『解かれた魔法 運命の一日』〜第60話〜
投稿者 フォーゲル
お互いに間合いを取りながら対峙する信哉さんと伊織さん。
周囲には未だに膨大な魔力の余波が渦巻いている。
だが、俺には分かってしまった。
さっきの一撃を打った信哉さんが肩で息をしているのを。
そして、それは伊織さんも気づいているようだった。
「あなたが、ここにいてその剣―――『建御雷』を持っているということは、純聖さんは負けたんですね」
「ああ、そうだ。安心しろ。命までは取っていない」
建御雷を構えていう信哉さん。
「これで、私一人だけですか・・・」
吹き飛ばされた屋根の穴から暗くなり始めた空を見上げる。
その瞳には、それでも揺るぎない決意と、少しの哀しみがあった。
「でも、私は引く訳には行かない!!」
再び魔力が伊織さんの周りに集まる。
“ズドンッ”
「はぁぁぁッ!!」
さっきと同じように信哉さんが建御雷でそれを撃墜する。
だが、状況的には信哉さんが不利だった。
事実、さっきとは違い受け流しきれなかった魔力が俺達の脇を掠めるようにして飛んでいく。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「沙耶!お主も無事だったのか?」
いつの間にか、沙耶さんが俺たちに合流していた。
「兄様もあまり長くはもたないようですね」
魔法を連発する伊織さんの魔法を受け流し続ける信哉さん。
しかし、その体には少しづつ細かい傷が増えていった。
「伊吹様、皆さん、兄様の援護をお願いします」
「し、しかし護国をこのままにしておく訳には・・・」
「護国様は、私に任せて下さい」
そう言って沙耶さんは護国さんの体に手を当てる。
「サンバッハ、お願い」
沙耶さんの背中のサンバッハが緑色の光を放ち始める。
それと同時に護国さんの体も緑色に輝く。
その光が強くなるのに合わせて護国さんの体の傷が塞がっていく。
「これは・・・」
「兄様が『建御雷』を手にした時に、私の体の中に魔力が流れ込んで来るのが分かったんです」
俺の問いに答える沙耶さん。
「建御雷の膨大な魔力の余波なのであろうな」
「その魔力を元に、魔法の術式を再構築して回復魔法を作ったんです。雑な術式ですけど、サンバッハと建御雷の魔力のおかげで何とか使えます」
沙耶さんがそこまで口にしたその時―――
“ゾクッ”
不意に背中に悪寒が走りぬける。
見ると、伊織さんの周囲に今までとは比べ物にならない魔力が集まっている。
信哉さんは膝を付いていた。
「皆さん、兄様を早く!」
「分かった!」
師匠はそれを見て呪文を唱え始める。
俺も呪文を唱えようとして―――
「和志くん・・・」
不意にすももが俺に話しかける。
「どうしたんだ?すもも?」
「すいません、ちょっとわたしに考えがあるんです」
「どんなだ?」
「・・・・」
すももは俺の耳元に囁く。
「・・・かなり可能性は低いぞ?」
「それでも、試してみたいんです」
「分かった」
俺はそう言って呪文を唱え始める。
後ろでは、更にすももが高峰さんに耳打ちしているのが分かった。
「もう、建御雷の力も限界のようですね」
伊織さんは信哉さんを見ながら言い放つ。
「くっ・・・まだまだ・・・」
そう言いながらも信哉さんはもう限界だった。
「これで・・・終わりです!」
渾身の一撃であろう魔力弾が信哉さんに向かって飛んでいく。
『ア・ダルス・ディ・ラム・ディネイド!!』
師匠が唱えた防御呪文がそれを迎え撃つ!!
“バキンッ、バリン”
だが、魔法弾の威力は止まらず、更に信哉さんに迫る。
『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ダグ・ウェルド!!』
俺が続けて出した障壁でようやく止まる。
「大丈夫か!信哉!」
「ここからは俺達に任せて下さい」
今度は俺と師匠が伊織さんに相対する。
「何人来ても無駄です。私と柾影さんから貰った力があれば」
絶対引かないという決意の眼差しを見せる伊織さん。
『ア・グナ・ギザ・ラ・デライド・ラ・ディーエ!!』
師匠が唱えた攻撃呪文が伊織さんに向かって飛んで行く。
『アス・ライルト・ディギス・オル・ファルド!!』
しかし、師匠の呪文もまた、伊織さんの防御障壁に防がれる。
『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ラル・フェステル!!』
俺の生み出した魔法弾が今度は伊織さんに迫る。
しかし、それもあるいは防御障壁に防がれ・あるいは身を交わされる。
俺の攻撃に合わせるように後ろからタマちゃんが飛んでくるがそれも当たらない。
「こんなものですか・・・ではこちらから行きます!!」
伊織さんは呪文を唱え――――信じられない呪文を唱えた。
『アス・ライルト・ディギス・オル・ファズ―――』
俺も師匠も身構える。
『―――ラ・ディーエ!!』
『なっ!!』
俺と師匠の驚きの声が重なった。
空に見覚えのある魔法陣が浮かび上がり、そこから光の矢が降り注ぐ!!
『―――!?』
それを何とか交わす俺と師匠。
「な、何故だ!?あれは―――」
驚く師匠。無理もない。あれはまぎれもなく『師匠の魔法』だ。
「驚きました?」
「ど、どうして、師匠の魔法を!?」
「簡単なことです。式守さんの魔法式をコピーしたものを手に入れて私の魔法式に組み込んだだけですから」
さらっと言ってのける伊織さん。
しかし、それがとんでもないことだと言うのは疑う余地もない。
いや、それよりも重要なのは―――
「い、いつ師匠の魔法式を・・・」
「思い当たることは一つある」
師匠が伊織さんを睨みつけながら言う。
「本家に向かう途中、魔物に襲われただろう?」
「!!」
俺はようやくその可能性に思い至る。
あの時、俺達を襲った魔物が伊織さんが召喚したものだとしたら―――
「おそらく、あ奴はその魔物から私の魔法式をコピーしたのだろう」
師匠が苦々しい表情をする。
そして、伊織さんの表情がそれが正解だと言っていた。
「しかし、それだと苦しいことになりますね」
あの魔物には呪文をほとんど駆使してしまっている上に、俺は『青龍』の力を込めた魔法を、師匠に至っては『白虎』を使ってしまっている。
さすがに『白虎』をコピー出来るとは思えないが、それでも『白虎』を『召喚』する時にも魔法式は存在する。
その魔法式から伊織さんオリジナルの魔法を生み出している可能性はある。
かと言って、他の使っていない魔法を使うのも危険過ぎる。
他の魔法を使うにしても基本の魔法式は似通ったものだ。その基本部分をコピーされていることと、
伊織さんの魔法式の構築力を考えると、あっさりコピーされる可能性が高い。
つまり、魔法を使えば使うほど、逆にこちらが手詰まりになるのだ。
「・・・あなた達にもう、勝ち目はありません、それでも戦うんですか?」
「当たり前だ。あんた達に勝たなきゃ、俺達には未来は無いんだからな」
俺はそう言って呪文を唱え始める。
「よく言った。吾妻和志。それでこそ私の弟子だ」
師匠も諦めずに呪文を唱え始める。
「分かりました。じゃあ倒すまでです!!」
伊織さんがもう一度マジックワンドを構えた。
「はぁ・・・はぁ」
俺の魔力はもうほとんど限界に来ていた。
隣で師匠も肩で息をしている。
「もう、さすがに限界のようですね・・・」
伊織さんも肩で息をしていて、限界が近いようだった。
「でも、これで終わりです!!」
伊織さんは呪文を唱え始める。
「こ、これは・・・」
「わ、私の最強呪文か・・・」
「さすがに『四神』絡みの魔法はコピー出来ても使えません。でもこれなら・・・」
伊織さんがそこまで言った時だった。
「・・・!?」
不意に伊織さんの表情に驚愕の色が浮かぶ。
「か、体が・・・動かない!?」
「どうやら、間に合ったようですね」
高峰さんの声にようやく周囲を見渡す伊織さん。
「なっ・・・これは・・・」
伊織さんの周囲にはタマちゃんが―――俺と師匠が戦っている間時折飛んでいき『爆発しなかった』タマちゃんが六芒星の形に並んでいた。
『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・レム・トゥーナ・カルトス!』
高峰さんの言葉に答えて、タマちゃんが光り、六芒星の魔法陣が完成する。
「『玄武』の力を使った結界魔法です。今の魔力をほとんど使い果たしたあなたには破れませんよ」
「クッ・・・」
「さあ、すももさん、後はあなた次第ですよ」
「・・・分かりました」
そう、ここまでは全てすももの提案―――『私と伊織さんで話をさせて下さい』という言葉を受けた作戦だった。
今更、説得したところで、伊織さんが大人しく引いてくれるとも思えない。
でも―――
『わたしは伊織さんの気持ちが分かります』
そういうすももの表情を見ていたら、無碍にすることも出来ない。
すももが一歩一歩伊織さんに近づく。
俺は腹を括った。
そして、もし伊織さんがすももに危害を加えるようだったら、ためらわずに魔法を使う。
例えそれで、伊織さんが命を失うことになっても――――
〜第61話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第60話になります〜
今回は和志達vs伊織のバトルがメインですね。
コピー戦術とかベタ過ぎるかな〜とか思ったり。
優勢だった伊織を作戦で動きを封じた和志達。その作戦に唸ってくれたら嬉しいですが。
そして、すももは何を語るのか?
次回はすもも視点から始まるので、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
解かれた魔法、第60話をお送りして頂きました〜^^
建御雷の力を以ってしても、伊織には届かず。さらにそこに和志と伊吹が参戦するも、「魔法式のコピー」によって劣勢を強いられる。
しかしその時、小雪による結界魔法が伊織を捉え・・・和志が言っていたように「可能性が低い」すももの説得が始まる――。
その内容とは? 次回のすもも視点を楽しみにしましょう^^