『解かれた魔法 運命の一日』〜第69話〜
投稿者 フォーゲル
「怪我は無いか?」
天井裏から部屋の中に入って来て、シンシアさんに話し掛ける柾影。
「う、うん・・・大丈夫」
握られていた手首を摩りながら言うシンシアさん。
「で、でも。どうして柾影くんがここに?」
「どうしてって・・・お前を助けに来たんだよ。このままじゃ・・・」
「・・・『私が処刑される』から?」
「なっ・・・お前、知ってたのか!?」
コックリと頷くシンシアさん。
その表情には、どことなく悲しげな感情が浮かんでいた。
「私の血筋は、ヨーロッパでの魔法世界ではタブー視されているから・・・何としてでも消したい人達がいるのよ」
「・・・」
黙りこむ柾影。
「でも、私はまだ死ぬ訳にはいかないの。『ユグドラシル』を封印するまでは―――」
シンシアさんがそこまで言った時だった。
「・・・『まだ』って何だよ」
「えっ?」
「それじゃ、『ユグドラシル』を封印したらどうなってもいいみたいに聞こえるぞ」
怒りの籠った口調で言う柾影。
「『ユグドラシル』を封印してからがお前の人生の再スタートじゃないか、それじゃ上手くいくものも上手く行かないぞ」
「・・・ゴメンね」
謝るシンシアさん。
“ドガァァァァァァンッ”
どこからか響いて来る爆発音。
「レオン達、ド派手に暴れてるな〜」
「この爆発音って・・・」
「そう、レオン達がとにかく派手な攻撃魔法を使って魔法連盟の連中を引きつけてくれてるんだ」
シンシアさんに状況の説明をする柾影。
「とにかく、ここから脱出するぞ」
手を差し伸べる柾影。
「う、うん!」
その手をしっかりと握るシンシアさん。
こうして、2人の脱出劇が始まった。
脱出は熾烈を極めた。
何しろ、後から後から魔法使いが現れては攻撃をして来るのだ。
しかも、死んでも構わないというような攻撃魔法を使って来る。
このことからも、魔法連盟が『シンシアさんを処刑するつもり』だったことは想像に難くない。
しかし、俺の脳裏に浮かんだ疑問が一つある。
(柾影も一緒に殺したら、外交問題に発展するような・・・)
いくら、魔法連盟を襲撃したとはいえ、『日本から留学して来た少年』を殺してしまったら、日本の魔法連盟との関係が悪化しそうなものだが・・・
ちなみに柾影はここまで、相手を死に至らしめるような攻撃魔法は使っていない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
いつの間にか、2人は魔法連盟の屋根の上まで逃げて来ていた。
建物自体はビルにすると、3階建てくらいでそんなに高くない。
「ここまで来れば・・・」
手はずではここに、レオン達が迎えに来る予定なのだが・・
そこには、人の気配が全くしなかった。
レオン達の魔力はする。
(まだ、追手達を振り切れてないのか?)
その時だった。
『ラル・ガーレイル』
呪文の声と共に、氷が地面を走る。
「クッ!?」
思わず飛び退く柾影とシンシアさん。
屋根の3分の1ほどが凍りつく。
氷の発生源を見つめる柾影。
そこには―――
「なるほど、ここは魔法連盟だもんな、アンタが出張って来るはずだ」
いつか、柾影を襲った魔法連盟の男が立っていた。
未だに覆面をしたままの男は、静かに告げる。
「・・・シンシア・ニアハートをこの場に残して去るのだ」
覆面をした男はくぐもった声で言う。
「へっ・・・」
その言葉を鼻で笑う柾影。
「黙ってたら、殺されるかも知れない友達を置いて立ち去れだと?そんなこと出来るか!」
当然のごとく、突っぱねる柾影。
「そうか、では仕方がない・・・ここで死ね」
呪文を唱え始める覆面男。
柾影もそれに対抗するように呪文を唱え始める。
そして口火を切ったのは―――
“ヒュゴウッ”
柾影の後ろから光が覆面男に向かって走る!!
しかし、その光はあっさりと男の前で掻き消える。
おそらくは、魔法服の追加効果なんだろうが・・・
「シンシア!!」
叫んだ柾影さんの後ろで―――
光の弓『ウルスカディ』を構えたシンシアさんが立っていた。
「柾影くん!!私も戦うよ!」
「貴様・・・お主がその力を使えば使うほど、ユグドラシルがどういう状態になるのか、分かっているのか!」
「ユグドラシルが活性化する・・・それは分かってます。けど!」
決然と覆面男を見つめるシンシアさん。
「柾影くんが戦っているのに、私が見てる訳にはいきません」
「そうか・・・ならば、こういう手を使うか?」
パチンと指を鳴らす覆面男。
“バサッ、バサッ、バサッ”
大小様々な大きさをした鳥達が覆面男の周りに集まる。
「・・・GO!!」
その鳥達は一斉にシンシアさんに向かって襲いかかる!
「シンシア!!」
「弓矢状でしか力を放出出来ないお前にその無数の鳥型の魔力弾は迎撃できまい!」
だが、覆面男の読みは外れることになる。
シンシアさんは―――
『ウルスカディ』を消した。
柾影と、そして覆面男からも驚きの感情が漏れ出る。
そして―――
『ウル・ファイストス!!』
シンシアさんを中心に魔法陣が浮かび上がる。
そして、次の瞬間―――
向かって来ていた鳥型の魔法弾が魔法陣の範囲に触れたとたん、掻き消えた。
「何!?」
しかし、その魔法陣を避けたのが向かって来る!
その魔力弾も・・・
「はぁッ!!」
シンシアさん拳が気合いの一声と共にそれを叩き落す!
「『ウルスカディ』の力が弓矢状でしか使えないとは誰も言ってないですよ」
そして、柾影に向かって叫ぶ。
「柾影くん!私は大丈夫だから!」
その姿を確認しながら、完成していた呪文を柾影は放つ!!
『シニック・レリス・ライ・アウス・レイル・リーガルト!!』
帯状の魔力が覆面男に向かう。
「このようなもの!!」
覆面男はマジックワンドを構えると、その魔力の帯を迎撃―――
『ワイド!!』
柾影の声と共に、その魔力の帯が2つに分裂する。
その光景を見た男の目が―――
(・・・!?)
俺は一瞬違和感を覚える。
何故か、俺の目にはその男の気配が一瞬柔らかくなったように感じた。
しかし、戦いで興奮状態にある柾影はそれに気付かないようだった。
俺の想いを余所に、柾影の呪文は男を直撃―――しなかった。
覆面男がマジックワンドを一振りすると、その魔力の帯そのものが凍りつき始める!
「何っ?」
その凍りついた魔力の帯が今度は―――そのまま柾影に向かって来る!!
「チッ!」
柾影はその魔力の帯を交わそうとして―――動きが止まる。
自分の後ろでは、シンシアさんが依然として飛び交う鳥型の魔力弾を魔力を貯めた拳で叩き落していた。
―――避ければシンシアさんに当たる。
腹を括った柾影は魔力を放出し始める。
呪文も何もない、ただ魔力を出すだけだ。
しかし、これでもダメージをいくぶん減らすことは出来るはず。
更に、耐え抜いた後に、攻撃出来るように呪文を唱え始める。
(何て、気力だ・・・)
今更ながら柾影の力量に驚かされる俺。
しかし、それ以上に目の前の覆面男の力量に驚いていた。
『魔力で魔力を包む』など不可能だ。かなりの力の差がないと。
現時点での柾影の実力では、覆面男には勝てないだろう。
そして、それ以上に気になることが―――
俺の思考はそこで遮られる。
返された魔力の帯が柾影に当たったから―――ではない。
その魔力の帯が柾影に当たる前に消えたからだ。
出現した障壁に当たって。
「シンシア様!柾影!待たせたな!」
「レオンさん!?」
緑の髪をなびかせて、レオンがマジックワンドから降りて、柾影の隣に降りる。
「レオン=ゲッペルス・・・ナチス復興を目論む男だな」
憎々しげにレオンを見つめる覆面男。
「俺達を倒しますか?3対1というこの状況で」
「・・・」
「それと、魔法連盟の魔法使い達の加勢は期待出来ないぞ。俺の分身達と戦ってるからな」
(どうやら、何とかなりそうだな・・・)
俺がそう一息付こうとしたその時―――!!
“ドカァァァァァァン!!”
今までで一番大きな爆発音がした。
その音の方を見ると、町の一角で大きな火柱が上がった。
(あ、あの方角は・・・)
俺もここ数日柾影と同化していたせいですっかり馴染みになっていた場所。
柾影の家のある方だった。
(ハァ・・・ハァ・・・)
息を切らして走る柾影。
「待って!柾影くん!」
「シンシア!レオンと一緒に逃げてろ!」
「イヤです!」
柾影はその言葉には答えず、角を曲がる。
そこに柾影の家があるはずだった。しかし―――
“ゴォォォォォォ・・・”
柾影の家は紅蓮の炎に包まれていた。
「母さん・・・」
フラフラと家に近づこうとする柾影。
この時間帯には柾影の母親が家にいるはずだった。
「君!危ないから近づくのはやめなさい!」
警官らしき人物が柾影を押しとどめる。
「母さんがあの中にいるんだ!!」
「柾影くん!!」
追いついたシンシアさんが後ろから柾影を抱き止める。
「落ち着いて下さい・・・」
「シンシア・・・」
その言葉にようやく落ち着く柾影。
その時だった。
「柾影!!」
「母さん!!」
見るとそこには、柾影の母親がいた。
「良かった・・・無事だった―――」
柾影の言葉はそこで途切れた。
“ドスッ”
どこからか飛び来た魔力の刃が柾影の母親の身体を貫いた―――
〜第70話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第69話になります〜
今回は、シンシアの救出劇を中心に書いてみました。
否応なく、騒動に巻き込まれていく柾影とシンシア。
覆面男とレオンの動向などにも注目して頂けると嬉しいです。
そして、ついにこの騒動での犠牲者が―――
ようやくこの過去編も終わりが見えて来ました。
次回も楽しみにして下さいね。
それでは、失礼します。
管理人の感想
解かれた魔法、第69話。今回は、魔法連盟からの救出&脱出劇でしたね。
レオンの陽動により、何とか追手を振り払いながらも逃げる柾影とシンシア。だが、そんな二人の前に、以前も相対した魔法連盟の男が。
戦いが交わされるも、二対一でも歯が立たない実力差。氷系という、和志と同じ能力を持つところも気になります。
それでもレオンの登場により何とか逃げ切って・・・しかしその先に待っていたのは、想像を絶する悲劇。
これは、シンシアを救出した、柾影への報復なのでしょうか。
それでは、次回もお楽しみに!