『解かれた魔法 運命の一日』〜第54話〜









                                        投稿者 フォーゲル






  “チュン、チュン・・・”
 「そう、分かったわ。ありがとう」
 私はそう言うと、情報を教えてくれた雀達が私の手を離れて飛んで行く。
 「何か、分かったのか?伊織殿?」
 あたりに油断無く視線を送りながら、問い掛ける純聖さん。
 「ええ、あの子達に寄ると、もうすぐ吾妻さんや伊吹さん達が到着するようです」
 「そうか・・・」
 その言葉と共に純聖さんの口調が引き締まる。
 「・・・疑問なのか?」
 「何がです?」
 「自分のしていることが間違っているのかどうか・・・出発前に綾乃殿に聞いていたでは無いか?」
 それは・・・事実です。
 最初は、それが柾影さんのためになるのなら・・・と思っていました。
 でも、ひょっとしたら、柾影さん自身も『自分のしていることは間違っているのかも知れない』と思っているのかも知れない。
 最近の柾影さんの様子を見ているとそんな感じがして来ました。
 「まあ、確かに最近の柾影殿からは、再会した時の『揺らぎない信念』というものが少しずつ感じられなくなってるのも事実だがな」
 純聖さんは私の目を見ながら言う。
 「だが、伊織殿、これだけは言っておくぞ。迷いを持っているのなら、すぐに手を引くのだ。
  覚悟が無いのなら、彼らに敗北するだけなのだからな」
 「純聖さんは、強いんですね」
 私は思わず感心します。
 「私は強くなどない。ただ『本当の強さ』というものを知りたいだけなのだ」
 自嘲気味に笑う純聖さん。
 「そのためにはもう一度『彼ら』に相対する必要がある。それも私が柾影殿に協力する理由だ」
 純聖さんは遠くの空を見る。
 その眼差しは何かを問い掛けているようにも私は見えた。
 「さて、私そろそろ動く。『宝剣』を押さえておかないといけない。護国殿の目を逃れて動くのにも限界があるからな・・・それと」
 純聖さんは私の方を見て呟いた。
 「伊織殿。お主の判断でその『記憶玉(メモリーオーブ)』を彼らに見せるかどうかを判断するのだ」
 「えっ・・・」
 だけど、私の声に答えることなく、純聖さんは転移して姿を消した。
 (純聖さん・・・知ってたんですね)
 私は自分の胸元から黒い球体を取り出す。
 これはほかならない柾影さんのメモリーオーブ。
 柾影さんが魔法に絶望するきっかけになった出来事の詳細が記録されている。
 (私がこれを持ち出したことが、ある意味答えなのかも知れないですね)
 それは、彼らにも柾影さんの過去を知ってもらいたいということです。
 でも、知ってもらったとして・・・それからどうするんでしょう?
 (ううん!今はそんなことを考えてる場合じゃない!)
 私も最初の作戦のために動き始めた。





  「・・・」
 俺は考え込んでいた。
 こちらに向う前に駅で見送った姉ちゃんの顔が脳裏によぎる。
 向こうは姉ちゃんの両親達がトップの位置にいるとはいえ、敵の本拠地に乗りこむも同然なのだ。
 「和志くん・・・」
 「あ、ああ・・・すもも、どうしたんだ?」
 俺の隣りを歩くすももが心配そうな顔で問い掛ける。
 「和志くん・・・大丈夫ですよ。渚さんには兄さん達が付いてるんですから」
 口に出していないのに、すももは俺の考えてることを言い当てて見せた。
 「・・・すももには隠し事出来ないな」
 「そりゃそうですよ〜わたしは和志くんのことは何でも知ってるんですから」
 そう言って笑うすもも。
 「あらあら〜お2人共、この状況でもラブラブなんですね〜」
 笑いながら言う高峰さん。
 「ラ、ラブラブって・・・お、俺はそんなつもりは・・・」
 「わ、わたしもただ、和志くんを元気付けてあげようと思っただけで・・・」
 テレまくる俺とすもも。
 「まあ、いつも通りだと言うのは望ましいことだな」
 呆れたような口調で言う師匠。
 「い、伊吹ちゃんまで何言ってるんですか〜」
 「まあ、真面目な話をするならば・・・」
 さっさと真面目な口調になって言う師匠。
 (切り替え早いな〜)
 俺がそんなことを考えながらも師匠は言葉を続ける。
 「御薙鈴莉も一緒なのだから、そう心配はいるまい。それよりも・・・」
 「今、大事なのは、こちらの戦力を整えるのが第一ということですね」
 師匠の言葉を高峰さんが繋ぐ。
 「そのことなんですが・・・」
 俺達の後ろを歩いていた沙耶さんが俺達に声を掛ける。
 ちなみに余談だが、俺達は護国さんがいる式守家の本家の最寄駅まで来た後、歩いて向っていた。
 この方が目立たないし、周りに一般人がいれば襲われる心配もないだろう―――
 そう考えた師匠の判断だった。
 「私と兄様は別行動を取らせて頂きたいのですが・・・」
 「どういうことだ?沙耶」
 「私は、『神の力』に対抗するために式守家にある文献を調べていたのですが・・・」
 沙耶さんは説明を始める。
 「その中に『神の力を宿し宝剣・建御雷(たけみかづち)』という記述があったんです」
 「建御雷だと!?」
 「知ってるんですか?師匠?」
 「あ、ああ建御雷とは・・・代々、信哉達上条家に伝わる宝剣だ。確かにあれなら『神の力』に対抗出来るかも知れんが・・・」
 師匠は難しい顔をして考え込む。
 その師匠の考え込む様子を見たのか、今度は信哉さんが口を開く。
 「伊吹様の言いたいことは分かります。建御雷は『式守の秘宝』の暴走の時に封印されたものだからな」
 式守の秘宝の暴走―――その顛末は俺も師匠や信哉さん達から聞いている。
 その原因が信哉さん達の父親、崇哉さんにあったことも。
 「それ以来、建御雷は『式守家に仇名した呪いの剣』として封印されたのだ」
 「私はそんなことは思っておらぬし、護国も関東魔法連盟の内部を押さえるために仕方なくしたことだと思うがな」
 「分かっています、伊吹様」
 「護国様に頼んで封印を解いてもらうという方法もあるんですが・・・」
 沙耶さんが考えを口にする。
 「向こうが内密に動いている以上、こちらもあんまり激しく動く訳にはいきません。それに・・・」
 「それに?」
 俺の問いに沙耶さんが言葉を続ける。
 「敵の動きを見る限り、彼らは『四神』の神以外の力も警戒しているはずです。となりますと・・・」
 「彼らは建御雷も押さえようとする、そういうことですね」
 高峰さんの言葉に頷く沙耶さん。
 「なるほど、そういうことならば・・・分かった。ただし気を付けるのだぞ」
 「ありがとうございます!では早速行って来ます」
 「吾妻殿!伊吹様を頼むぞ!」
 「分かりました!任せて下さい!」
 俺が信哉さんの声に答えると同時に信哉さんと沙耶さんの姿が消えた。
 





  「よし、着いたぞ、ここだ」
 師匠がそう言ったのは更にしばらく歩いた後だった。
 「やっとですか・・・」
 俺はそう言って固まった。
 俺の目に写ったのは、延々と山の上に伸びる石段だった。
 「あの、師匠・・・まさか」
 「もちろん、この石段を上に登るのだが?」
 「伊吹ちゃん、それ『着いた』って言わないですよ・・・」
 俺の隣りですももも疲れたような表情を浮かべる。
 「仕方が無いだろう、侵入者撃退用に魔法使って空飛んでいくと、ここに戻されるのだから」
 「頑張って昇るしかないですよ。吾妻さん。すももさん」
 「はあ・・・仕方ない。あと少し頑張ろう、すもも」
 「そうですね・・・」
 こうして、俺達は延々と続く階段を昇り始めた。
 


 (何か、霧が出てきたな・・・)
 俺はそんなことを考えながら足を動かし続ける。
 階段を昇り始めてから1時間以上。
 しかし、いっこうに頂上が見えて来ない。
 「和志く〜ん!大丈夫ですか〜!」
 少し先を歩くすももからの声が聞こえる。
 「ああ、大丈夫だ!!」
 ちなみに歩いている順番は、師匠が先頭、2番目がすもも。その後ろが高峰さんで最後が俺だ。
 すももを守れるようにという順番に並んでいる。
 (しっかし、さすがにもう着いてもいいだろう・・・)
 俺はそんなことを考えながら足を動かし続けた。
 その間にも霧がどんどん濃くなっていく。
 もう1メートル先も見えないような状況だった。
 その時―――

 “ドンッ”

 不意に目の前で立ち止まっている誰かにぶつかった。
 (高峰さん、何急に立ち止まってるんですか・・・)
 俺はそう抗議しようとしたが、その言葉は出なかった。
 俺の目に写ったのは、赤い服だった。
 「あ、吾妻和志か?何やってるのだ?」
 目の前にいるのは師匠の姿だった。
 「し、師匠、あれ?すももと高峰さんは?」
 しかし、いくら見ても2人の姿は見えなかった。
 「ど、どういうことだ?」
 「落ち着け!吾妻和志!これは・・・」
 師匠は周りを見渡すと落ち着いて呪文を唱え始める。
 『ア・ディバ・ダ・ギム・バイド・ル・サージュ!!』
 師匠の手元に一本の光の矢が現れる。
 それをそのまま近くの木に向って投げつける。
 しかし―――
 
 “ボヒュッ”

 光の矢は木に当たる前に、音を立てて消滅した。

 「なるほどな・・・」
 「どういうことですか?師匠?」
 「どういう訳かは知らぬが・・・私と吾妻和志はこの『結界』の中に閉じ込められたらしいな」
 「結界?」
 「どうも奴らの中に結界魔法を使える奴がいるらしい」
 俺と師匠がそんなことを話していると・・・

 “キシャーーーッ・・・”

 霧の向こうから何かの鳴き声が聞こえて来るのが分かった。
 それは、少なくとも人間の声には聞こえなかった。
 「なるほど・・・どうやら私達をこの結界内に招待した『何者か』は私達を足音の主と戦わせたいらしいな」
 師匠はもうビサイムを構えていた。
 「理由は何ですかね」
 俺もレイアを構えながら師匠に聞き返す。
 「さあな、とっとと倒して、そいつに聞いて見るしかないのではないか?」
 その師匠の声を合図に―――

 “キシャーーーッ!!!”

 カニのような足とイモ虫のような胴体を持った巨大な生き物が俺と師匠の前に現れた―――







                        〜第55話に続く〜


                 こんばんわ〜フォーゲルです。第54話になります〜

                   今回から和志視点の『式守家』編です。

           序盤にちょっとだけ、和志とすもものラブな感じを入れて見ました(笑)

          上条家の宝剣・建御雷(たけみかづち)は日本神話に出てくる神様の名前です。

               偶然ですが『雷』の字が入ってるのが信哉に相応しいかなと。

                  敵は『風流四家』の残り2人、伊織と純聖。

                  もう一つの戦いも楽しんで頂ける嬉しいです。

             そして、結界内に閉じ込められてモンスターに襲われる和志と伊吹。

                     2人はピンチを脱出出来るのか?

                   次回もお楽しみに!!それでは失礼します〜
 


管理人の感想

こんばんは〜^^ 解かれた魔法、54話をお送りして頂きました。

今回から視点は変わって、久しぶりに我らが主人公和志が登場しましたね。

伊吹・小雪・和志・すももの四人で本家へと向かう一行。その途中で襲われた、突然のトラップ。

結界によって分断されたパーティー。和志と伊吹の前に現れた怪物は!? そしていなくなった小雪とすももは!?

序盤の二人の意味深な会話にも注目していきながら、今後の展開を楽しみにしたいと思います!



2008.12.24