『解かれた魔法 運命の一日』〜第5話〜





                               投稿者 フォーゲル






  「ああ〜でも明日学園行きたくないな〜」
 俺は思わず頭を抱える。
 「どうしてですか?」
 母さん達の墓参りを終えた後、俺と小日向さんは並んで家路に着いていた。
 余談だが、互いの家の場所は同じ方向のご近所さんだった。
 「顔合わせ辛いよ・・・特に柊さん」
 事情を知らないとはいえ女の子に手を上げかけたのはやっぱり良くないことだ。
 「それは大丈夫なんじゃないですか?わたしが出てくる直前にハチさんが兄さん達に説明しようとしてましたから」
 「ハチ兄が?」
 ハチ兄にはあの時のことはそれほど詳しくは話していない。
 ただ、『母さんが魔法の制御に失敗した』とだけ話したのだ。
 (だけど不思議だよな・・・)
 俺は思わず考え込む。
 ハチ兄にもそれだけしか話してないのに、何故小日向さんにはあそこまでちゃんと話せたのか・・・
 いくら考えても理由は思いつかなかった。
 「どうしたんですか?」
 考え込んでいた俺の顔を小日向さんが覗き込むようにして見る。
 「い、いや・・・何でもない」
 俺はその顔を何故かマトモに見れなかった。
 「本当ですか?まだ何か悩みごとがあるなら、わたしが聞きますよ?」
 「え・・・え〜と・・・」
 まさか『小日向さんのことで疑問に思ってた』とは言えず、俺は何とか理由を考える。
 その時、俺の脳裏に以前から思っていたことが蘇った。
 「・・・どうして母さんは俺を瑞穂坂学園に転入させようと思ったのかなって」
 俺は、志望先の高校を『母さんの病院に近い魔法科のある学校』にしていた。
 もちろん、母さんが心配だというのもあったが、魔法科がある学校にしておけば、
 何かのきっかけで魔法が使えるようになった時に、対応可能だと思ったからだ。
 「う〜ん・・・それは多分ですね・・・」
 俺の問いに真剣に考えてくれる小日向さん。
 「ハチさんが居ますし・・・お母さんとも親友同士だったってこともあると思いますけど・・・」
 確かに母さんが知ってる人物のそばの方が、母さんも安心出来るってのはあっただろう。
 「でも、何より一番は『吾妻くんに幸せになって欲しかった』ってことだと思いますよ」
 「俺に?」
 「そうです。ここからはわたしの想像も入るんですけど・・・」
 小日向さんは自分の考えを語り始めた。
 「多分、吾妻くんはお母さんが体調崩してからお母さんの側にいることが多かったんじゃないんですか?」
 そう言われてみれば・・・確かにそうだったような気がする。
 結構それで友達もあまり多く無かったし・・・
 「吾妻くんのお母さんはきっと心配だったんですよ」
 「心配?」
 「自分がいなくなった後、吾妻くんが『自分は一人ぼっちだ』って思い込むんじゃないかって・・・」
 「・・・」
 確かに、母さんが亡くなった後、無性に寂しくなったのは事実だ。
 黙った俺に小日向さんはさらに言葉を続ける。
 「だから、そんなことを考えるヒマも無いくらいに楽しい生活を送れる場所で過ごして欲しかったんじゃないかと思います」
 「それで・・・瑞穂坂学園か」
 そういえば、母さんは学生時代のことを喋る時には、いつも楽しそうにしてたっけ・・・
 「もちろん、これはわたしの推測ですから、本当のことは分かりませんけどね」
 でも、俺には大体小日向さんの言うことが正しいように感じられた―――




   
  その後もいろんな話をしながら、俺と小日向さんは開発の進んでいる一角にやって来ていた。
 最近は、就職にも進学にも魔法を使えれば、何かと有利になることが多いので、魔法科のある学校への進学を希望する生徒が多い。
 瑞穂坂学園のあるこの町もその影響か、あちこちでマンションなどの建設が進んでいた。
 「だとしたら、わたしは嬉しいですよ」
 小日向さんがそんなことを言ったのは、そんな工事現場に差し掛かった時だった。
 「嬉しいって・・・何が?」
 「さっきの話ですよ。吾妻くんのお母さんの話です」
 「って、俺のために瑞穂坂学園を選んだって話か?」
 「そうです。そう思ったってことは、吾妻くんのお母さんは、お母さん達と過ごしてた時間が楽しかったってことでしょうし・・・それに・・・」
 「それに?」
 俺がそう聞き返すと、小日向さんは坂道を一番上まで登って俺の方を振り返って言った。
 「こうやって、吾妻くんと知り合うことも出来なかったんですから!!」
 にっこりと、満面の笑顔を向ける小日向さん。
 “ドキッ”
 俺は自分の心が高鳴っていることに気がついた。
 (な、なんだ、一体どうしたんだ・・・)
 自分の心の動揺に戸惑いながら、俺は何となく小日向さんを直視出来なくて視線を外す。
 その時だった。
 『危なーーーい!!』
 上の方から危険を知らせる声が響いた。
 見ると、ビル建設中の工事現場の上から5・6本の鉄骨が落ちて来た。
 そして、その鉄骨の落下する真下には―――
 「小日向さん!!逃げろ!!」
 「えっ・・・キャッ!!」
 俺は小日向さんに声を掛けた。
 だが、小日向さんは体が竦んでしまったのかその場から動けない。
 そして、その横顔が、あの事故の時俺を庇って魔法の直撃を喰らった姉ちゃんの顔にダブって見えた。
 (俺は・・・また誰かが傷つくのを黙って見てることしか出来ないのか?)
 俺の中にあの時何も出来なかった自分への怒りが込み上げる。
 (冗談じゃない!!そんなの・・・そんなのもう嫌だ!!)
 そう思った瞬間、俺は小日向さんの方へ向かって駆け出していた。




  (母さん・・・お願いだ)
 俺は懸命に走りながら、懐のペンダントを握りしめる。
 (俺が、母さんの息子で魔法使いの血を引いているのなら・・・)
 「吾妻くん!?」
 駆けつけた俺に小日向さんが驚いた声を上げる。
 (今だけでいい!小日向さんを助けるために・・・)
 落ちてくる鉄骨がスローモーションの映像のようにも見える。
 俺はカンで両手を真上に掲げる。
 (俺に力を貸してくれ!!)
 次の瞬間、両手に【ズンッ!!】とした重みが掛かった。
 おそるおそる、俺は頭上を見る。
 落ちてきた鉄骨は俺の両手から放出されている『力』によって止められていた。
 その『力』は俺と小日向さんを守るように半径5M程度の小さなドーム状に展開されている。
 とりあえず、当面の危機は回避できたがお世辞にも状況はいいとは言えなかった。
 まず、この俺の『力』がいつまで続くのか分からないこと。
 次に、理由は分からないけど、『力』がドーム上だけではなくてその周りにも影響を及ぼし始めていること。
 展開されているドームの周辺が凍りつき始めていた。
 そして、俺の指先の感覚が無くなりかけていること。
 (クッ・・・クソッ!!)
 俺の心が折れかけたその時・・・
 「吾妻くん・・・」
 小日向さんの不安そうな声が俺の後ろから響いた。
 (そうだ・・・俺がここで踏ん張らなきゃ、誰が小日向さんを助けるんだよ!?)
 俺は小日向さんの方を向いて笑顔を浮かべる。
 最も、かなり作り笑顔に近かっただろうが。
 「大丈夫だよ・・・小日向さんは絶対俺が助けるから」
 「吾妻くん・・・」
 今度の声の響きには若干安堵の響きが混じっていた気がした。
 (とはいえ・・・どうすればいい?どうすれば・・・)
 俺がどうすればいいのか考え始めたその時だった。
 【ポウッ・・・】
 俺の懐が突然光輝いた。
 そして、母さんの形見のペンダントが懐から飛び出すと俺の両手の間でピタリと止まる。
 『和志・・・』
 俺の耳に聞こえたのは死んだはずの懐かしい母さんの声だった。
 「母さん!?どこだ!?」
 だが、俺の声には答えず母さんの声は言葉を続ける。
 『和志・・・私の後に続いて呪文を唱えなさい』
 「う、うん・・・分かった」
 『ウェル・シンティア・レイ・セルス・・・』
 『ウェル・シンティア・レイ・セルス・・・』
 『・・・フォーレス・アスト・シガラティア』
 『・・・フォーレス・アスト・シガラティア』
 呪文を詠唱すると、ドームの外で溢れていた『力』が母さんのペンダントに向かって収束していく。
 そして、それはみるみる内に一本の杖の形になっていった。
 「・・・これで大丈夫」
 母さんの声は安心したような声のトーンになる。
 俺が展開したドーム状の『力』はさきほどとは比べ物にならないほど安定していた。
 『後は、あなた次第よ・・・その『力』をどう使うかは・・・私がしてあげられるのはここまで』
 「ま、待って!じゃあやっぱりこの『力』って・・・」
 だが、それ以上母さんの声が聞こえてくることは無かった。
 そして―――
 『エル・アダファルス!!』
 聞いたことのある声が聞こえた瞬間―――
 その瞬間、自分の両手に掛かっていた鉄骨の重さが消えた。
 誰がが呪文で鉄骨を消し飛ばしてくれたらしい。
 ということは―――
 (た、助かった?)
 俺は何とか、ドーム状の『力』を消した。
 ペンダントから変化した杖が地面に落ちる。
 「すもも!!和志!!大丈夫か!?」
 遠くから雄真さんの声が聞こえる。
 その後ろには神坂さんの姿が見えた。
 さっき、呪文が重なるようにして聞こえて来たことから考えると、俺達2人の姿を目撃して
 とっさに同じ呪文を使って威力が倍増されるようにして鉄骨を吹き飛ばしてくれたのだろう。
 でも、そんなことより今は―――
 俺はまだ、呆然としている小日向さんに声を掛ける。
 「小日向さん・・・大丈夫?」
 「あ、は、はい・・・わたしは大丈夫です。吾妻くんは?」
 「そっか、なら良かった・・・俺も―――」
 そう答えようとした次の瞬間だった。
 突然小日向さんの顔が歪んで見えた。
 (ア、アレ!?)
 足元がフラフラする。何かに捕まってないと立っていられないような―――
 「吾妻くん!?」
 倒れかけた俺の体を小日向さんが受け止める。
 「すもも!!どうしたんだ!!」
 駆けつけて来た雄真さんが小日向さんに問い掛ける。
 「兄さん!!吾妻くんが、吾妻くんが〜〜!!」
 「落ち着いて、すももちゃん!これは・・・魔力の使いすぎによる一時的なショック症状みたいなものだから」
 後から来た神坂さんが俺の様子を観察する。
 「いずれにせよ、学園に戻って御薙先生に診てもらった方がいいわ」
 「よし、じゃあ、俺がおぶって連れて行く」
 「わたしも行きます!!」
 小日向さんが今にも泣きそうな顔で言う。
 「分かった。じゃあすももは『クロウ』を頼む、それと、あの杖も持ってこい。多分和志の『マジックワンド』だ」
 雄真さんはそう言って自分のマジックワンドを小日向さんに渡す。
 「任せて下さい!!」
 「す、すいません・・・皆さん」
 朦朧となりかけてる意識の中で俺は思わず謝る。
 「そんなこと気にすんじゃねぇよ・・・すももの友達じゃ放っとく訳にもいかないだろうが」
 (みんな・・・いい人達だなぁ・・・)
 そんなことを考えながら―――俺の意識は闇に落ちていった―――






                       〜第6話に続く〜


        こんばんわ〜フォーゲルです。『解かれた魔法 運命の一日』の第5話目になります〜

           一言で言うなら『魔力覚醒編』とでもサブタイ付けたい今回の話。

                ついに和志の魔法使いの能力の片鱗が垣間見えました。

        雄真や春姫には見られない現象があらわれていることにも、注目して頂けると嬉しいです。

       ヒロインのピンチに隠された能力が発動するというのは王道中の王道という気もしますが(笑)

   なお、今回出てきました雄真のマジックワンドの名前ですが連載させていただいてる『Memories Base』の

        管理人様の書いたはぴねす!SSに出てきた名を感謝の意味もこめまして採用させていただきました。
 
             雅輝様、ありがとうございますm(−−)m(使用許可も頂いております)

                 次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

今回は時間軸こそ進んでいないものの、内容は急展開って感じですね。

すももの危機に、突然目覚めた和志の魔法。形見のペンダントには、母親の魂が宿っていたのでしょうか。

しかしまだまだ不安定な魔法(ちから)。これを、これからどのようにして操っていくのかにも注目ですね。

そして勿論、和志とすももの関係も。とりあえず今の段階では、お互いに「気になる異性」の一歩手前くらいでしょうか。

それでは、次回もお楽しみにv



2007.7.7