『解かれた魔法 運命の一日』〜第73話〜
投稿者 フォーゲル
「シンシア!!」
倒れて行くシンシアさんの身体を抱き抱える柾影。
身体を支えた瞬間、その手に嫌な感触が残る。
それがシンシアさんの身体から流れた血であることに気が付くまで時間は掛からなかった。
「シンシア!!シンシア!!」
必死に呼びかける柾影。
その言葉に答えるようにゆっくり目を開けるシンシアさん。
しかし、その目の光は弱々しいものだった。
「ま、柾影くん・・・良かった、無事だったんだね・・・」
ホッとしたように一息付くシンシアさん。
「シンシア、大丈夫か?今すぐ病院に・・・」
そう言う柾影の口調には、焦りの色が浮かんでいた。
今、腕の中にあるシンシアさんの身体が、徐々に冷たくなっていく。
俺はこの感触を2回味わっている。
柾影の母親が亡くなった時、そして―――
俺の母親が亡くなった時だ。
俺の心と柾影の心がリンクする。
心に去来するのは自分の無力感。そしてもう一つの感情。
「ま、柾影くん、ゴメンね・・・」
大きく息を付きながら言うシンシアさん。
「何を謝ってるんだよ」
「わたしに関わったせいで、柾影くんが辛い目に合っちゃって・・・」
「お前のせいじゃないだろ」
溢れて来る涙を堪えながら言う柾影。
「柾影くん、日本は・・・京都はいいところなんだよね」
「ああ、とても住みやすいところだ。きっとお前も気にいるぞ」
「・・・そっか、行きたかったな。行って柾影くんと一緒に歩いて見たかった」
「『行きたかった』じゃねえよ!『行く』んだよ!!』
必死にシンシアさんに語り掛ける柾影。しかし―――
「柾影くん、お願いがあるの。」
「何だ、何でも聞いてやるぞ」
「・・・笑ってくれないかな。柾影くんの笑った顔が見たい」
「そんなことか?分かったよ」
精一杯の笑顔を作る柾影。
最も、その笑顔は今には崩れてしまいそうな笑顔だった。
「ありがとう・・・柾影くん。私、柾影くんのことが―――」
しかし、シンシアさんの言葉はそこまでだった。
「シン・・・シア?」
掠れた声で問い掛ける柾影。
しかし、シンシアさんから言葉が返って来ることは無かった。
「シンシアーーーーー!!」
心の中から絞り出すような声が、絶叫が、洞窟内に響いた―――
【やはりこうなったか・・・】
柾影の頭の中に響く声。
今まで、何度となく柾影には聞こえていた声だ。
【結局、人間というものは変わっておらぬのだな・・・】
「お前は誰だ?」
柾影はその声の正体を理解していた。
あえて、問い掛けたのは確信を得るためだ。
声はその答えには届かずに言葉を続ける。
【我は今まで、様々な人間の姿を見て来た、共通していたのは『力に溺れやすい』ということだ】
声は淡々と続ける。
【最初は、我が与えた力を世の中のために使おうとしていた、しかし、力を得ると私利私欲に走る人間ばかりだ】
「・・・」
【それでも、我はこの種族をこの地球上で繁栄した『人間』という種族を信じてみたかった】
「・・・」
黙って『声』を聞き続ける柾影。
【だが、私の前のマスターはあわや地球上から一つの種族を消し去りかけた。それも同種である人間をだ」
(ヒトラーのユダヤ人虐殺―――ホロコーストのことか?)
そして、そんな考え方を容認し、受け入れようするものまで現れる始末だ。
チラリとレオンを見る柾影。
レオンは柾影の父親と戦っていた。
通常なら、父親に加勢してシンシアを殺したレオンを倒そうとするはずだが・・・
呆然として動けないのか。それとも・・・
【お主の今の実力では、あの男には勝てまい】
挑発するように言う『声』
【どうだ?私を受け入れれば、私の力を与えてやろう】
“ヒュンッ”
柾影の前に一本の赤いマジックワンドが現れる。
全体的に蔦の文様が施された、禍々しい魔力を放つマジックワンド。
間違いない、あれは―――
俺の考えに反応するより早く、マジックワンドが答える。
【我が名は『ユグドラシル』太古より存在せしもの】
柾影は何も言わず、ウィスをユグドラシルに近づける。
『やめろ!柾影!こんなことをしてもシンシアは喜ばない―――』
ウィスの声は途中で掻き消えた。
『ユグドラシル』がウィスを取りこんだのだ。
そして―――
同化している俺は柾影の右腕を見て驚いた。
柾影の右腕に『ユグドラシル』の特徴である蔦の文様が浮かんでいた。
「・・・これがお前の『真の姿』なのか?」
『ああ、この状態で我の力は100%発揮される』
「そうか・・・」
柾影は未だに戦い続けるレオンと自分の父に目を向ける。
「おお・・・」
レオンは柾影を見て、その表情が歓喜に満ちる。
「やっぱり、お前に『ユグドラシル』は同化していたんだな」
「・・・知っていたのか?」
「ああ、そうなればもうシンシア様には用は無い。それに彼女は『ユグドラシル』を使いこなすには優しすぎた」
「・・・だから、シンシアを殺したのか?」
「そうだ」
その時、柾影の表情が消えたのにレオンは気が付いたのだろうか?
「もう一つ、俺の母親を殺したのもお前達か?」
「そうだ、その前から、俺はお前の方に『ユグドラシル』が同化しているんじゃないかと睨んだ。
そのことを確かめるために、お前の母親を殺した」
「そんなことのためにか!!」
怒りの抗議をあげる柾影の父。
「恨むのなら、『ユグドラシル』に見出された自分の息子を恨め」
レオンは柾影に向かい、跪く。
「さあ、『柾影様』命令を!!」
「そうか、分かった」
そう言って柾影は手を掲げる。そして一言呟いた。
「死ね」
次の瞬間、爆音が洞窟全体を揺るがした。
「くっ!?」
レオンは態勢を立て直す。
爆発で地上まで吹き飛ばされたレオン。
その爆発による煙の向こうから現れたのは―――
「柾影様、何故です!何故俺を攻撃するんです!」
「・・・お前はシンシアを殺した。それにお前は勘違いをしているぞ」
「勘違いだと!?」
「そうだ、お前は『ユグドラシル』を復活させて自分の思うように利用しようとしていたようだが・・・」
柾影は下を向いて呟く。
「『ユグドラシル』はもう『人間』を見限ったそうだ」
「どういう意味だ?」
「・・・「人間」は滅ぼすことに決めたらしい」
「なっ!?」
驚きの表情を浮かべるレオン。
「だ、だがそんなことを認めれば、柾影様はどうするんだ!?」
焦りながら、問い掛けるレオン。
嘲笑を浮かべながら柾影は言葉を続ける。
「知るか・・・シンシアが居ないこの世界がどうなろうと・・・」
「・・・くっ!!」
ここに来て本気でヤバイことに気が付いたレオンは近くに倒れていた柾影の父親を抱きかかえる。
「さあ、どうする!?いくら知らないと言っても父親を人質に取られては―――」
レオンの言葉はそこで途切れた。
柾影が振った右腕から、呪文も無く生みだされた魔力弾があっさりとレオンの右半身を捕えて吹き飛ばした。
―――柾影の父親ごと。
「ぐぁぁぁぁぁあ!!」
地面に転がるレオン。
「父さんには俺のこれから堕ちていく姿を見てほしくない―――だから」
俺は一瞬柾影の憎しみが消えたような気がした。
「だが、お前は別だ」
そして―――柾影のレオンに対する『拷問』が始まった。
「お願いだ、もう、もうやめてくれ・・・」
泣きながら懇願するレオン。
「お前、ちょっと黙ってろ」
そう言って胸倉を掴んだレオンの最後に残った右指を吹き飛ばす。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
もう何度目かも分からないレオンの悲鳴が響く。
「騒ぐなって・・・」
そう呟くと呪文を唱える。
みるみるうちにレオンの傷が回復する。
失った両手両足もだ。
『ユグドラシル』と完全に同化している柾影にはこんな真似も可能だ。
しかし、ますますレオンの表情に絶望が浮かぶ。
そして―――
また、レオンの左腕が切られる。
もうこんなことが何時間も続いているのだ。
しかも、レオンがショック死しそうになるとさっきみたいに回復させる。
そして、また死ぬ直前まで攻撃を続ける。
そんな光景を見せつけられながら、俺は震えていた。
―――人の憎悪というものはここまで深いものなのか―――
近くには何人かの人間の死体が転がっている。
レオンの仲間達だ。
その中には、柾影の母親を殺した奴もいる。
彼らもまた、柾影に『拷問』を受けて殺された。
しかも、レオンの『拷問』をしながらである。
(柾影の心の闇はこれだけ深いものだったのか・・・)
だが、その一方で俺の心には『ある想い』が芽生えていた。
俺の想いをよそに柾影は、レオンの頭に手を添える。
「死ね」
“ポンッ”
まるでスイカ割りで割られたスイカのようにレオンの頭が弾ける。
それによって発生した血しぶきを平然と浴びる柾影。
その表情にはもはや何の感情も浮かんでいなかった―――
“ザッ・・・”
ヨーロッパの森の中。中央にはキレイな泉がある。
ここに柾影は現れた。
その両腕には、亡くなったシンシアさんが抱きかかえられていた。
シンシアさんが語っていた『伝説』がある。
『ヨーロッパではね。亡くなった魔法使いは肉体が滅ぶと魔力だけになって地球の一部になるんだって。
美しい場所でその処置をされると、その魔力は神聖なものになるらしいよ』
柾影は、小さく口の中で呪文を唱え始める。
それは柾影なりのシンシアさんへの弔いだったのかも知れない。
シンシアさんの身体がキレイな光の粒子に変わっていく。
やがて、全身が光の粒子に変わると、サラサラと砂が風に吹かれるようにシンシアさんの身体は消えていった。
「・・・」
『もういいのか?柾影?』
「ああ」
『そうか・・・』
「それで、俺はこれからどうすればいい?」
『うむ・・・それだがな・・・』
その時だった。
“スゥッ・・・”
急速に意識が遠くなっていく。
俺はこの感じを前に感じていた。
この『柾影の過去』を見せられる前に、感じたのと同じ現象だ。
そして―――
「・・・くん!?・・・くん!?」
聞き覚えのある声に俺の意識がまた覚醒していく。
俺はゆっくりと目を開ける。
栗色の髪と大きなオレンジのリボン―――
「和志くん!?」
すももが瞳に涙をためながら、俺の身体を揺すっていた―――
〜第74話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第73話になります。
今回は柾影の心の闇の深さを感じてくれると嬉しいです。
シンシアを理不尽に奪われたこと。守り切れなかった自分自身に対する怒り。
過酷な状況の中、遂に闇に身をゆだねてしまった柾影。
果たして、和志は柾影を止められるのか?
次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。
予定ではもう1話式守家編が続きます。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
こんばんは、管理人です。フォーゲルさんより、「解かれた魔法」の第73話をお送りして頂きました。
いや、何というか・・・今回は重い話でしたね。
シンシアの死により、力を求めた柾影はユグドラシルを受け入れ。そしてシンシアと母を殺したレオン達一味を惨殺する。
このことから見ても、ユグドラシルの力は相当なものだと分かりますね。今までは勝てなかったレオンが、まるで子供扱い。
そしてその後の柾影を見ることなく、和志は現実に帰還する。
そろそろ最終章に突入なのかな? 楽しみにしましょ〜^^