『解かれた魔法 運命の一日』〜第64話〜
投稿者 フォーゲル
「あっ!自己紹介がまだだったね」
女の子は思いついたように、胸に手を当てて言葉を続ける。
「私は『シンシア=ニアハート』よろしくね」
そう言って手を差し出す彼女。
しばらく、その手をジッと見つめる柾影。
(ほら、握手してやれよ)
思わずそうツッコミを入れる俺。
そのことにようやく思い至ったのか、慌てて手を差し出す柾影。
「・・・藤林 柾影だ。よろしく」
ぶっきらぼうに言葉を続ける。
「で、そのシンシアさんが俺に何の用なんだ」
「用事が無ければ、話掛けちゃダメなの?」
「いや、そんなことは無いけど」
シンシアさんは、人差し指を唇に当てて言った。
「う〜ん、あなたのことが気になってね」
「えっ・・・」
その言葉に同調している柾影の心がドキンとするのを俺は感じた。
(こういうのを感じると柾影も年頃の男なんだな)
「どうしたの?顔が赤いよ?・・・ひょっとして・・・私に惚れた?」
「なっ、そんな訳無いだろ!」
「確かに私はフリーだけど、まだ誰かと付き合うことは考えてないかな〜」
「だから、違うって・・・」
そんな2人の会話を柾影視点で見ながら、俺は考え込んでいた。
(ますます、雰囲気がすももに似てるな・・・シンシアさん)
いつの間にか会話の主導権を握っているあたりなんかが特に似ている。
「・・・あ、やっと笑ったね」
シンシアさんがようやく安心したように言う。
「さっきからずっと暗い表情をしてたよ」
「そうか?・・・原因は分かってるだろ?アンタだって」
恐らく、さっきの物影から感じた気配は彼女のものだろう。
「うん・・・それでも、さっきみたいにずっと暗い表情をしてるよりはいいと思うよ」
笑いながら言うシンシアさん。
「あっ、そうだ?柾影くん。明日ヒマかな?」
「特に用事は無いけど」
今日の一日の様子を見る限りでは、柾影は学内で孤立している可能性が高い。
その答えは俺の予想していたものだった。
「じゃあ、明日お昼休み、私に付きあってくれるかな?」
「別に・・いいけど、アンタはいいのか?」
「何が?」
「ほら、俺と一緒に居るとその・・・」
柾影は自分と一緒に居るとシンシアさんまでひどい目に合うんじゃないか?ということを心配しているようだった。
(いいとこあるじゃないか)
「ああ、気にしないで下さい、私は気にしませんよ。それに・・・」
「それに?」
「そんな『魔法後進国日本から来た魔法使い』とか言う理由で差別して友達になれるかも知れないチャンスを無くすなんてバカみたいだし」
そう言って笑うシンシアさん。
「じゃあ、私はこれで、明日楽しみにしてるから!」
そう言って手を振って走り去るシンシアさん。
「全く・・・変わった奴だな」
そう言いながらも俺は柾影の心が少し軽くなったのを感じていた。
明けて次の日。
「なあ、どこに行くんだよ」
「いいから、いいから!黙って付いてきて」
柾影の質問にシンシアさんはさっきからそう答えるばかりだった。
そして、連れて来られたのは学園の屋上。
そこには―――
「遅いぞ、シンシア」
「私達、かなり待ったんだけど?」
10人くらいの学生が待っていた。
「ゴメーン!遅くなった?」
謝りながら学生達に近づくシンシアさん。
「そいつか?日本から来たって言う留学生は?」
一人の学生が柾影を見る。
「・・・」
今までのトラブルのことがあるのか、警戒する雰囲気を出す柾影。
そいつは柾影を値踏みするように見つめると、一つ頷きカバンから何かを取りだす。
「おい・・・」
「何だよ」
「日本には、いろんな魔法的な儀式、術式があるのは本当か?」
「・・・は?」
柾影は思わずキョトンとした表情を浮かべる。
「ちょっと、私の質問にも答えてほしいな」
かたわらの女生徒にも声を掛けられる。
「あ、あの・・・ニアハート?」
戸惑いながら、シンシアさんに話しかける柾影。
「ここにいる皆はね、日本の・・・というか東洋の魔法に興味のある人達なの、
藤林くんに声掛けたかったらしいんだけど・・・みんな怖がってたみたいだから、私が率先して声を掛けたって訳」
「・・・」
(そういえば、無意識にトラブル避けようとして近寄りがたい雰囲気を醸し出してたからな)
そんなことに今更気がついた俺。
「という訳で、藤林くん。みんなの質問に答えてあげてね」
その後、柾影による『東洋魔法のレクチャー』が昼休み一杯続いた。
「え〜では、今日の授業は・・・」
次の授業の講師が授業を開始する。
最も、柾影はさっきまで続いていたシンシアさん達に対するレクチャーで疲れていた。
でも、同化している俺は柾影の心がやんわりと落ち着いているのを感じていた。
(この出会いは柾影にとっていい方向に働いたみたいだな)
俺がそんなことを感じていると―――
「では、今日の授業は『ユグドラシル』と『ラグナロク』に関して―――」
(!!)
同化している柾影の目が教科書に落ちる。
そこには、俺達が散々苦労してたマジックワンド『ユグドラシル』が写真付きで掲載されていた。
(なるほど、ヨーロッパでは授業で教えるほどなんだな)
教師の声を聞きながら、俺は俺なりに『ユグドラシル』と『ラグナロク』に関して情報を纏める。
そもそも『ラグナロク』は最初は古代に起きた神話のたぐいだと思われていた。
しかし、それは明らかに、人の魔力では引き起こせないほどの魔法で破壊された古代の遺跡が発見されたことで現実に起きたことだと認識された。
その後は、『ラグナロク』ほどの大規模な破壊が引き起こされた形跡は残って無いが、
様々な遺跡・文献などを解析すると、歴史の主要な出来事に関わっていることが分かった。
少なくとも、歴史上の人物の手を『ユグドラシル』は渡り歩いている。
アレキサンダー大王・ジュリアス・シーザー・カール大帝・エリザベス1世・ナポレオンetc
ある者はその力を武力に行使し、ある者は自分の力の象徴として
いずれにしても、『ユグドラシル』が歴史を動かして来たと言っても過言ではない。
そして、歴史上に残っている『ユグドラシル』最後の所有者は・・・
アドルフ・ヒトラー。
言うまでも無く、ナチス・ドイツの創始者にして第二次世界大戦の元凶とも言われる人物。
その絶対的なカリスマ性も『ユグドラシル』の効果だったのかも知れない。
(そういえば、俺達の前に現れた柾影もカリスマ性に近い絶対的な雰囲気を持ってたな・・・)
俺はそんなことを考えていた。
第二次世界大戦の後、ヒトラーの手を離れた『ユグドラシル』は力を失い、厳重に保管されているらしい。
(でも、それが何故か今は柾影の手にある・・・)
いずれにせよ。これから起こる出来事で柾影が『ユグドラシル』を手にすることになる。
(その原因は何だ?)
俺はそんなことを考えていた。
「でね〜今日は・・・」
楽しそうに笑うシンシアさん。
「・・・お前は元気だな」
その様子を呆れながらも楽しそうに見つめる柾影。
そもそも、こういう状況になったのは、理由がある。
柾影がトラブルを避けようと授業を終えた後、早めに学園を出たところでシンシアさんに出会って―――
後は流れで一緒に帰ってるという訳だ。
「え〜、だってこれが私だし」
柾影の言葉にむくれるシンシアさん。
「だいたい、暗くしてたってそれでいいことなんか一つも無いんだよ?だったら辛くても笑ってた方がいいじゃない?」
「・・・そうだな」
同意する柾影。
「あっ・・・やっと笑ってくれたね」
「えっ?」
柾影の顔を覗き込むようにして言うシンシアさん。
「柾影さん、転入してからずっと暗い顔してたし、気になってたんだ」
「そ、そうか・・・」
思わず顔を逸らしながら言う柾影。
そして、心の中から湧き上がって来る感情。
俺は、その感情を以前に感じたことがある。
―――すももに初めて会った日に感じた感情。
(ああ、なるほどね・・・)
俺は『柾影も年頃の男なんだな、やっぱり・・・』とかそんなことを考えていた。
最も当の柾影は『その感情』に気付いていないようだが。
俺がそんなことを考えていた―――その時。
(!!)
柾影達に向けられた『異様な気配』を感じた。
最初はまた柾影を妬んでいる奴らかと思った。しかし―――
その気配にはハッキリと『殺してやる』という殺気が流れた。
その殺気のする方向に柾影は視線を送る。
近くのビルの屋上。私服姿の男がそこに佇んでいる。
しかし、その手のひらには、もう魔法弾が完成していた。
その魔法弾が放たれるのと同時に、柾影はシンシアさんの身体を抱きかかえると横っ跳びに飛んだ。
“スガガガガガガァン!!”
柾影達の立っていた場所に魔法弾が炸裂した。
「ゲホッ!ゲホッ!・・・だ、大丈夫か。シンシアさん」
「う、うん・・・」
柾影は狙撃された場所を見つめた。
しかし、もうその場所には男の姿は無かった。
柾影はもう一度シンシアさんに視線を戻し―――
「どうしたんだ?」
シンシアさんは、地面に出来た魔法の炸裂後を見た考え込むようにしていた。
「えっ?う、ううん何でもないよ?」
しかし、その表情に若干の不安が浮かんでいたことに柾影も、そして俺も気が付いていた―――。
〜第65話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第64話になります。
今回の話はシンシアのお陰で少しつづ馴染み始めた柾影の様子と
『ユグドラシル』の歴史的な因縁に関してですね。
シンシアの性格は作者のイメージとしてはすももと杏璃を足して2で割った感じですね。
次回からは少しづつターニングポイントに向かって動き始めます。
次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
今回は、過去編のキープレイヤーとなりそうなヒロイン、シンシアとの出会いのシーンでしたね。
寡黙な柾影と、天真爛漫なシンシア。正反対な二人ですが、だからこそ気が合うのでしょうね^^
シンシアとの出会いを機に、少しずつ心にゆとりを取り戻していく柾影。しかし、そんな日常も長くは続かず・・・。
突如感じた殺気と、放たれた魔力弾。それは、日常の崩壊を意味していた。
フォーゲルさんの言うターニングポイントが、非常に楽しみですね^^