『解かれた魔法 運命の一日』〜第85話〜
投稿者 フォーゲル
「ゲホッ!!ゲホッ!!」
絞められていた首が解放されて、空気が肺に流れ込む。
「和志くん!!大丈夫ですか!?」
すももが心配して近づく。
「あ、ああ・・・」
俺は落ち着くと、改めて状況を見直す。
依然として、状況は悪かった。
目の前では、師匠が新しく唱えた魔法を柾影に向かって放っていた。
しかし、師匠の魔法は柾影によって防がれていた。
「クッ・・・」
師匠の歯噛みする姿が目に入る。
もちろん、その間にも高峰さんの操るタマちゃんが四方八方から隙を狙っていた。
『GO!!』
『はいな〜姉さん!!』
その声に従って、あるいは上下からあるいは左右から柾影を狙い襲いかかる!!
それも少しずつ微妙にタイミングをずらして。
「だから、そんな攻撃をしても無駄だと・・・」
柾影は再び、右手を突き出す。
さっき使った『空間を捻じ曲げる能力』を使う力だ。
柾影の目の前の空間が歪み―――
『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・ワームルト・トゥーナ・ポルトス!!』
高峰さんの声と共に目の前に魔力の渦が出現する。
この呪文は魔力の渦を作り出し、その渦で呪文を掻き消す魔法だが・・・
言葉を見る限り、アレンジが加えられているようだ。
その渦の中に、タマちゃん達が消える。
「・・・!?」
柾影の目の前の空間の歪みが消えた。
そして―――
“ブンッ”
擬音と共にタマちゃんが再び出現する。
柾影の目と鼻の先に。
それもさっき放出したタマちゃんが全て!!
「・・・春姫!!みんな!!伏せろ!!」
雄真さんの声にとっさに伏せて全力で防御呪文を展開する。
“ズガガガガガガガガァン!!”
物凄い爆発音と共に柾影を巻き込んで盛大な爆発が起こった。
一瞬、気を失っていた。
俺は目を覚ますと、当たりを見渡す。
雄真さんと春姫さん。師匠と高峰さんも目を覚ましていた。
「すもも、大丈夫か?」
「は、はい・・・何とか」
「奴は・・・死んだのか?」
「いいえ、この空間が崩壊してませんから、多分生きているかと思います」
高峰さんは油断なく警戒しながらあたりを見渡す。
「さっき高峰先輩がしたのは、転移魔法の応用ですね」
神坂さんが口を開く。
「ええ、普通に使っても防がれると思いましたから」
不意を突くため、一旦タマちゃんを柾影の目の前から消す。
そして、防御不可能な状況を生み出し、能力を使えないように封じた。
あれだけ、近い距離で爆発されたら、例の『空間を捻じ曲げる能力』に自分も巻き込まれる。
かと言って防御しなければ、確実にダメージを受ける。
この戦いに入ってからみんな『四神』の力を自分の魔法に込めている。
あのタマちゃんにも『玄武』の力が籠っているはずだ。
それを浴びた以上、ダメージを受けたはずなのだが・・・
“ゾクッ”
不意に背中に悪寒が走り抜ける。
全員、それを感じ取ったらしく、上を見上げる。
上には大きな魔力弾をコントロールする柾影。
その威力は今までで最強の威力だった。
『ラグナ・ディーレスト・アル・フォッグ・ガイスト・シング・フォールエシル!!』
魔力弾が大きく膨れ上がり、6つに分裂する。
そして、それぞれが俺達一人一人に向かう!!
(は、早い!!)
防御呪文を唱えるヒマも無く、身を交わすしかない俺達。
さながらそれは獲物を狙う狼!!
タマちゃんのサブワンドとソプラノのスピードで交わし続ける高峰さんと神坂さん。
“ガガガガガガガッ”
避けるのが必死の状態ながらも作り出した防御障壁で少しづつ威力を削りながら防ぎ続ける師匠と雄真さん。
そして俺は―――
「すもも」
「はい」
それだけですももの身体から流れる金色の魔力が俺の魔力を増幅させる。
『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・フェニルート・ダビズ・ジルフェスエル!!』
『青龍』の力が籠った魔力弾が俺の両手から発射される!!
その魔力弾は俺とすももに向かって来た魔力弾を取り込んだ。
そのまま、俺の意志に従って、高峰さんと神坂さんに向かった魔力弾を撃墜する。
「ありがとう!吾妻くん!!」
そのまま、俺達に合流する2人。
そして、俺達は再び柾影と相対する。
「そこのお嬢さんのアイデアは良かったんだがな、いかんせん俺をナメすぎだ」
そう言う柾影の身体は魔法服が破け、上半身が露わになっていた。
その身体の半ば以上が、赤い龍の鱗を纏っていた。
「そういう割にはダメージはあったみたいだな」
雄真さんが不敵に呟く。
その鱗の身体の一部から赤い血が噴き出していた。
「ああ、だが・・・ヤバイのはそっちじゃないのか?」
それは―――事実だった。
事実、さっきの言葉を行った雄真さんにしても肩で息をしながらだった。
柾影は、『ユグドラシル』と融合しかかっていることと、
『式守の秘宝』と繋がっていることで、魔力と体力の消耗はほとんど無い。
だが、『四神』の力を使えるとはいえ、俺達は生身の人間だ。
体力も魔力も使い続ければ消耗する。
長期戦になれば、柾影が有利。
だからこそ、師匠も短期決戦を指示していたのだ。
「・・・」
だが、俺はその柾影を見て確信に変わったことがあった。
それは―――
「あなたは迷ってるんですね」
口を開いたのはすももだった。
その言葉に雄真さんを始めとしてみんなの注目が集まる。
そして、何より柾影の表情が変わったことに気が付いた。
「ずっと気になってました。和志くんを通してあなたの過去も知っています」
ポツポツと言葉を続けるすもも。
「あなたは、シンシアさんを失って、その仇を取りました。でも・・・」
すももは意を決して、柾影を見る。
「それは、本当にシンシアさんが望んだことだったんですか?」
「!!」
「私は、伊織さんのおかげでシンシアさんの心を知ることが出来ました。シンシアさんが本当に望んだことは―――」
“ズドンッ”
全くのノーモーションで放った魔法がすももに向かい―――当たらなかった。
「・・・大丈夫か?すもも」
「は、はい・・・って和志くん!?」
すももを守った俺だったが、その光景を見てすももは驚いていた。
俺はすももを襲った攻撃を魔法を使わずそのまま防いでいた。
「か、和志くん!?大丈夫ですか?」
俺はすももの目を見て力強く頷く。
「なるほど、これで分かったよ・・・」
自分の手を見て呟く。
俺の手は『ユグドラシル』の力が込められた魔法を受けた。
なのに、ほとんどダメージを受けていなかった。
「お前は、今まで手加減していたな?」
「だったら、どうだっていうんだ?」
「そもそも、ずっと不思議だったんだ。お前はシンシアさんを殺された」
自分の考えを整理しながら、言葉を続ける俺。
「そして、魔法に絶望し、その魔法を消滅させようとする『ユグドラシル』と同化した」
「なるほどな・・・」
俺の考えを理解したのか師匠が呟く。
「そして、『ユグドラシル』の言葉に従い、世界各地の『神の力』をあるいは取り込み、あるいは消滅させた」
「確か、私達の『四神』の力を含めて『神の力』はまず人間の中に目覚めると言います」
高峰さんが言葉を紡ぐ。
「つまり、俺達みたいに母さん達から受け継ぐとか、『神の力』が目覚めない限りは全く無力だってことだな」
雄真さんの言葉に俺は頷く。
「ただ、単に『神』を滅ぼし、魔法を消滅させるだけなら、別に俺達の中の『四神』が目覚めるのを待つ必要は無いはずだ」
柾影の表情がまた変化する。
「なのに、お前はわざわざ、俺達の中の『四神』が目覚めるのを待ってから動き始めた。それは―――」
俺が核心に迫ろうとしたその時―――
“ズグンッ”
不意に心臓をわし掴みにされたような感触が襲いかかる。
目の前の柾影の表情が歪み始める。
「な、何をするんだ、ここは俺に任せるって話じゃないのか?」
『そうする予定だったのだがな・・・』
柾影から不意に魔力が噴き出し始める。
「こいつらは、俺が倒す!!ジャマをするな!!」
『・・・』
「か、和志くん・・・」
俺の魔法服の裾を掴みながらすももが呟く。
「ああ・・・これは・・・」
俺とすももは似たような状況を見たことがある。
他でもない、伊織さんが『ワルキューレ』に精神を支配された時と同じ状況だった。
(柾影が完全に『ユグドラシル』に精神を支配されかかっている?)
いくら同化しているとはいえ、そもそも俺達人間と神の力では奴らの方が魔力では圧倒的だ。
完全に精神支配しようとすれば、あっさりされるだろう。
「拙いぞ、吾妻和志よ・・・」
「完全に柾影さんの精神が支配されれば、私達に勝ち目はありません」
その時だった。
“メキッ”
ひび割れる音が聞こえた。
見ると、柾影の後ろに見える『式守の秘宝』が白い輝きに戻りつつあるのがみえた。
(柾影と『式守の秘宝』の融合が解けかかっている?)
『和志よ、好機が来たぞ』
俺の脳裏に『青龍』の言葉が響く。
『今の状態は『四神融合』が成功する可能性が高い』
「確かに、ほとんどチャンスらしいチャンスが無かった、今がその時かも知れぬな」
『青龍』の声が聞こえたのか、師匠も頷く。
「やりましょう?和志くん!」
「すもも・・・」
「今が柾影さんを助ける最大のチャンスです!!」
「・・・分かった」
俺は頷いた。
だが、俺の心が妙にざわつく。
『『四神融合』は宏之殿が残したブレスレットを使ってもおそらく1回が限界だろう』
前に護国さんに指摘された言葉が蘇る。
もし、この攻撃で『ユグドラシル』を倒せなければ―――
倒せたとしても、すももの体力が限界を超えれば―――
脳裏によぎった不安を俺は懸命に打ち消した。
(ここは―――どこなのかしら)
『胎動の鳥居』からこの空間を漂っていた伊織はそんなことを考える。
(でも、私がこの空間に来たのは何か意味があるはず)
その時空間そのものが揺れた。
(な、何―――)
その空間を振動させる程の魔力はある方向から感じられた。
普通の人間ならためらいなくそっちへ行くのを避けるだろう。
だが、伊織はそちらへ向かう。
何故なら―――
(柾影さん・・・)
愛する人物の魔力を感じたからだった―――
〜第86話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第85話になります〜
引き続き続く、和志達と柾影のバトル。
生身の人間である分、どうしても長期戦になると不利な分、
追い詰められる和志達。
しかし、すももの『シンシアの望み』という言葉に動揺し、『ユグドラシル』との融合に異変が生まれる。
その隙を付こうとするが・・・。
そして、空間に吸い込まれながらも、柾影のところに向かおうとする伊織。
全ての運命が交錯する次回も楽しみにしてくださいね。
(前回の後書きで書いた『変わった視点』は次回になるかも知れません(それも不透明ですが)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
フォーゲルさんより、解かれた魔法の第85話をお送りして頂きましたー^^
VS柾影戦。意表を突いた小雪の攻撃は見事でしたね。タマちゃんと転送魔法の応用。
確かに「時空を捻じ曲げる力」を持っていたとしても、捻じ曲げるべき時空が分からないのであれば対処のしようがないですから。
そしてクライマックスは近づく。ユグドラシルに呑み込まれつつある柾影と、四神の融合を目論む和志たち。
はたして、どちらの一手が早いのか――――。