『解かれた魔法 運命の一日』〜第67話〜









                                                投稿者 フォーゲル






  「・・・」
  「・・・」
 押し黙ったままの2人の男女―――柾影とシンシアさん。
 お互いに話を始めるタイミングを探っているようだ。
 だけど、このままでは、埒が明かないと思ったのか、最初に口を開いたのは―――
 「で、一体何が起こってるんだ?」
 隣を歩くシンシアに話し掛ける柾影。
 「・・・」
 しかし、何も語らないシンシアさん。
 「大丈夫だ。今この空間には結界魔法を掛けてある」
 「え・・・」
 「人には聞かれたく無い話なんだろ?さっき呪文を唱えておいた」
 (そういえば、さっき何か小声でブツブツと唱えていたな・・・)
 言われてみれば、さっきから人が来る気配も感じられない。
 「でも・・・」
 未だに口籠るシンシアさん。
 「あのな、言っとくが俺だってもう当事者みたいなものなんだぞ」
 首をすくめながら言う柾影。
 「・・・ゴメンね」
 「い、いや、責めてる訳じゃ無いんだ、ただ・・・」
 「ただ?」
 「・・・」
 シンシアさんの問いかけには答えない柾影。
 同化している俺にはその『答え』が分かっているが。

 (自分を助けてくれたお前が困っているのは―――放っとけない)

 それが柾影の心に浮かんだ想いだった。
 「・・・そもそもはこの間、襲われた時の『力』が原因なんです」
 そう言うとシンシアさんは手のひらの上に球体状の安定した魔力が生まれる。
 「それは・・・」
 「そうです。これが―――『ウルスカディ』、ニアハート家に伝わる一子相伝の『力』です」
 柾影の脳裏にこの間の4人組の男達に襲われた時の光景が蘇る。
 あの時、シンシアさんが使った『光の弓』と目の前の球体状の魔力は同じ物なのだろう。
 「それは分かったけど、それとシンシアが襲われることと何の関係があるんだ?」
 「この『力』は本来・『魔力』として使うよりも、『ある封印』を解くために使うものなの」
 「『ある封印』?」
 「柾影さんも今朝の新聞見ましたよね?『ユグドラシル』が盗まれたってニュース」
 (!!)
 その言葉に驚く俺。
 しかし、当然この頃の柾影は驚くことも無く、ただ頷く。
 「あれは多分・・・『盗まれた』んじゃ無くて、『脱出』したってことだと思う」
 「どういうことだ?『ユグドラシル』が『自分の意志』で博物館から抜け出したってことなのか?」
 「ええ」
 キッパリと頷くシンシアさん。
 「でも、それならきっかけがあるはず・・・あ」
 「そうです。あの戦いの時に私の中の力が目覚めました」
 柾影を助けた時に力が解放されたのか・・・
 「でも、何でそんな力がシンシアの中に?」
 「それは・・・私が歴史上で最後に『ユグドラシル』との契約者として記録に残っている人物―――アドルフ・ヒトラーの末裔だからです」




 「なっ・・・で、でも確かヒトラーの子孫は確か」
 第二次世界大戦の後、ヒトラーの―――というかヒトラーが使っていた『ユグドラシル』の力を恐れた連合国軍によって
 魔法を使える奴は殺されて、魔法を使えないと証明された者だけが生存を許されたはず・・・
 俺が歴史の授業で習ったのはそんな内容だった。
 柾影も同じことを思ったらしく、驚きの感情が浮かんでいた。
 「この『ウルスカディ』の力はどちらかと言うと『心』の方が重要なんです」
 「心?」
 「私の一族は、『ウルスカディ』の力が強かったから本来の魔法の力が隠される状態になってたんだと思います」
 (心の力か・・・)
 恐らく連合国軍は『ユグドラシル』の膨大な破壊力を伴う魔力を警戒して、心が重要な力には警戒が薄かったんだろう。
 「・・・だからあの時に力が覚醒したんだと思います」
 視線を柾影から外しながら言うシンシアさん。
 (おや・・・これは・・・)
 元の時代で俺と付き合う前のすももがたまにそういう態度を取っていたのを思い出す。
 (なるほどね・・・つまり柾影の言っていた『あいつ』って言うのはシンシアさんのことで間違い無いみたいだな)
 「でも、そのシンシアの『ウルスカディ』と『ユグドラシル』の関係性がイマイチ見えて来ないんだけど・・・」
 シンシアさんの素振りに疑問を抱くことなく、話を続ける柾影。
 「『ユグドラシル』も特性としては、マスターを選ぶ時に重要視していたのは『心の力』だと言われています。
  精神力の強い者―――揺るぎない強固な意志を持った者ほどマスターに選ばれやすいみたいです」
 「つまり、『精神力の強い者=心の力が強い者』ってことか?そして、ユグドラシルも精神力の強い奴しか扱えない・・・」
 「そうです。私の『ウルスカディ』の力の発現で眠っていた『ユグドラシル』が目覚めたってことですね」
 深くため息を付くシンシアさん。
 「で、お前はどうしたいんだ?」
 「えっ?」
 柾影の問いかけに驚くシンシアさん。
 「お前のことだ、どうせ一人で何とかしようとしてるんだろ?今回は俺達を助けた連中もお前の態度を見ると100%味方とは思えないし」
 「彼らは・・・私の力を使って『ユグドラシル』を手に入れようとしているんです」
 「読めて来たぞ。つまり奴らは・・・ナチスの復興を狙う連中か?」
 「そうです。彼らは『ユグドラシル』を私に手に入れされた後、私をナチス復興の象徴にしようとしているんです」
 「それで、『シンシア様』って訳か」
 (『ユグドラシル』を使えるようになったシンシアさんはヒトラーの末裔という血筋も合わせてナチスの復興にはうってつけの存在って訳か)
 「でも、お前もそれを利用して何か考えてる訳だな」
 「・・・私の力でユグドラシルが目覚めたってことは、私には『ユグドラシル』のマスターになる可能性があるってことです」
 決意が滲む口調で言うシンシアさん。
 「そして、歴史上の有名な人物の手を『ユグドラシル』は経ているということを考えれば、ユグドラシルには血筋だけじゃなくて、
  自分の意志でマスターを選ぶこともあるということです」
 (シンシアさんの考えって・・・)
 「いつか、必ず『ユグドラシル』は私の前に姿を表します。その時に、『ユグドラシル』を封印します」
 「封印?封印する方法があるのか?」
 「ええ、我が家に代々伝えられている方法があります」
 しかし、その表情には―――
 「・・・危険なものじゃないよな?」
 「ひょっとして、心配してくれてるんですか?大丈夫ですよ〜封印するだ・・・」
 おどけた感じで言うシンシアさんを柾影は―――強く抱きしめていた。
 「ち、ちょっと柾影さん・・・?」
 「ウソは付くなよ。お前、こんなに震えてるじゃないか・・・」
 それで初めて俺も気が付いた。
 確かにシンシアさんの身体が細かく震えているのに。
 「怖いなら怖いってちゃんと言えよ!俺達、友達だろ!」
 抱きしめたまま、強い口調で言う柾影。
 「頼むよ、シンシア・・・俺じゃお前が止めようしている奴らに関しては力不足かも知れないけど、でも・・・」
 「そんなことないよ」
 シンシアさんは、柾影の胸の中で囁くように呟く。
 「柾影くんにこうしてもらうと、すごく安心する・・・」
 その言葉の通り、シンシアさんの身体の震えは消えていた―――






  「だけど、柾影くんって大胆なんだね〜いきなり女の子を抱きしめるなんて」
 「し、しょうがないだろ?お前が悲しそうな顔をするから・・・」
 話が終わり、結界を解いて柾影とシンシアさんは家路に付く。
 さっきまでの悲しそうな表情はどこへやら、笑顔を取り戻したシンシアさん。
 その表情を見ている柾影の想いが俺にも伝わってくる。
 「しかし、魔法の技術向上のために留学したのに・・・まさかこっちに来てから『初恋』を経験するとはな〜」
 ポツリと小声で呟く柾影。
 どうやら、ようやく柾影は自分の想いに気が付いたらしい。
 そして、これは俺の推測だが、恐らくシンシアさんも・・・
 「何か言った?柾影くん?」
 「い、いや?何でも無い」
 だが、俺の想いは逆に憂鬱になっていく。
 (でもこの2人の恋は・・・)
 俺がそんなことを思ったその時―――
 「シンシア・ニアハートだな?」
 目の前に転移魔法の魔法陣が現れて、一人の男が柾影とシンシアの前に立つ。
 「チッ・・・またかよ」
 どうやら、襲って来た奴とは違うようだが。
 柾影は『ウィステリア』を構える。
 「いや、今回はそういうことではない」
 男が胸元から何かを取りだす。それは―――
 『魔法連盟』の所属を意味する紋章が付いている手帳だった。
 「何ですか?」
 固い口調で答えるシンシアさん。
 「シンシア・ニアハート。来ていただこうか?」
 「ちょっと待った。どうして彼女を連れて行くんだ?正当な理由も無しに連れて行くのは『魔法連盟』といえども許されないだろ?」
 『ウィステリア』を構えたまま、固い表情を浮かべる柾影。
 「正当な理由はある。彼女には、『ユグドラシル』強奪容疑が掛かっている」
 『なっ!?』
 驚きの口調がハモる柾影とシンシアさん。
 「証拠は!証拠はあるのかよ!」
 強い口調で詰め寄る柾影。
 「証拠はこれだ」
 そう言って男は目の前にあるものを投げつける。
 (なっ・・・!?)
 『それ』を見て、柾影も、シンシアさんも、そして同化している俺も驚く。
 そこには、俺が知っている状態ほど力を持ってはいないが、まぎれもない―――

 マジックワンド・『ユグドラシル』があった。

 「これが彼女の部屋に隠されてあった。これ以上の証拠は無いだろう?」
 「・・・分かったわ」
 「シンシア!?」
 シンシアさんの言葉に驚く柾影。
 「大丈夫よ。私は無実なんだから。・・・お願いします」
 「・・・ではこちらへ」
 男に促され転移魔法の魔法陣の中へ入るシンシアさん。
 そして、その姿は光になって消えた。
 
 「・・・クソッ!!」

 毒づきながら近くの木を殴りつける柾影。
 ジンジンと痛む手。
 その痛みは柾影の心の痛みでもあった――――







                                〜第68話に続く〜


                         こんばんわ〜フォーゲルです。第67話になります。

                       今回はシンシアと『ユグドラシル』との関係性がメインですね。

                       そして、柾影とシンシアの関係性にも変化を持たせてみました。

                       次回は、柾影はシンシアを救いだせるのかがメインになるかと。

                    そして、柾影にもヒタヒタと暗い影が・・・という流れになっていきます。

                                それでは、失礼します〜



管理人の感想

ようやく謎の全貌が明らかになってきましたね。第67話をお送りして頂きました〜^^

ニアハート家に伝わる一子相伝の力と、ユグドラシルの関係。そしてヒトラーの血を引くシンシアが、ナチス復興派に祀り上げられようとしている現状。

そんな中、再び彼らの目の前に現れたのは魔法連盟の使者。

何故シンシアの部屋にユグドラシルがあったのか? ユグドラシルが自分の意志で脱出したことを考えれば、あるべき持ち主のところへ行ったということなのでしょうか。

それとも、誰かが意図的にシンシアの部屋へと運んだのか。

二人の恋模様も気になりつつ、今日はこのあたりで。



2009.7.11