『解かれた魔法 運命の一日』〜第63話〜








                                                      投稿者 フォーゲル







  「柾影〜!!何してるの!早く起きなさい!!」
 「ああ、分かったよ!!」
 (!?)
 俺が返事をする前に、口が勝手に動いて『柾影』が返事をしていた。
 (そうか、今俺の意識と少年時代の柾影の意識が同調してるんだな・・・)
 そんなことを考えながら、俺は身支度を整え始める。
 『柾影、早くしろよ』
 かたわらに立てかけてあるマジックワンドが俺に向かって声を掛ける。
 俺が知っている柾影の『ユグドラシル』では無い、藤の花の文様が彫りこまれているマジックワンドだった。
 「分かってるよ!『ウィス』」
 このメモリーオーブの効果の一つなのか、俺の頭の中にはそのマジックワンドに関する情報が流れこんで来ていた。
 【『ウィステリア』―――藤林家の後継者に受け継がれるマジックワンド―――】
 (なるほど・・・師匠の『ビサイム』と同じようなものか・・・)
 そのマジックワンドが醸し出す雰囲気は、柾影が今持っている『ユグドラシル』とは違う清廉な感じがした。
 ウィステリアを掴むと俺は1階に降りて行った。




  「ほら、柾影。早くしなさいよ」
 下に降りるとショートヘアの茶色の髪の女性がいた。
 この人が柾影のお母さんなんだろう。
 「ああ、分かってるよ」
 俺は、パンを齧りながら急いで準備をする。
 ふと、テーブルの上に日本からのエアメールが届いているのを見つける。
 「・・・謙三叔父さんから?」
 「そうよ。お義兄さん達、今度養子を貰うことにしたからその報告みたいよ」
 その中に同封していた写真を俺は見つめる。
 写真の中には俺のよく知ってる少女の姿があった。
 ピンク色の長い髪、それを大きなリボンで止めた女の子―――
 (姉ちゃんか・・・)
 「名前は渚ちゃん。義兄さん達が言うには、柾影に次の藤林家の後継者の座を託したから、これからは
  渚ちゃんの成長を楽しみに過ごすって書いてあるわ」
 「叔父さん達も、急に隠居した爺さんみたいなこと言いださないで欲しいんだけどな」
 「それだけあなたに期待してるってことでしょ、今回のヨーロッパ留学だって謙三さんの後押しで選ばれたんだし」
 (柾影も、魔法の世界では相当期待されたサラブレッドなんだな・・・)
 今の時代で言うと姉ちゃんや神坂さんみたいなものか。
 「まあ、期待に答えられるように頑張るよ」
 柾影はそう言うと身支度を整えて家を出た。





  (しかし、スゴイなこれ・・・)
 俺は柾影の目を通して見ているものを見て驚いていた。
 目の前にあるのは、教科書。
 姉ちゃんの以前の発言や、さっき鏡で見た姿から推測するに、俺が追体験している記憶の柾影は恐らく中学3年から高校1年くらいだろう。
 だけど、俺が見ているその教科書の内容は、とてもその年齢で教わるレベルじゃ無かった。
 少なくとも、瑞穂坂学園の魔法科に在籍している間は教わらないだろう。
 「・・・藤林、藤林!!」
 (えっ?)
 俺はその言葉に動揺する。
 どうやら、教師が柾影に質問してきたらしい。
 「この魔力式を構成するのに必要な魔力量とその理由を述べなさい」
 (い、いやこんな質問、チンプンカンプンだって!?)
 焦りまくる俺をよそに身体が勝手に動く。
 「はい。まずは自分の・・・」
 そこから、柾影はスラスラと答えを述べる。
 その答えに教師は満足したように頷く。
 「よろしい、皆も藤林を見習って頑張るように。では次に・・・」
 俺は腰を下ろす。
 (ホッ・・・良かった)
 よく考えると、あくまでも柾影の記憶を追体験してるんだから俺が行動する訳じゃないし、焦ることは無いんだよな。
 内心では苦笑しながら、俺はあることに気が付いた。
 (・・・!?)
 さっきから嫌悪感ににも似た視線を俺は感じていた。





  (ふう、何とか終わったな・・・)
 俺はその日の授業を終えて家路に付いていた。
 授業を終えた後、俺は教授に呼び出されて、今度の学会での手伝いを頼まれていた。
 その時の柾影の心情を察するに―――嬉しかっただろうことは理解出来た。
 しかし、それだと俺には疑問が浮上してくる。
 (でも、ここまでは柾影が今の状況になる理由がよく分からないんだが・・・)
 少なくとも今日一日では、伊織さんが言っていた『魔法に絶望を抱く』ような事態になることは考えられないんだが。
 そんなことを考えながら、俺は人通りの少ない道を歩く。
 その時だった。
 「よう!藤林」
 その声に後ろを振り返る。
 だが、俺―――というか柾影の心には不快感が生まれた。
 (ああ、なるほどね・・・)
 見ると2・3人の男がニヤニヤと笑いながら俺に近づいて来る。
 俺はその男達から、さっき教室で感じた不快感を感じていた。
 「・・・何だよ」
 しかし、その時の柾影の口調は思いっきり不快感を隠していなかった。
 (ああ、もう少し穏便に・・・)
 「何だ、日本から来たエリート様は俺達の相手なんかしてられないってか?」
 案の定、その男達―――恐らくは柾影のことが気にいらない連中だろう。
 そういえば、学校に居る間も柾影は友達と話していることがほとんど無かった。
 (ひょっとして、学校に馴染めてないのか?)
 確かに、魔法の本場の学校、しかも日本からの留学生を受け入れるような学校となればそこに通う生徒もエリートだと言うのは想像出来る。
 そのエリート連中からすれば、魔法後進国である日本から来た男の方が教授達に評価されてるとなれば気にいらなくなるのも当然だろう。
 「・・・どいてくれるか?」
 怒りを抑えながら言う柾影。
 だが、その行動そのものが、男達には返って気にいらなかったようだ。
 「お前、何だ、その目は・・・気にいらねーんだよ!!」
 
 “バキッ”

 男達に殴られて柾影はもんどりうって倒れる。
 「どうした。手を出してみろよ」
 男達は柾影に近づく。
 次に繰り出して来たパンチを柾影はひょいっと交わす。
 そのまま、しばらく交わし続ける。
 柾影が手を出さない理由は何となく分かった。
 自分は留学生の身だし、記憶の情報で分かったことだが柾影のお父さんは『魔法大使』としてこの国に派遣されているらしい。
 ここで手を出せば、お父さんやこのヨーロッパ留学に尽力してくれた謙三さんの顔に泥を塗ることになる。
 それだけは、避けなければならない。
 そんな柾影の想いを俺は感じていた。
 しばらく、男達の攻撃を避け続けた柾影は意を決したように背を向けて走り出した。
 「逃げたぞ!追え!」
 男達も追って来る。
 柾影としては人通りの多い道に来れば相手も引くだろう。そう考えたのだろう。
 そして、柾影の思惑通り、人通りの多い所に出た。
 (よし―――これで)
 だが、そこからは俺も柾影も予想しない流れになった。
 「チッ・・・」
 男達の一人がマジックワンドを構え―――ってちょっと待て!!
 『ガイズ・アス・ディ・アルンド・・・』
 おいおい、いくら気にいらないからってこんな人通りの多いところで攻撃魔法なんて―――!!
 『レアス・シニル・レアルード!!』
 その男から伸びた影が俺に向かって襲いかかる!!
 「チッ・・・仕方ないか」
 柾影は『ウィステリア』を構えると呪文を唱え始める。
 『シニック・レリス・ライ・・・』
 その呪文と共に、『ウィステリア』が白く輝き始める。
 『チャシル・ギル・ジュビルファス!!』
 呪文の完成と同時に、柾影は『ウィステリア』を地面に突き立てる!!
 その瞬間、白い光が襲いかかる黒い影を消滅させる。
 「何っ・・・」
 男達はその光景を見て固まった。
 「何だ、何だ!?どうした?」
 見物人がぞろぞろと集まって来る。
 そんな声を無視して、柾影は男達に声を掛ける。
 「まだやるのか?どんどん人が集まって来るぞ!!」
 「クソっ!覚えてろよ!」
 男達は、そう言ってそそくさと逃げ出した。
 (ふう・・・)
 とりあえず、柾影は一息付いて―――
 その時俺はあることに気が付いた。
 俺が気が付いたということは当然、柾影も気が付いている訳で―――
 「兄ちゃん、大丈夫か?」
 「えっ?ああ、大丈夫です」
 ひとまず、そのことは無視して、柾影は声を掛けてくれた人に挨拶をしていた。






  その後、柾影はまた家路に着いたのだが―――
 (ふうっ・・・)
 思わずため息が出る。
 さっきからずっと気配が一つ付いて来ていた。
 「俺、そんな人に恨まれるような覚えは無いんだけどな」
 小声で呟きながら言う柾影。
 足を止める。
 「で、アンタは何の用なんだ」
 柾影の声と同時に、気配も止まる。
 「う〜ん・・・気づかれちゃったか・・・」
 (えっ・・・女の子?)
 その声と共に、近くの樹の影から女の子がピョコンと顔を出す。
 (・・・!?)
 柾影はともかく、俺はその女の子を見て少なからず驚いた。
 髪は蒼い色をしたロングヘアー、好奇心旺盛そうな大きな瞳―――
 (す、すもも!?)
 その女の子から、俺はすももに似た印象を感じたのだ。
 すももが、その女の子と同じ髪型、同じ服装をしたらかなり印象が似て来るんじゃないか―――そう感じた。

  『「・・・お前も『あいつ』と同じこと言うんだな」』

 柾影がすももに対して言った言葉が脳裏に蘇る。
 俺はその時、こんなことを考えていた。

 (柾影の過去は彼女がキーポイントになるんじゃないか?)

 すももに良く似た印象の彼女を柾影の目線で見ながら俺がそんなことを考えていた。





                                 〜第64話に続く〜

                       
                         こんばんわ〜フォーゲルです。第63話になります。

                         今回は柾影のヨーロッパ留学の背景に関する話ですね。

                   セリフは柾影、意識(心の中の声)は和志なので、書くのが凄い難しいです。

                    次回は、柾影(和志)の前に現れたすもも似の少女、彼女と柾影の関係は?

                    そして、『ユグドラシル』と『ラグナロク』に関しても書きたいと思います。

                                それでは、失礼します〜



管理人の感想

こんばんは〜! フォーゲルさんより、解かれた魔法の63話をお送りして頂きました^^

前回から始まった、柾影の過去の物語。今回は朝の風景と、学校生活について描かれていましたね。

ヨーロッパへの留学。将来を嘱望された柾影ですが、留学先では上手く馴染めておらず、絡まれることもしばしば、といった感じですね。

そしてそんな時に出会った少女。すももに良く似た雰囲気を持つ彼女の正体は・・・?

次回が楽しみな展開ですね^^



2009.5.30