『解かれた魔法 運命の一日』〜第7話〜






                                投稿者 フォーゲル






  「ファ〜・・・」
 俺は口を開けながら、大きな欠伸を一つする。
 霧が深い朝の住宅街を、俺は学園へと向っていた。
 『全く・・・いつまでも夜更かししてるからよ』
 俺の背中ごしにレイアが呆れたような声を上げる。
 「しょうがないだろ・・・ここんところ、やることが多くて睡眠時間削ってるんだから」
 『それは、和志が自分で決めたことでしょう?』
 「そうだけどさ・・・それに元来俺、朝はそんなに強いタイプじゃないし・・・」
 また、大きな欠伸が出た。
 『そういえば、和志は朝が弱くて、いつも渚ちゃんに起こされてたからね』
 元は母さんのペンダントであり、マジックワンドでもあったレイアはそんな様子も覚えていたようだ。
 『だから、私が優しく起こしてあげたじゃない?』
 (朝から、人の耳元でわめくのは優しい起こし方なのか?)
 俺は内心でツッコんだ。しかし、その不満は顔に出てしまっていたようだ。
 『じゃあ、和志はどんな起こされ方がいいのよ?』
 「どんなって・・・」
 俺は考えを巡らす。
 (そういえば・・・)
 俺は2・3日前の登校風景を思い出す。
 その時に、ハチ兄が『雄真・・・お前はすももちゃんに朝、起こして貰えるということがどんなに恵まれた行為なのか、ちっとも分かっていない!!』
 って絶叫してたっけ・・・
 (確かにそれは・・・ちょっと羨ましいかも)
 そんなことを考えた俺は、口を開く。
 「そうだな・・・雄真さんみたいに、すももみたいな―――」
 俺が言葉を続けようとした時―――
 「わたしがどうかしたんですか?」
「うわっ!!」
 いきなり、名前を口にした本人が目の前に現れて俺はビックリした。
 霧が深いせいで全然気が付かなかったぞ。
 「『うわっ!!』って・・・朝からお化けを見たみたいなリアクションしないで下さい」
 「ああ、ゴメン・・・おはよう。すもも」
 「おはようございます!和志くん」
 俺達がお互いを名前で呼ぶようになってから一ヶ月。
 最初は戸惑いもあったが、今ではすっかり慣れていた。
 「で、わたしがどうかしたんですか?」
 「え、え〜〜と、な、何でもないけど?」
 俺は何とか誤魔化そうとする。
 (すももみたいな、可愛い女の子に起こしてもらいたい―――なんて本人目の前にして言えるか・・・)
 だが、俺のそんな考えをブチ壊すかのような声が頭上から聞こえる。
 『すももちゃん、和志はね・・・』
 「わー!!わーー!!」
 余計なことを言おうとするレイアを俺は全力で止めようとする。
 「レイアさん、何か知ってるんですか?」
 律儀にマジックワンドであるレイアにも『さん』付けで話し掛けるすもも。
 「・・・っていうか、すももは驚かないんだな」
 「何がですか?」
 「レイアが・・・というかマジックワンドが喋ってるってことに」
 ある程度の魔法の知識を持っていた俺ですらレイアが喋った時には驚いたのだが・・・
 「姫ちゃんのソプラノさんや柊さんのパエリアさんも喋ってるのを見たことありますから」
 「ああ、なるほどな・・・」
 俺達はそんなことを話しながら、最初の目的地である準さんとハチ兄との合流地点に向う。
 ちなみに雄真さんは、神坂さんと魔法の特訓を最近しているらしく、家を早く出ることが多いらしい。
 「わたしとしてはあの兄さんが朝早く起きるようになってくれて感心してるんですけどね」
 そう言うすももの顔は少し寂しそうにも見えた。
 「そういえば、和志くんはどうするんですか?」
 「えっ?」
 「御薙先生に誘われてたじゃないですか。『魔法科に転科してみる気はない?』って・・・」
 「ああ・・・そのことか」
 俺は背中のレイアにチラリと目をやると、すももの質問に答える。
 「結論から言うと・・・魔法科に行こうと思ってる」
 すももは黙って俺の言葉を聞いていた。
 「もちろん、魔法を使うのはまだ少し怖いし、気を付けないといけないっていうのは分かってるけど・・・」
 俺はまっすぐに前を見て言う。
 「今この時に、魔法の力に目覚めたっていうのは何か意味があるんじゃないかって思うんだ」
 その『意味』とは何なのか。もちろん俺にも分からないし、その意味を探すためにも魔法を覚えたい。
 「そうですか・・・頑張って下さいね。わたしも応援しますから」
 「ありがとう。すもも・・・あ、でも・・・」
 「でも・・・何ですか?」
 「せっかく、友達になったのに魔法科と普通科に別れちゃうな」
 今現在は魔法科校舎の復旧作業の真っ最中なので、合同で授業を受けているが、その工事が終われば当然別れ別れになる。
 「そのことなら大丈夫なんじゃないですか?」
 すももが心配ないとでも言いたそうな感じで言う。
 「わたしも魔法科のお友達は居ますし・・・それに・・・」
 「それに?」
 「に、兄さんと姫ちゃんみたいな例だってある訳ですし」
 「まあ、恋人同士になるような例だってあるってことか?」
 「そ、そうですよ〜さあ、急いで行きましょう!準さんもハチさんも待ってますよ」
 何故だか、少し焦りながらすももは先を急ぐ。
 俺は首を傾げながらすももの後を追った。





  「あらあら、そんなことがあったの」
 優しい声で御薙先生が言う。
 今日も授業が終わった後、俺は御薙先生の研究室に来ていた。
 魔法科に転科すると決めた後、俺はまず御薙先生の指導の元、魔法のコントロールを身に付ける練習をしていた。
 「まずは自分の魔力をコントロール出来ないと、自分も周りも危険よ」
 御薙先生の言葉を肝に銘じながら、俺は指導を受けていた。
 「そうなんですよ〜大変でした」
 俺が話しているのは今朝のこと。
 準さんとハチ兄に散々すももとの仲をネタにイジられたことだ。
 そもそもが雄真さんがいないせいで、集合場所に2人で現れたことが原因だった。
 準さんには『和志くんもなかなかやるわね〜雄真がいないのをいいことに早速すももちゃんを口説きにかかるなんて』
 とからかわれ(しかも『早速』って何だ!?人聞きの悪い・・・)
 ハチ兄には『和志・・・すももちゃんは俺のものだ!!』とか勝手に宣戦布告されるし・・・
 (その『俺のものだ』発言はさすがにどうかと思うが、すももも引いてたぞ・・・)
 その後も準さんに『大丈夫よ〜いざとなったら雄真とハチは私が抑えるから』とかよく分からない励ましだか後押しだかを
 俺は学園に付くまでずっと言われてたのだ。
 「俺はそんな気無いのに・・・」
 そんなことを呟きながら、俺は両腕の間に浮かんでいる格子(キューブ)の中の魔力を懸命にコントロールする。
 最初の頃は、すぐに暴走させていたが今では大分安定させることが出来るようになっていた。
 「あら?でもすももちゃんは案外そうでもないみたいよ」
 「えっ!?」
 御薙先生の突然の言葉に俺は少し動揺する。
 それに合わせてキューブの中の魔力が暴走しかける。
 「・・・っ!!ととっ・・・!!」
 それでも何とか、俺はそれを制御する。
 「・・・よし。動揺しても魔力を暴走させなかったわね」
 「み、御薙先生!!」
 俺は思わず抗議の声を上げる。
 「いきなり、変なこと言わないで下さいよ〜」
 「あら、予想以上にリアクションが大きいわね」
 笑いながら言う御薙先生に思わず顔を逸らす俺。
 「まあ、魔力を暴走させなかったし・・・次のステップにいきましょうか?」
 「は、はい!!」
 そう言うと御薙先生は呪文を唱え始める。
 『エル・アムダルト・リ・エルス・・・』
 御薙先生の呪文に答えてその両手の間に謎の物体が出現していた。
 その物体を一言で例えるなら『水たまりをシャボン玉状にして空中に浮かせている』というような感じだろうか?
 「吾妻くん。自分の手をその中に入れてみて」
 「わ、分かりました」
 俺は言われたとおりに手をその水の中に突っ込む。
 次の瞬間―――
 【ピキピキピキっ!!】
 擬音と共に俺の手を中心に水が凍る。
 「うわっ!!」
 俺は慌てて自分の手を引き抜く。
 「な、何ですかこれは?」
 「これは、自分がどの魔法に適正があるかを調べるためのものなの」
 御薙先生はそれを空中で安定させたまま呟く。
 「私達が使う魔法っていうのはそもそも『自然界からの大きな力を少し借りてその力を使役する』っていうものなの」
 「それは知ってますけど・・・」
 「『自然界の大きな力』といってもその全貌は未だ謎なんだけど・・・
  確実に言えることは、魔法が具現化する時には自然現象として現れていることは間違いないわ」
 「さっき、俺の手の周りが凍ったみたいにですか?」
 「そう。で、その時に起った現象で自分がどういう風に魔法の才能を伸ばしていけばいいのかがある程度分かるのよ」
 「その証拠に・・・見ててね」
 御薙先生は水たまりの中に手を入れる。
 その手の中から炎が生まれた。
 「ね?」
 つまり、俺の魔法系統は氷として具現化される、御薙先生の場合は炎としてってことか・・・
 「もちろん、これが絶対って訳じゃなくて、色々と系統を組み合わせるってことも可能よ。
  治癒呪文・防御呪文・拘束呪文なんてのは組み合わせによって生まれたものだから」
 「そうなんですか・・・」
 「さて、これで私に出来ることは全て終わったわ」
 「えっ!!」
 俺としては御薙先生にもっと教えてもらおうかと思ってたんだけど・・・
 俺がそう言うと御薙先生は肩を竦めていった。
 「残念だけど・・・私と吾妻くんの魔法式だと相性がすこぶる悪いのよ」
 「そうなんですか?」
 「独学で学ぶっていうのもいいと思うけど・・・私は誰か『魔法の先生』を探した方が上達も早いと思うわ」
 「そうですか・・・分かりました」
 俺は御薙先生にお礼を言うと、研究室を後にした。




  (魔法の先生か・・・どうしようかな・・・)
 俺はそんなことを考えながら、敷地内を歩く。
 『先生』という言葉の響きでパッと思いついたのは
 (神坂さんだったんだけどな・・・)
 神坂さんなら親切丁寧に教えてくれそうだと思った。
 しかし、神坂さんは御薙先生と同じ魔法式を使っていること、そして何よりも・・・
 (雄真さんを教えてるんだよな・・・)
 正直、『瑞穂坂のバカップル』とかいう異名を持ってる2人の間に入ったらいろんな意味で修行にならなさそうだった。
 (まあ、それは後から考えるか・・・)
 その時、腹が減っているに俺は気が付いた。
 (『Oasis』で何か食べるかな・・・)
 俺は『Oasis』へ足を向けた。
 

  「いらっしゃ〜い!!アレ?和志くんじゃない?」
 『Oasis』で俺を出迎えたのは音羽さんだった。
 見ると、柊さん達ウェイトレスさんの姿は見えず、音羽さんが一人でカウンターにいた。
 「こんにちは〜今日はどうしたんですか?」
 「今日はね〜あんまりお客さん来なかったから、杏璃ちゃん達には早めに上がって貰ったの。
  私も、今日はもうお店閉めようかな〜と思ってたんだけど・・・」
 「あ、じゃあ俺も・・・」
 俺は『Oasis』を出ようとする。
 「あ、和志くん、大丈夫よ。何か食べに来たんでしょう。さあ、座って座って!!」
 「そ、そうですか・・・それじゃカツサンドとマンゴージュースお願いします」
 「OK〜任せといてね」
 そして、10分ほどたった頃・・・
 「はい!お待たせ〜音羽さん特製のカツサンドとマンゴージュースですよ〜」
 「あ、ありがとうございます・・・って」
 音羽さんが持って来たトレイにはカツサンドとマンゴージュースの他にツナサンドとプリンアラモードが乗っていた。
 「あの、音羽さん?俺、こんなに注文してませんが」
 「ツナサンドとプリンアラモードは私からのサービスよ♪」
 「いいんですか?」
 「いいのよ〜和志くんにはすももちゃんがお世話になってるみたいだしね〜」
 「そんなことないですよ」
 (というか俺がすももに世話になってることの方が多いような・・・)
 実際に授業中居眠りしかけたのを後ろから起こしてもらったりとかが多いし。
 「でも、すももちゃん、失恋しちゃってつい最近まであんまり元気無かったから・・・」
 「そうなんですか?」
 「すももちゃんも気付いてないほどだけどね、それでもやっぱり時々雄真くんと春姫ちゃんを見て
  寂しそうな表情してたのよ」
 (そういえば今朝もそんな表情してたっけ)
 雄真さん達が恋人同士になった経緯に関しては俺もこの一ヶ月の間に聞いた。
 そして、すももが雄真さんに恋をしていたということも。
 「それがね、ちょうど和志くんと知り合ったあたりくらいかな?すももちゃんがそういう表情をほとんどしなくなったのは」
 「・・・」
 「だから、私は和志くんがすももちゃんを励ましてるんじゃないかと思ってるのよ」
 「でも、俺、何もしてないですよ」
 「何もしてなくてもいいのよ。ただそばにいてあげるだけですももちゃんが元気になっていってるんだし」
 (まあ、確かにそれで元気になるって言うんなら)
 俺がそんなことを考えてると・・・
 「で、ここで和志くんがすももちゃんをデートに誘ってあげればすももちゃん喜ぶと思うんだけどな〜」
 「・・・やっぱりそういう方向に話を持っていくんですね」
 その後、音羽さんに『すももちゃんが好きなデートスポットはね〜』などと情報を吹き込まれたのは言うまでもない。





  「しかし・・・音羽さんも変わってるな」
 俺は呟きながら家路に付く。
 (普通、年頃の娘を持つ親なら逆のリアクションすると思うんだが)
 音羽さんの暴走ぶりを振り返りながら、俺は苦笑する。
 (まあ、音羽さんがああだから雄真さんがあんなにシスコンなのかも知れないが)
 事実、雄真さんの俺を見る視線がたまにキツイことがあったりする。
 俺としてはそんな気は全く・・・・無いといえば怪しいけど。
 そんなことを考えてると・・・
 「和志くん〜〜〜!!」
 「ああ、すももか?今帰りか?」
 「そうです!一緒に帰りませんか?」
 「ああ、いいぜ」
 そして俺達はたわいもない話をしながら歩いていた。
 「あ、そうだ!ねえ、和志くん?」
 「何だ?」
 「明日の土曜日なんですけど・・・ヒマですか?」
 「特に予定も無いけど?」
 「良かった〜あのですね・・・」
 そして次の瞬間、すももはビックリするようなことを言った。
 「わたしに付き合ってくれませんか?」
 「・・・ええええええっ!?」
 俺の驚きの絶叫がこだました―――





                           〜第8話に続く〜



                         こんばんわ〜フォーゲルです。

                   『解かれた魔法 運命の一日』の第7話になります。

                   少しづつ話が動き始めたかなという感じがしています。

                すももが少しずつ和志にアピールしている点に注目して欲しいですね。

                      (特に最初と最後のシーンと音羽の証言)

                     音羽がすごく母親らしい発言をしている(笑)

             魔法絡みに関しては、和志は魔法の先生を見つけなければならないんですが・・・

                 鈴莉と春姫がダメな時点でクセのある奴しかいないような(汗)

           次回は・・・デート編(?)になる予定です。(ひょっとしたらすもも視点になるかも)

                            それでは、失礼します〜
 


管理人の感想

「解かれた魔法」、第7話をお送りしました〜^^

和志とすもも。二人の関係も、ようやく落ち着きを見せ始め・・・穏やかな日々が流れていく。

魔法科への転科を決めた和志に、すももは少々落胆しつつも雄真たちの例を上げ自分を納得させているようでしたね。

それに、その言葉はかなり和志に対するアプローチだと思うのですが。やはりというか、和志もニブチンのようですね^^;

さて、和志の魔法の師匠は一体誰になるのでしょうか?

個人的には、オアシスに言った時点で杏璃かと踏んだのですが、そういえばよく暴走させてるし和志とはそりが合わないかなぁと思いなおし。

・・・大穴で伊吹な予感。(魔法科に転科するし) その辺も今後楽しみです〜。



2007.8.4