『解かれた魔法 運命の一日』〜第53話〜







                                    投稿者 フォーゲル







  綾乃さんの身体を貫いた『ラグナ=ワンド』が一瞬輝きを放つ。
 柾影さんは、それを確認するような仕草をした後、それを一気に引き抜いた!
 力を失い崩れ落ちる綾乃さん。
 「綾乃さん!!」
 私は何とか近づこうと、一歩踏み出す。
 
 “ブワッ”

 しかし、次の瞬間膨大な魔力が押し寄せて、私の足を止める。
 それと同時に私は魔力の渦の中で、声を聞いた。
 「ウッ・・・グウッ!!」
 (この声は、柾影さん?)
 苦しんでいるような呻き声を上げる柾影さん。
 その背後に私は今まで感じたことのない、『恐怖』にも近い魔力を感じた。
 (――――逃げなきゃ――――)
 それは私の魔法使いとしての本能の声だったのかも知れない。
 だけど、その魔力から私は逃れることが出来ない。
 身体を押さえつけられているような感じだった。
 不意に柾影さんが私を見る。
 「!?」
 その眼差しは―――この場にそぐわない優しい目をしていた。
 そして、次の瞬間、柾影さんは姿を消した。
 その瞬間、自分の身体を押さえ付けていた圧迫感も消える。
 思わずその場に膝を付く私。
 (な、何だったの・・・今の・・・)
 自分で自分の身体を抱きしめる。
 未だに全身を冷や汗が包んでいた。
 だけど、すぐにそれどころじゃないことに気づく。
 「綾乃さん!」
 私は急いで、綾乃さんに近づく。
 倒れた身体を抱き上げて傷口を―――
 (あ、あれ?)
 『ラグナ=ワンド』で貫かれたはずなのに、出血どころか傷口も無い。
 (どういうこと?)
 私がそんな疑問を抱くと―――
 「うっ・・・」
 綾乃さんが呻き声を上げて―――目を覚ました。
 「綾乃さん!大丈夫ですか?」
 「な、渚・・・」
 綾乃さんは頭を振りながら、周りを見渡す。
 「そうか・・・柾影は行っちゃったのね・・・」
 悲しそうに呟く綾乃さん。
 それからハッとしたように、私を見る。
 「渚!あの娘は!美和は!」
 「お、落ち着いて下さい!今私の友達が頑張ってくれてますから!」
 落ち着かせるように言う私。
 「・・・渚、私を美和の所に連れてって」
 「え、で、でも・・・」
 「いいから!」
 「・・・連れてって上げなさい」
 「お父さん・・・」
 いつの間にか、私の近くに来ていたお父さんが声を掛ける。
 幸い怪我はしていないみたいだけど・・・
 「義人くんは私が戻って連れて来る。どうやら綾乃さんと同じことをされたようだ」
 「・・・すいません」
 「その代わり、事情を説明してもらうよ」
 「分かりました」
 「綾乃さん、私の肩に捕まって下さい」
 「ゴメンね・・・」
 私達は、小日向君の所に戻り始めた。




  
  「も、もうダメ・・・あたしの魔力じゃこれが限界」
 その言葉と共に、柊さんの両手から魔力が消える。
 しかし、美和ちゃんの呼吸は荒いままだった。
 「そんな!何とかならないのか?母さん!」
 「これだけの傷を回復させるには、今ここにいる全員の魔力を合わせても、無理よ」
 「それでも、やらないよりはいいですよ!」
 「そうね。やる前から諦めたら何にも出来ないわね」
 私がみんなの所に戻って来たのは、丁度そんな時だった。
 「みんな!」
 「渚!無事・・・」
 小日向君の声がそこで止まる。
 無理も無い。私の隣りには今まで敵だった綾乃さんがいるのだから。
 美和ちゃんを守るように立つ小日向君と神坂さん。
 「2人共、ちょっと待って・・・」
 「そこをどきなさい」
 有無を言わせない力強さで言う綾乃さん。
 「何だと!」
 声を荒げる小日向君。
 「小日向君。ここは綾乃さんに任せてくれないかな、私が保証するから」
 「・・・」
 私の言葉に従ってその場を動く小日向君。
 綾乃さんは、美和ちゃんの傍らに腰を下ろす。
 「ゴメンね。美和・・・あなたまで巻き込んで・・・」
 綾乃さんは美和ちゃんが握っているマジックワンドを見つめ―――
 「そうか・・・やっぱり美和が選ばれたのね・・・」
 そんなことを呟きながら、綾乃さんは自分の手のひらを見た後、美和ちゃんの手のひらに合わせる。
 魔力の光が綾乃さんから美和ちゃんに注がれていくのが分かる。
 そして、その光が消えた時、美和ちゃんの呼吸は安定して、顔色にも生気が戻っていた。
 「これで大丈夫よ。美和は助か・・・る・・・わ」
 その言葉と同時に綾乃さんは倒れこんだ。
 最愛の妹である美和ちゃんを守るように―――





  そして、数時間後、私達は大広間に集められていた。
 私達の目の前には、覚悟を決めた様子の綾乃さん。
 「さて、まずは何から話しましょうか?」
 「その前に・・・綾乃さん、美和ちゃんは大丈夫なんですか?」
 美和ちゃんは命の危機は脱したものの、未だに意識を取り戻していなかった。
 「ああ、それは大丈夫よ、私の魔力を美和に託したから」
 「託した?」
 「ええ、皆さんは美和の手のひらに紋様が浮かんでいたのを見たでしょう?」
 「そういえば・・・確かに浮かんでいたわね」
 柊さんが思い出したかのように頷く。
 「あれは、扇花家の『正統後継者』の証である紋様よ」
 「え、でもそれは綾乃さんじゃ・・・」
 昔、私も綾乃さんの手のひらに浮かんでいた紋様を見たことがある。
 私の言葉に綾乃さんは自分の手のひらを見せる。
 そこには紋様は無かった。
 「私は後継者じゃなくなったのよ。そのもう一つの証拠が美和が持っていたマジックワンド」
 美和ちゃんの傍らにあったマジックワンドを思い出す。
 「あれは、扇花家に代々伝わるマジックワンド『百花繚乱(ひゃっかりょうらん)』
  それに選ばれたものが、扇花家の正統後継者になるの」
 「伊吹の『ビサイム』みたいなものか」
 小日向君の問いに頷く綾乃さん。
 「昔からの伝説では、時が来たら後継者の元に現れるということだったんだけど・・・
  やっぱり、私の行動は間違いだったみたいね」
 自嘲気味に笑う綾乃さん。
 「間違いだと思っているんだったら、何で自分の妹を傷つけるような真似までして、あいつに・・・柾影に協力したんだよ」
 怒りを押さえた口調で言う小日向君。
 「雄真くん、落ち着いて、今は綾乃さんの話を聞こう」
 神坂さんが宥めるように言う。
 「いや、確かにあなたに責められても何も言えないわね・・・でもそれでも私は―――いえ私達は柾影を放っておけなかった」
 ポツリポツリと綾乃さんは口を開く。
 「そもそも、柾影と最初に再会したのは伊織だったの」
 伊織ちゃんは驚いてすぐに私のお父さん達に連絡しようとしたんだけど、それを止められたらしい。
 「でも、私達は伊織の様子がおかしくなったことに気がついて、問い詰めたの」
 そして、綾乃さん達は柾影さんと再会した。
 「再会した時の第一印象は―――哀しそうだったわね」
 「哀しそう?」
 御薙先生が訝しげな声を上げる。
 「そうです。まるでこの世界には自分の大切なものは何も無いような感じだったわね・・・
  最も、これは私が感じたことで義人や伊織、純聖さんがどう感じたかは分からないけど」
 そこまで話して、一旦息を付く。
 「しばらくは山の中にある小屋の中に柾影は隠れていたんだけど、ある日、私達がその場所に行ったら、
  その小屋が破壊されていたの。そして柾影の身体から膨大な魔力が溢れ出していたわ」
 いつかのカズ君の魔力の暴走を思い出して思わず震える私。
 「さすがに、柾影の魔力じゃないと感じた私達はその魔力の暴走を柾影が抑えた後・・・」
 「ち、ちょっと待って!じゃあ柾影は『神の力』の暴走を自力で抑えたっていうの!」
 自分でも『神の力』に苦労した柊さんが驚いた声を上げる。
 「そうよ。それで、私達は聞いたのよ。その『力』をどこで手に入れたのかって」
 綾乃さんは一息付くと、更に話を続けた。
 「柾影は・・・復讐のためだって言ってたわ」
 「復讐?どういうことですか?」
 だけど、私の問いには答えずに綾乃さんは言葉を続ける。
 「その後に、こう言ったの。『これは俺の個人的な感情で手に入れた力だから、お前達を巻き込めない』だから、もう俺には関わるなって・・・」
 「そんなこと言われて、あなた達だったら『はい、そうですか』って言える?
 『・・・』
 綾乃さんの問いに私達は黙り込む。
 「私達は言えなかった。だって『親友』だもの。それに・・・」
 「それに?」
 「柾影が持っている『神の力』・・・『ユグドラシル』は人間が扱うには大きすぎる力だった。
  あのまま柾影一人が持っていたら、精神を食い尽くされていたでしょうね」
 「ひょっとして・・・」
 神坂さんの答えに綾乃さんは頷く。
 「柾影の『ユグドラシル』の力の一部を私達は4等分して持つことにした。それくらいだったら私達でも使える威力まで落ちるから・・・
  それを私達の魔法式に組み込んで、召喚魔法はイメージ力をベースに作り直したの」
 「つまり、あなた達の『神の力』は元々一つのものってことね」
 「そうです。そして柾影はあなた達『四神』の力を恐れていた。いえ、その『四神』が一つになるのを恐れていた。
  だから、あの女の子―――すももちゃんって言ったかしら?あの娘の力を恐れていた。
  彼女の力があれば、自分の目的を止められるかも知れないから・・・」 
 御薙先生の言葉に答える綾乃さん。
 「後は、あなた達も知っての通りよ。柾影の目的を叶えるため私達は動いていたの。でも・・・それも終わりかも知れない」
 「どういう意味ですか?」
 「さっき、柾影に刺された時に言われたの。『ありがとう』って・・・」
 そこまで言って綾乃さんは俯く。
 「私達の魔力を自分に戻した以上、そんなに長い時間柾影は自分を保っていられないはず、きっと近い内に勝負を掛けるはずよ」
 綾乃さんはそこまで言って私達に頭を下げる。
 「あ、綾乃さん!?」
 「渚、皆さんお願い!こんなこと頼める義理じゃないって分かってるの!でもこのままじゃ柾影が・・・お願い!柾影を助けて!」
 「・・・」
 「・・・助けるのはいいんだけどよ。そのためにはまだ知りたいことがあるんだけどな」
 口を開いたのは小日向君だった。
 「その『復讐』ってのは何なんだ?それが分かれば何とかなるかも知れないんだけど」
 「そうね。それも話しておくわ・・・でも、覚悟して聞いてね」
 そう言って綾乃さんは語り始める。柾影さんの『復讐』の動機を・・・





  夜の庭を私はジッと見ていた。
 私は全然眠れなかった。明日には瑞穂坂に帰るのに・・・
 綾乃さんの見立てによると、柾影さんがやろうとしているのは対立する2つの魔力を作り出して、それを反発させて
 『神の力』を介して魔力そのものを対消滅させようとしているんじゃないかということだった。
 多分、伊織ちゃんと純聖さんの『神の力』も戻ってるだろうから、完全に柾影さんは『ユグドラシル』の力を取り戻しているはず。
 その言葉を聞いて、私はカズ君に電話してみた。
 カズ君達がいる式守家に伊織ちゃん達もいるはずだったから・・・
 幸い、カズ君達は無事だったけど、綾乃さん達と同じように伊織ちゃん達も『神の力』を吸い上げられたらしい。
 カズ君の声は涙声だった。
 きっと伊織ちゃんか純聖さんか・・・柾影さんの過去を教えたのだろう。
 (そんな過去があったら・・・確かに世の中に絶望と復讐心を抱くかもしれない)
 柾影さんが抱く心の闇はどんなに深いのか・・・私には想像出来なかった。
 でも、それでも私達は柾影さんを止めなければならない。
 だって、柾影さんにも綾乃さん達みたいな心配してくれる人がいるのだから―――





                       〜第54話に続く〜

     
                こんばんわ〜フォーゲルです。第53話になります〜

         今回は藤林家編のラストです。いろいろと謎が解明されたかな〜と思います。

              柾影達の『神の力』の謎や美和が持ってた桜の枝についても。

            柾影と『風流四家』4人の友情を感じて貰えたら嬉しいですね。

             なお、柾影の過去に関しては式守家編で語られる予定です。

             次回からは、時系列的には時間を巻き戻して式守家編です。

            和志、すもも、伊吹を中心に話を進めようかなと思っています。

                    それでは、次回もお楽しみに!!


管理人の感想

53話をお送りして頂きました!

今回は、藤林家編のまとめ・・・って感じでしたね。綾乃の話で、だいぶ謎も解けてきました。

皆が皆、完全に悪人というわけではなかったんですね。ある者は復讐のため、またあるものは親友を助けるため。

綾乃たちの神がもともと一つの神だった、というのもなかなか興味深かったです。だからこそ四神やほぼ同列である麒麟には勝てなかったと。

そして復讐のきっかけとなった、柾影の過去とは――?


次回からは式守家編。皆様、お楽しみに!^^



2008.12.16