『解かれた魔法 運命の一日』〜第70話〜







                                                     投稿者 フォーゲル







  「母さん!!」
 倒れて行く母親に向かって駆け寄る柾影。
 その背後の人混みの中、明らかに今の魔法弾を放ったと思われる人影が見えた。
 「・・・!!」
 人影に向かって柾影は右手を構え―――
 (・・・って、おい!)
 いくら母親を攻撃した奴が目の前にいるからとはいえ、
 一般人も周りにいるんだぞ!
 しかし、ただ同化しているだけの俺にそれを止めることは出来ず―――

 “ズガガガガガガァン!!”

 コントロールも何もされていない魔力がその男に向かって放たれた。
 幸い、その魔力は一般人に当たることは無かった。
 最も、その男にも当たらなかったが・・・
 「・・・」
 柾影は訝しげに立ち尽くす。
 母親を攻撃した魔力の波動パターンに見覚えがあったからだ。
 「柾影くん!!」
 しかし、柾影のそんな考えはシンシアさんの声に掻き消される。
 「・・・!!」
 その声に慌てて振り向く柾影。
 柾影の母親はシンシアさんが介抱していた。
 「母さん!!」
 倒れている母親に駆け寄る柾影。
 一目見て、ハッキリ分かった。
 傷口から流れる出血の酷さから考えると―――
 (・・・もう助からない・・・)
 シンシアさんも何も言えず、押し黙ったままだ。
 「・・・ま、柾影・・・」
 「母さん!!」
 囁くような声で言う母親。
 「待ってろ!今・・・」
 もう助からないことは分かり切っている。
 それでも諦めきれないのか。柾影は本当に使える程度に過ぎない回復呪文を使おうとして―――
 「やめなさい・・・」
 しかし、それを止めたのは当の母親本人だった。
 「今の・・・あなたには、やる・・・べきことが・・・あるでしょう?」
 そう言ってシンシアさんを見る母親。
 (柾影の母親は、柾影を取り巻く状況を知っていたのか?)
 「柾影・・・」
 ゆっくりと手を伸ばす母親。
 慌ててその手を掴む柾影。
 「お願い・・・『あの人』を止めて。わたし・・・には止められ・・・なかった」
 「『あの人!?』あの人って誰だよ!!」
 必死に問い掛ける柾影。
 しかし、母親は一息付くと―――その手から力が抜けた。
 「かあ・・・さん・・・?」
 呆然とした声で問い掛ける柾影。
 しかし、もう2度と母親から返事が帰って来ることは無かった―――







  ただ、無言で歩き続けていた。
 柾影もシンシアさんも。




 母親が息を引き取った後、ようやく現れた父親に柾影は食ってかかった。
 父親も、柾影と同じで自宅の方から爆音がしたので、慌てて来てみたと言うことらしかった。
 そして、母親の遺体を見て、泣き崩れた。
 それでも、ようやく落ち着きを取り戻すと柾影にこう告げた。
 『柾影、お前はお前のやるべきことをやれ』と。
 やるべきこと―――それは母親と同じようにシンシアさんを守れということだろう。
 しかし、柾影はなかなか動こうとしない。
 それはそうだろう。母親の遺体をこのままにしてはいけない。
 「大丈夫だ。美月(みつき)は私が丁重に葬る」
 そう言って自分の妻―――美月さんの身体を抱える柾影の父親。
 「父さん達は知っていたのか?俺の行動を」
 「何となくはな」
 そして、柾影の目を見つめて言った。
 「柾影。私達はお前の行動をとがめはしない。お前の信念のままに行動しろ」
 「でも・・・」
 柾影の心に苦悩の色が浮かぶ。
 自分の行動のせいで母親を死なせてしまったという自責の念が柾影の心を支配していた。
 「柾影、親というものはな、子供のためならいつでも犠牲になる覚悟というものがあるんだ」
 「・・・分かった。でも親父も気をつけろよ」
 「分かっている。お前もな」
 そう言って父親は柾影に近づく。
 そして、最後に一つだけ忠告をしていった。







  父親と別れた後、柾影とシンシアさんは再びレオンと合流した。
 レオンの説明によると、もうこの街には魔法連盟の手が回りまくっているらしい。
 まず、最優先すべきなのは、『ユグドラシル』の回収―――
 そう主張するレオンに柾影とシンシアは同意した。
 『力を利用したい』レオン達と『封印したい』柾影とシンシア。
 思惑は全く違うが、どっちにせよ『ユグドラシル』を手に入れなければ始まらない。
 レオン達の調べによると、姿を消した『ユグドラシル』が姿を表すとすれば、
 前のマスターである、アドルフ・ヒトラーの最期の場所。
 ドイツ・ベルリンの第三帝国総統府の跡地。
 そこにはヒトラーの魔力が今も渦巻いているらしく、魔法連盟の重要管轄地らしい。
 柾影とシンシアの目的地は決定した。
 しかし、そこまで行くには大勢で言ったら時間が掛かる。
 ちなみに、今柾影達がいる国は永世中立国として有名なスイス。
 ここでなら、差別も何も無いだろうし、柾影の勉強のためにもいいだろうと。
 恐らく、藤林家はそう判断したのだろう。
 ・・・実際にはシンシアさんの例を見ても分かるように酷い差別が蔓延していた訳だが。
 そうして、柾影とシンシアさんはベルリンに向けて出発した。
 そう、『2人だけ』で。
 あんまり、大勢で行くと魔法連盟にマークされるし、ここは少人数で。
 そう柾影は主張した。
 レオン達もその意見に納得した。
 今頃、レオン達は別ルートからベルリンを目指しているはずだ。
 もちろん、柾影には別の思惑もあった。






  (こうすることで、レオン達からシンシアを引き離せるしな)
 焚き火に薪を投げ入れながら、考え込む柾影。
 ここはスイスの山中。
 おそらく、明日には山を越えてドイツに入れるはずだ。
 幸い、魔法連盟もことを大きくしたくないのか、柾影とシンシアさんを指名手配したような形跡は無かった。
 なので、普通に街の中を進んでもいいのだが・・・
 『私のせいで他の誰かが傷つくのは嫌』
 そう主張したシンシアさんの意見で山の中を強行ルートを進んだ。
 (てっきり反対するかと思ったんだけどな・・・)
 意外とあっさりレオン達がシンシアさんの護衛を任せたことを柾影は訝しがっていた。
 以前にシンシアさん自身が言っていたことを思い出す。


 【『ユグドラシル』がマスターを選ぶ基準は心の力】


 それはつまり、もし『ユグドラシル』がシンシアさん『以外』の誰かをマスターに選んだらあっさりレオン達はシンシアさんを見捨てかねないということだ。
 (そんなこと、絶対させてたまるか・・・)
 今なら、柾影の父親がした忠告の意味も分かる。
 
 『柾影、心を平穏に保て、分かったな・・・それとレオン達には気を付けろ』


 そう言われた時に柾影は気がついた。
 母親を狙撃した魔力の波動パターンがレオンの仲間の一人に似ていたことを。
 ・・・柾影自身は気が付いていないようだが、同化している俺には分かったことがある。
 柾影自身の心に暗い感情―――怒り、哀しみ・憎しみなどが浮かんで来ていることを。
 ひっくるめて言えば、『人間への不信感』のようなものが。
 そして、それを抑えているのが―――

 「寝れないの?」

 聞きなれた、そして柾影にとっては胸が高鳴る声が聞こえたのはその時だった。
 「・・・シンシアもか?」
 「うん・・・」
 シンシアさんは柾影の横に腰を下ろす。
 しかし、2人共そこから何も語らない。
 しばらくして、口を開いたのはシンシアさんだった。
 「・・・ゴメンね」
 「何が?」
 「こんなことに巻き込んで」
 「お前のせいじゃないだろ?」
 その言葉にシンシアさんは首を振る。
 「・・・私のせいだよ!!だって私と関わらなかったら、柾影くんのお母さんだって!!」
 大きな声を出したことに気が付いたシンシアさんは周りを見渡した後、息を付く。
 「ねえ、柾影くんはどうして、私にここまで関わるの?今までの友達はみんな、私がヒトラーの末裔だって知ると離れていったのに・・・」
 大きな瞳で柾影の瞳を覗き込むシンシアさん。
 (言えるかよ・・・『お前のことが好きだから』なんて)
 柾影は一息付くと逆にシンシアさんの瞳を見つめながら言う。
 「友達が困ってるのを放っとけるかよ。それに・・・お前には笑ってて欲しいからな」
 「・・・ありがとう、柾影くん」
 「なあ、シンシア・・・」
 今度は柾影から話を振る。
 「もし、無事に『ユグドラシル』の封印が終わったら、俺と一緒に日本に来ないか?」
 「えっ・・・」
 その言葉に顔が真っ赤になるシンシアさん。
 「ち、違うぞ、深い意味は無くてだな・・・俺ももうヨーロッパにはいれないし、日本ならヒトラーの末裔ってだけで迫害されることもないだろう?、
  俺の藤林家は魔法連盟に顔が聞くし、ヨーロッパの魔法連盟も手出しは出来ないだろうからな」
 「そ、そうだよね・・・柾影くんの実家って、確か京都って街だよね」
 「そうだよ」
 「ガイドブックで見たけど、自然と歴史があっていい街・・・行ってみたいな」
 そんな会話をしながら、2人だけの夜は更けていった。





  その夜、柾影はシンシアさんの手を握り締めていた。
 『・・・手を握って欲しいな』
 寝る前にそうお願いしたシンシアさんの願いを柾影は断れなかった。
 狭いテントの中、本当に安心したようにスヤスヤと眠るシンシアさんの寝顔を見ながら、柾影は誓っていた。
 (俺は母さんを守れなかった・・・だから、シンシアだけは絶対に守って見せる―――!!)
 柾影の心を支えているのはその想いだけだった―――





                                〜第71話に続く〜


                         こんばんわ〜フォーゲルです。第70話になります。

                            今回は比較的サクサク書けました。

                   今回は母親の死から、結末の地ベルリンへ向かう柾影とシンシアの様子でした。

               ・・・読者さんから、『【愛の逃避行】だな、これ』というツッコミが飛んで来そうな展開です。
 
                    周りは全て敵、敵じゃ無いにしてもとても信用出来ない状況において、

                  2人にとってお互いが最後のよりどころというような状況を感じて頂ければ嬉しいです。

                柾影、その言葉はある意味告白みたいなものじゃないか?とか作者自身が思いました>俺と一緒に〜

                          次回はいよいよ過去編クライマックスに入ります。

                               それでは、失礼します〜




管理人の感想

・・・愛の逃避行だな、これ(笑)

というわけで管理人です。ついに大台、第70話をお送りして頂きました〜^^

一時、戦闘は終了。しかし、見せしめのつもりなのか、柾影の母親が犠牲になるという最悪なシナリオが。

しかも犯人はレオンの仲間。けれど後ろを振り向いていられない柾影は、せめてシンシアは護り通すと決意を新たに、ベルリンの地へと向かう。

そして、ついに柾影がプロポーズ!?(笑) まあシンシアも満更じゃない・・・というか、誤魔化した柾影に少し不満な様子でしたし。

・・・うん、愛の逃避行だな、これ(爆)


それでは、次回のクライマックスも楽しみにしましょー!



2009.8.18