『解かれた魔法 運命の一日』〜第84話〜
投稿者 フォーゲル
「さあ、始めようか―――」
“ブォォォォォォォォォッ!!”
魔力を解放したことによる強力な烈風が俺達に、向かって吹きつける!!
以前、式守家に現れた時と、同じ現象が起きた。
「クッ・・・」
俺は何とか踏ん張ってこの烈風に耐える。
「な、何だ・・・これは」
別行動を取っていた雄真さんが驚きの声を上げる。
「こ、これは奴が魔力を噴き出しているだけだ・・・」
一番小柄な師匠が耐えながら、雄真さんに解説する。
「だ、だけどこんな魔力に普通の人間が耐えられるなんて・・・」
神坂さんの身体が小刻みに震えていた。
「ええ、恐らく、柾影さんは完全に『ユグドラシル』と融合されたかと」
神坂さんの問いに答えるように呟く高峰さん。
(・・・本当か?本当にそうなのか?)
俺の心にそんな疑問が浮かべる。
高峰さんの言葉を疑っている訳じゃない。
でも、俺には、柾影の行動に『違和感』を感じていた。
それは、柾影の過去、そして今現在の行動、更にはその魔力―――
そして、柾影の目的から考えると、どう考えても理屈に合わないのだ。
「どうする?」
俺の考えを余所に、雄真さんが口を開く。
「決まっておろう」
師匠が言葉を繋ぐ。
「奴は『式守の秘宝』と繋がっておる、その気になれば無尽蔵に魔力が供給される」
事実、柾影はこちらを余裕の表情で見つめるばかりだった。
よほどの自信があるのか、あるいは・・・
「つまり、俺達が勝つためには・・・」
「向こうが『本気』を出す前に、短期決戦で何とかせねばならぬか・・・」
あの負けず嫌いの師匠が、『向こうが油断している』前に決着を付けると言った。
俺達が『四神』の力を使えても、『ユグドラシル』の方が力が抜けているということだった。
「つまり、最初から本気で行けってことだな?伊吹」
雄真さんの身体から『朱雀』の象徴でもある赤い魔力が立ち上る。
師匠の魔力も本来の赤黒い色から、白い色に。
高峰さんの周囲に展開されている、タマちゃん達も紫色に染まる。
当然、俺も蒼い魔力を展開し―――
「和志くん・・・」
すももの身体も金色の輝きが増していく。
「大丈夫、きっと全てが終わった時には、みんな笑っていられるさ」
俺の言葉にすももも力強く頷く。
「さあ、誰からでもいいぞ」
柾影の挑発するような言葉で、戦いが始まった―――
“ズバッ”
斬られた魔物が地に落ちる。
「ハァ・・・ハァ・・・」
健太郎は息を付く。
その背後に今度は熊に憑依した魔物が近付く。
「健太郎!!」
私は慌てて声を掛ける。
だけど、ここまでほとんど息つく暇も無く戦い続けた健太郎は対応が遅れた。
「クッ・・・クソッ・・・」
大きく前足を振り上げた前足が健太郎を―――
“ドサッ”
熊魔物が地響きを立てて倒れたのはその時だった。
「大丈夫か?健太郎?」
「師匠・・・は、はい」
健太郎を救ったのは、剣の師匠でもある純聖さんだった。
魔力を失ったことにより、マジックワンドでは無くなったけれど、愛刀『虎徹』の切れ味は未だに健在だった。
「伊織殿!!敵はまだまだ増えそうか?」
私をガードするように、マジックアイテムでの防御結界を展開しながら伊織さんは答える。
「恐らく、まだまだ増えます!!」
「そうか・・・健太郎、まだいけるか?」
「当然です!向こうで頑張っている先輩達のために負けられないです」
「そうだな・・・では、行くぞ!!」
「はい!!」
再び、魔物達に立ち向かう2人。
『・・・桜雪(おうせつ)・・・』
たまらずに、私は呪文を唱え始める。
「ダメよ、美和ちゃん」
その行動を止めたのは伊織さんだった。
「あなたと『百花(ひゃっか)』の出番は最後の最後だっていったでしょ」
「でも、もうこれ以上私だけだまって見てるなんて・・・」
「いいから・・・今は私の指示に従って」
私を見つめる伊織さんの強い眼差しに私は黙るしかなかった。
「でも、伊織さん。まだまだ敵が増えるってどういうことですか?」
「多分・・・向こう、瑞穂坂学園にある方の『式守の秘宝』へ繋がる道に何かあったのね」
『胎動の鳥居』からはさっきよりも強力な魔力と魂が流れて来ているのが、私にも分かった。
「それってつまり・・・渚さん達に何かあったってことですか!?」
「分からないわ。でももし渚さんや吾妻君達が負けたのなら、私達もとっくに『ユグドラシル』に滅ぼされているはずだから・・・」
何かに耐えながら、言葉を紡ぐ伊織さん。
伊織さんは気が付いたのだろうか?
もし渚さん達が負けたのなら『ユグドラシル』に滅ぼされている―――
伊織さんは『ユグドラシル』と言った。『柾影さんに』じゃなくて。
そのことから言っても、伊織さんが柾影さんを信じたい気持ちは十二分に伝わった。
「もうすぐ、綾乃さんや義人さんもこっちに駆けつけるはずだから―――」
伊織さんがそう声を掛けたその時だった。
“ズォォォォォォォォッ”
赤く染まった『胎動の鳥居』からの魔力反応が大きくなった。
今までと違うのは、その魔力の流れだった。
それまでは、溢れた魔力がドンドン鳥居から流れて来ていた。
今は、逆に鳥居に向かって魔力が流れ込んでいる。
「くっ・・・!!」
私は何とか、その場に踏みとどまる。
“ズオォォォォォォォーーーーッ”
更に魔力を吸い込む力が増す。
「きゃあっ!!」
私を守りながら、寄って来る敵を倒していて体力の限界が近づいていたのか伊織さんの身体が宙に浮く。
「伊織さん!!」
私は必死に手を伸ばして伊織さんの身体を捕まえる。
「み、美和ちゃん。いい?次に私の声が聞こえたら、その時があなたの出番よ」
「い、伊織さん、それはどういう意味ですか?」
鳥居に流れ込む魔力が更に強くなり―――
『伊織!!』
綾乃さんと義人さんの声がしたのと同時に―――
私の手から伊織さんの手がすり抜けた。
「伊織さん!!」
伊織さんの身体は鳥居に吸い込まれるように消えて行った。
「タマちゃん!!」
『はいな〜姉さん!!』
最初に動いたのは高峰さんだった。
その声に答えて紫色に変わったタマちゃんが宙に浮く。
その数―――20個以上。
このことから考えても『最初っからフルパワー』という方針は間違い無かった。
『GO!!』
一直線に並んだタマちゃんが柾影に向かう。
柾影は微動だにしない。
何体かのタマちゃんはそのまま柾影に当たる。
「まさかと思うが、こんな攻撃で俺を倒せるとでも?」
「まだです!!」
高峰さんの声と共に残りのタマちゃん達は柾影の上と下に向かう。
この空間は地面が無い。
つまり、俺達も柾影も宙に浮いているような状態なのだ。
そして、同時にタマちゃん達が上下から柾影に向かう。
どちらを迎え撃つのか―――
『エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・カルティエ・エル・アダファルス!!』
雄真さんの攻撃魔法が正面から放たれる。
しかも、これは『カルティエ』が入った強化版の魔法だ。
これで柾影は3方向から狙われることになる。
どれを迎撃するか―――あるいは―――
柾影は左手を目の前に付き出す。
『ラグナ・ジグリット!!』
雄真さんの生み出した炎の帯に真正面から対抗するように黒い魔力の帯が向かう。
魔力の帯が正面から衝突し、あっさりと雄真さんの炎の帯を吹き散らした!!
「何!?」
打ち勝った魔力の帯は俺とすもも、そして―――
呪文を放ったばかりの雄真さんに向かう。
『ウェル・シンティア・レイ・ディアルス・シンアルド・ダグ・ウェルド!!』
俺とすももを『青龍』の力が籠った防御障壁が包む。
“ギィィィィィィン!!”
黒い魔力がこびりつくように防御障壁を包む。
そして、雄真さんに向かった黒い帯は―――
『ヴァニアル・フェラスト・ラ・ディバス!!』
『白虎』の力を込めた師匠のキャンセル魔法が黒い帯を打ち消した。
「悪い!!伊吹!!」
「油断はするな。小日向雄真!!」
その間にも、柾影は上から降り注ぐタマちゃんを『ユグドラシル』と同化した右腕から放った衝撃波で打ち消す。
これで残ったのは下から来るタマちゃんだけ。
柾影は、下に向かってもう一度右手を振り上げ―――
『エル・アムスティア・ラル・セイレス・ディ・ラティル・アムレスト!!』
神坂さんが唱えた光の障壁が『柾影の周り』に展開される。
「!!」
柾影の表情に驚愕の色が浮かぶ。
防御魔法は言うまでもなく身を守るためのものだ。
光の障壁は、柾影の身体に密着するように出現している。
障壁状の魔法は防御力は高い。だが裏を返すなら、『障壁の内側は無防備』ということになる。
下から襲いかかるタマちゃん達が『障壁の内側』に侵入する。
“ズガガガガガガガガァン!!”
尋常ではない爆発音が響いた。
障壁の内側で炸裂した―――例えるなら締め切った部屋の中でダイナマイトが爆発したようなものだ。
これで多少は―――
俺がそう思った次の瞬間―――
“ゾクッ”
言い知れぬ悪寒を感じた俺はとっさにすももを突き飛ばす。
同時に俺達がいた空間に柾影の右手が出現する。
その右手は、俺の首を掴む。
“ギリギリギリ・・・”
そのまま俺の首を締めあげ始める。
「和志くん!!」
すももが悲鳴を上げる。
『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・レム・ラダス・アガナトス!!』
『ア・ゲドル・ナ・ザヴィア・ダ・ヴェード・レ・ティエグ・ダグナ!!』
高峰さんと師匠の同時攻撃が柾影を襲う。
柾影は―――
俺をすももの方に投げつける。
(な、何っ!?)
柾影は右手を目の前に付き出して―――それだけだった。
それだけで、高峰さんと師匠の魔法が掻き消える。
「何だと!」
師匠と驚きの声に柾影が言葉を紡ぐ。
「何も、そんなに驚くことは無いだろう。ここは俺が『式守の秘宝』を利用して作った空間だ。
その気になれば、念じるだけで空間を捻じ曲げて、魔法を消せる」
「くっ・・・」
師匠が次の呪文を唱え始める。
もちろん、高峰さんや雄真さんも。
しかし、俺は疑問を抱いていた。
(どういうことだ―――!?)
あの状況でなら、首を絞められて魔法を唱えられない俺は完全に無防備状態。
なら、師匠達の魔法に向かって俺を投げつければ、俺にダメージを与えることが出来たはずだ。
それをしなかったということは―――
それと、今までの柾影の行動を重ね合わせると―――
(やっぱり―――)
俺は自分の考えがだんだん確信に変わっていくのを感じていた。
〜第85話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第84話になります。
ついに始まったラストバトル。
関西組では激しくなる激戦の中、伊織が『胎動の鳥居』に吸い込まれるアクシデント。
和志達は連携プレーで戦い始めるも、柾影に軽くあしらわれる。
戦いの中、和志が確信した『自分の考え』とは?
吸い込まれた伊織の運命は?
次回はひょっとしたら、『変わった視点』からの話になるかも知れません。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
フォーゲルさんより、解かれた魔法の第84話をお送りして頂きましたー^^
ついに矛を交えた、ユグドラシルと四神――柾影と和志たち。
伊吹ですらも焦燥を覚える相手に対し、和志たちは先手必勝。しかし、圧倒的なレベルの前に成す術なく――。
式守の秘宝で作られた空間である以上、柾影にだいぶ分があるようですね。しかし首を絞めていた和志を、すももの方へと投げつけた理由とは・・・?
白熱する展開。次話の「変わった視点」というのも気になりつつ、今日はこの辺で。