『解かれた魔法 運命の一日』〜第71話〜









                                                    投稿者 フォーゲル








  夜の帳が降りて来て、静まり返るベルリンの街。
 時刻は日付が変わろうかと言う頃。
 静まりかえる夜の街を行く2つの影。
 柾影とシンシアさん。
 人目を避けるように、ベルリンの街に入った2人は、そのまま真っ直ぐにヒトラー終焉の地―――
 総統府の跡地を目指した。
 時間を掛ければ掛けるほど、魔法連盟はジワリジワリと2人を追いこむことは分かっていた。
 だったら、こっちは早めに動いて、『ユグドラシル』を封印する。
 それが2人の立てた作戦だった。
 (だけど・・・)
 俺は気になることがあった。
 そして、そのことは柾影も気にしていたのか、隣を歩くシンシアさんに話掛ける。
 「・・・どう思う?」
 「明らかに、待ち構えているとしか思えないわね」
 そう、いくら慎重に移動しているとはいえ、ここまで魔法連盟からの妨害が全く無いことだ。
 さすがに、柾影達がベルリンに向かったことに気が付いていないということは考えにくい。
 魔法連盟もヒトラー最期の地であるベルリンはマークしているだろう。
 あるいは、スイスに居た時のように、レオン達の方に気を取られているか・・・
 しかし、シンシアさんがこちらに居る以上、レオン達の方は陽働だと考えるはず。
 今更そちらに人員を割いているとも思えない。
 (レオン達か・・・)
 柾影の心に母親を殺した魔法使いの姿の後ろ姿が蘇る。
 うまく気配を隠したつもりかも知れないが、あれは間違いなくレオンの仲間の一人だった。
 (どうして、母さんを殺す必要があった?一体何のために・・・)
 柾影の心にフツフツと黒い感情が湧き上がる。
 ヨーロッパに来てからの柾影自身に対する周りの人間の嫉妬、シンシアに対する差別、レオン達への不信感。
 様々な出来事が柾影の心を少しずつ蝕んでいくのが分かった。
 しかし、その心は何とか平穏を保つことが出来ていた。
 その理由は―――
 「柾影くん、大丈夫?」
 いつのまにか、立ち止っていた柾影を心配したのか、
 シンシアさんも少し先で立ち止っていた。
 「あ、ああ大丈夫だ・・・」
 慌てて横に並ぶ柾影。
 「・・・大丈夫だよ」
 「えっ?」
 まるで柾影の不安を見抜いたかのように呟くシンシアさん。
 「何があっても、私と柾影くんなら乗り越えられる。私はそう信じてるから」
 「シンシア・・・」
 柾影の心が平穏を取り戻していく。
 このことが柾影の心を支えているのが、シンシアさんだということは間違い無かった。
 「それに・・・無事に封印が終わったら、私を日本に連れて行ってくれるんでしょ?」
 「・・・ああ」
 「柾影くん、今度従兄妹が出来たんだっけ」
 「親父のお兄さん夫婦が、身よりの無い子を引き取ったんだ。俺もまだ写真でしか、見たことないけど可愛い女の子だよ」
 (姉ちゃんのことか・・・)
 「その娘とも仲良くなりたいな、私も両親が死んでから一人だったから・・・」
 「きっと仲良くなれるさ、大丈夫だよ」
 そんなことを話しながら、2人は総統府の跡地に近づいていた。





  目の前に広がるのは大きな公園。
 近くには花壇や小川が流れている。
 とても、半世紀前、ヨーロッパを恐怖に陥れた男がいた場所とは思えない。
 ここがアドルフ・ヒトラー終焉の地。総統府の跡地。
 第2次世界大戦終了後、総統府はただちに取り壊され、この公園が出来たらしい。
 一刻も早く『悪魔』と呼ばれ恐れられたヒトラーの痕跡を消したかったのだろう。
 それほどまでに、ヒトラーはタブー視されている。
 それは、現代になってもシンシアさんの扱いを見れば一目瞭然だ。
 「え〜とね・・・」
 シンシアさんは、必死になって地下壕への入口を探している。
 文献によるとヒトラーは最期、総統府に作った地下壕の中で服毒自殺している。
 魔法連盟のヒトラーに対する態度から考えると、地下壕もとっくに埋められてるんじゃないか―――
 柾影はそう思った。
 シンシアさんによると、最初は魔法連盟もそうしようと思ったらしい。
 しかし、地下壕はあまりの魔力濃度により、その当時の魔法連盟のトップでも中に入ることは出来なかったらしい。
 仕方ないので、入口に封印を掛け中に入れないようにした。
 その入り口を今探しているのだ。
 「う〜〜ん、この辺のはずなんだけど」
 さすがに半世紀経ってヒトラーの魔力を血縁でもあるシンシアさんでも、そう簡単には分からなくなっているのか―――
 そう考えた時だった。

 
 【こっちだーーー】


 「え?」
 不意に柾影の頭に、謎の声が響く。
 思わず、周りを見渡す柾影。
 しかし、周りには誰も居ない。
 だが、その声に柾影は素直に従った。
 やがて、公園の傍らに一本だけ立っていた小さな木の前で導く声は消えた。
 「どうしたの?柾影くん?」
 シンシアさんも柾影のそばに来る。
 そして、柾影の目の前に立っている木に手のひらを当てると―――
 「・・・ここだ」
 「えっ?」
 「柾影くん、ちょっと離れててね」
 シンシアさんは、小さく呪文を唱える。
 おそらく、封印を解く魔法なのだろう。
 白い光が木を包む。
 そして、光が消えた後には、小さな階段が出現していた。
 「これが・・・」
 「間違いないね。地下壕に続く階段だよ。だけど・・・」
 シンシアさんは、不思議そうに首を傾げる。
 「柾影くん、よく分かったね。血縁の私でも分からなかったのに」
 「いや・・・何となくな」
 頭に変な声が聞こえたからとは言わなかった。
 柾影としては、今ここでシンシアさんに変なことを言って余計な心配を掛けさせたくない―――
 そんな柾影なりの配慮だったのだろう。
 「じゃあ、行こう」
 「ああ」
 頷き合いながら、柾影とシンシアさんは階段を下に降りていった。






  空気が澱んでいた。
 地下壕は、空気の入れ替えが無いといずれ窒息してしまう。
 だから、空調設備は一番大事なはずだ。
 事実、柾影もシンシアさんも息苦しいような様子は無い。
 となると・・・
 「魔力かな・・・」
 「おそらくは、そうだろうな・・・」
 呟くシンシアさんに、同意する柾影。
 空気は入れ替えがされても、中で澱んでいる魔力は入れ替えられない。
 息苦しくなくても、空気が澱んでいるように感じられるのはそれが原因だろう。
 「で、『ユグドラシル』が現れるとしたら、どの位置なんだ、シンシア?」
 「この地下壕の中でも、ヒトラーの魔力が一番濃い場所・・・恐らく自殺した執務室だね」
 そこへ向かって歩みを進める柾影とシンシアさん。
 (しかし・・・)
 俺は、この地下壕の中に充満している『魔力以外のモノ』が気になった。
 胸を締め付けられるような想いにかられる。
 (これは・・・哀しみか?)
 この地下壕の中で無念の想いを抱いて死んでいったヒトラーの想いなのか?
 確かに独裁者である前に一人の人間であるから、そういう想いに駆られるのは当然かも知れないが・・・
 やがて、柾影とシンシアさんは執務室の前に立つ。
 その時だった。
 入って来た通路の奥から、以前感じた魔力反応が近付く!!
 「・・・!!」
 同時に左右に飛び退く柾影とシンシアさん!!
 その魔力は執務室の扉を凍りつかせた。
 「やれやれ・・・しつこいぞ」
 「もう、なりふり構っていられないのでな」
 そこには、以前魔法連盟の屋上で戦った覆面の男がいた。






  状況は不利だった。
 以前、魔法連盟の屋上で戦った時に、分かったことだが、恐らく柾影とシンシアさんが連合してもこの男には勝てない。
 しかも、場所でも不利だった。
 ここは地下。
 柾影が得意とする破壊力重視の攻撃では、下手するとここが崩れかねない。
 『シニック・レリス・ライ・チャシル・キル・ジュビル!!』
 柾影が白い魔力光の槍が覆面男に襲いかかる。
 「・・・」
 しかし、覆面男はその魔力の槍をあっさり交わす。
 そのまま接近戦に持ち込もうと、こちらにダッシュを掛ける!!
 柾影は―――
 そのままその場にしゃがみこんだ!!
 「・・・!!」
 覆面男に動揺の気配が生まれる。
 その前には『ウルスカディ』の弓を構えたシンシアさんがいた。

 “ヒュゴウッ!!”

 シンシアさんが光の矢を放つ!
 しかも、柾影みたいに一本だけじゃなく、通路一杯に矢が出現した。
 これはよけられない。
 しかし―――
 覆面男はそれをあろうことか、呪文を唱えずに腕で叩き落した!!
 (何!!)
 もう片方の手のひらには、魔法が完成していた!!
 (マズイ!!)
 その時だった。
 覆面男はとっさにその魔力を通路の壁に向かって放つ!!
 壁が爆発するのと、柾影とシンシアさんが立っている場所が崩れたのは同時だった。





  「クッ・・・!!」
 柾影は、何とか立ち上がる。
 どうやら、魔法同士のぶつかりあいで、通路の下に出来た空間に落ちたらしい。
 ここは天然の洞窟のようだった。
 「柾影くん!!」
 「シンシア!!大丈夫か?」
 「う、うん・・・だけど一体何が・・・」
 「俺の魔法をあいつが迎撃したんだ」
 聞き覚えのある声に振り向く柾影とシンシアさん。
 「レオンさん!!」
 そこには、今の魔法の余波を喰らったのか多少ダメージを受けたレオンの姿があった。
 「シンシア様、『ユグドラシル』は大丈夫ですか?」
 その言葉に思わずムカッとする柾影。
 (・・・シンシアは心配じゃないのかよ)
 「・・・まだ、姿を見せてないです」
 シンシアさんも警戒周辺もながら答える。
 (そうだ、あの覆面男は・・・)
 
 “バシャ・・・”

 この地下洞窟は地底湖の上にいくつかの小さい島が点在しているような形だ。
 覆面男は、柾影たちがいるのとは違う島の上に立っていた。
 いや、もう『覆面男』と呼ぶのは間違いだろう。
 さっきの爆発の影響か覆面が取れていた。
 「・・・そんな・・・」
 呆然と呟くシンシアさん。
 固まった柾影の口から出たのは認めたくないという感情が詰まった言葉だけだった。



 「とう・・・さん・・・」








                                 〜第72話に続く〜



                         こんばんわ〜フォーゲルです。第71話になります〜

                            段々、人間への不信感を募らせていく柾影。

                今や、シンシアの存在が彼の心を支えているというのが表現出来ていればなと思います。

                 そんな中、ついに目的地に到着。ユグドラシルまであと少しに迫るものの・・・

                            ついに明らかになった覆面男の正体。

                       読者の皆さんが驚いてくれたら作者としては意表をつけたのかなと。

                          次回で(恐らく)過去編に決着が付くかと思います。

                                それでは、失礼します〜



管理人の感想

解かれた魔法、第71話をお送りして頂きました。

ヒトラー最期の地、地下壕の中で繰り広げられる、覆面の男との一戦。

だが実力差があり、柾影とシンシアは次第に追い込まれていく。だがそこにレオンが駆けつけ、何とか窮地を脱するも・・・。

まさかの展開。魔法連盟の男は、あろうことか柾影の父親。

敵対する父に、殺された母。どんどん削れていく柾影の心を、シンシアは癒し切れるのか?(ぉ

柾影を呼んだ謎の声も気になりつつ、今日はこの辺りで〜^^



2009.8.26