『解かれた魔法 運命の一日』〜第38話〜
投稿者 フォーゲル
『エル・アムダルト・リ・エルス・・・』
御薙先生の涼やかな声が研究室の中に流れる。
それと同時に、俺の身体を魔力が覆い始めた。
御薙先生の魔力は俺の身体の表面をなぞるように移動すると、やがて消えた。
「大丈夫ね。魔力の暴走も抑えられてるわ」
「じゃあ・・・」
「魔法を使っても大丈夫よ」
「そうですか!良かった〜」
俺の魔法の暴走事件から一ヶ月ほどが経っていた。
あれから、背中の痣の痛みも無くなってたし、個人的には大丈夫だとは思っていたのが、
念のため御薙先生にチェックをして貰ったのだ。
「けど、完璧な制御がされてるわね」
上半身を脱いだ俺の背中を見ながら、御薙先生が感心したように見ている。
俺の背中の『青龍の痣』はまだ存在しているのだが、以前御薙先生が施した封印の印綬は消えていた。
その代わりに―――
「今は『力』を抑えるというよりは『包み込んでいる』という感じね」
『青龍の痣』の回りには、羽の模様が浮かんでいて、それが『青龍』を守るような形で浮かんでいるのだ。
「吾妻くんの話と文献を調べてみた結果から総合してみたけど・・・それは多分、すももちゃんの魔力のおかげね」
「すもものですか?」
あの空間の中で見た、すももの背中から伸びた金色の羽を思い出す。
「詳しいことはまだ分からないけど、すももちゃんの魔力は『四神』に干渉出来る稀有な魔力だってことは確実ね」
御薙先生は窓の外を見る。
「それと、同時に『彼らの』力にも干渉出来るという可能性も示しているってことよ」
「それは・・・つまり、すももも狙われる可能性もあるってことですか?」
「そうなるわね」
しばらく研究室を沈黙が落ちる。
「・・・大丈夫ですよ。俺がすももを守ります」
俺は迷いなくきっぱりと答えていた。
すももは俺にとって最愛の人だから―――
“コンコン”とドアをノックする音がした。
「失礼しま〜す」
声と共に入って来たのはすももだった。
「あら、すももちゃん。どうしたの?・・・恋人のお迎え?」
「そ、そんな・・・」
御薙先生に指摘され、顔が真っ赤になるすもも。
「わ、わたしは、ただ和志くんがいつまで経っても来ないから、気になりまして・・・」
「あらあら、お熱いわね♪・・・式守さんの気持ちも分かるわ」
「師匠のですか?」
「式守さん、グチっていたわよ。『あの2人の周りだけ空気が違うのだ』ってね」
そ、そうなのか・・・俺としては普通にしているつもりだったんだが・・・
「まあ、これからも式守さんに教えを請うつもりなら、覚悟しておいた方がいいかもよ。吾妻くん」
「どういう意味ですか?」
「『最近、吾妻和志はたるんでいるから、これからはビシビシと厳しく行く』っていってたから」
「そ、そうですか・・・」
これから来るかも知れない過酷な日々を想像してゲンナリする俺。
「あ、そうそう・・・」
御薙先生は何やら思い出したかのように、机の中から何かを取り出す。
「2人共、これからヒマなのかしら?」
「えっ?どこに行くかは決めてませんけど・・・」
「だったら・・・ハイこれ?」
御薙先生は俺達に2枚の紙を見せる。
「あっ・・・これって」
それに反応したのはすももだった。
「『Rein Days』(レイン・デイズ)のチケットじゃないですか?」
「すもも、何だその『Rein Days』って?」
「和志くん、知らないんですか?今大評判のラブストーリー映画ですよ」
そうなのか?アクションとかミステリーとかしか見ない俺ととしては、興味の対象外だった。
「ダメね〜吾妻くん。彼女の喜びそうなスポットはチェック入れなきゃ」
「肝に銘じておきます・・・」
「でも、何で御薙先生がチケット持ってるんですか?お母さんもGET出来なかったって言ってたのに・・・」
「そこはそれ・・・コネよ」
そのコネとやらがスゴイ気になるが・・・あんまり深入りしないほうがいい気がする。
「本当は、雄真くん達にあげようかとも思ったんだけど、2人共『今日は遊園地に行ってくる』って言ってたから、
吾妻くん達に使ってもらおうかと思って」
「でも、いいんですか?御薙先生だったら声掛ければいくらでも・・・」
「そうしたかったんだけど私も仕事が入っちゃって・・・だから、ね」
「わ、分かりました。そういうことなら・・・」
俺はそのチケットを受け取った。
「じゃあ、お言葉に甘えて早速行くか?すもも」
「そうですね」
「じゃあ、2人共楽しんで来てね」
「はい、ありがとうございます」
「あ、そうそう、吾妻くん」
研究室を出ようとした俺に御薙先生が声を掛ける。
「教師の立場としては『不純異性交遊』はダメよ〜」
「だ、誰もしませんよ!!」
(そうだった・・・本質的には御薙先生も音羽さんと似たタイプだったっけ・・・)
俺は今更ながら、そんなことを思い出していた。
『うっ・・・ううっ・・・』
俺の隣ですももが涙ぐんでいた。
評判通りに『Rein Days』は感動作だった。
「だ、大丈夫か?すもも」
かく言う俺もラブストーリーは興味無い方だったのだが、正直泣きそうになった。
特に主人公がヒロインの幸せを願いながら死んでいくシーンは・・・
「う、うん。ありがとう・・・」
俺からハンカチを受取りながら言うすもも。
「ち、ちょっとゴメンね。化粧室行ってくるね」
そう言ってすももは駆け出していった。
(やれやれ・・・相当映画に感情移入してるな、あれは・・・)
俺はそんなことを考えながら、近くのソファーに座る。
「あの〜もしもし?ちょっとよろしいでしょうか?」
座った俺に声を掛けた人がいた。
長身のスラッとしたスタイルバツグンの女性だった。
「何ですか?」
「こちらの映画をご覧になったんですよね?」
「え、ええ・・・」
「感想はどうでしたか?よろしければインタビューにお答え頂きたいんですよ」
見ると彼女の後ろにはテレビカメラが回っていた。
(よくテレビとかで見る『感動しました!!』とか答えてる映画の宣伝の奴か・・・)
アレは、『ウソくせぇ〜』とか思って見てたんだが・・・
(こうやって撮ってるんだな・・・)
まあ、協力しない理由も無いし。
俺はそう言ってその女性のインタビューに答えていた。
「・・・」
俺の前をズンズンと歩くすもも。
その背中からは明らかに怒りのオーラが満ちていた。
(うわぁ・・・怒ってるな・・・)
いや、原因は分かってるんだけどね。
単純に、俺が女性とのインタビューを終わって振り返ったら、怒りを浮かべたすももが立っていたという訳だ。
「なあ〜すもも・・・いい加減機嫌直せよ・・・」
「・・・男の子って何でそうなんですか?」
歩調は変わらぬまま、歩き続けるすもも。
「和志くん、顔がニヤけてました」
「しょうがないだろ〜男の本能っていうか・・・」
(そう言えば、雄真さんが、『すももはヤキモチ焼きだから、気を付けろよ』って言ってたな・・・)
俺はそのことをまざまざと実感していた。
「本当に、反省してますか?」
「してる。してる!だから許してくれって・・・」
「じゃあ・・・わたしのお願い聞いてくれますか?」
「ああ、何でも聞く!!だから・・・」
すももは俺の返事を聞くと早速動いていた。
“ギュッ”
(えっ?)
すももは俺の身体を抱きしめていた。
「えへへ・・・やっと抱きつけました♪」
すももの顔からはさっきまでの怒りの表情は消えていた。
「すももさん?ひょっとして怒ったふりですか?」
「そうですよ〜♪」
(だ、騙された・・・)
「だからって、こんな回りくどいことしなくても」
「だって、和志くん、普段はこんなことなかなかしてくれないじゃないですか・・・キスはしてくれますけど」
「しょうがないだろ・・・恥ずかしいし」
それでも、俺の胸の中で幸せそうな顔をしているすももの顔を見ると、怒るに怒れない。
(ああ、これが師匠言うところの『2人の間だけ空気が違う』ってことなんだろうな・・・)
俺がそんなことを考えながら、すももにされるがままにされていると・・・
“スリスリ”
俺の足元で何か擦れる音がした。
その音に気が付いて、俺が足元を見ると、小さな小動物が俺の足元にすり付いていた。
「うわぁ〜可愛い〜」
すもももそれに気が付いたらしく、しゃがんでそれを抱き上げる。
「ハムスターかな?」
「みたいだな・・・というかここらへんには野生でいるとは思えないから・・・誰かが飼ってたのが逃げたんじゃないか?」
「ねえ、和志くん・・・」
すももの言いたいことは分かっている。
「そうだな。俺達で飼い主を探してやるか」
「そうですね!!」
俺とすももはひとまず、そのハムスターを連れていくことにした。
「まずは、ポスターとかだよな・・・」
とりあえず、すももの家で飼い主探しの方法を検討してみることにした。
リビングで2人して顔をつき合わせて、考えていると。
そのハムスターがすももに近寄っていく。
「心配しなくても大丈夫だよ。飼い主はちゃんと見つけてあげるからね」
すももはそう言ってハムスターを抱きしめる。
そのフェレットはちょっと寒かったのか―――
あろうことか、胸のところからすももの服の中に入っていった。
「えっ・・・あっ、ちょっとダメだってば・・・」
ちなみにそのハムスターはかなり小柄で、すももの身体の中を動き回る。
なかなか、服の中から取れないハムスターに悪戦苦闘するすもも。
「あっ・・・やめっ・・くすぐっ・・・」
涙目になりながら、すももは俺を見る。
(っておい、まさか・・・」
「か、和志くん、ち、ちょっと取って下さい」
「はぁ!?いや、無理無理!!」
ハムスターを取るためにはどうしても、すももの服の中に手を入れなきゃならない訳で・・・
「べ、別にいいじゃないですか〜恋人同士なんですし」
「た、確かにそうだけど・・・」
かといってこのまま放っとく訳にも・・・
「ああ!もう!」
俺はすももから目を逸らすと、服の中に手を突っ込んだ。
モゾモゾと動くハムスター。
(ああ、このエロハムスター!!)
「か、和志くん、へ、変なところ触らないで下さい〜」
「し、しょうがないだろ・・・」
さらに動くハムスター。
「あっ・・・か、和志くん・・・そ、そこはダメです。うんっ・・・」
だんだん、すももの声が鼻に掛かった甘い声に変わって来た。
「変な声出すなって・・・」
(妙に意識するから・・・)
俺がそんなことを考えていると・・・
「すもも〜帰ってるのか?」
玄関から雄真さんの声がする。
(マ、マズイ〜)
何とか雄真さんがトイレとかに行ってくれることを願った。
が、雄真さんは真っ直ぐリビングに来てしまった。
雄真さんはリビングに顔を出すなり、そのまま固まった。
状況的には―――
『俺がすももの服の中に手を入れて何かしている』
(お、終わった―――)
「和志」
その一言でリビングの空気が10℃以上下がったような気がした。
「あ、あのですね、雄真さん、これには事情が・・・」
「一応、言ってみろ」
「え〜とですね。簡単に説明すると、俺とすももが拾ったハムスターがですね、すももの服の中にですね・・・」
「そうか、そうか・・・そのハムスターってのは、これか?」
雄真さんの足元でチョコンと座っているハムスター。
(お、お前いつの間に〜〜〜!!)
「和志、俺は『すももを頼む』とは言ったが、ここまでやるのはまだ早いんじゃないか?」
「え、え〜と・・・」
何とか反論を考える俺。だけど―――
『お前、人の家で何やってんじゃあああああ!!』
雄真さんの怒りの絶叫がリビングに響き渡った――――
その後のことは・・・正直あんまり覚えてない(というか思い出したくない)
ただ、師匠との修行再開が、2・3日伸びたことと、
ハムスターは飼い主が見つからず、姉ちゃんが引き取ったことだけを記しておく。
〜第39話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第38話になります。
今回は前半シリアス、中盤、ラブラブ、後半、ちょっとエッチ(?)な流れに・・・
伊吹・・・同じクラスでキツイかも知れんが、頑張って慣れろと(笑)
後半は・・・雄真、それはキレるわなという展開に。
まあ、いくら認めても実際にそういう場面(?)を見せられると、さすがにな(笑)
次回はすもも視点のラブラブ話かなと。
すももにとって永遠の課題がテーマになるかと思います。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
今回は二人のデート編!って感じでしたね。
鈴莉の域な計らいによって行くこととなった、映画デート。まあ鈴莉にとっては、すももも娘のようなものなのでしょうしね。
そしてデート当日。やきもちを妬くすももが可愛かったですね。
ハムスターを保護し、そもまますももの家へ。雄真のナイスタイミング振りに噴きました。
っていうか、和志よ。雄真が帰ってきたのが分かったのなら、まずすももの服から手を抜いてみようか(笑)
次回はすもも視点ということで。また甘々なんだろうなぁ。
それでは!