『解かれた魔法 運命の一日』〜第81話〜










                                                       投稿者 フォーゲル






  “ドォォォン・・・ドォォォォン・・・”
 必死で走る俺の後方から、爆音が聞こえて来る。
 俺達を先に行かせて、『ケルベロス』を足止めしている姉ちゃんの表情がよぎる。
 
 『この生き物は私が止めなくちゃならない―――』

 そんな固い決意が浮かんでいた。
 「心配か?和志?」
 先頭を走る雄真さんが俺に声を掛ける。
 「・・・ええ」
 俺は正直に言った。
 「信哉達も一緒なのだ。心配は無かろう」
 励ます師匠の言葉にも、俺の心の不安は消えなかった。
 姉ちゃんは、昔から超ブラコンの傾向がある。
 昔からの姉ちゃんの口癖はこうだった。

 『私はカズ君が幸せならそれでいいの』

 その考えが今回は悪い方に出るんじゃないか―――
 それが心配だった。
 だけど、俺達の今の目的は一刻も早く柾影を止めること。
 それが早ければ早いほど、姉ちゃん達が助かる可能性も高くなる。
 「着いたぞ!!」
 雄真さんの言葉に俺達は足を止める。
 そこは小さな祠のような場所。
 普段なら『式守の秘宝』の安置場所ということで周りには封印用の結界魔法が掛かっている。
 その影響でこの祠の周辺にも神聖な空気が漂っている。
 だが、今の祠は―――
  
 “ギュッ・・・”

 気が付くと、すももが俺にピッタリとくっつきながら、俺の手を握っていた。
 (大丈夫だ・・・俺が守るから)
 (うん・・・)
 アイコンタクトで会話する俺とすもも。
 すももの表情から不安な色が少しだけ消える。
 しかし、その身体からは一見何の変化も無いように見えるが俺には分かった。
 少しづつ、『金色の羽』を出す時の魔力が溢れ出している。
 それは―――明らかに俺達の『四神』の力を使う時が近付いていることの証だった。
 ゆっくりと祠の中に入る俺達。
 やがて、しばらく進むと、魔法陣が見えてきた。
 「これは、マズイですね・・・」
 高峰さんが厳しい表情で呟く。
 「魔力の流れが禍々しいね」
 神坂さんが黒く輝く魔法陣を見つめる。
 その輝きは『黒』という色よりは『闇』と表現した方がいいかも知れない。
 それは、この魔法陣の転送先に禍々しい魔力を発する源があるということになる。
 おそらく、その魔力の持ち主は―――
 「何とかなるか?伊吹?」
 「ちょっと待っていろ・・・」
 師匠は魔法陣に手を付けると呪文を唱え始める。
 その言葉に答えて、魔法陣の色が『闇』から白、いや『光』を放ち始める。
 「これで、『式守の秘宝』のある場所に行けるぞ」
 俺は、祠の出入り口をもう一度見る。
 ここからでは、もう姉ちゃん達と、『ケルベロス』の戦いの音は聞こえない。
 そのことが、俺の不安を駆り立てる。
 「和志くん・・・行きましょう?」
 すももが俺に声を掛ける。
 「・・・」
 それでも動かない俺にすももは更に声を掛ける。
 「大丈夫ですよ。和志くんが渚さんを信頼しなくてどうするんですか?」
 「そうだよな・・・」
 俺は覚悟を決めて、すももの手を取る。
 そして、俺は転送魔法陣の中に飛び込んだ。





  「きゃあっ!!」
 「渚!!」
 弾き飛ばされて地面に転がる私の悲鳴に柊さんが声を掛ける。
 『どうしたの?所詮はその程度?』
 『藤林 渚』は余裕の表情で私達に話しかける。
 さっきから、私達は『藤林 渚』に全力で攻撃を仕掛けていた。だけど―――
 「はぁぁぁぁぁ!!」
 『建御雷』を手に信哉君が『藤林 渚』に迫る!!
 『藤林 渚』は黙って右手を前に出す。
 それだけで、目の前に数十本の氷の矢、しかもその周りには高速で渦巻く竜巻が取り巻いている。
 さっきはそのパターンで迎撃されたんだけど・・・
 そのまま突っ込む信哉君。
 次の瞬間―――
 『幻想詩・第二楽章・明鏡の宮殿!!』
 沙耶さんの言葉と同時に信哉君の目の前に魔法障壁が生まれる。
 「!!」
 『藤林 渚』の表情に驚愕の色が浮かぶ。
 魔法障壁はそのまま『藤林 渚』の生み出した氷の矢を跳ね返した。
 当然、その魔法は『藤林 渚』に向かい、その魔法を追うように信哉君も突っ込む。
 防御魔法は間に合わない!!
 これで、『藤林 渚』に残された選択肢は2つ。
 自分の魔法を喰らって信哉君を止めるか。
 それとも、信哉君を止めて、自分の魔法を喰らうか。
 『藤林 渚』は―――身動きもしなかった。
 (どういうこと!?)
 私の驚きを余所に、信哉君はそのまま突っ込む。
 
 “ドガガガガガガァン!!”

 魔法の炸裂音と同時に、
 「はぁぁぁぁぁっ!!」
 信哉君の雄たけびと同時に『建御雷』が『藤林 渚』の身体を真っ二つに―――
 
 “ゾクッ”

 同時に背中に悪寒が走り抜ける。
 とっさに殺気を感じた。
 「沙耶さんっ!!」
 「えっ?」
 私の叫びと同時に―――
『私の魔法を跳ね返して―――』
 沙耶さんが振りむくのと同時に、目の前に『藤林 渚』が出現する。
 その手にはもうすでに高速の竜巻の渦が出来ている。
 その魔法の渦は至近距離で沙耶さんを吹き飛ばす!!
 「きゃあっ!!」
 「沙耶!!」
 叫ぶ信哉さんの横に―――
 『あなたが斬りつける―――』
 なっ・・・
 いつの間にか、信哉さんの横に『藤林 渚』が出現していた。
 転移魔法を使ったとしてもありえないスピードで。
 『藤林 渚』は自分の手から伸ばした氷の蔦を信哉君の足に巻きつける。
 『作戦は良かったけど、ちょっと甘かったわね』
 言葉と同時に、信哉君は近くの木の幹に叩きつけられる。
 「信哉君!!」
 私は慌てて信哉君に走り寄る。
 「だ、大丈夫だ・・・!!」
 「渚!どーいうことよ。いくら何でもおかしすぎるわよ!!」
 沙耶さんを連れて、柊さんもこっちに来る。
 それを『藤林 渚』が妨害しなかったのは、余裕だからか。
 「・・・分かってる。彼女の魔法の異常な完成スピードは、彼女が魔力と私の負の感情をベースにして生まれた存在だから、
  どちらかというと、精神体に近い存在だからよ」
 でも、精神体として存在するには、その精神を繋ぎとめる何かが必要のはず・・・
 そして、それこそ彼女の弱点・・・
 私は改めて『もう一人の私』を観察する。
 顔も髪型も、どこからどうみても私に瓜二つ。
 自由自在に魔法を生み出して―――
 (・・・!!)
 その時、私は『あること』に気が付いた。
 私は、3人の耳元にそっと囁いた。
 「みんな、私に考えがあるんだけど・・・」




 『何をする気かしら?』
 目の前に立つ私・柊さんを見つめて言う『藤林 渚』
 『まあ、何をしても無駄なんだけど・・・・ね!!』
  “ブォォォォォォォォォッ”
 『藤林 渚』の右手から生まれた魔力が元の烈風が吹き荒れる。
 烈風を何とか踏ん張っている私と柊さん。
 その間に―――
 「はぁぁぁぁぁっ!!」
 『建御雷』を振るった信哉君が私達と『藤林 渚』の間に割って入る。

  “ビュゴウォォォォォォ・・・”

 『藤林 渚』が生み出した以上の烈風が逆に『藤林 渚』に吹き付ける。
 今度は『藤林 渚』の動きが制限される。
 そこに―――
 『幻想詩・第三楽章・天命の矢!!』
 沙耶さんの魔法が空中に出現する。
 同時に、柊さんが呪文を唱え始める。
 『オン・エメルサス・ルク・アルサス・・・』
 全く、意に介さずに転移しようとする『藤林 渚』
 させない!!
 私は呪文を唱え始める。
 『ウェル・シンティア・アル・ライルネス・リレート・・・』
 「!!」
 呪文構成を見て焦りの表情を浮かべる『藤林 渚』
 これは、私が開発した『2つの魔法式を組み合わせた合成魔法式』だ。
 すももちゃんの『神融合能力』をヒントにしたんだけど。
 この合成魔法式はカズ君と同じ、『青龍』の魔法式を組み込んでいる(さすがに召喚は出来ないけど)
 つまり、これには結果的に『四神』の力が多少混ざっている。
 さすがに、『藤林 渚』もこれは防がない訳にはいかないはず。
 『・・・シーニック・レスト・ジ・ラルーゼ!!』
 竜巻と氷が融合し、『藤林 渚』の身体を拘束し始める。
 『四神』の力を利用した拘束魔法ならいくら精神体と言っても逃げられないはず!!
 更に―――沙耶さんの魔法が発動する。
 『・・・協奏曲・第7番・天命の檻!!』
 空中に留めていた『天命の矢』『懺悔の檻』の重ね掛けによる、強化拘束魔法が更に『藤林 渚』を抑え込んだ。
 吹雪状になっていた、私の拘束魔法を、『天命の檻』が更に強化する。
 そのタイミングで―――
 『・・・ウィミル・ライガファエル・ゼオートラス・ディオーラ・ギガレスト!!』
 
 “ルォォォォォォォッ!!”

 召喚された『麒麟』が『藤林 渚』に襲いかかる!!
 『クッ!!』
 『藤林 渚』は必死に逃れようともがくけれど―――
 その抵抗もやがて、荒れ狂う『麒麟』の電撃に呑まれて消えた。



 
 光が消えた後、そこには『藤林 渚』の姿は無かった。
 「ふう・・・」
 ため息を付く私。
 「・・・終わったの?」
 柊さんが私に問い掛ける。
 「何とかね、後は・・・」
 私は、『藤林 渚』のいた場所に転がっている白いクリスタルに目を止める。
 そこにあったには、私にとって大切なものだった。
 きっとこれが、『藤林 渚』を生み出した原因のもの。
 そして―――
 「さあ、早く吾妻殿達を追いかけよう!!」
 「そうですね・・・急いだ方がいいかも知れません」
 「渚、これは、アンタの・・・」
 いつの間にか、そのクリスタルを柊さんが手に取った瞬間。

 『負けてない・・・』

 『藤林 渚』の声が響いた。
 「みんな!!伏せて!!」
 しかし、その叫びは間に合わず―――
 次の瞬間、閃光が光った。




  「う・・・うん?」
 私は目を開ける。柊さんがクリスタルを持った瞬間―――
 「・・・!!」
 私はハッとなって目を開ける。
 そして、私の目に飛び込んで来たのは―――
 「柊さん!信哉君!沙耶さん!!」
 爆発でもあったのか、それに巻き込まれたのか、吹き飛ばされてピクリとも動かない3人の姿。
 『・・・あなたのせいよ』
 その声に振り向く私。
 そこには、精神体とはいえ明らかにダメージを受けた『藤林 渚』が居た。
 『私は負けられないのよ。カズ君を奪った『あの娘』を倒すまでは』
 「・・・あの娘って?」
 私の顔には自嘲気味の笑みが浮かんでいただろう。
 聞くまでもなく、誰のことかは分かっていたのだから―――

 『私はあなた、あなたは私。これが全てよ』

 そう呟く『彼女』の目に浮かぶのは―――
 私もすももちゃんに抱いた『嫉妬、妬み』そして、自分自身に対する『自己嫌悪』だった―――





                                 〜第82話に続く〜


                         こんばんわ〜フォーゲルです。第81話になります。

                              今回は『藤林 渚』戦でした。

                        もはや『人間』ですらない『藤林 渚』に苦戦する渚達。

                           『麒麟』の力も利用するもそれでも倒せず。

                             次回は渚の葛藤がメインになるかと。 

                         ひょっとしたら、いよいよ柾影戦に入るかも知れません。

                               楽しみにして頂けると嬉しいです。

                                 それでは、失礼します〜




管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法第81話をお送りして頂きました〜^^

柾影に通ずる「式守の秘宝の封印場所」へ、遂に足を踏み入れた和志たち四神の使い手。

そしてその一方で、精神体である「藤林渚」に、苦戦する渚たち。

多種多様、様々なコンビネーションで奮闘するも、精神体であり魔法の発動を一瞬でこなせる「藤林渚」を追い詰めることはなかなか出来ず。

ようやく訪れたチャンスも、ことごとく跳ね返されてしまう。

そして仲間たちが倒れた後。「藤林渚」と対峙する渚に、残酷な言葉。

うむむ、次回の展開が気になりますねー(><)



2010.1.23