『解かれた魔法 運命の一日』〜第74話〜
投稿者 フォーゲル
「和志くん!?和志くん!?」
うめき声を上げながら苦しみ続ける和志くんにわたしは必死に呼びかけます。
わたしが目を覚ました時、和志くんはまだ、目を覚ましていませんでした。
そして、その直後から和志くんが苦しみ始めました。
伊織さんに問い掛けると、伊織さんは呟くように言いました。
「今、柾影さんが味わった苦しみを和志さんも経験していると」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
ひときわ大きな叫び声を和志くんが上げます。
そして、苦しんでいた和志くんの声がピタリと止まりました。
「和志くん!?」
思わず和志くんの身体を揺するわたし。
そして―――
「す・・・すもも?」
和志くんは目をしばたたかせながら、目を開けました。
「こ、ここは・・・そうか、戻ってきたのか・・・」
「和志くん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・」
だけど、私の問い掛けにも、和志くんは放心状態でした。
自分の両手を見たまま、呆然としたままです。
「どうやら、その状態だと、精神崩壊するまではいかなかったみたいですね」
伊織さんの声に和志くんは、そちらを見ます。
「ああ、だけど・・・あんな過去が・・・」
「私や純聖さん達が、柾影さんの力の一部を借りて、協力する気になったのも、その過去を見せられたからです。
例え、それが、藤林家や関西魔法連盟に背く結果になっても・・・」
その時のことを思い出したのか、遠い眼差しで呟く伊織さん。
部屋の中全体を重苦しい雰囲気が包みました。
「あの・・・」
そんな中、わたしは口を開きます。
「みんな、『柾影さんの過去』を見たんですか?」
「どういうことなのだ?すもも」
伊吹ちゃんの質問にわたしはシンシアさんの記憶を見せられていたと話しました。
「多分、すももさんとシンシアさんが『いろんな意味で似ている』からでしょうね」
伊織さんはそんなことを呟きました。
その心に少しだけ悔しさのようなものが混じっているようにわたしには感じられました。
「伊織さん、見せられた柾影の記憶があそこまでだとすると、その後、伊織さん達の前に姿を現すまでどうしてたかは分かりますか?」
和志くんの問いに伊織さんは首を振ります。
「いえ、わたしが柾影さんと再会したのは、半年程前に森の中で倒れていたのを私が見つけた時です」
「・・・柾影さんが実行したことなら、分かりますよ」
そう言ったのは、小雪さんでした。
「柾影さんが留学していた学校『ライラリッジ・カオスワーズ』ですが、その学校は10年前に、『隕石』によって存在していた町ごと破壊されています。
しかし、当時、日本から調査委員会の一人として派遣されていた母はその事故が『隕石』によるものではないんじゃないかと疑っていました。
町の跡地から、何らかの魔力反応が感じられたと言っていましたから・・・」
「つまり、その魔力が・・・」
「ええ、『普通の人間』の魔力だったらいくらなんでも、『街一つ消し飛ばす』なんて真似は不可能ですが・・・」
「『ユグドラシル』と完全に同化した藤林柾影だったら、可能だと言うことか」
和志くんの問いに、小雪さんと伊吹ちゃんが答えます。
「それに、その後、ヨーロッパ各地にあった、『神の力』と呼ばれるものが消えている」
「おそらく、『ユグドラシル』が滅ぼしたのだろう。そして、残ったのが・・・」
「俺達の『四神』と言う訳ですか・・・」
柾影さんの行動を和志くん達が推理していると・・・
『♪〜♪〜♪』
和志くんの携帯電話が鳴りました。
携帯のディスプレイを見た和志くんが一瞬、目を見開いた後、慌てて電話に出ました。
「もしもし!?姉ちゃんか?」
電話の相手は、京都にいるはずの渚さんでした。
「うん、うん・・・分かった。そっちもなんだね。こっちも伊織さんと純聖さんは『神の力』を回収されたよ」
「・・・分かった。なら戻ったら一度落ち合おう」
電話を切る和志くん。
「藤林 渚からか?」
「ええ、向こうも、綾乃さんと義人さんに攻撃されたらしいです」
「和志くん!兄さんや姫ちゃん達は無事だったんですか?」
「ああ、みんな怪我は無いらしい・・・向こうも柾影さんの過去を知ったみたいだ、それと・・・」
和志くんは、伊織さんの方を見ます。
「伊織さん、綾乃さんと義人さんも柾影に『神の力』を回収されたらしい。
「そうですか・・・」
悲しそうに呟く伊織さん。
「・・・鳥野伊織よ。藤林柾影にどんな理由があろうと、私達はあいつをとめねばならぬ。もし、邪魔をするというのなら・・・」
伊吹ちゃんがビサイムさんを構えながら言います。
「大丈夫ですよ。師匠」
「そうだ、彼らの身柄はひとまず、式守家で預かっておく。謙三殿から『風流四家』に話は通しておいてもらおう」
「それで、皆さん・・・」
護国さんの話が終わったところで、わたしは口を開きます。
「シンシアさんが亡くなった後の、柾影さんの過去は何だったんですか?」
しかし、わたしの問いに、答えてくれる人は居ませんでした。
夜更けに眠れなかった俺は、自分にあてがわれた部屋から廊下に出ていた。
魔法の名家、式守家の本家だけに、その庭園の美しさは見事なものだった。
(シンシアさんが亡くなった後の、柾影さんの過去は何だったんですか?)
さっきのすももの問いを聞いて、俺はホッとしていた。
(すももにあんな凄惨な光景は見せられないしな、でも・・・)
俺の脳裏に、さっきの柾影の光景が蘇る。
みんなの前では、口には出せなかったが、正直俺には、柾影があんなことやった気持ちも分からないでもなかった。
(俺だって、あんな理由ですももが殺されたら、柾影と同じことをしている可能性はある)
それに、柾影の記憶を体感したからこそ、芽生えた思いもある。
その想いまだ実現可能だということも、寝る前に、個人的に伊織さんから聞いた情報で確認済だ。
「・・・眠れないのかね?」
そんなことを考えていた俺に、声を掛けて来た人物がいる。
「護国さん・・・」
「隣、いいかね」
「あ、どうぞ」
俺の隣に腰を下ろす護国さん。
それに合わせるように、俺は口を開く。
「護国さん、ありがとうございます」
「何がだね?」
「母さんのデータを魔法連盟のデータベースから消したのは、護国さんですね」
「・・・そうだ。例の事故の後、和志殿の母親が生きていることを知って、柾影殿に目を付けられるのを警戒してな。
和志殿の母親に刺客を送りつけて、結果的に事故を誘発したのは、私の責任がある。せめてもの、罪滅ぼしだ。
どこからか、情報が漏れるのを警戒して、鈴莉殿やゆずは殿にも知らせなかったのだ・・・すまぬな」
「いえ、気にしないで下さい。母は晩年は穏やかに過ごすことが出来ましたから・・・」
これは、本当のことだ。
「むしろ、お礼を言いたいのは、私の方だ」
「どういうことですか?」
「和志殿が伊吹に弟子入りして以来、伊吹も『人を導くには何が必要か』を学んでいるようだからな」
「いえ、そんなことは・・・やっぱり、師匠にとって一番大事なのはすももでしょう」
2人の仲の良さは、たまに『俺、すももの恋人なんだよな?』と自問自答することがあるし・・・。
「すもも殿か・・・」
感慨深そうに呟く護国さん。
「まさか、宏之殿の娘が、伊吹を助けることになるとはな。不思議な因縁もあるものだ」
そこで思いだしたように、護国さんは俺を見る。
「和志殿、これは宏之殿が言っていたのだが、『神融合魔法』はあまり使わない方がいいぞ」
「どういうことですか?」
「長い時を経て、豊涼家の魔力は衰退傾向にあったことと、すもも殿が魔法使いでは無いことが原因だ」
確かに、神融合魔法はすももの体力を著しく奪うみたいだが・・・
「三神融合の『咬龍』ですら、あの状態なのだ、『朱雀』を加えた『四神融合』は宏之殿が残したブレスレットを使ってもおそらく1回が限界だろう」
「じゃあ・・・」
「もし2回以上使えば・・・」
そこに待っているのは―――死。
「大丈夫です。そんなことには絶対にさせません」
俺は、そう強く心に誓った。
『柾影くん・・・』
死んだはずのシンシアが俺に語りかける。
『何だ?シンシア』
しかし、俺の声にシンシアは答えず、悲しげな表情を浮かべるばかり・・・
やがて、その姿はゆっくりと消えていった。
『柾影!!』
『ユグドラシル』の声に俺は目を覚ます。
何だ。夢か・・・
『どうしたんだ、何かあったのか?』
「いや、何でも無い・・・」
伊織達から魔力を回収し、再び『ユグドラシル』と同化した俺は、その力を使いこなすための修行をしていた。
そして、それと同時に、さっきの『悲しい顔をしたシンシア』の夢を俺は見るようになっていた。
『伊織さんはあなたを愛しています。愛されているあなたはきっと優しい人なんです』
シンシアによく似た印象を持っているすももと呼ばれていた少女の言葉が蘇る。
その言葉が何故か脳裏によぎる。
(シンシア、お前が生きていたら、俺の姿を見て何て言うだろうな・・・)
そんなことを俺は考えていた―――
〜第75話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第74話になります〜
今回は、式守家編のまとめですね。
柾影の行動の推理と序盤の伏線の回収が前半。
(というかデータベースうんぬんの伏線は覚えている人がどんだけいるんだろう)(汗)
後半は、『神融合魔法』のリスクと、柾影の揺れる想いを表現してみました。
次回は最終決戦前の幕間っぽい話ですね。
予定では久々にラブ話の予定なので楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
時間的にはおはようございます。 フォーゲルさんの解かれた魔法、第74話をお送りして頂きました〜^^
今回は式守家編のまとめということで。柾影の回想シーンに対する、皆の見解と憶測がメインでしたね。
シンシアを失った悲しみを叩きつけるように、残虐な方法で拷問をする柾影。そしてシンシアとすももを照らし合わせて考えてみる和志。・・・もしかしたらこれも伏線なのかも?^^;
そして最後の切り札である、四神融合。一度しか使えず、二度目は死を招くおそれがあるその技を、どの場面で使うのかも気になりますね。
次回は久々のらぶらぶ話。幕間という感じですね。
ではでは〜。