『解かれた魔法 運命の一日』〜第55話〜







                                       投稿者 フォーゲル






  

  「和志く〜ん!伊吹ちゃ〜ん!」
 わたしは2人の名前を呼びます。
 だけど、2人からの返事はありませんでした。
 「落ち着いて下さい。すももさん」
 焦るわたしとは違って、しっかりとした口調の小雪さん。
 わたし達は、確かに伊吹ちゃんのお父さんが待つ式守家の本家に続く階段を昇っていたはずでした。
 それがいつの間にか、深い霧に包まれていて気がついた時には和志くんと伊吹ちゃんの姿が見えなくなっていました。
 「ですけど、2人は一体どこに・・・」
 『姐さ〜ん!!』
 空の上からタマちゃんが小雪さんのところに戻ってきます。
 「どうでしたか?タマちゃん」
 『上から見てみたけど・・・遠くに大きな家が見えたで〜』
 「そうですか・・・」
 タマちゃんの返事を聞いて考え込む小雪さん。
 「何か分かったんですか?小雪さん」
 「少なくとも、吾妻さんと伊吹さんの身に何が起こったのかは分かりました」
 「本当ですか!?」
 「タマちゃんが見た大きな家は式守家の本家です、ですから私達は『普通の空間』に居るということです」
 「普通の空間?」
 わたしの顔を見ながら、小雪さんは説明を続けます。
 「ええ、恐らく和志さんと伊吹さんは、結界魔法でこことは違う『別の空間』に閉じ込められたんです」
 「そんな、じゃあ急いで助けに行かないと・・・」
 「でも、そのためには吾妻さん達が自力で結界を破るか、こちらから―――!!」
 不意にそこで言葉を切った小雪さんはわたしを抱きしめます。
 「こ、小雪さん!?」
 戸惑うわたしの声には耳を貸さず、小雪さんは呪文を唱えます。
 『エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・ルファ・トゥーナ・ポルトス!!』
 わたしと小雪さんの目の前に大きな魔力の渦が出来ます。
 その魔力の渦の中にどこからか飛んで来た光が吸い込まれて消えます。
 「タマちゃん!!」
 『あいあいさ〜!!』
 間を置かずにタマちゃんがその光が飛んで来た方に向っていって―――

 “ドカァァァァァン!!”

 大きな爆発音がしました。
 それでも、小雪さんは油断せずに、ある一点を―――階段脇の森の中を見つめていました。
 「すももさん、気をつけて下さいね。『彼女』はこんなことでは倒れないでしょうから」
 その声に答えるように―――
 「さすが、『玄武』の力を継ぐ高峰家の後継者だけのことはありますね。防御呪文はお手の物ですか」
 森の中から現れたのは、わたしと同い年くらいの黒い髪にショートヘアの女の子でした。
 「そうでもないですよ。風流四家の一つ『鳥野家』の後継者にして結界魔法の使い手である、伊織さん、あなたには」
 「やっぱり、分かりましたか?」
 そう言って笑う女の子―――伊織さん。
 その顔はわたしと変わらない普通の女の子に見えました。
 「ええ、あなたが吾妻さんと伊吹さんを結界に閉じ込めたんですね」
 いつの間にか、タマちゃんがわたしと小雪さんの周りを飛んでいました。
 伊織さんが何かした場合すぐに攻撃出来るように対応しているように感じられました。
 「目的は何ですか?」
 「さあ、何でしょうね?・・・小雪さんも分かってるんじゃないですか?」
 「・・・」
 伊織さんの問いに、黙り込む小雪さん。
 「では、また会いましょう。・・・あの2人が無事に結界から出られればですけど」
 そう言って、姿を消そうとする伊織さん。
 その時―――
 (な・・・泣いてる?)
 そんな風に表情が歪んでいるように見えた私は―――
 「ま、待って下さい!!」
 思わず声を上げていました。
 わたしの声に動きが止まる伊織さん。
 「どうしてそんな表情をするんですか?」
 わたしの問いに伊織さんは自嘲気味に笑うと言いました。
 「こうすることでしか、私は『あの人』の期待に答えられないから」
 そう呟くと、姿を消しました。
 当たりには再び静けさが漂います。
 「さて、それでは2人を探しましょう」
 小雪さんの声にわたしは我にかえります。
 「そ、そういえば、小雪さん。伊織さんの目的が分かってるみたいなこと言われてましたけど・・・」
 「ええ、大体察しは付きました」
 そう言って小雪さんはわたしの方を見て―――驚きに目が見開かれるのが分かりました。
 「マズイですね・・・伊織さんの目的通りになりかけています」
 どういうことですか?そう聞こうとして、わたしは小雪さんがわたしを見て驚いている理由が分かりました。
 わたしの身体が、金色の光に包まれていました。
 和志くんの魔力が暴走した時のように。
 それと同時に―――
 感じたことのある感覚がわたしの身体を包みました。
 2つの感覚―――和志くんと伊吹ちゃんの感覚を。
 「こ、小雪さん、多分和志くん達は、もっと上にいると思います」
 そう言ってわたしは上に続く石段の先を指差します。
 「きっと、すももさんの魔力は吾妻さんや伊吹さんの魔力を感知出来るようですね。分かりました。行きましょう!!」
 走り出す小雪さん。
 その後に続く私。
 (和志くん、伊吹ちゃん、待っててね、すぐに行くからーーー!!)
 わたしはそんなことを願っていました。






  “ドシュウ!!”
 鈍い音と共に、光の矢が俺と師匠目掛けて飛んで来る。
 「うわっ!!」
 俺は何とかそれから身を交わす。
 大きなイモ虫型のモンスターは光の矢を放ちながら俺と師匠との間合いを詰めてくる。
 「大丈夫か!吾妻和志!」
 「ええ!」
 俺の無事を確認した師匠は呪文を唱える。
 『ア・グナ・ギザ・ラ・デライド・ラ・ディーエ!!』
 上空に魔法陣が浮かび上がり、そこから大量の光の矢が降り注ぐ!!
 しかし―――
 “ブンッ”
 モンスターはまるで飛んで来るハエでも叩き落とすかのように、師匠の魔法を6本ある内の前の3本で消した。
 「これでも、効かぬか・・・」
 そして、モンスターはその振り上げた前足をそのまま俺と師匠に同時に振り落とす。
 マズイ!俺はともかく、魔法を唱え終わったばかりの師匠は―――!!
 俺は、とっさに身を交わすと、師匠に向って―――
 『リ・バルダス!』
 破裂して爆風を巻き起こす魔法を放つ。
 師匠は俺の意図を理解したのか、そのまま身を任せる。

 “ボンッ”
 
 破裂して生まれた爆風に乗った師匠はそのまま後ろに飛び、モンスターの足から逃れた。
 「すまぬ!助かった!」
 俺は師匠に目で答えるとそのまま、モンスターの足を見ながら呪文を唱え始める。
 それを見た師匠も呪文を唱え始める。
 師弟関係が阿吽の呼吸を生み出していた。
 モンスターの足が再び、6本とも地面に付く。
 その瞬間を狙って―――
 『ウェル・シンティアス・レイ・フェニス・シンアルド・ヴァン・ジ・ラズーガ!』
 冷却魔法が石段を、そしてモンスターの足を凍りつかせ始める。
 普通なら、あっさり魔力耐性効果がある足に弾かれるだろう。
 しかし、これは『青龍』の力を混ぜた特殊魔法だ。
 ほどなく、足が凍りつく。
 それを見て―――
 『ア・ゲドル・ナ・ザヴィア・ダ・ヴェード・レ・ティエグ・ダグナ!!』
 師匠の目前に5発以上の高密度の魔力弾が生まれる。
 俺の知る限り、師匠の最強魔法だ。これが当たれば―――!!
 「行け!!」
 師匠の声に答えて、魔法弾はモンスターの頭に向う。
 これが当たれば―――
 
 “ズガガガァァァァン!!”

 ド派手な音と共に、魔法弾が炸裂した。
 (よし!!)
 俺は思わず心の中で歓声を上げる。
 いくら何でもあれが当たれば―――!!
 だが、それは甘い考えだった。
 
 “ギュオオオオッ!!”

 その場に響いたのはモンスターの怒りの咆哮だった。
 (効いてはいる、いるけど・・・)
 モンスターの目は明らかに怒りに満ちた目で俺と師匠を睨みつける。そして―――
 その周囲にとんでもない数の魔力弾が生まれる。
 (マ、マズイ!!)
 「吾妻和志!!」
 師匠が俺に近寄って来る。
 そして―――
 大量の魔力弾が俺と師匠に振り注ぐ。
 その魔力弾は俺と師匠のいた場所に降り注いだ。
 


  「な、何とか助かりましたね」
 「そうだな」
 俺と師匠はホッと一息付く。
 魔法弾が降り注ぐ瞬間、俺と師匠はとっさに防御呪文を二重に重ねて掛けた。
 以前に御薙先生に言われた言葉『俺と師匠は魔法の相性がいい』と言われたのを思い出してとっさにやってみたのだが・・・
 どうやら上手く行ったようだ。
 反発もせずにうまく2つの防御魔法は展開されている。
 だが、それもそう長くは持ちそうに無い。
 だんだん防御障壁が削られていくのが分かる。
 「私の最強魔法が通じなかった以上・・・後は」
 「あれしかないですよね・・・」
 『あれ』―――『四神』の召喚魔法だ。
  
 “ドカンッ”

 一際大きな魔力弾が障壁に当たる。
 その当たった場所を見て、俺は目を見張る。
 その部分は凍り付いていた。
 「まずいぞ。これは吾妻和志の魔力は奴に記憶されたらしい」
 「どういうことですか?」
 「つまり、奴は『青龍』の魔力を記憶した。下手をすると『青龍』召喚にも耐えうるかも知れぬぞ」
 さっき『青龍』の魔力を使ったことが仇になるとは・・・
 (どうしよう・・・もう打つ手は・・・)
 俺はそう考えて師匠を見る。
 「もう一つあるぞ・・・手はな・・・」
 師匠は自分の手を見ている。
 その手は震えていた。
 その様子を見て、俺は思い出す。
 俺が瑞穂坂学園に来る前に起こった『式守の秘宝』絡みの事件のことを。
 その時に師匠は、封印を解いた『式守の秘宝』を暴走させてしまった上に、命を落とし掛けた。
 幸い雄真さん達のお陰で命は助かったのだが・・・
 その時の体験が元で師匠の中に『魔力の暴走』に対する恐怖が残ったとしたら?
 それに、師匠は『四神』をコントロールするために必要な『宝珠』を持っていない。
 もし、ここで『白虎』を召喚して、もし暴走させたら・・・
 「分かってはいるのだ、私がやるしかないというのはな・・・だが」
 師匠の顔が歪む。
 「もし、また暴走させたらと思うと・・・体が強張ってな」
 (どうする?どうすれば師匠を安心させられる?)
 考えた俺はいつの間にか口を開いていた。
 「・・・大丈夫ですよ」
 「何?」
 「もし、そうなったら、俺が何が何でも止めます。それに・・・」
 「それに?」
 「俺の知ってる師匠は、そんな不安そうな表情はしません。もっと堂々としてて下さいよ」
 師匠の目を見て言う俺。
 「・・・そうだな。確かに私らしくないかも知れぬ」
 そう言って笑う師匠。
 「よし、では作戦だがな・・・」
 俺は師匠の作戦を聞いた。




  やがて、魔力弾の嵐が消える。
 それと同時にこっちの防御障壁も消える。
 同時に俺は唱えていた呪文を解放する。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・シンズ・ミラージェル!』
 当たりに深い霧が立ち込める。
 俺は更に単発で攻撃魔法を放つ。
 それに対抗するようにモンスターは俺に向って魔力を放つ。
 やがて、その魔力弾の余波で霧が晴れていく。
 モンスターは見えて来た光景に戸惑っているだろう。
 そこには俺しかいないのだから。
 『ア・グナドゥス・ギザ・ラ・デライド・・・』
 上空から師匠の呪文詠唱の声が聞こえて来る。
 それに気が付いたモンスターは師匠に向って魔法弾を放つ。
 が、それは召喚魔法の時に発生する魔力障壁で簡単に弾かれる。
 『ヴァニアル・フェラスト・ヴェードス・フォルアルス!!』
 その声と共に―――
 師匠の背後から渦巻く風と共に、白い虎を模した魔力が表れる。
 これが『四神』の一つ―――『白虎!!』
 「行くのだ!『白虎!!』
 
 “ウォォォォォーーーン!!”

 そこに本物の虎が存在するかのような咆哮を上げた後、白虎はイモ虫形モンスターに襲い掛かる!!
 その爪牙がモンスターを捕らえて引き剥がす!!

 “グォァァァァァァッ!!”

 それはそのモンスターの断末魔の叫びだったのか?
 いずれにせよモンスターの姿は塵になると風に乗って消えた。
 「ふう・・・」
 俺はビサイムに捕まって浮かんでいる師匠に向って笑顔を向ける。
 師匠も俺に向って笑いかけーーーその身体が下がる。
 (えっ?)
 師匠の手がビサイムから―――離れた。
 (しまった!最強魔法や召喚魔法を使ったせいで限界が来たのか!!)
 ビサイムも慌てて急降下するが間に合いそうに無い!!
 「クソッ!!」
 俺も慌てて師匠の落下地点に走りより―――何とかその身体を抱きとめた。
 「師匠!師匠!!」
 俺は大声で呼びかける。
 師匠はしばらく反応が無かったが、やがて―――
 「うっ・・・うん?吾妻和志か・・・」
 ゆっくり目を開けた。
 「やったのだな・・・」
 「ああ、ありがとうございます!!」
 その時だった。
 「タマちゃん!!」
 どこからか高峰さんの声が響き―――
 空間が割れるのを感じた。
 そして―――
 「和志くん!!伊吹ちゃん!!」
 すももと高峰さんが走りよって来る。
 「良かった〜2人共無事だったんですね」
 「ああ、何とかな、そっちは?急に姿が見えなくなったから、心配で・・・」
 「こちらは大丈夫ですよ〜そちらもとりあえず伊織さんの目的は達成されなかったようですし」
 俺を見ながら何故か笑う高峰さん。
 「?」
 俺がその様子に疑問を浮かべていると―――
 「で、和志くん、大変だったのは分かるんだけど・・・いつまで伊吹ちゃんをそうやってるつもりですか?」
 「えっ?」
 少し怒りが篭ったすももの声でようやく気づく。
 俺は師匠を助けた時の状態、つまり―――師匠をお姫様だっこしているような状況だった。
 「ち、違うぞ。すもも!いろいろと事情があってだな・・・」
 「そ、そうだぞ。吾妻和志!いい加減下ろさぬか!!」
 「ああ、すいません〜!!」
 「まあ・・・吾妻さんはすももさんという女性(ひと)がいながら伊吹さんにも手を・・・」
 「・・・和志くん、ヒドイです」
 「出してないです!何でそうなるんですか〜〜〜!!ふざけるのもいい加減にして下さい!」
 「・・・そうだな。確かにふざけている場合では無いぞ」
 真面目な口調になった師匠の視線は階段の数段先を見ていた。
 そこには着物を着た、少し白髪の混じった初老の男性がいた。
 俺にも雰囲気で分かった。
 この人こそ。師匠の養父にして関東魔法連盟のトップである、式守護国さん―――







                         〜第56話に続く〜


                 こんばんわ〜フォーゲルです。第55話になります。

                  今回は、和志と伊吹のバトルがメインですね。

               師弟コンビの阿吽の呼吸に感心して貰えると嬉しいですね。

               前半は『高峰家は防御魔法が得意』という設定を入れて見ました。

             というか攻撃魔法苦手だから小雪はタマちゃん使ってるんじゃないかと。

      後半は「あれ?このSSはすももメインですよね?」とかツッコミ入りそうな展開でしたが(笑)

        すももにしても『彼氏が親友をお姫様だっこ』してたらそりゃ機嫌悪くなるわな(汗)

              次回は、護国との本格的対面、信哉達サイドの話になれるかと。

                       それでは、失礼します〜



管理人の感想

というわけで、新年初のフォーゲルさんの「解かれた魔法 運命の一日」をお送りしました〜^^

和志と伊吹。巨大なモンスターとのバトル。しかも、伊吹の全力の魔法弾が効かないほどの強さを持った相手に、苦戦する二人。

その怪物を倒す手段は、一つしか無く・・・しかしそれは、伊吹のトラウマと向き合うもの。

けれど、こうしてトラウマと向き合い打ち克ったことで、彼女はようやくあの秘宝事件から解放されたのかもしれませんね。

次回は伊吹の養父、護国の登場ですね〜。楽しみにしましょう。

それでは!



2009.1.8