『解かれた魔法 運命の一日』〜第72話〜







    
                                                  投稿者 フォーゲル






  しばしの沈黙が落ちた後、最初に口を開いたのは柾影だった。
 「どういう・・・ことだ・・・父さん」
 燃え落ちた覆面の下から現れた父の顔を見ながら問い掛ける。
 「・・・柾影、これが私の本当の姿だ」
 自嘲気味に答える柾影の父。
 「そもそも私の当初の目的は、そこの男―――レオン=ゲッペルスを捕えることだ」
 レオンを睨みながら答える柾影の父。
 「私は、元々日本に居たころから、魔法連盟に敵対する、抵抗勢力を見つけ検挙するのが仕事だったのだ。
  魔法というものは、扱い方を間違えると危険なものだ。だから、強力な組織が統括しなければならない」
 「で、でも日本の魔法連盟はそんな考え方してないだろ?」
 疑問をぶつける柾影。
 「日本の魔法連盟は、考え方が甘いのだ。最も古代から島国で独自の発展を遂げられた分『外国からの『敵』の対応には甘かった』という
 考え方も出来るがな」
 (ヨーロッパでは、陸続きな分、あっさり情報が伝わりやすいってことか?)
 そんな俺の考えをよそに話を続ける柾影の父。
 「そんなある日、表向きは、『日本から来た魔法大使』として日本領事館で働いていた私のところに魔法連盟のヨーロッパ本部から依頼が来た」
 「それって・・・」
 「そうだ、レオン=ゲッペルスとその仲間達を捕え、魔法連盟への反逆を防げと」
 「なるほど、それで俺達の動向を追っていたという訳か」
 レオンが苦虫を噛み潰したような顔をする。
 「私は、情報を集めてお前達が、ある少女に近づいているという情報を掴んだ」
 「・・・私ですか」
 「そうだ、シンシア殿。そして、その近くに柾影、お前がいるということも知った」
 「だから、私は考えた。まずはシンシア殿とお前を引き離すことを考えた」
 「ちょっと待て、まさか―――」
 柾影の問いに、父親は重々しく頷いた。
 「部下を使って、『ユグドラシル』がシンシア殿の部屋にあったと言ってお前から強制的に引き離したのだ」
 「じゃあ、聞くぞ、父さん」
 柾影が重々しい口調で問い掛ける。
 「今、『ユグドラシル』はどこにあるんだ?」
 柾影としては、シンシアさんが『ユグドラシル』を封印出来れば、ひとまずユグドラシルの脅威は去る。
 その後は、レオン達がどうなろうと柾影達には関係は無くなる。
 しかし、柾影の父はその問いには首を振る。
 「むしろこっちが知りたい、そっちが隠しているのでは無いか?」
 レオンを睨みつける柾影の父。
 「俺達も探してるんですよ。一体どこにあるのか・・・」
 その時、レオンは何故チラリと柾影を見た。
 一瞬、疑問を抱いた俺だったが、すぐに頭を切り替える。
 
 「そんなことはどうでもいい!!」

 怒りに満ちた声を柾影があげたからだ。
 「俺が知りたいことはただ一つだ」
 チラリとシンシアさんを見ながら、柾影は口を開く。
 「父さん、『ユグドラシル』を封印すれば、シンシアは魔法連盟から追われることは無くなるのか?」
 しばし考え込む、柾影の父。
 その口から出たのは、無情の答えだった。
 「残念ながら、それは出来ない」
 「何でだよ!!」
 「柾影くん、落ち着いて!!」
 当事者のシンシアさんが柾影を宥める。
 「過去の歴史を見ても、『ユグドラシル』がどれだけの破壊と殺戮をもたらしたかお前も分かるだろう」
 諭すように言う柾影の父。
 「『ユグドラシル』は破壊の力だ。『封印する』というがその封印もいつどんな拍子に解かれてしまうか分からない。
  今ここで私が手を引いたとしても、次々とシンシア殿のところには刺客が送られるだろうな」
 「そうか・・・分かったよ・・・じゃあ、こうするしかないよな!!」
 ウィスを一振りする柾影。

 “ヴンッ”

 呪文も唱えてないのに、柾影の前方に大きな魔法弾が現れる。
 (何だと!?)
 これには俺も驚いた。
 5・6の魔法弾、その威力が今までと比べると格段に攻撃力が上がっている。
 俺の知ってる限りでは、柊さんの最強呪文並みの威力はあるだろう。
 「行け!!」
 その呪文が敵―――自分の父に向かって飛んでいく。
 「くっ!『アウス・ルクトゥース!!』」
 柾影の父の目の前に、魔力の渦が発生する。
 その中に、魔力弾が呑まれて消えていく。
 しかし、何個かは吸い込み切れなかったのか―――

 “ズガガガガァン!!”

 大きな炸裂音がした。
 「クッ・・・」
 一瞬爆発音に怯みながらも、柾影はシンシアに近づいて耳打ちした。
 「シンシア、お前は『ユグドラシル』を探して封印しろ!!落ちる前にいたヒトラーの執務室、あそこだろ?ユグドラシルが出現するとしたら」
 「う、うん・・・そうだけど・・・でも」
 シンシアさんはもうもうと立ちこめる煙を見つめる。
 その向こうにはおそらく柾影の父がいるはずだ。
 「親父は俺が食い止める!だから早く!!」
 「・・・分かった」
 立ち上がるシンシアさん。
 「・・・俺も一緒だから心配するな」
 レオンが近寄る。
 「・・・分かった。シンシアを頼む」
 「行きましょう。シンシア様」
 「うん・・・柾影くん!!・・・死んだらダメだよ!!」
 「分かってるよ!早く行け!」
 洞窟の奥に向かって走り出すシンシアの姿を見送った後、柾影は呪文を唱え始める。
 (親父・・・親父がどうしてもシンシアを殺すと言うんなら・・・俺は)
 柾影はウィスを構える。
 その心に昏い心が芽生え始めていたのを同化している俺は気づいていた。
 そして、その感情が、俺が知っている『未来の柾影』から感じたものと似ていることに俺は気が付いた。






  「ここですか?シンシア様」
 「ええ・・・」
 柾影さんと別れた後、シンシアさんはレオンさんと一緒にヒトラーの執務室に辿り着きました。
 移動している間シンシアさんの心の中には2つの想いがありませんでした。
 (柾影くん・・・お願い無事でいて!!そしてお父さんと戦うのをやめさせないと・・・!!)
 その必死に想いは同化しているわたしも感じることが出来ました。
 (わたしだって、もし和志くんがわたしのために例えば兄さんと戦うなんて絶対にイヤです・・・)
 シンシアさんとレオンさんは一旦洞窟の奥から迂回して、逆側から魔法で壁を崩し中に入りました。
 この下で柾影さんとお父さんは戦っているはずです。
 しかし、戦っているような音はしませんでした。
 きっと、場所を移動しながら戦っているのでしょう。
 「シンシア様!!お早く!!」
 「ええ、分かっています」
 シンシアさんは床に手を付けると呪文を唱え始めます。
 
 『ミル・ウルスカディ・ラーク・フォイル・ドラシル・・・』

 その呪文の声と共に床に魔法陣が浮かび上がります。
 そばにいるレオンさんが息を呑む様子が分かりました。
 しかし―――
 魔法陣が浮かび上がっただけで、それ以上の変化はありませんでした。
 「ど、どうして?」
 「どうしたんですか?シンシア様?」
 「・・・ありません」
 レオンさんの問いにそう答えるシンシアさん。
 「ありませんって・・・」
 「『ユグドラシル』がですか?」
 「ええ・・・」
 「そんな、どういうことですか!?」
 「分かりません・・・あっ」
 シンシアさんの頭の中で『あること』が思い出されました。
 それは、さっきの柾影さんの呪文。
 魔法に詳しくないわたしでも、それまでの柾影さんの呪文とは違うことが分かりました。
 それからシンシアさんの脳裏に様々な考えが浮かびます。

 ―――私の前に初めて『ユグドラシル』が出現した時、そばには柾影くんもいた。

 ―――最近柾影くんが何か悩んでいるような印象を受けたこと。

 ―――ヒトラーの血縁の私が見つけられなかったこの地下壕への入口を柾影くんが見つけたこと。

 ―――そして、さっきの強力になった柾影くんの魔法。


 このことがシンシアさんの頭の中で一つになって、『ひとつの結論』が導き出されました。

 それはシンシアさんにとっては自分が死ぬことよりも辛い現実でした。

 「シンシア様!!」
 レオンさんの呼び掛けにようやく気が付いたシンシアさんはようやく頷きます。
 「大丈夫ですか?」
 「え、ええ大丈夫です・・・」
 一息付くシンシアさん。
 「しかし、ここじゃないとすると『ユグドラシル』はどこに・・・」
 「場所は、分かりました」
 レオンさんの問いに答えるシンシアさん。
 「・・・どこですか?」
 しかし、その問いには答えずにシンシアさんは呟きました。
 「戻りましょう・・・」
 「どこにですか?」
 「・・・柾影くんのところです」






  「ハァ・・・ハァ・・・」
 場所を移動しながら柾影は父親と戦い続けて来た。
 最も力の差は歴然で、柾影は父親に傷を付けることも出来ずに足止めするのが精一杯だった。
 しかも、呪文を唱えようとすると―――

 “ビシュッ”

 足を止めた瞬間、鞭が柾影の足元を襲う。
 柾影の父のマジックワンドは鞭になっていて、上半身を魔法、下半身を鞭で狙われ、柾影は魔法を使うことも出来なかった。
 幸い、この洞窟の中では、大きな魔法を向こうも使えないのか、一撃で行動不能になるようなことは無かったが。
 (クソッ・・・どうする?どうすればいい?)
 このままじゃ、いつか動きを止められて終わる。
 そうなれば、柾影の父はシンシアさん達の方に向かう。
 レオンが付いているとはいえ、それでも分が悪いだろう。
 さっきの発言からして、シンシアさんが『ユグドラシル』を封印したとしても―――
 柾影の心に絶望感が漂い始める。
 その時―――

 【力を貸すぞ】

 柾影の心に直接語りかける声。
 (誰だ、お前は!?)
 
 【我ははお前の味方だ。お前が我を受け入れれば力を貸してやる】

 (お前は何者だ?)

 【我は―――】

 『柾影、その声に耳を貸すな!そいつは―――』

 ウィスの声がやけに遠くで聞こえる。
 その時だった。
 
 「柾影くん!!」

 「シンシア!!」
 
 後ろに空いていた洞窟の中からシンシアさんが走って来る。
 「シンシア!『ユグドラシル』はどうした?」
 「落ち着いて聞いて下さい!『ユグドラシル』は―――!!」
 シンシアさんが次の言葉を発しようとした時―――

 「死ね」

 いきなり柾影の数メートル前にレオンが出現する。その手には魔法弾が蓄えられていた。
 (なっ・・・!?)
 とっさのことで対応が出来ない柾影。
 「柾影くん!!」
 そこからは、全てがスローモーションに見えた。
 目の前で魔法弾が視界一杯に広がる。
 そして、転移魔法を使ったのか柾影の目の前に出現するシンシアさん。
 次の瞬間―――
 柾影の目に写ったのは、魔法弾に貫かれて倒れて行くシンシアさんの姿だった―――








                                   〜第73話に続く〜


                           こんばんわ〜フォーゲルです。第72話になります。

                       過去編も遂に佳境。シンシアを守るため、実の父を敵に回して戦う柾影。

                          シンシアも気が付いた真実を伝えるために柾影の元へ。

                              柾影に囁く謎の声。突然のレオンの行動。

                                そして、ついに最大の悲劇が―――

                                 次回で過去編は終了予定です。

                          この状態からどうなるのか。楽しみにして頂けると嬉しいです。

                                  それでは、失礼いたします。



管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法の72話をお送りして頂きました!

いよいよ過去編も佳境。魔法連盟の手先だった父と闘う柾影。しかし、その手には予想外の力が宿っており・・・。

気付いたのはシンシア。そしてレオン。柾影は・・・どうなんでしょうか。おそらく気付いてはいないと思いますが、ある意味気付かないままにでしょうね。

そしてレオンの凶行。柾影に向かって放たれた凝縮された魔力が貫いたのは、彼ではなく庇ったシンシアだった・・・。

さて、次回は過去編の最終回。お楽しみに〜^^



2009.9.3