『解かれた魔法 運命の一日』〜第80話〜
投稿者 フォーゲル
「・・・・・」
『ケルベロス』はその三つ首を上下に揺らしながら、俺達を威嚇する。
黒い巨体から感じられるのは、神々しい魔力。
(・・・?)
だけど、俺はその時、『違和感』を感じていた。
目の前の『ケルベロス』から感じられる複数の魔力を俺は以前に感じたことがある。
一つは、言うまでもなく、『ケルベロス』を召喚したのであろう柾影の魔力。
だけど、その他の魔力が・・・
以前に感じたことのある魔力だと言うのは分かるのだが、それがいつ、どこでなのか・・・
「和志!!」
俺の思考を打ち破るように師匠の声が響く。
『ケルベロス』の三つ首の一つの首に、魔力が集まって行く。
それは、大きな魔力弾になって、俺に向かって発射される!!
「くっ!!」
隣にいたすももを抱きかかえると、俺は、横っ跳びに飛んだ!!
俺達が居た場所を、魔力弾が直撃する!!
“ズガガガガガァン!!”
魔力弾が着弾した後には大きなクレーターが出来ていた。
「和志!ボケッとするな!!」
後ろに下がっていた雄真さんの声が聞こえて来る。
その魔力弾の着弾と同時に、みんな、それぞれに動き始める。
『オン・エルメサス・ルク・アルサス・エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ!!』
まず最初に動いたのは柊さんだった。
生み出された数発の光弾が、『ケルベロス』に向かって飛んでいく。
しかし、それを『ケルベロス』は防御しようとも、身を交わそうともしない。
そして、光弾はマトモに直撃する!!
強烈な爆音と煙が舞い上がる。
しかし、そこには平然とする『ケルベロス』の姿があった。
「やっぱり、普通の魔法じゃ通じないわね・・・なら!」
柊さんが次に呪文を唱え始める。
それと同時に柊さんの目の前に出現した魔法陣から電撃が溢れ始める。
『麒麟』の力を借りた攻撃呪文だ。
しかし、次の瞬間先に動いたのは、『ケルベロス』の方だった。
“ビュウオオオオオ・・・”
右の首から突然強烈な烈風が吹き荒れる。
カマイタチのような効果があるのか、俺達の魔法服を切り裂いて身体に切り傷を付ける。
その烈風のせいで、呪文を唱えていた柊さんの体勢が乱れる。
同時に、魔法陣の電撃も消える。
(呪文の詠唱を遮られた!?)
その柊さんの頭上に突然、槍状の魔法弾が出現する。
マズイ!今の柊さんには防ぐ手段が無い!!
『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・ルファ・トゥーナ・ポルトス!!』
柊さんの頭上に出現した魔力の渦がその魔法弾を呑みこむ。
「大丈夫ですか!柊さん!」
「はい!」
高峰さんの声に答える柊さん。
『はぁぁぁぁぁっ!!』
一方、左の首には『建御雷』を手に信哉さんが突っ込む!!
左の首はそれを迎え撃とうと、鎌首をもたげ―――
『幻想詩・第四楽章・懺悔の檻!!』
沙耶さんの魔法が『ケルベロス』の首の動きを封じる!!
そこに―――
『ア・ディバ・ダ・ギム・バイド・ル・サージュ!』
師匠の攻撃魔法が、動かなくなった首の部分に炸裂する。
高くジャンプした信哉さんの『建御雷』が『ケルベロス』の首を切り落とす!!
(よし!!)
信哉さんはそのまま、今度は俺達と相対している真ん中の首目指して―――
「上条くん!」
神坂さんの叫びが聞こえたのか、本能的に左に飛ぶ信哉さん!!
しかし、反応が間に合わず、その左足が凍りつく。
つい、さっき信哉さん自身が斬り飛ばしたはずの左の首が放った氷系の攻撃魔法で。
(何だ?あの首の異様な再生能力は?)
そのまま追撃の魔法弾が信哉さんに向かう!!
『エル・アムスティア・ラル・セイレス・ディ・ラティル・アムレスト!!』
その魔法弾は神坂さんの防御呪文で弾き散らされる。
『エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・エル・アダファルス!』
そして、信哉さんの右足を凍りつかせていた氷塊は雄真さんの攻撃魔法で解かされた。
「2人共済まぬ!!」
慌てて距離を取る信哉さん。
もちろん、俺とすもも、姉ちゃんもただみんなの様子を見ていた訳じゃない。
真ん中の首は執拗に俺達3人を狙っていた。
強烈な烈風で、俺達の動きを封じ、あるいは魔力弾で俺達を攻撃する。
しかし、真ん中の首の動きは特徴的だった。
それは・・・
“ズガァァァァァァン!!”
「きゃあっ!!」
すももの横で魔法弾が着弾する。
「大丈夫か?すもも!」
「う、うん・・・」
真ん中の首は何故か執拗にすももを狙っていた。
『ケルベロス』が柾影の召喚したものなら、ある程度はそれも分かる。
すももを消せば、俺達は柾影に対抗出来る手段は無くなる。
しかし、俺や姉ちゃんに隙が出来ても、真ん中の首は執拗にすももを狙うのだ。
それが一番の優先事項であるかのように。
「マズイな・・・」
俺達は次第に追い込まれていった。
他の首を相手にしているみんなも状況は似たようなものだった。
(いつまでも、ここで足止めされている訳には・・・)
「・・・カズ君」
「何だ、姉ちゃん」
姉ちゃんは決意を込めた目で行った。
「ここは、私が足止めするから、先に行きなさい」
「で、でも・・・」
「あなたや、小日向君達『四神』の力を使える人達はこんなところで立ち止っている訳にはいかないでしょ?」
『そうですね〜確かに・・・』
ふと気が付くと、俺達の足元に転がっていたタマちゃんから高峰さんの声がする。
「高峰さん、どうしたんですか?」
『ちょっとタマちゃんに付いてる通信機能をONにして皆さんのところに飛ばしました。この会話は、
みなさんにも伝わっているはずですよ』
その言葉を証明するかのように・・・
『なら、アタシも残るわよ』
柊さんの声も聞こえて来る。
『渚一人残す訳にはいかないしね。柾影に『麒麟』の力を見せつけたかったけど・・・』
「なら、決まりね」
そう言う姉ちゃんの声にはある決意が滲んでいたように感じられた。
その時―――
“ズシンッ”
俺達の身体に突然大きな重力が掛かる。
(こ、これは・・・)
以前、すももと一緒に行った俺の実家。
そこで掛けられた重力魔法。
しかし、その時とは比べ物にならない程の威力だった。
「か、和志くん・・・」
すももが苦しそうな声を上げる。
それと同時に左右の首が俺達3人に狙いを定める。
「すもも!?」
「和志!!」
こっちの異変に気が付いた雄真さんと師匠がこっちへ駆け寄ろうとする。
『ウ、ウェル・シンティアス・レイ・フェニス・・・』
俺の身体が蒼い輝きを放つ。
それと同時に俺の身体がふと温もりに包まれる。
見ると、必死に手を伸ばしたすももが俺の手を握りしめていた。
俺の心に『この女性(ひと)を最愛の人を守る』と言う想いが生まれる。
『ケルベロス』の突き付けたレイアの先に今までに無い威力の魔力弾が生まれる。
『・・・ラル・セイガレスト・フェール・サイラリス!!』
その強大な威力の魔力弾が槍状に変化し、更に回転しながら威力を増し、首の中心に向かって飛んでいく!!
“ガガガガガガガガッ!!”
魔法槍が首を抉りながら傷付けて行く。
しかし―――
“バシンッ”
尻尾を器用に使いながら『ケルベロス』はその魔法槍を叩き落とす!
抉られた首の傷からは、何か輝くものが・・・
「さあ、カズ君、行きなさい!!」
気が付くと俺達の動きを拘束していた重力魔法は解けていて、自由に動けるようになっていた。
「でも・・・」
「行くぞ、和志!」
雄真さんの声に促され、俺とすももも走り出す。
気が付くと、タマちゃんが『ケルベロス』に攻撃を仕掛けていた。
しかし、タマちゃんが攻撃した場所もあっさりと再生する。
『オン・エメルサス・ルク・アルサス・ライガレス・エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ!!』
『麒麟』の力を込めた柊さんの魔法弾が、『ケルベロス』の足元に着弾し、『ケルベロス』の身体を浮き上がらせる。
その下を潜り抜けようとした俺とすもも。
しかし、その浮き上がった状態から、下に向かって魔法弾を撃ち込む『ケルベロス』。
それを防いだのは、俺の魔法では無かった。
『幻想詩・第二楽章・明鏡の宮殿!!』
沙耶さんの魔法が『ケルベロス』の魔法をそのまま弾き返す!!
「吾妻様、すもも様、先に行って下さい!!」
「ここは、我らに任せるのだ!!」
信哉さん、沙耶さんの声に戸惑う俺。
「行くぞ!和志!!、信哉達や渚の想いを無駄にするつもりか!?」
俺は、姉ちゃんの方を見る。
姉ちゃんの瞳には、『ここは私達にまかせなさい』という想いが溢れていた。
(・・・分かったよ。姉ちゃん)
俺は、姉ちゃん達に背を向けて走り出す。
もう二度と振り返らないように。
私は遠ざかるカズ君の背中を見送った後、『ケルベロス』に向きなおる。
その真ん中の首の下、輝く物、私はそれに見覚えがあった。
それに、『ケルベロス』が使った魔法は風系と氷系・・・
加えて、私の仮説が正しいなら、恐らく『ケルベロス』のあの姿は恐らく仮のもの・・・
「渚、行くわよ!!」
柊さんが臨戦態勢に入る。
「こっちも準備はよいぞ!渚殿!」
信哉くんの言葉に沙耶ちゃんも頷く。
『・・・分からないわ。何故そこまでして戦うの』
「なっ・・・しゃ、喋った!?」
『ケルベロス』の言葉に驚く柊さん。
「驚くことじゃないわ。恐らく『あなた』の本当の正体はこの『式鬼の杜』に眠っていた『負の感情』でしょうしね」
「そして、その『中心』を担っている『主要人物』は―――
私は『ケルベロス』に向きなおる。
「さあ、本当の姿を見せなさい。『ケルベロス』、いや―――」
『藤林渚!!』
『なっ・・・!!』
柊さん達3人の驚きの声が重なる。
『ケルベロス』は何も答えない。その身体が光に包まれる。
やがて、その姿は見慣れた姿に変わる。
桜色の髪、それを纏めた大きな白いリボン。
まるで鏡に写したような『藤林渚』の姿がそこにはあった―――
〜第81話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第80話になります。
今回は対ケルベロス戦でした。そして、パーティ分断です。
パーティ分断で『四神』の継承者+すももが柾影のところにって言うのは予想していたかと思いますが、
『ケルベロス』の『正体』には驚いた人が多いかなと。
果たして、渚達は『藤林渚』を倒せるのか?
そして、渚の『負の感情』などにも注目して頂けると嬉しいですね。
和志達の方にも注目しつつ、次回を楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
管理人です。フォーゲルさんより、解かれた魔法の第80話をお送りして頂きました〜^^
いやぁ、ついに80話まで来ましたね。これだけ長い間連載を続けられるということ、素直に尊敬します。
対ケルベロス戦。三つ首の魔獣に、総力を掛けて挑むも・・・ケルベロスの高い攻撃力と応用性、さらには超再生能力になかなか突破できず。
結果的にパーティーは分断。四神の継承者(+すもも)は柾影を倒すべく奥地へと迎い、渚たちはその場に留まりケルベロスを迎え撃つ。
しかし、まさかケルベロスの正体が渚だったとは・・・いや、今でもよく状況が理解できませんが。それは次回の説明を待ちましょう!