『解かれた魔法 運命の一日』〜第61話〜








     

                                                投稿者 フォーゲル








  彼女の姿を見た時にわたしは不思議な感覚を覚えました。
 初めて会ったはずなのに、どこかで見たことあるような―――
 「では、また会いましょう。・・・あの2人が無事に結界から出られればですけど」
 そう言って姿を消そうとする彼女―――伊織さん。
 その瞳からは涙が流れているようにわたしは感じました。
 「どうして、そんな表情をするんですか?」
 わたしはそう伊織さんに問いかけていました。
 「こうすることでしか、私は『あの人』の期待に答えられないから」
 「!!」
 その答えで私は確信を得ました。
 伊織さんはきっと、その人のことが―――



  わたしは一歩一歩、伊織さんに近づきます。
 「クッ・・・」
 伊織さんは小雪さんの結界から逃れようと身をよじります。
 しかし、結界は強力なようで伊織さんの身体はピクリとも動きません。
 わたしは、伊織さんの正面に立ちます。
 「すもも!!」
 危険だと思ったのか思わず声を上げる和志くん。
 わたしは、和志くんの方を見て笑います。心配させないように。
 そして、警戒するようにわたしを見る伊織さんに向きなおります。
 わたしは、逆に安心させるように―――
 マジックワンドを構えている伊織さんの手を包みこむように握りました。
 「!!」
 驚いた表情を浮かべる伊織さん。
 わたしは口を開きます。
 「伊織さん、あなたは『愛する人』のためにこんなことをしているんですね」
 「・・・どうして、分かったの?」
 驚きも否定もせずに答える伊織さん。
 「あなたの目を見た時に、何となく分かりました」
 伊織さんの瞳は愛する人のためなら、自分はどんなことでもする。
 そんな決意を語っていました。
 「あなたには、分からないでしょう・・・」
 自嘲気味に笑う伊織さん。
 「愛する人が間違っている方向に進んでいるのにそれに協力するしかないんだから・・・」
 「でも、それだったら伊織さんが止めてあげれば―――」
 「止めたわよ!何度も止めようとしたわ!でも、柾影さんは―――あの人は―――」
 苦しい感情を吐き出すように言葉を続ける伊織さん。
 「・・・結局、私は『あの人』の代わりにはなれなかった」
 「『あの人』?」
 この『あの人』と言うのは柾影さんのことでは無いみたいですけど・・・
 「だから、私は決めたの。柾影さんがどうしても『愛した人』のために魔法に復讐するというなら、私はそれに協力しようって」
 「・・・」
 「それが、わたしの愛の形だから」
 キッパリと言う伊織さん。
 だけど、わたしはーーー伊織さんの言葉に違和感を覚えました。
 「あなたはどうなの?」
 「・・・」
 「そこにいるあなたの彼―――吾妻さんがもし柾影さんと同じ立場で、あなた以外に愛した人がいて自分の声には耳を貸してくれなかったら?」
 逆にわたしを値踏みするように問い返す伊織さん。
 「わたしは・・・止めます。何が何でも」
 伊織さんの強い意志に負けないように、わたしも強い意志を持って伊織さんを見つめ返します。
 「わたしは、わたし自身として、『小日向すもも』として吾妻くんに向き合います」
 そう、わたしが伊織さんの言葉に抱いた違和感はそれでした。
 「どうして、伊織さんが柾影さんの『愛した人』の代わりにならなきゃいけないんですか?それは伊織さんの心の弱さです」
 「・・・」
 わたしの言葉に黙りこむ伊織さん。
 「伊織さん、今からでも遅くありません。伊織さんが伊織さんとして向き合えばきっと柾影さんも、耳を貸してくれますよ!」
 「・・・確かにあなたの言うとおりよ」
 伊織さんが言葉を紡ぎます。
 「私が私自身として柾影さんと向き合えなかったのは、私自身の心の弱さ。でも、それでも―――」
 伊織さんはわたしから視線を逸らします。
 「私は例え、『誰かの代わり』でも柾影さんに愛して欲しかった―――」
 伊織さんがそう呟いた、その時でした。
 
 “ドクンッ”

 不意にわたしの身体が大きく脈打つような感覚に襲われました。
 (な、何ですか!?)
 その不思議な感覚に戸惑っているとーーー
 「あ・・・ああっ!!」
 伊織さんの身体から膨大な魔力が噴き出して来ました。
 「い、伊織さん!?」
 わたしは思わず伊織さんに近づこうとします。
 「すもも!!」
 和志くんの声と同時に私は思いっきり引っ張られました。
 




  思わず俺は動いていた。
 すももと伊織さんの会話が途切れた一瞬―――
 伊織さんの身体から、膨大な魔力が噴き出して来た。
 とっさに危険だと判断した俺はすももを伊織さんから引き離す。
 「すもも!大丈夫か!」
 「う、うん・・・」
 俺達がそんな会話をする間にも伊織さんからは銀色の魔力が溢れていた。
 その魔力はどんどん伊織さんを包みこむように強化していく。
 「させぬ!!」
 俺達と同じように危険だと悟った師匠が魔法弾を飛ばす。
 しかし―――
 
 “ブンッ”

 一振りだった。
 そのたった一振りで師匠の魔法弾と小雪さんの『玄武』の力が籠った結界魔法はあっさりと弾き散らされた。
 やがて、伊織さんの魔力が収まる。
 そこには、柄まで銀色に光り輝く剣を持った一人の女性が―――
 銀色の長い髪と紫の瞳を持った伊織さんとは似ても似つかない女性が立っていた。
 その女性は俺達の方を見ると口を開く。
 「初めてお会いする。私の名は『ワルキューレ』・・・『ユグドラシル』の一部にして長き時を生きる者」
 「!!」
 その言葉に俺達は驚く。
 「私を構築したこの女の精神力が弱くなったおかげで、出て来ることが出来た。礼を言う」
 「伊織さんは?伊織さんはどうなったんですか!?」
 すももが『ワルキューレ』を問い詰める。
 「あの女は、今私の中で眠っている・・・最も私が出ている限り、目覚めることは無いが」
 苦笑しながら言うワルキューレ。
 「私はこれから『ユグドラシル』と同化する。全ては『ユグドラシル』とそのマスターの望みゆえ」
 そう言って剣を構えるワルキューレ。
 「その前に、まずは『四神』とそのマスターであるお主達を滅ぼす・・・現に『フレイ』と『オーディン』は同化したようだしな」
 (ということは、姉ちゃん達の方は・・・)
 一瞬浮かんだ不吉な考えを俺は打ち消す。
 今は、目の前にいるワルキューレを何とかしないと・・・
 「では、行くぞ!!」
 凄い踏み込みの早さで俺達に迫るワルキューレ。
 
 “ガギィィィン!!”

 俺達の間に割って入った影が一つ。
 「剣士ならば、俺が相手になろう」
 「信哉さん!」
 輝きを取り戻した『建御雷』を手に信哉さんが立っていた。
 「ほう、『建御雷』の使い手か・・・だが、大分消耗しているようだが」
 そんな状態で私には勝てないぞ―――
 暗にそう言っているワルキューレ。
 「確かに、俺一人では勝てないだろう。だが―――」
 その信哉さんの言葉と同時にワルキューレの背後に気配が生まれる。
 
 “ギィィィン!!”

 背後からの斬撃も手にした剣で受け止めるワルキューレ。
 そこには―――
 「ほう、『フェンリル』の使い手か・・・お主は精神力が強いようだな」
 「・・・伊織殿、今助けてやるぞ!!」
 そこには、前に俺達を襲った男―――純聖さんとか言ったか?がいた。
 「吾妻殿。ここは俺達に任せるのだ!!」
 「で、ですけど・・・」
 「吾妻和志!!」
 ふと、後ろから師匠の声がする。
 師匠が抱き抱えている護国さんが何かを考えているようだった。
 「護国様には何か考えがあるようだ。だからここは―――」
 「分かりました!!行くぞすもも!!」
 「う、うん」
 「させぬ!」
 魔法弾が生まれ、それが俺達に向かって飛ぶ。
 
 “ズガァァァン!!”

 「お主の相手は俺達だと言ったはずだ!」
 魔法弾を叩き落し、再びワルキューレとの間合いを詰める信哉さん。
 その姿を見ながら、俺達は護国さんの所へ移動した。





  「集まったな・・・」
 俺達の姿を見ながら護国さんは頷く。
 「護国さん、伊織さんを助ける方法は無いんですか?」
 「・・・あるにはある」
 すももの問いに答える護国さん。
 「どんな方法ですか?」
 「それには、吾妻殿、伊吹、高峰殿・・・そして、すもも殿、あなた達の力が必要なのだ」
 護国さんはふところから、ブレスレットのような物を取り出す。
 「これは、何なのだ?」
 「これは、すもも殿の父上、宏之殿が式守家を去る時に私に託して行ったものだ」
 師匠の問いにその時のことを懐かしむように言う護国さん。
 「『いつか自分の魔力を引き継ぐ者が現れたら渡してくれと・・・』今にして思えばこの時を予感していたのかも知れないな。宏之殿は」
 「お父さん・・・」
 それを受け取るすもも。
 「それで、どうすればいいんですか?護国様」
 高峰さんの問いに護国さんは作戦を伝えた。




 「ほう・・・」
 ワルキューレは俺達4人を見つめる。
 俺達は真ん中にすももを守るように立っていた。
 「次はお主達が相手をしてくれるのか?」
 俺達はその問いには答えず、呪文を唱え始める。
 『ウェル・シンティアス・レイ・フェニルート・・・』
 「!!」
 俺の唱える呪文にワルキューレは驚愕の表情を浮かべる。
 この呪文を俺は一度唱えている。
 雄真さんとの『魔法科試験トーナメント』の決勝。
 そこで唱えた呪文。あの時は何が何だか分からなかったが―――
 「『青龍』召喚か!させぬ!」
 俺との間合いを詰めようとするワルキューレ。
 しかし―――
 「俺達はまだ倒れておらぬぞ!!」
 信哉さんと純聖さんがワルキューレの足止めをする。
 『ディアルス・シンアルド・オル・ドルシアーニス!!』
 俺の胸元にある青い宝珠が輝きを増す。
 おそらく、これが完全な『青龍召喚』。
 俺の上空に前に召喚された時と同じ大きさの『青い龍』が出現していた。
 ただ、前と違うのはその圧倒的な魔力の密度。
 そして―――
 「吾妻和志、私は準備が出来ておるぞ!」
 護国さんから託された白い宝珠でコントロールされた『白虎』を召喚した師匠。
 「私もOKです!」
 紫色の亀のような姿の『玄武』を召喚した小雪さん。
 その2人の姿を確認してから、俺はすももを見る。
 すももは頷くと手を組んで祈りを捧げるようなポーズを取る。
 すももの身体から出る金色の羽から放出された魔力が俺達3人と召喚された『四神』を包み込む。
 そして―――
 白い爪と紫色の鱗、そして流れるような青い魔力を身に纏った龍―――『咬龍』(こうりゅう)が現れた。
 その圧倒的な魔力は青龍の比ではない。
 (和志くん!)
 咬龍を通じて繋がっている聞こえるすももの声に俺は意識を集中する。
 目標は―――ワルキューレ。
 俺の意識に従って咬龍はワルキューレに向かって収束する。
 信哉さんと純聖さんはもうワルキューレから離れていた。
 「くっ・・・こんなもの!」
 ワルキューレは剣でそれを食い止めようとする。
 だが、『咬龍』はおかまいなしでそれを侵食していく。
 「そ、そんな・・・バカな!!」
 その声を最後にワルキューレは光の中に姿を消した。
 




  「うっ・・・」
 俺はうめき声と共に目を覚ます。
 もう、『咬龍』の姿も無く、当たりは静まり返っていた。
 そして、2・3メートル先に黒髪のショートヘアの女の子―――伊織さんがいるのを見て俺はホッとした。
 「か、和志くん・・・」
 「すもも・・・大丈夫か?」
 「う、うん・・・終わったんですね」
 「ひとまずはな」
 そう言って俺は、再び伊織さんに目を移して―――固まった。
 倒れた伊織さんの足元。
 そのそばに一人の男。
 長髪の赤い髪に、蔦の絡んだマジックワンド。
 「柾影・・・」
 俺はその名を呆然と呟いた―――







                                   〜第62話に続く〜


                           こんばんわ〜フォーゲルです。第61話になります。

                             今回は伊織の想いとすももの考えの対立。

                後半は伊織を乗っ取った『ワルキューレ』とついに召喚された召喚龍・『咬龍』との対決ですね。

                        (これでも『朱雀』がいないので完全体ではないですが・・・)

                      すももの能力が公開された瞬間でもあった訳ですが、どうだったでしょうか?

                       次回から式守家編クライマックスになるので楽しみにして下さいね。

                                それでは、失礼します〜



管理人の感想

お待たせしました! サイトもようやく復活したので、フォーゲルさんの連載も再開です^^

今回は伊織との決着までを書いておられますね。

とうとう出現した伊織の神、ワルキューレ。既に現れた、オーディン、フレイ、フェンリルと共に「ユグドラシル」を象るもの・・・でいいのかな?

とにかく、そのワルキューレも三神を合わせた「咬龍」が打ち砕き――しかしそこに現れたのは、柾影。

とうとうクライマックスな予感?

それでは、次回もお楽しみに!



2009.5.4