『解かれた魔法 運命の一日』〜第68話〜








            

                                                      投稿者 フォーゲル







  (クソッ・・・)
 柾影は毒付きながら放課後の校舎内を歩く。
 そして―――あるドアの前に立つと。ドアをノックする。
 「どうぞ」
 中から声がしたのを確認してから、柾影はドアを開ける。
 そこには、一人の初老の男性。
 他でもない、柾影が通っているこの学園―――『ライラリッジ・カオスワーズ』の理事長だ
 周りには、学園の教職員。
 もちろん、この学園の教職員だけあって、魔法使いとしても実力も相当なものだろう。
 「藤林 柾影君。日本の瑞宝学園からの留学生だね」
 「・・・」
 しかし、柾影は何も答えない。
 (まあ、それはそうだよな・・・)
 今、柾影の腹の中は怒りで煮えくりかえっているのだから。
 「で、今日ここに来たのはなんの用だね」
 「・・・いろいろと言いたいことはありますが、聞きたいことは一つだけです」
 柾影はハッキリと不満の感情をその口調に込めて、言った。

 「シンシア=ニアハートを退学処分にしたのはどういうことです」

 昨日、シンシアさんが魔法連盟に連行された後、どうすることも出来ずに一夜が明けて―――
 暗い気持ちのまま、学園に来た柾影が耳にした事実がそれだった。
 「・・・彼女が『ユグドラシル強奪事件』に関与しているということが分かったからだ」
 冷徹に、ただその事実だけを伝える理事長。
 「事実確認もせずに、ただその事実を受け入れたんですか!?」
 激怒しながら、理事長に詰め寄る柾影。
 「魔法連盟から、そう通達されたのでな。それに・・・」
 理事長は一つため息を付くとハッキリとした口調で告げた。
 「彼女は、アドルフ・ヒトラーの末裔だそうではないか?」
 「!!」
 「柾影君。日本から来た君でも、ヨーロッパでは・・・特に魔法に関わる人間にとって『ヒトラー』がどれだけタブー視されているかは、分かるだろう?」
 確かに、ヒトラーが起こした最大の悲劇と言われるユダヤ人の大量虐殺―――『ホロコースト』
 一説には、『ユダヤ人からは強力な力を持った魔法使いが出やすい』という理由からその存在を危険視したことから起こったことだと言われている。
 「でも、彼女はその末裔ってだけに過ぎません!!彼女自身はどこにでもいる一人の少女なんですよ!」
 今にも理事長に殴りかかりそうな勢いで詰め寄る柾影。
 しかし、理事長は表情をピクリとも動かさず、言葉を続ける。
 「『ヒトラーの末裔』というだけで、彼女は『普通の少女』では無いのだよ」
 「!!」
 その瞬間、柾影は理事長に殴り掛かり―――しかし、そのパンチは当たることは無かった。
 何故なら―――
 「クッ!!」
 柾影の身体は捕縛魔法で拘束されていたからだ。
 おそらく、周りの教職員達が使ったのだろう。
 その横を通り抜けながら、理事長は告げる。
 「柾影君。自分自身の身を考えるのなら、これ以上彼女には関わらないことだ」
 そう言って部屋を出て行く理事長。
 そして、後には怒りを抱えた、柾影が残された。





  (・・・)
 無言で歩く柾影。
 しかし、その感情は怒りに満ちていた。
 もちろん、さっきの理事長の発言もあるだろう。
 掛けられた捕縛魔法が解けたのは理事長が部屋を出てから30分以上たってからだった。
 それから、柾影はどうにかしてシンシアさんの退学処分を取り消して貰おうとシンシアさんの友人達に協力してもらおうとしたのだが・・・
 (みんな、そんなもんかよ・・・)
 教室に戻った柾影がシンシアさんの話をしようとすると、その話題を避けようとするのだ。
 まるで、そんな人は居なかったとでもいいたげに。
 明らかに、『もうシンシアさんには関わりあいになりたくない』そういう空気が漂っていた。
 恐らく、シンシアさんがヒトラーの末裔であるという事実が知れ渡ってしまったのだろう。
 シンシアさんと関わりあいになれば、いやその事実があったというだけで、魔法の世界で生きて行くには傷になる。
 その『元・友人』達のリアクションを見る限り、その事実は間違いないだろう。
 「・・・勝手だな。人間なんて」
 柾影が呟いたその時―――


 【・・・そういうものだ、人間とは愚かな生き物よ】


 『!!』
 思わず周りを探る柾影。
 今、確かに、今まで聞いたことの無い声がした。
 「ウィス、お前今、何か言ったか?」
 自分のマジックワンドに問いかける柾影。
 『いや、何も・・・どうしたんだ?』
 「誰かに話しかけられたような気がしたんだが・・・」
 『空耳じゃないのか?』
 「その割には、妙にハッキリ聞こえたんだが・・・」
 『それで、これからどうするんだ、柾影?』
 ウィスの問いに、柾影はキッパリと答える。
 「もちろん、シンシアを助ける」
 『どうやってだ?』
 「どうって・・・まずは、シンシアの無実の罪を証明しないと」
 「・・・そんなヒマは無いかも知れないぞ」
 不意に掛けられた第3の声に思わず振り向く柾影。そこには―――
 「あんたはーーー?」
 背中まで伸びた緑の髪、青い瞳が印象に残る男。
 それは、前回柾影を助け、そしてシンシアさんを『シンシア様』と呼んでいた男だった。






  「で、どういう意味だ、シンシアの無実を証明するヒマも無いってのは?」
 誰一人いない喫茶店で説明を求める柾影。
 夕方のこのクソ忙しい時間帯に人がいないのはこの男が結界魔法を掛けたからだ。
 (ちなみにこの男の名前は、『レオン=ゲッペルス』というらしい)
 つまり、ここは現実世界とは薄紙一枚隔てた世界ということになる。
 「問答無用で、シンシア様が『ユグドラシル強奪事件』の犯人に仕立てあげられるということだ」
 「どういうことだよ!それ!」
 声を荒げる柾影。
 「魔法連盟は、『ユグドラシル』の力を極端に恐れている」
 対照的に落ち着いた口調で続けるレオン。
 「しかし、『ユグドラシル』はマスターが覚醒しない限りは意識を持っているとはいえ『ただの古いマジックワンド』に過ぎない。
  現状では、『ユグドラシル』のマスターになりえるのはシンシア様だけだ」
 「だから、シンシアを無理矢理連行したっていうのか?」
 「そうだろうな。シンシア様の身柄を拘束して、マスターを探して現れた『ユグドラシル』を捕獲しようとしてるんだろう」
 しかし、それならシンシアさんの命がすぐに危なくなるという可能性は・・・
 「むしろ、俺達が恐れているのは『もう一つの手』を魔法連盟が打って来た場合だ」
 「もう一つの手?」
 「焦った魔法連盟がシンシア様を処刑することだ」
 「なっ・・・」
 衝撃的な言葉に絶句する柾影。
 「いつまで経っても『ユグドラシル』がシンシア様の元に現れなかった場合、シンシア様を生かしておいたら奴らにとっては危険だからな」
 「で、でもいくら何でも・・・」
 「処刑する理由ならいくらでも付けられるぞ。それこそ『ユグドラシルを使って大規模な魔法テロを画策してた』とかな」
 「・・・」
 何も答えられない柾影に向かってレオンは質問をぶつける。
 「そういう訳で、柾影・・・とか言ったか?お前に質問したいことがある」
 「・・・何だよ」
 「ユグドラシルはどこにある。魔法連盟でもその所在が不明になってるんだが」
 「・・・知らねーよ。俺が見た時には、もう無かったしな」
 そう、魔法連盟の連中がシンシアさんを連れて行った後、ユグドラシルもその姿を消していたのだ。
 「今、その所在を魔法連盟が探っている・・・逆に言えばこの状況は俺達にとってはチャンスなんだ」
 「どういう意味だ?」
 「今夜、俺達はシンシア様を助けるために動く。魔法連盟を襲撃してな」
 その言葉に柾影がある決意を固めるのが分かった。







  「では、明日こそ吐いてもらうからな」
 そう言って魔法連盟の関係者がシンシアさんの部屋を出て行く。
 「私をいくら問い詰めても、『ユグドラシル』のありかは分からないのに・・・」
 ベッドに座りため息を付くシンシアさん。
 (シンシアさん・・・どうしてこんな目に合わなくちゃいけないんですか・・・)
 『わたし』は悲しくなります。
 和志くんと一緒に柾影さんの記憶球に触れた後、意識を失ったわたしは、彼女、シンシアさんと同化していました。
 シンシアさんと同化した後のわたしの脳裏に流れ込んで来たのは、シンシアさんの辛い過去。
 自分の血のことがバレそうになると転校を繰り返し、素性を誤魔化して生きて来たこと。
 ご両親は、その生活での無理がたたり病死してしまったこと。
 それ以来、シンシアさんはずっと一人で生きてきました。
 お友達はいましたが、素性が分かるとみんな離れていきました。
 そして、今回も・・・
 「また、転校しなきゃダメかな・・・」
 そうシンシアさんが呟いたその時でした。
 
 “ドカァァァァァァン!!”

 急に大きな爆発音がしました。
 (な、何ですか?)
 わたしも思わず驚きます。
 「襲撃者だ!!襲撃者が来たぞ!動ける魔法使いは迎撃態勢を取れ!!」
 (襲撃者?一体誰ですか?)
 わたしは疑問を浮かべます。
 だけど、シンシアさんは襲撃者が誰か分かっているようでした。
 「レオンさん達かな・・・」
 ですが、シンシアさんの脳裏には一人の人が浮かんでいました。
 つい最近知り合った人で、同化しているわたしには和志くんと似た雰囲気を持った人―――
 「柾影くん・・・」
 呟きがシンシアさんの口から洩れます。
 しかし、その考えをシンシアさんは打ち消します。
 来てくれる訳がない。きっとそう思っているのでしょう。
 「まだ、来てないようだな」
 魔法使いさんがシンシアさんの部屋に入って来ます。
 「襲撃者の目的はお前だ。一緒に来い」
 強引にシンシアさんの手を引っ張ります。
 「ちょっと、痛い!離して!!」
 悲鳴を上げるシンシアさん。その時―――
 
 『・・・ラス・フォリアスト!!』

 聞きなれた呪文の声が響きました。
 その瞬間、シンシアさんの手を掴んでいた魔法使いさんの身体が崩れ落ちました。
 そして―――
 「大丈夫か!シンシア!!」
 「柾影くん!!」
 驚きと若干の嬉しさが籠ったシンシアさんの声が響きました。







                                〜第69話に続く〜

 
                        こんばんわ〜フォーゲルです。第68話になります。

                          今回は人間の醜い部分を少し書いてみました。

                だんだん、柾影が人間の暗い部分を知ってどうなるかに注目してもらいたいですね。

               後は、シンシアとすももが同化している点で読者の皆さんが驚いてくれると嬉しいです。

                      こうしないと、シンシアの過去が書けないと思ったので・・・

                    次回以降、いよいよ柾影の過去編もクライマックスに向かって行きます。

                     またまた所在不明になった『ユグドラシル』も注目して下さいね。

                               それでは、失礼します〜



管理人の感想

解かれた魔法、第68話をお送りして頂きました〜^^

アドルフ・ヒトラーの末裔。・・・確かに、独裁者ヒトラーの末裔というだけで、欧州では特別視されてしまうものでしょう。

しかし、仲の良かったクラスメイトまでがあの態度。柾影がそう呆れているところに、届いたのは謎の声。

その語り部は、もしかして・・・?


そしてシンシアを助けるために、魔法連盟を襲撃する柾影。

しかし、このまますんなりと上手く事が運ぶとはとても思わないのですが・・・それは次回に注目しないといけませんね。


ではでは。



2009.7.24