『解かれた魔法 運命の一日』〜第62話〜









                                                  投稿者 フォーゲル







  足元に倒れた伊織さんを見つめる柾影。
 その瞳は複雑な表情をしていた。
 そして、その場にしゃがむと伊織さんに向かって手をかざす。
 『・・・』
 良く聞き取れなかったが、その口からは―――
 (呪文・・・か?)
 それと同時に、俺の目には伊織さんの身体から『ワルキューレ』の象徴でもある
 銀色の光と、魔法式が浮かび上がる。
 その術式は、さっき、融合魔法を使っていたすももの術式に良く似ていた。
 しかし、これは融合と言うより・・・
 (同化?)
 すももの『神融合魔法』はそれぞれの『四神』の特徴を残したまま、
 バランス良く融合しているような感じだったが、
 今、柾影が伊織さんに使っているのは、『ワルキューレ』の魔力を一旦完全に分解して、
 その魔力を、自分の魔力に取りこんでいるという感じだった。
 それと同時に、さっきの『咬龍』の攻撃の余波を交わしきれなかったのか、
 信哉さんの近くに倒れている純聖さんからも同じようにまた魔力が柾影に向かって収束していく。
 (間違い無い・・・柾影は『神の力』を取り込んでいる)
 俺がそんな確信を抱いている間にも魔力は柾影に向かって収束していき―――
 やがて、2つの魔力は柾影の魔力と同化した。
 「ふうっ・・・」
 柾影は一つ息を付き、俺とすももの方を見た。
 「・・・!」
 前に海で襲われた時のことを思い出し思わずすももを背後に庇う俺。
 「心配するな・・・お前達を今は襲わない。今のお前達を倒しても『ユグドラシル』も満足しないしな」
 それでも警戒は解かずに柾影をジッと睨む俺。
 「・・・お前達に一つ頼みがある」
 「・・・何だよ」
 そして、柾影は意外な言葉を告げた。
 「俺がこの場所から消えたら、伊織と純聖さんを保護して欲しい」
 「どういうことだ」
 「もう、こいつらは俺にとって用無しだからだ」
 冷酷に告げる柾影。
 「・・・ウソを付かないで下さい」
 しかし、その言葉をすももは否定する。
 「あなたにどんな過去があったのか、それはわたしにも和志くんにも分かりません。だけど―――」
 すももはそこで決然と柾影を見つめる。
 「伊織さんはあなたを愛しています。愛されているあなたはきっと優しい人なんです」
 柾影はそんなすももを見つめると、ポツリと呟いた。
 「・・・お前も『あいつ』と同じこと言うんだな」
 その言葉に思わず顔を見合わせる俺とすもも。
 その意味を問おうしたその時―――
 「うっ・・・くっ・・・」
 柾影が顔をしかめてうずくまる。
 その身体から魔力が溢れ始める。
 「チッ・・・久々に魔力を全て自分の身体に戻したから慣れが・・・」
 その言葉と同時に柾影の右腕に膨大な魔力が集まる。
 「クッ・・・うわあああああっ!!」
 叫びと同時に柾影は右腕を思いっきり振る。
 その瞬間、溢れだした魔力は式守家本家の一部の建物を吹き飛ばし、近くの森に着弾。
 
 “ズガガガガガァン!!”

 その一撃は俺達の想像を超える一撃だった。
 「・・・一か月だ」
 「何だと?」
 「一か月で、俺は『ユグドラシル』の力を使いこなして見せる。その時がお前達『四神』の継承者との決着の時だ」
 「ふ、ふざけるな・・・」
 「伊吹ちゃん!?」
 俺の後ろで意識を取り戻したのか、師匠がよろよろと立ちあがる。
 「せっかく、お主を倒せる好機が来たのだ。このまま逃しはせぬ」
 師匠の言葉に俺もレイアを構えて臨戦態勢を取る。
 「そうか・・・だが・・・」
 柾影はそう言って一旦目を閉じる。そして―――
 
 “ブワッ”

 いきなり、圧倒的な魔力が重圧になって俺やすもも、師匠に向かって吹きつける!!
 「な・・・何だと・・・」
 師匠の声を背後に聞きながら、俺は気が付いていた。
 さっきから目の前に居るのに、柾影の気配をまるで感じなかったことだ。
 この状況で気配を消すも何も無いような気がしたのだが・・・
 なんのことはない、ただ気配と魔力を意識的に消していただけなのだ。
 「式守のお嬢さん。追って来るなら追って来い。・・・無理だと思うけどな」
 そう言い、俺とすももを見る。
 「伊織と純聖さんを頼む、綾乃と義人はお前の姉さん達が保護しているはずだ」
 「そ、それはどういう・・・」
 だが、その問いに答えることなく、柾影は姿を消した。
 

 柾影が姿を消した瞬間、俺はその場にガクッと膝を付いた。
 「か、和志くん!?」
 「す、すもも・・・大丈夫か?」
 「う、うん、わたしは何とか・・・」
 しかし、そう言いながらも、その膝はガクガクと震えていた。
 (やっぱり『神融合魔法』はすももの身体に負担を掛けるみたいだな・・・)
 俺はそんなことを考えながら周りを見渡す。
 「あいつの対策は後から考えるぞ、まずは皆を屋敷に運ぶのだ」
 俺と同じことを考えていたのか、師匠はそう指示を飛ばす。
 「もちろん、そこの2人もな・・・いろいろと聞かねばならぬこともあるしな」
 師匠はそう言いながら伊織さんと純聖さんを見つめていた。





 

  そして、数時間後・・・
 俺達は目を覚ました、伊織さんと純聖さん達のところに集まっていた。
 「・・・一体、何があったんです?」
 そう問いかける伊織さんに、俺は伊織さんが意識を失った後のことを説明する。
 『ワルキューレ』に意識を乗っ取られたこと。
 それは『四神』すももの『神融合魔法』で何とかしたこと。
 その後に、柾影が現れて、2人の『神の力』を自分の魔力に同化させたこと。
 2人を保護してくれと頼まれたこと。
 そして、一か月後に俺達と決着を付けると宣言して姿を消したこと。
 「そうですか・・・」
 全てを聞いて、ため息を付く伊織さん。
 「やっぱり、『あの人』のために戦うんですね・・・」
 その表情にはどことなく、寂しげな表情が浮かんでいた。
 「・・・伊織さん」
 俺は、そんな表情を浮かべる伊織さんにそっと問い掛ける。
 「柾影の過去を知っているのなら、良かったら話してくれませんか?」
 「・・・」
 俺の問いかけに黙りこむ伊織さん。
 「俺達、今まであなた達の攻撃から自分の身を守るのが精一杯で、あなた達のことを何も知らないんです。
  だから、柾影の過去を教えて下さい、ひょっとしたら柾影を止められるかも知れないし」
 「教えてあげてもいいのではないか?伊織殿?」
 そう言ったのは、今まで黙っていた純聖さんだった。
 「お主だって、この者達に知って貰おうと思って『それ』を持ちだしたのでは無いか?」
 「・・・」
 伊織さんは黙って、ポツポツと呪文らしきものを唱えた。
 次の瞬間、伊織さんの手のひらには黒い宝玉があった。
 「それは、記憶玉(メモリーオーブ)では無いか?」
 「はい、そうです。この宝玉の中には柾影さんがあのマジックワンドを手にした経緯が記録されています」
 あのワンド―――
 古代、魔法使いによる最終戦争と言われる『ラグナロク』を引き起こした原因であると言われる『ラグナ=ワンド』こと『ユグドラシル』。
 さっきもあのワンドからは禍々しい魔力が溢れていた。
 更に伊織さんが呪文を唱えると、その黒い宝玉は空中に浮き、ピタリと止まった。
 「これから、皆さん、柾影さんの過去を見て貰います」
 グルリとこの場にいる師匠・信哉さん、沙耶さん、すもも、そして―――
 「特にあなた、和志さん、気をしっかり持って下さい。じゃないと精神に支障を来たすかも知れません」
 真剣な眼差しで俺を見る伊織さん。
 「・・・分かりました」
 思わず息を飲む俺。
 その言葉と同時に、黒い宝玉が強烈な光を放つ。
 次の瞬間、黒い光が俺達を包み―――
 そこで俺の意識はプツリと途切れた。




  “チュン、チュン・・・”
 雀の鳴く音が外から聞こえて来る。
 (あ、あれ・・・俺、確か柾影の過去を見てるはずなのに・・・)
 俺はそんなことを考えながら、目を覚ます。
 どうやら、朝らしい・・・
 (どういうことだ?)
 俺は寝ていたベッドから這い出して、窓を開けた。
 (・・・!?)
 窓の外には見たこともない風景が広がっていた。
 しいて言うならーーー
 (ヨーロッパの街並みみたいだな)
 以前、テレビで見たヨーロッパの街並みに似ていた。
 更に俺は異変に気付く。
 (あれ、レイアは?)
 レイアの姿が見えない。
 「お、おかしいな・・・」
 そんなことを考えながら、俺はレイアを探し始める。
 「おーい、早く起きなさい!」
 この部屋は2階のようで、下から俺は呼ぶ声がする。
 そして、次の言葉に俺は固まることになる。
 「早くしないと遅刻するわよ〜『柾影!』」
 (なっ・・・)
 その言葉に動揺しながらも、何とか返事をした俺は慌てて自分の姿を鏡で見る。
 そんなに長くない赤い髪、少し付いて来た筋肉―――
 鏡の中には15歳くらいの少年がいた。
 そう、柾影が15歳くらいだと考えたら、丁度こんな感じになりそうだった。
 俺は以前姉ちゃんが話していたことを思い出す。

 『でも、彼は私が藤林家に養子に来たのと同時期に魔法の留学のために旅立ったヨーロッパで両親共々消息を絶ってて―――』


 その言葉を思い出し、俺の頭の中に一つの考えが浮かぶ。

 (俺は今、柾影の記憶を『追体験』しているってことか―――)





                              〜第63話に続く〜

                    
                      こんばんわ〜フォーゲルです。第62話になります。

                      今回は式守家編のクライマックスに入りつつある話です。

                         柾影は伊織達を和志達に託して姿を消す。

               伊織は柾影の過去を知って貰うため、記憶玉(メモリーオーブ)の力を解放する。

                          そして、和志は柾影の過去を知ることになる。

                  『追体験』という方法は読者の皆さんの意表を付けたらいいな〜と思います。

                             次回は柾影の過去編になります。

                  ある意味このSSの全ての始まりの話になるので、頑張りたいと思います。

                              それでは、失礼します〜



管理人の感想

フォーゲルさんより、解かれた魔法の第62話をお送りして頂きました〜^^

今回の話で一段落、そして新たなる展開が始まりましたね。

柾影の登場。そして吸収する神の魔力。仲間を託し、一人立ち去る。

思っていたほど悪人ではないようですが、やはりその過去に所以があるのでしょうか。

それに答えるかのように、過去編がスタート。和志が柾影の記憶を追体験することとなった理由とは・・・?



2009.5.17