『解かれた魔法 運命の一日〜第4話〜』




                               投稿者 フォーゲル




  (あ・・・いた)
 逃げるように教室を飛び出していった吾妻くんをわたしはようやく見つけました。
 「・・・・・」
 吾妻くんは花屋さんの店先でじっと考え込んでいます。
 (何してるのかな・・・)
 わたしは吾妻くんを物陰からバレないように見ていました。
 「お客様?何かお探しですか?」
 花屋さんの店員さんがそんな吾妻くんの様子に気づいたのか声を掛けます。
 「あ・・・え〜とですね」
 吾妻くんは店員さんにリクエストを出します。
 店員さんはそれに答えて、花束を作りました。
 (白いお花ばっかり・・・)
 遠目に見た花束にはシラユリ・スイセン・カスミソウなんかの白いお花が中心でした。
 「彼女にでもプレゼントされるんですか?」
 「・・・残念ですけど違うんですよ」
 そう答える吾妻くんの答えにわたしは何故かちょっとホッとしました。
 「あ、それと・・・最後にもう一つだけ、花くれませんか?」
 そう言って吾妻くんが最後に指名したお花を見て―――
 (・・・)
 わたしは、吾妻くんがどこに行こうとしているのか分かりました。




  

  俺は階段をゆっくりと歩いていた。
 一番上まで上り切ると、そのまましばらく右に歩く。
 ここは瑞穂坂町でもかなり景色のいい場所だ。
 そして―――
 「ゴメン。転校初日でバタバタしてすっかり忘れてたよ」
 俺はそう言って、目の前の墓石―――
 父さんと母さんのお墓に向かって声を掛ける。
 花束を解き、それを供える。
 そして、母さんのお墓には白いカーネーションを供える。
 (こんなに早くカーネーションの色が赤から白に変わるとは思ってなかったけどな)
 俺はそう母さんの墓に向かって心の中で語りかける。
 (父さんももう母さんが一緒だから寂しくないだろ)
 仲の良かった2人の姿を思い出し、俺は思い出し笑いを浮かべる。
 墓に供えた白い花達が風に揺れる。
 青い空と白い花―――それが母さんが好きな風景だった。
 (俺は大丈夫だよ―――友達も出来たし、それに母さん達はいつでも俺と一緒だしな)
 懐に手を入れる。
 そこには母さんから貰ったペンダントが―――
 (ア、アレ!?)
 俺は必死に懐やそれ以外の全身をまさぐる。
 そこにあるはずのペンダントが無くなっていた。
 (ど、どこにいったんだ!?)
 俺の心に焦りが生まれる。
 その時だった。
 「・・・探してるのはこれですか?」
 「!!」
 後ろから掛けられた声に振り向くと―――
 「小日向さん!?何でここに!?」
 俺のペンダントを持って小日向さんがそこに立っていた。
 「忘れ物届けてあげようと思って」
 「あ、ありがとう!!」
 ペンダントを小日向さんから受け取ると思わず安堵のため息を洩らす。
 (良かった〜〜本当に)
 だが、俺とは逆に小日向さんは何故か俯いたままだった。
 そして―――
 「ゴメンなさい!!」
 小日向さんは俺に深々と頭を下げた。
 「ど、どうしたの!?むしろ頭を下げなきゃいけないのはこっちなのに・・・頭上げてよ」
 しかし、俺の言葉にも小日向さんは頭を下げたまま答える。
 「ゴメンね・・・まさかもう吾妻くんのお母さん達が亡くなってるなんて知らなくて、あんな質問しちゃって」
 (あんな質問?)
 俺は今日の出来事を思い出し、小日向さんが言っているのが『Oasis』での『母の日』に関する質問だと分かった。
 「ああ、あのことか・・・気にしないでよ。知らなかったんだし」
 「でも・・・」
 「小日向さんはこうやって俺の大事なもの届けてくれたじゃないか。だから頭上げてよ」
 「う、うん」
 それでも申し訳なさそうに頭を上げる小日向さん。
 そして、俺の目の前のお墓を見る。
 「これが・・・」
 「そう。俺の両親の墓」
 俺はそう言いながら、供えた花の調整をする。
 そして―――
 「もう十年も前かな―――あの事故のことは―――」
 俺は何故か小日向さんに、『あの事故』のことについて語り始めた。




  
  【シュゥゥゥゥ・・・】
 僕の両手に集まった魔力が安定し始める。
 (よし!もう少しで・・・)
 だが、しかし―――
 【バァン!!】
 安定しかかった魔力が溢れだし、僕の両手の中で弾ける!!
 「うわっ!!」
 僕はその勢いでバランスを崩し、その場にしりもちを付く。
 「どうして!?何で出来ないんだよ!?」
 思わずそう叫んでしまう。
 (くやしいな・・・)
 僕はそんなことを考えながら、もう一回挑戦しようと再び集中しようとした。その時・・・
 「カズ君♪何やってるの?」
 明るい声が僕の背後から聞こえた。
 そこにはピンク色に近い髪を背中くらいまで伸ばし、それを大きなリボンで纏めた一人の女の子がいた。
 夏向きのワンピースが似合っていた。
 「姉ちゃん・・・どうしたの?」
 「う〜ん、変な音がしたから何かな〜と思ってね」
 姉ちゃん―――名前は渚(なぎさ)姉ちゃんはそう言って俺の隣に立つ。
 「ひょっとして・・・昨日のお祖父ちゃん達の言ってたことが気になってるの?」
 僕はこっくりとうなずく。
 昨日、お祖父ちゃん達が遊びに来た時、こんなことを言っていた。
 『全く・・・式守家の次期当主や御薙家の一人息子は和志と同じ年くらいでもう魔法を使いこなしているというのに
  何故和志は魔法が使えないのだ?』
 もちろん、僕には聞こえないように言ったつもりだったんだろうけど・・・
 たまたま、その時部屋の前を通りかけた僕はそれを聞いてしまった。
 父さんも母さんも『魔法を使えるようになるには個人差がありますから・・・』と言って僕のことをかばってくれたけど・・・
 「それでもやっぱり・・・くやしいよ・・・」
 魔法が使えないことはともかく、それで母さん達が責められるのが僕は嫌だった。
 「大丈夫だよ・・・カズ君だっていつか魔法を使えるようになるし、いざとなったら・・・」
 「いざとなったら?」
 「私が母さんの後を継いで魔法使いになって『吾妻家』を継ぐから」
 「え?でも姉ちゃんは・・・」
 「う〜ん・・・確かに私はお母さん達の本当の子供じゃないし、お祖父ちゃん達も認めてくれないかも知れないけどね」
 そう、姉ちゃんは僕と血の繋がった姉弟じゃない。
 ある日、母さんが『今日から和志のお姉ちゃんよ』って言って連れて来たのだ。
 もちろん、最初は戸惑った。
 いきなり、自分と一つしか年の違わない女の子が姉ちゃんになったのだから。
 それでも、家族が一人増えたことは僕にとって嬉しかった。
 「だから、カズ君はそんなこと気にしなくていいの!分かった!!」
 「う・・・うん」
 だが、それでも僕の顔は晴れなかった。
 その様子を見ていた姉ちゃんは『しょうがないなぁ』みたいな顔をして言った。
 「ねえ・・・カズ君?ちょっと見ててね」
 そう言うと姉ちゃんは僕が魔法の練習をしていた池のほとりに立つと、その池に手を突っ込んだ。
 そして―――
 『ウェル・シンティア・ラーク・フォレス・・・』
 短く呪文を唱えると、池の中が明るく輝く。
 そして、水の中から手を取り出す。
 そこには、凍った白鳥の像が姉ちゃんの手の中にあった。
 「うわぁ・・・スゴイや」
 「カズ君だって、これぐらいすぐ出来るようになるよ」
 それでも、俺は姉ちゃんが作った白鳥を見て、目を輝かせていた。
 それを見て、僕の気分が晴れたと感じたのか姉ちゃんは言った。
 「さて、じゃあ帰ろうか?帰ったらお姉ちゃんがホットケーキ焼いてあげるから」
 「本当に?すぐ帰ろう!!」
 「ハイハイ!分かったわよ」
 姉ちゃんは僕の先に立って歩き始めた。




  
 
  「お母さん〜ただいま」
 姉ちゃんが家のドアを開ける。
 だが、お母さんからの声は返ってこなかった。
 家の中はシーンと静まりかえっていて、誰もいるような気配が感じられなかった。
 「地下室じゃないかな?」
 僕はそう姉ちゃんに話し掛ける。
 母さんは魔法の研究をする時は、地下室に篭ることが多い。
 「そうかもね〜行ってみようか?」
 姉ちゃんはそう言って地下室に足を向けた。
 
 【ピチョン・ピチョン・・・】

 水滴が落ちる洞窟みたいな場所を歩きながら、姉ちゃんと僕は母さんのいると思われる場所を目指す。
 母さんは万が一事故が起きても大丈夫なように洞窟のような場所を地下室にしていた。
 しばらく歩くと・・・
 「あなた!大丈夫!!」
 母さんの怒鳴るような声が聞こえてきたのはその時だった。
 僕と姉さんは顔を見合わせその声の方へ向かった。
 「ですから、玲香さん・・・私達としてはその宝珠(オーブ)を渡して貰えればいいんですよ」
 僕と姉さんがその場所に辿りついた時、母さんは青く輝くオーブをしっかり握りしめていた。
 「あなた達・・・これがどんなに危険なものか分かっているの!?」
 物陰から覗くと、母さんを遠巻きにして囲むように4・5人の人物がいた。
 「私達はただ、そのオーブを『ある方』から奪ってくるように頼まれただけなんですよ」
 「『ある方』って言うのは?」
 「あなたが知る必要はありません。大人しく渡して頂けないのであれば・・・」
 リーダー格の人物がチラリと倒れている人物を見る。
 (父さん!!)
 そこには倒れたままピクリとも動かない父さんの姿があった。
 「あそこに倒れた方と同じ状態になるだけです」
 「・・・」
 唇を噛む母さん。
 僕は思わず後ずさり・・・
 【ドンッ!!】
 大きな音が洞窟内に響きわたった。
 「誰だ!!」
 その音のせいであっという間に僕と姉ちゃんは見つかってしまう。
 「なるほど・・・息子さん達ですか」
 「お願い!その子達には手を出さないで!!」
 「それは・・・あなた次第です」
 リーダー格の男が僕達の方に向かって歩いてくる。
 その時だった―――
 母さんが持っていた青いオーブが突然光り輝き―――
 次の瞬間に感じたのは、膨大な魔力の暴走と―――
 僕と姉ちゃんのいる方向に向かってきた魔力から僕だけを突き飛ばし、
 「カズ君!!逃げて―――」
 と叫ぶ姉ちゃんの声だけだった―――



―――それから10年の月日が流れた―――



  「あ〜ついに卒業か〜感慨深いな」
 俺はそう言いながら母さんの病室のドアを開ける。
 「調子いいか〜?母さん」
 「そうね・・・今日はいいほうね」
 そんな母さんの声を聞きながら俺はベットサイドに座る。
 窓の外には母さんの好きな白い花と青い空の風景が広がっていた。
 「和志・・・卒業おめでとう」
 母さんが俺の目を見つめながら言う。
 「う、うん・・・ありがとう」
 今日は俺の中学の卒業式だった。
 「ゴメンね・・・母さん、こんなんだから行けなくて」
 「別にいいよ。その気持ちだけで」
 あの事故で、父さんは亡くなり、母さんと姉ちゃんは無事だったものの、
 母さんはほとんど魔法を使えなくなり、姉ちゃんは母さんが育てるのは無理だと判断され、
 養子に出されてしまった。
 母さんはその分、俺だけはちゃんと育てようと無理した分病気がちになってしまった。
 「あっ・・・そうだ。和志・・・」
 「何?」
 「卒業祝いで受け取ってほしいものがあるんだけど」
 母さんはそう言うと自分の首から掛けていたペンダントを外す。
 それは、家族が幸せだった頃、母さんがずっと身に付けていたものだった。
 母さんはそのペンダントに向かって何事か囁く。
 俺は直感で母さんが何かペンダントに魔法を掛けたんだと思った。
 「これ・・・和志が持ってて欲しいんだけど」
 「え・・・でもこれ母さんがずっと大切にしていたものじゃ・・・」
 「和志に持ってて欲しいの・・・お願い」
 「わ、分かったよ・・・」
 あまりに真剣に俺を見つめる母さんの眼差しに俺は思わずそれを受け取る。
 「それと、もう一つ母さんからお願いがあるんだけど」
 「何だよ・・・何でも―――」
 俺がそう途中まで言いかけたその時だった。
 【ギュッ!!】
 母さんは俺の体を抱きしめた。
 「ち・・・ちょっと、母さん・・・誰か入ってきたら恥ずかしいぞ・・・」
 だが、口ではそう言いながらも俺は、母さんを引き剥がそうとはしなかった。
 「ゴメンね・・・ゴメンね」
 何故か俺を抱きしめながら母さんは謝っていた。
 そして、その時感じたものが―――
 母さんから俺への最期の温もりだった―――





  「その後、母さんの遺品を整理してたら俺の瑞穂坂学園への転入届が出てきて」
 「それで、吾妻くんは・・・」
 「そう。瑞穂坂学園に転入することを決めたって訳」
 全てを話し終わって、俺は一息付いた。
 小日向さんはしばらく黙っていたけど、しばらくすると口を開いた。
 「魔法の勉強をやめようとは思わなかったんですか?」
 「う〜ん、不思議とそれは考えなかったな」
 小日向さんの質問に答える俺。
 「あの事故の原因のあのオーブはまだ行方不明だし・・・何とか見つけて破壊するか、封印するかしないといけないし」
 (もう、あんな思いをするのは俺だけで十分だしな)
 俺はそう心の中で付け加える。
 「それに、姉ちゃんも魔法を勉強してると思うから・・・」
 「・・・」
 「魔法を勉強してれば、いつか姉ちゃんに会えるんじゃないかっていう気がしてるんだ・・・可能性は低いかも知れないけど」
 「そんなことないですよ!!」
 大きな小日向さんの声に俺は一瞬たじろいでしまう。
 「吾妻くん、こんなに辛い想いや哀しい想いをしてるんです!会えないなんてこと絶対無いですよ!」
 ふと見ると小日向さんの目からは涙が流れていた。
 「・・・ありがとう。小日向さんのその気持ちだけで嬉しいよ」
 そんな小日向さんを見ながら俺は―――
 (そういえば・・・母さんも誰かのために泣ける人だったっけ・・・
  何しろ姉ちゃんを引き取って来た時に、姉ちゃんが泣かなくなるまで一緒に泣いていたって人だし)
 俺は何故かそんなことを考えていた―――




                        〜第5話に続く〜



                 こんばんわ〜フォーゲルです。第4話になります〜

       今回は和志の過去話になります〜・・・雄真以上にヘビーな内容になってしまった(汗)

  今回のポイントは和志の事故は那津音の事件よりは前、雄真の事件よりは後という点ですかね(時系列的には)

                後は、和志の『血の繋がっていない』姉・渚の存在ですね

           (つーかかなりの確率で『こりゃ後で出るだろ』とか思ってる人が多そう)(笑)

              次回はついに和志が・・・と言う内容になるかな〜と思ってます。

                      それでは、5話もお楽しみに!!


管理人の感想

ついに明らかとなった和志の過去。

ちょっと予想していたのと違いました。私の予想では、事故の時点で両親を亡くしたものだと思っていたのですが・・・。

母親の方は、事故が直接の死因になっていないものの、間接的に体調を悪くして10年後に他界。

そして更なる新キャラクター、渚。

あぁ、予感がビンビン来てます。すもものライバル的存在になりそうな予感が(笑)

さて・・・雄真たちにはハチが話しているはずですが、彼がどこまでを知っているのかも気になるところですね。

それによっては、ハチもかなり物語の中核に食い込んでくるはずですから。


それでは、皆様。また次回をお楽しみに〜^^



2007.6.23