には―――高峰さんが居た。
高峰さんは、『青龍』と『朱雀』をギリギリまで引きつけると―――
“ズガガガガガガガァン!!”
『青龍』と『朱雀』が衝突し、炸裂した。
その爆発地点からは―――
『な、なるほど・・・また転移魔法か』
『ユグドラシル』の声が響く。
恐らくは、当たる直前まで引きつけてから、高峰さんは『ユグドラシル』との位置を転移させたのだろう。
『玄武』の力を使って『ユグドラシル』の周りの空間と自分の空間ごと入れ替えた。
しかし―――
『度胸のあるお嬢さんだ。ちょっとでもタイミングがズレたら自分に当たっているぞ』
「雄真さんと吾妻さんでしたら、それくらいのことは分かっているでしょうから」
『それに、そちらのお嬢さん方もだ』
すももに肩を支えられている師匠を見ながら呟く。
「ふっ・・・私の愛弟子と友人達だからな、それに・・・」
師匠はすももを見ながら呟く。
「すももは、このメンバーではある意味『一番強い』からな・・・『お主』よりも」
『でも俺に勝つにはそれじゃダメだ。『四神』がお前らの身体を支配してパワーをフルに発揮出来ない限りはな』
奴の言う通り、『青龍』達『四神』はあくまでも俺達の意志を尊重して、直接に力を使えるようにしているだけだった。
『確かに、そうかも知れぬ・・・』
『ユグドラシル』の言葉に『四神』を代表して『青龍』が言葉を紡ぐ。
『だが、我らは、彼ら“人間”を信じて見たくなった』
『何故だ、東洋も西洋も、我らの力を使ってやったことは、ロクでもないことばかりだろうが!』
『ユグドラシル』の言葉に神らしくない感情が籠る
『・・・お主は人間の醜い面しか見ていないのだな』
『じゃあ、お前は何を見たって言うんだ!』
『もちろん、お主の言う通り、醜い面もある、いやそっちの方が多いかも知れぬ。
しかし、我の継承者とその友人達は“人間の優しさ”というものを教えてくれた。
そう言って『青龍』は語り始める。
彼ら『四神』が見て来た“人間の優しさ”について―――
『青龍』は吾妻家が京都を離れ、関東に流れて来た後も、後継者と意識を同調させて、人間を観察してきた。
後継者自身にもバレないように、あくまでも、人間の生活には干渉しないように。
そうすることで、人間がどういう生き物か観察するために。
しかし、『青龍』が魔法に干渉しなくなっても、相変わらず人間は魔法を使い争い続けた。
『青龍』の力を使えなくなっても、吾妻家の人間は、魔法使いとしての実力はあったので、
戦いに駆り出されることもあった。
その様子を見ている内に、『青龍』は空しさを感じるようになった。
戦いを続けることもそうだが、人間が同じことを繰り返していることが更に拍車を掛けていた。
世の中が戦乱で乱れる。誰かが統一する。
その段階では、平和な世の中を喜んだはずなのに、100年も経つとまた戦乱が始まる。
さすがに近代に入って来ると、そんな肉体的な争いは減って来るが。
そんな状態が長く続いたせいか、吾妻家の人間は、人との交わりを避けるようになって来た。
魔法の使用も極端に控えるようになっていた。
『だが・・・我は玲香殿の時代にその考えを変えさせる出来事に遭遇した』
そして、『青龍』は語り始める。
玲香の体験した出来事に付いて―――
(はぁ・・・どうしてこんなことに・・・)
玲香は 溜息を付いた。
入学した瑞穂坂学園は、自分達の世代が第1期生と言う新設校。
最も、魔法の名門である高峰家と式守家が創設したということで倍率はかなり高かったが。
玲香がこの学園に進学したのは、レベルの高いところだったら、自分の進路を叶えられるということもあったが、もう一つ―――
(この学園だったら、自分の魔法のレベルをカモフラージュしても大丈夫よね)
という計算もあったからだ。
自分の母親からもその辺の注意はあった。
(とにかく、なるべく目立たないようにしないと・・・)
しかし、そんな彼女の考えも入学初日で打ち砕かれることになる。
「ねえ〜玲香ちゃん。どこに行こっか?」
玲香の隣を歩く一人の少女が明るい声を上げる。
「あ、あの豊涼(ほうりょう)さん。もう少し小さな声で・・・」
「違うわよ〜」
「えっ?」
「私のことは、音羽ちゃんって呼んでって言ったじゃない〜?」
「あ、う、うんそうだね・・・」
玲香は戸惑っていた。
今まで自分と交流のあった人と言うのは、自分を『魔法の名門』吾妻家の人間として腫れ物に触るように、
扱う人間が多かった。
もしくは、その名声を利用しようと近づいてくる人間か・・・
いずれにせよ、音羽のように、ここまで真っ正直に近づいて来た人間は初めてだった。
「で、どこに行こうか?この辺は結構美味しいお店とかも多いから・・・」
そう言いながら、さっき買ったワッフルをパクリ。
「音羽ちゃんは、食べることが好きなの?」
「う〜ん、そういう訳でも無いけど、お料理は好きかな?」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
「プッ・・・」
不意に玲香の顔から笑みが漏れた。
「ど、どうしたの?玲香ちゃん?」
「ゴ、ゴメンね、音羽ちゃんの頬に・・・ワッフルが」
「えっ?あっ?ホントだ」
頬に付いてるワッフルの欠片を取って口に入れる音羽。
「あ〜でも、良かった」
「何が?」
「玲香ちゃんが、やっと笑ってくれたわ」
「・・・私、そんなに愛想悪かった?」
「愛想が悪いと言うよりは、寂しそうな顔してたしね。気になっちゃって・・・」
(そ、そうだったのね・・・)
内心で呟く玲香。
「あっ?じゃあ私こっちだから」
いつの間にか自宅に戻る分かれ道に来たことに気付いた玲香。
音羽に別れを告げる。
「うん、じゃあまた明日ね」
勢いよく、走りながら路地に姿を消す音羽。
(・・・音羽ちゃんか、かなりハイテンションな子ね)
思わず笑みが漏れる。
「・・・私も彼女みたいに明るく過ごしたいな」
しかし、自分の境遇を考えると、なかなかそうは行かないのもまた事実だった。
この時、玲香は気が付いて居なかった。
「彼女がそうなの?」
「ええ、吾妻玲香・・・入学試験の成績はそうでも無いけど、そのもっている魔力はまず間違い無くトップクラスね」
「どうするの?こっちから接触する?」
「いや、彼女自体が動くまで静観しましょう?」
物影でそんな会話がなされていることなど、もちろん玲香は知る由も無かった。
〜第88話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第87話になります。
今回は、前半は『四神』の力を借りて、少しでも肉薄しようとする和志達。
後半は、この流れでは恐らく予想外だったであろう『青龍』から見た玲香の過去編です。
音羽が、『すももの母親らしいな』と思って頂ければ嬉しいです。
この過去編はそんなに長くならない予定です(次の話ではまた現代に戻る予定です)
作者としても、ここで音羽が重要キャラになるとは思ってませんでした。
『四神』の一つ・『青龍』の心を動かした過去の出来事とは?
注目して下さいね。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
フォーゲルさんより、解かれた魔法の第87話をお送りして頂きました〜^^
四神の力を使いこなすことによって、徐々にユグドラシルと拮抗していく和志たち。
そして青龍が語る過去―――人間を信じたくなった出来事。
久しぶりに玲香が登場。音羽は、流石はすももの母親ですね。言動が伊吹に纏わりつくすももにそっくり(子犬っぽいところとか)
そして。そんな玲香を影から見る謎の影。私的には、「あの」二人と予想しますが。