『解かれた魔法 運命の一日』〜第76話〜
投稿者 フォーゲル
わたしは不安でした。
それは、ここ2・3日、頻繁に見ている夢が原因です。
その夢の中で、わたしと和志くんは手を繋いで仲良く歩いています。
だけどいつの間にか繋いでいたはずの手が離れて―――
和志くんはわたしを置いてどんどん先に歩いて行きます。
わたしは必死に和志くんに追いつこうとするけど、和志くんは一人で先に行っちゃって―――
そのうちにわたしの足がまるで金縛りにでもあったかのように動かなくなって―――
必死で和志くんの名前を呼ぶけど、和志くんは気がついてくれなくて―――
気が付くと和志くんは居なくなっちゃって、暗闇の中にわたしだけが取り残される―――そんな悲しい夢です。
そんな夢を見始めたのは、伊吹ちゃんの実家から帰ってからすぐのことです。
それと同時でした。
和志くんが時折、考え込むような表情をするようになったのは。
その表情が、夢の中に出て来る和志くんの表情に似ていて―――
気が付くと、わたしは人目も気にせずに、和志くんに甘えるようになっていました。
そうしていないと、あの夢のように和志くんがわたしの前から居なくなってしまうような気がしました。
「・・・も!すもも!!」
「えっ?か、和志くん?何ですか?」
和志くんに大声で呼ばれて、わたしは我に返ります。
「『何ですか?」じゃないよ。さっきから呼んでるのに返事しないし・・・」
柊さんと別れた後、クリスマスが近づいて賑わいが増している街の中をわたし達は歩いていました。
「な、何でも無いですよ〜!!」
「本当か?」
「本当ですよ?」
心配そうに、わたしの顔を覗き込む和志くんに笑顔で答えるわたし。
―――こんなことで、和志くんに心配をかける訳にはいきません。
「だけど、やっぱり多いな〜」
「何がですか?」
「カップルだよ。やっぱりクリスマス近いからか?」
あっちにもこっちにも幸せそうな人達が一杯います。
「そうですね〜だけど・・・」
「和志くん達もその『クリスマスが近くて嬉しそうなカップル』の一組でしょ」
わたしが言おうとした言葉をそのまま続けたのは―――
「準さん、こんにちは」
「こんにちは〜」
そこには準さんが立っていました。
「だけど、2人共、相変わらずラブラブね〜」
和志くんにピッタリとくっついたままのわたしを見て笑う準さん。
そんな準さんの姿を見て和志くんは口を開きます。
「準さん、寒くないんですか?」
「う〜ん、正直ちょっとね。だけどこれくらいの露出があった方がお客さんのウケがいいのよ」
準さんは、サンタさんのコスプレをしていました。
それも、上はおへそが出ていて、下はミニスカートというスタイルです。
「それは、分かりますね〜実際に・・・」
「和志くんも、こういう格好は好きなのね♪」
「へっ?い、いや。そういう訳でも・・・」
「すももちゃん、和志くんが『俺の前でこういう格好してくれ』って言ってるわよ」
「じ、準さん!?」
「そんなに慌てなくてもいいわよ。それにすももちゃんは乗り気みたいよ」
「えっ?」
「え、え〜と、ちょっぴり恥ずかしいですけど、和志くんが喜んでくれるなら、が、頑張っても、いいですよ」
わたしの言葉に顔が赤くなる和志くん。
「か〜ず〜し〜!!」
そんなわたし達に声を掛けて来たのは、トナカイさんの着ぐるみを来た人でした。
あれ?この声って・・・
「その声は、ハチ兄か?」
和志くんの声にトナカイさんは着ぐるみの頭の部分を取ります。
「ちくしょー!!羨ましいぞ!和志!!」
「そ、そんなこと言われてもな・・・」
「俺にだって、彼女が出来て幸せになる権利があるはずだぞ!!」
「権利は誰にでもあるけど、ハチは自分からそのチャンスを潰しているからね〜」
興奮しながら叫ぶハチさんと、笑いながら言う準さん。
その言葉に苦笑いを浮かべるわたしと和志くん。
だけど、私は気が付いていました。
『幸せになる権利』その言葉に和志くんが微妙な表情を浮かべていたことを。
「なあ、すもも・・・本当にこれで良かったのか?」
和志くんは疑問を浮かべながらわたしに問いかけます。
「はい、これがわたしの『今、一番したいこと』です」
和志くんの家のリビングでまったりとくつろぎながら、わたしは答えます。
準さん達と別れた後、和志くんはわたしに聞いてきました。
『すもも、何かやりたいこととか行きたいところとか無いのか?』と。
わたしはこう答えました。
『和志くんのお家で2人で過ごしたいです』と。
いろんなことをお喋りしたり、お夕飯を作ったり・・・
そんな『いつものこと』をしながら過ごしました。
そして―――わたしは意を決して口を開きました。
「和志くん・・・何か悩みごとでもあるんですか?」
「・・・どうしてだ」
「ここ数日、考え込んでいるみたいだから、気になっちゃいます」
「そうか・・・」
和志くんはため息を付きました。
「和志くん、わたしは和志くんの恋人です。和志くんが悩んでいることがあるのなら、話して下さい。
辛いことは2人で半分こ、嬉しいことは2人で2倍、わたしはそれがいいです」
「すもも・・・ありがとう」
和志くんはそう言うと話し始めました。
「柾影のことを考えてたんだ」
「・・・柾影さんですか?」
コクリと頷く和志くん。
「伊織さんに見せられた柾影の過去のことがな・・・ふと考えるんだよ。俺と似てるなって」
確かに、そうかも知れません。
「柾影もある意味では『魔法の力に振り回されて、魔法を憎むようになった』と言えるから・・・
俺は、すももと出会ったから、魔法のいい面と悪い面を知ることが出来たけど、
今の柾影はシンシアさんを奪われたことで、魔法が自分にもたらしたいい面を忘れているんじゃないかって思うんだ」
自分の考えを喋り続ける和志くん。
「だから、俺は柾影を助けたいと思ってる」
「・・・」
「・・・やっぱり、甘いかな?」
無言のわたしに否定されたと思ったのか、苦笑いを浮かべる和志くん。
「ううん!そんなこと無いです!」
和志くんの手をギュッと握り締めて言うわたし。
わたしが無言だったのは、むしろ『和志くんらしいな・・・』と思ったから。
「わたしが好きになった和志くんならそう考えるんじゃないかと思いました」
でも、そう答えたわたしの脳裏に何故か、あの夢がよぎります。
「頑張りましょう!大丈夫です!きっと柾影さんも助けられますよ!!」
それでもその不安を打ち消すようにわたしは和志くんを励まします。
「ああ・・・でも、その前に」
和志くんは、わたしの目を覗き込むようにして見つめます。
「すもも、お前も何か悩みごとがあるんじゃないのか?」
「な、何でですか?」
「そりゃ、ここ数日のお前の俺に対するベッタリぶりがな、さすがに行きすぎだと思ってたからな」
「あ・・・ご、ゴメンなさい」
「嫌だった訳じゃないけどな。それで、理由はなんなんだ?」
「・・・」
だけど、わたしは答えられませんでした。
理由は、わたしの見ている夢でしか無いこと、それで和志くんを困らせたくはありませんでした。
「『辛いことは2人で半分こ、嬉しいことは2人で2倍』・・・今すもも自身がいったことだぞ」
「!!」
和志くんの言葉にわたしは口を開きました。
和志くんが、わたしの目の前から居なくなってしまう夢をみていること。
本当にわたしが和志くんの居なくなってしまうような気がして不安だったこと。
だから、ああやって甘えていたこと。
わたしの話を黙って聞いていた和志くんは―――
“フワッ”
「か、和志くん・・・」
和志くんは、わたしを抱きしめていました。
その温かさ、その温もりにわたしの瞳から涙が流れました。
「約束する。俺は絶対すももを一人ぼっちにしたりしない。だから―――」
わたしの瞳から流れる涙を優しく拭います。
「だから、笑ってくれないか?俺はやっぱり笑ったすももが一番好きだ」
「和志くん・・・」
その言葉にわたしは自分でも涙を拭います。
「よし、じゃあ、そろそろ送っていくか?」
そう言って立ち上がる和志くん。
だけど、わたしは―――
「すもも、どうしたんだ?」
立たないわたしを見て不思議がる和志くん。
「・・・今日は」
「?」
「今日は、帰り・・・たく・・・ないです」
今度はわたしから和志くんを抱きしめます。
「今日は、和志くんをずっとそばに感じていたいです」
「すもも・・・」
和志くんは、わたしの唇にそっとキスをしました―――
結局、わたしはその日家に帰りませんでした。
和志くんはわたしを優しく愛してくれて―――
わたしもそんな和志くんの優しさに安心したのか、その日は例の夢を見ることはありませんでした。
〜第77話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第76話になります。
今回はラブラブモード(すもも視点)と言う感じですかね。
しかし、すもものベッタリの理由など結構シリアスな面も多くなりました。
いろんな事件を経てより強くなった2人の絆を感じて貰えると嬉しいです。
次回からいよいよ最終章突入です。
和志とすももにどういう運命が待っているのか、楽しみにして下さいね。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
管理人です。フォーゲルさんより、解かれた魔法の第76話をお送りして頂きました〜^^
今回は、最終章前の最後の幕間話、といったところでしょうか。すもも視点で描かれた、和志への想いと不安。
互いに悩みの内を吐き出し、受け止め、支え合う二人。二人はこの日、心身共に更なる強い絆で結ばれたのでしょう。
次回から最終章とのことで。二人には幸せになってもらいたいと願いつつ、今日はこの辺で・・・。