『解かれた魔法 運命の一日』〜第82話〜
投稿者 フォーゲル
「う〜ん・・・どこに行ったらいいのかな〜」
私は2学期から転校するはずの瑞穂坂学園の校門前をウロウロしていた。
もちろん、私の弟―――カズ君の連絡先が分かれば良かったんだけど、私はそれをしなかった。
驚かせたかったというのもあるけど、何よりカズ君と会うのは10年振りだった。
(・・・私のこと覚えてるかな?)
もちろん、カズ君のことだから、忘れてる訳が無いと思った。
でも、実際に血の繋がった姉弟という訳じゃ無いし、それが不安だった。
私がそんなことを考えていた時だった。
「どうしたんですか?」
声の方を振り向く私。
そこには、瑞穂坂学園の制服を着た一人の女の子が立っていた。
流れるようにキレイな栗色の髪をオレンジのリボンで纏めた、とても可愛らしい女の子だった。
「あ、こんにちは・・・あの私、明日からこの学園に転校することになってて・・・
学園主任の先生に挨拶しようと思ったんですけど、どこに行けばいいのかなと思って」
目の前の女の子が考え込むように首を傾げたその時―――
「おい、すもも。何やってるんだ?みんなまっ・・」
“ドクンッ”
懐かしい声に私の心臓が高鳴る。
それは、10年間忘れることの無かった声。
そして、ずっと聞きたかった声。
姿を見せた男の子は、私が知っている『10年前の面影』を残したまま大きくなっていた。
その男の子は、私の姿を見たまま、固まっている。
私は急に湧き上がって来た感情を抑えることが出来ずに―――
男の子―――カズ君を抱きしめていた。
「会いたかった・・・会いたかったよ。カズ君」
「・・・姉ちゃん!?もしかして渚姉ちゃんか!?」
カズ君が呼んでくれた私の名前。
そのことが、私のことを覚えていてくれたという何よりの証だった。
(嬉しい・・・)
ふと、カズ君の背中越しにさっきの女の子の姿が見える。
女の子の表情には、複雑な感情が浮かんでいた。
その時、私には分かった。
『この娘も、カズ君のことが好きなんだ』と。
『そして、あなたはこうも思ったはずよ。もしかしたらカズ君も・・・ってね』
「!!」
カズ君と再会、そしてすももちゃんと初めて会った時のことを思い出していた私の思考をズバリと当てる『藤林 渚』。
『そんなに驚かなくてもいいじゃない?さっきも言った通り【私はあなた、あなたは私】なんだから』
「くっ・・・!!ウェル・・・」
『そして、あなたの予感通り、カズ君とすももちゃんは急速に仲良くなっていった』
『藤林 渚』の声は私の背後から聞こえてきた。
その手のひらにはもう魔力弾が生み出されている。
『お姉ちゃん!!』
スー君の声に何とか身体を捻って交わす私。
しかし、それでも脇腹のあたりを魔力が焼く感覚を感じた。
『お姉ちゃん?落ち着いて・・・』
「分かってる・・・」
見ると脇腹の当たりが軽く火傷になっている。
(魔法の発動スピードじゃ完全に向こうが上、しかもこちらの考えは全部読まれている)
何とか『藤林 渚』に対抗する方法を考える私。
『辛かったわよね。あなたもカズ君を愛していたのに、カズ君の口から出て来るのはすももちゃんの話ばかり』
確かにそうだった。
私と居る時でも、カズ君から出て来る話題の8割はすももちゃんがいろんなことをする度に巻き込まれて大変だったとかそんな話が多かった。
『大変だった』と言う割にカズ君の表情はとても嬉しそうで・・・
別れ別れになる前は、例の魔力の暴走事故で沈んだ表情しか見ていなかったこともあって、
カズ君が笑顔なのは嬉しかった。
カズ君の『お姉ちゃん』の立場としては、すももちゃんには感謝してもしきれない。
だけど・・・『一人の女の子』の立場としては・・・辛かった。
『・・・丁度、その頃だったわよね。あなたがカズ君におねだりして『これ』を買って貰ったのは』
『藤林 渚』は自分の首から白いクリスタルを抜き出す。
間違い無く、それは私がカズ君に買って貰った魔法強化アイテムのクリスタルだった。
アイテム自体はどこの魔法ショップにでも売っているありきたりのものだけど、
『カズ君からのプレゼント』が何よりも嬉しかった私はその後も大切に持っていた。
・・・大切にしすぎて肌身離さず持っていたせいで、カズ君の青龍暴走事件の時に魔力の暴走に巻き込まれて壊れたはずなのに・・・
『皮肉よね・・・その事件をきっかけにカズ君とすももちゃんは付き合い始めたんだから・・・』
『藤林 渚』の口調が今度は自嘲めいたものに変わる。
(そうか・・・『彼女』が出現したのはそのクリスタルがここで壊れたからね・・・)
御薙先生や式守さんに以前聞いたことがある。
この『使鬼の杜』や『式守の秘宝』には『魂に安らかな眠りを与える場所』以外にもう一つの効果があるらしい。
それは、『人間の負の感情を集めて浄化する場所』という効果だった。
瑞穂坂市周辺では凶悪事件が少ないという統計があるらしいけど
その理由の一つがそれなんじゃないかという研究者もいるくらいだ。
『あなたは、カズ君がここで『青龍』を暴走させた時、すももちゃんに助けてくれるようにお願いしたけど・・・本当にそれだけ?」
「どういう意味よ・・・」
『あなたは、ここで【すももちゃんにどうにかなって欲しい】そう思ったわよね?』
「バカ言わないで!!・・・そんなこと思う訳ないでしょう!!」
さすがに、声を荒げて反論する私。
『じゃあ、何故『私』はここに存在してる訳?』
「それは・・・」
『私という存在はあなたの負の感情が中心になったから、存在しているのよ』
冷徹に言葉を続ける『藤林 渚』。
その瞳が一瞬動揺の気配を見せた。
しかし、その気配は一瞬で消え、更に言葉を繋げる。
『あなたがどう思おうが、どんな反論をしようが、【すももちゃんに一瞬でも居なくなって―――』
『違う!!私はそんなこと思って―――』
『・・・エルートラス・レオラ!!』
不意に聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
私は声に反応して、それを交わす!!
そして―――
『ああ、そうそう、私は『渚』だけの負の感情で出来てる訳じゃないからね』
その声と共に、五芒星の魔法陣が浮かび上がる。
そして魔法陣を中心に魔力弾が発射される!!
魔法弾は飛んで来る魔法弾を迎撃するが、それでも生き残った魔力弾が声の主―――柊さんに向かう。
『オン・エルメサス・ルク・アルサス・アルメイル・フェイミ・シアシルド!!』
魔法陣がそのまま柊さんをガードするように巨大化し、ガードする!!
“ズガガガガガガァン!!”
魔法弾は魔法陣を直撃し消滅した。
「分かってるわよ。アンタからは微妙だけどあたしの魔力を感じたからね」
そう言って柊さんはその場に膝を付く。
「柊さん!!」
私は慌てて柊さんのそばに走り寄る。
「大丈夫よ・・・」
『藤林 渚』は今度は、柊さんの姿に変わっていた。
『アンタの負の感情、春姫に―――ううん、魔法に対するコンプレックスがあったのはあたしが存在している以上否定は出来ないわよ』
完全に口調も柊さんのそれに変わっていた。
柊さんは完全に沈黙している。
一瞬の間の後、柊さんは口を開く。
「そうね・・・確かに否定はしないわ。あたしは魔法にコンプレックスを持っていたし、春姫に勝てなくて嫉妬したこともあった」
「!!」
それは、私にとって驚きの言葉だった。
柊さんの性格上、嫉妬してる暇があったら努力するというタイプだと思ってたから・・・
「でもね。奏(かなで)を見てて思ったのよ。『そういう弱い自分を受け入れることが大事だ』ってね。
奏さんって例のイギリスにいる柊さんの幼馴染ね。
『・・・!!』
柊さんの言葉に動揺したのか、その姿がまた私の姿に戻る。
だけど、その姿からは先程までの冷徹な態度は感じられなかった。
代わりにその表情から自己嫌悪の感情が浮かんでいた。
(ああ・・・そっか・・・)
その時に私の心にもまるで憑き物が落ちたかように落ち着いていた。
思えば、カズ君に出会ってからの私は、常に『カズ君の前ではしっかりしていないと』と思っていた。
それが逆に自分の感情を抑え込んでいた。
逆にすももちゃんはカズ君に対して常に自分の感情をストレートにぶつけていた。
それが私にとっては羨ましかった。
そして、2人が付き合い初めてからは、『私ももっと早くカズ君にストレートに気持ちをぶつけていれば・・・』という感情に繋がって、
それが、いつの間にか、すももちゃんに対する嫉妬、そして、それが出来なかった自分に対する自己嫌悪に繋がっていったのだ。
『ダメだよね・・・自分が悪いのに・・・』
呟いて、『藤林 渚』に歩み寄る私。
『こ、来ないで!!』
すっかり怯えている『藤林 渚』、ううん『私自身』を―――私は抱きしめた。
「ゴメンね・・・『私はあなた、あなたは私』あなたの言葉の意味、本当に理解出来たよ」
その瞬間―――『彼女』の目から涙がこぼれおちたのが見えた気がした。
そして―――『彼女』の姿はゆっくり細かい魔力の粒子になると、私の身体に溶け込むように姿を消した。
「終わったの?」
時間を置いて問い掛けた柊さんの言葉に頷く。
「そっか・・・」
柊さんは私に近づくと―――
「ていっ!!」
私の額に思いっきりデコピンした。
「痛〜い、何するの。柊さん!!」
「『何するの?』じゃないわよ!全くアンタも昔のあたしと同じタイプだったとはね・・・」
「・・・ゴメンね」
「別にもういいわよ。けど、これからは溜めこまないで何でも話しなさい。あたしだけじゃなくて春姫や準ちゃんだって愚痴だったら
いくらでも聞いてあげるから!」
「うん、分かった」
「よし、じゃあ急いで和志達に合流よ!とっとと信哉達を叩き起こして―――」
その時だった。
“ズゴゴゴゴゴゴォォォォォン・・・”
地鳴りのような爆発音が聞こえたのはカズ君達が向かった『式守の秘宝』への入口がある祠の方からだった。
〜第83話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第82話になります。
今回は『藤林 渚』とのバトル後半戦でした。
どちらかと言うと戦闘と言うよりは、感情論の話になりました。
作品を読み返して、渚と杏璃が偶然にも絡みが多かったのでそれを利用しました。
それと、今回杏璃の幼馴染として名前が出た奏君。
彼は鷹勝さんという人が書いた『咲き誇りし魔法の奇跡』という作品で主役を張っているキャラです。
私と鷹勝さんの作品はコラボしていまして、お互いのキャラがお互いの作品に出ています。
『咲き誇りし魔法の奇跡』は『HEAVEN』さんというサイトで掲載されていますので、
気になる方は読んで見て下さい。
アドレスはこちらです。http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/3386/
ちなみに、奏君はこの後ちゃんと出て来る予定です。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
フォーゲルさんより、解かれた魔法の第82話をお送りして頂きましたー^^
「もう一人の藤林渚編」も、この話で終わり。まさか負の感情によって作り出された存在で、杏璃まで出てくるのは意外でしたが。
姉としての自分と、女の子としての自分。嫉妬や自己嫌悪の果てが、形となって現れてしまったのですね。
渚と杏璃は、結構似たもの同士かもしれませんね。これから、もっとその仲を深めていくことでしょう。
そして最後に起こった、爆発が意味するところは――――?
次回を待ちましょう。