『解かれた魔法 運命の一日』〜第35話〜
投稿者 フォーゲル
“ズガァァァァァンッ”
カズ君の荒れ狂う魔力は、森の木々を薙ぎ払って行きます。
(もう、一刻の猶予も無いわね・・・)
「渚さん、私は一体どうすればいいんですか?」
すももちゃんの声に我に返る私。
「今、カズ君は『青龍』に支配されて、意識を乗っ取られているの」
すももちゃんだけじゃ無く、周りのみんなにも状況を説明する。
「それは、マズイのではないか?私の読んだ文献では、『四神』に意識を乗っ取られた人間はそのまま精神を喰らいつくされるのだろう?」
カズ君の暴走した魔力が及ばないように、高峰さんと一緒に防御呪文を展開している式守さんが問い掛ける。
2人は四神の力を借りた防御呪文を使っていた。
「普通はそうなの。だけど私は、カズ君の意識がまだ残ってるんじゃないかと思ってる」
「その根拠は何だ?」
小日向君の問いに私はすももちゃんを見る。
「一つは、カズ君がすももちゃんにレイアちゃんを託したこと」
すももちゃんによると、カズ君は『倒れた後に』レイアちゃんを渡した。
つまり、それはカズ君本来の魔力がまだ残っているということ。
そして、もう一つは―――
「キャッ!」
「どうした春姫?」
神坂さんの悲鳴に小日向君が心配して近寄る。
「なっ・・・これは」
見ると、神坂さんの指先が凍りつき始めていた。
「暴走した魔力が周りのものを全て凍りつかせ始めてるのよ」
「どうやら・・・そのようですね」
高峰さんや式守さんの指先もだんだん凍り始めているみたいでした。
「すももちゃんは、大丈夫なの?」
「えっ?」
神坂さんの声にすももちゃんは自分の身体を見る。
私も含め、みんな暴走した魔力で身体の一部が防御魔法を展開している状況でも凍りつき始めている状態なのに、
すももちゃんだけは、その影響を受けていないようでした。
「それが根拠のもう一つ―――カズ君の意識が『すももちゃんだけは守ろうとしている』んだとしたら、
説明が付くのよ」
私はそこですももちゃんを見ます。
「お願い!すももちゃん!カズ君を助けて!」
もう、私には助けてあげることは出来ないから―――
“ヒュンッ”
わたしが閉じていた目をゆっくりと開けるとそこには―――
(和志くん・・・)
身体はボロボロ、目を閉じていて生きているのかどうかも分からない和志くんの身体がそこにはありました。
その身体を見ると胸が締め付けられる思いがしました。
「すももちゃん・・・」
「何ですか?渚さん?」
わたしの身体を転送魔法で和志くんの近くまで連れてきてくれた渚さんが声を掛けます。
「カズ君をよろしくね」
「分かりました」
「レイアちゃん。頼んだわよ」
『分かったわ!何が何でもすももちゃんを和志のところまで連れていくから』
レイアちゃんを使って、和志くんの魔力とわたしが今使っている『金色の羽』の魔力を同調させて、和志くんの意識の中に入って
和志くんの意識を引っ張り出せれば―――
それが渚さんの考えた作戦でした。
「お願い。2人共―――きゃあっ!?」
その声と共に渚さんの姿が消えてしまいました。
「渚さん!?」
『大丈夫よ!魔力に吹き飛ばされただけだから!私達は私達のやるべきことをやりましょう』
「は、はい」
そうだ、今は―――
わたしはうつぶせに倒れた和志くんの背中に手を当てます。
『そう、そのまま意識を集中して―――』
レイアちゃんの声がだんだん小さくなって行きます。
(待っててね、和志くん。今助けに行くから―――!!)
わたしの意識はだんだん、小さくなって行きました。
(・・・!?)
わたしは目の前に広がった光景に驚きました。
見渡す限りの闇、闇、闇―――
(これが和志くんの心の中なの?)
その闇の中を私の背中の金色の羽とレイアちゃんが照らしています。
『すももちゃん、行くわよ』
「う、うん・・・」
漂うようにわたしはレイアちゃんと移動します。
その闇の中に丸い球体状の何かが移動していきます。
(・・・?)
わたしはその中の一つに触れます。
『姉ちゃん〜待ってよ』
『カズくん〜早く来ないとおいてっちゃうぞ』
(・・・!?)
わたしの頭の中に小さい頃の和志くんと渚さんの幸せそうな映像が見えました。
驚いてその球体から手を放すわたし。
(今のは・・・和志くんの小さい頃の思い出?)
どうやら、この球体状のものは、和志くんの思い出の一つ一つを表しているみたいです。
(和志くん・・・小さい頃から渚さんのこと―――)
さっき見た渚さんの告白シーンを思い出します。
わたしの心がまた痛みます。
(・・・今はそんなこと考えてる場合じゃないです!!)
わたしはブンブンと頭を振ります。
その振った頭の先に―――
『?・・・どうしたの?すももちゃん』
動きが止まった私の視線の先をレイアちゃんも見ます。
『な・・・こ、これは・・・』
私達の視線の先には物凄く大きな球体とその中心に―――
「和志くん!?」
その球体の中で膝を抱えて座り込んでいる和志くんの姿が見えました。
その球体は大きさももちろんですが、異様なのはその色でした。
記憶の球体は、いろんな色をしていましたが、この球体はとても黒くて中がほとんど見えませんでした。
和志くんの姿も目をこらしてようやくわかったほどです。
「和志くん!?和志くん!?」
私は中にいる和志くんに大声で呼びかけます。
しかし、和志くんは何の反応も示しません。
「これは・・・この球体の中の思い出を見てみるしか無いですね・・・」
『・・・』
わたしの言葉に黙り込むレイアちゃん。
「どうしたんですか?レイアちゃん」
『すももちゃん・・・一つお願いがあるの』
「何ですか?」
『この中にある和志の記憶を見ても、和志のことを嫌いにならないでくれる?』
「何言ってるんですか!?わたしが和志くんのことを嫌いになる訳無いじゃないですか」
『・・・ありがとう』
「じゃあ、行きますね」
わたしはゆっくりとその球体に手を触れました。
「ですから、玲香さん・・・私達としてはその宝珠(オーブ)を渡して貰えればいいんですよ」
「あなた達・・・これがどんなに危険なものか分かっているの!?」
わたしの目に最初に飛び込んで来たのは男の人と言い争う和志くんのお母さん―――玲香さんの姿でした。
そして、男の人と玲香さんを取り囲むように4・5人の男の人が居ました。
(これは以前、和志くんがわたしに話してくれた魔法の暴走事故の記憶ですか?)
確か、この後に・・・
「私達はただ、そのオーブを『ある方』から奪ってくるように頼まれただけなんですよ」
「『ある方』って言うのは?」
「あなたが知る必要はありません。大人しく渡して頂けないのであれば・・・」
その視線の先には男の人が倒れていました。
(あれが・・・和志くんのお父さんですね)
「あそこに倒れた方と同じ状態になるだけです」
「・・・」
玲香さんが悔しそうに唇を噛むのが見えました。
【ドンッ!!】
「誰だ!!」
その音に気が付いた男の人達が当たりを探して―――
「なるほど、息子さん達ですか」
小さい頃の和志くんと渚さんがあっという間に見つかってしまいました。
「お願い!その子達には手を出さないで!!」
「それは・・・あなた次第です」
ゆっくりとした足取りで和志くん達に歩いていく男の人達。
そこまでは、わたしが和志くんから聞いていた話の通りでした。
だけど―――
「では、まず彼女から―――」
男の人はそう言うと渚さんにナイフを向けます。
「止めなさい!」
玲香さんの声が洞窟内に響きます。
(どういうこと?和志くんから聞いた話と展開が―――)
わたしの疑問をよそに状況は変わって行きます。
「やめろ〜」
和志くんが泣きながら、その男の人を叩きます。
「うるせえ!クソガキ!!」
“ドカッ”
男の人が和志くんを蹴り飛ばします。
(!!)
思わず目を逸らすわたし。
「和志!!」
玲香さんの悲鳴が響きます。
ゴロゴロと転がる和志くん。
「さて、では大人しく宝珠を―――」
リーダー格の男の人が玲香さんを見た。その時―――
“ドクンッ”
わたしの背中に悪寒が走ります。
その方向を見ると―――
「やめろ・・・」
ゆっくりと立ち上がった和志くんの姿が見えました。
その回りから魔力が立ち上るのが―――
(まさか―――)
わたしの中である考えが浮かびます。
「やめろーーーーー!!」
和志くんの回りで膨れ上がった膨大な魔力と―――
玲香さんの持ってる宝珠が反応して―――
その後は、和志くんが話してくれた内容と同じ光景が展開されました。
そして、その後―――
魔力の暴走が収まった後、空中に浮いていた『青龍』らしき魔力の集合体と宝珠が融合して、
倒れている小さな和志くんの身体の中に入って行きました。
(じゃあ、和志くんの探している宝珠は―――)
わたしがそんなことを考えている時でした。
「か、和志・・・」
気を失っていた玲香さんが目を覚まします。
傷だらけの身体で必死に這いつくばりながら、和志くんの方に近づいて行きます。
「和志・・・あなたは、魔法を忘れて幸せに生きて―――」
玲香さんはそんなことを言いながら、和志くんの頭に手をかざすと呪文を唱えます。
淡い光が和志くんを包む。
呪文の光が消えたことを確認すると、玲香さんもその場に気を失いました。
(これが、和志くんのトラウマの―――)
「そう、これが真相だったんだよ。すもも」
その声と同時に周りの風景が消えて―――
目の前に和志くんが立っていました。
「和志くん・・・帰ろう。みんな心配してますよ」
わたしは、和志くんに近寄ります。
「来るな!!」
その声に一瞬、わたしの足が止まります。
「すももだって、見たんだろう?『あの事故』の真相を」
わたしは思わず頷きます。
「俺は、自分の魔法の力で大切な人を守れると思っていた。だけど・・・」
和志くんは自嘲気味な笑みを浮かべます。
「情けない話だよ。父さんの人生を、母さんの魔法使いとしての夢を奪って、姉さんに大怪我までさせときながら、
すもも達を守ってやるなんて言ってたんだからな」
「でも、それは、玲香さん達を守ろうとして―――」
「それでも、俺がした事実が消える訳じゃない」
和志くんが言葉を続けます。
「俺はきっと、このまま『青龍』に意識を乗っ取られたままの方がいいのかも知れない」
「な、何を言ってるんですか!?」
わたしも思わず大声を出します。
「だって、そうだろ!このままじゃまた、すももや大切な人達を傷つけるかもしれないんだぞ!」
「じゃあ、和志くんはわたしにウソをついたんですか!?」
わたしは和志くんに詰め寄ります。
「言ってくれたじゃないですか!初めてわたしの家に来た時、わたしを『全力で守ってやりたい』って言ってくれたのはウソなんですか!?」
「ウソな訳無いだろ!ただ、怖いんだよ・・・また大切な人を傷つけたらって思うと・・・」
「・・・」
「それに、大切な人を傷つけてしまった俺に、幸せになる資格なんか無い―――」
その言葉を聞いたとたん、わたしの中で何かが弾けました。
“パンッ”
気が付くとわたしは和志くんの頬を平手打ちしていました。
「何で・・・何でそんなこと言うんですか?」
わたしは言葉を続けます。
「『幸せになる資格なんてない』なんてそんな寂しいこと言わないで下さい!!」
「す、すもも・・・」
頬をさすりながら呆然とわたしを見つめる和志くん。
「わたしは和志くんに幸せになってほしいんです。だってわたしは―――!!」
そこでわたしは一旦言葉を切ると、口を開きました。
『わたしは和志くんのことが、大好きだから―――!!』
〜第36話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第35話になります〜
今回は主に和志の精神世界での話になりましたね。
和志が知ってしまった『あの事故』の真相。
(一応あの事故に裏があるっていうのも、21話の最後で振ってあります)
自分を責める和志を励まそうとして、ついに自分の想いを告白したすもも。
次回はついに・・・(いやその前に和志が立ち直らないといけないわけだが)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
解かれた魔法、35話でした〜^^
ますますヤマ場って感じですねぇ。青龍の魔力を暴走させながらも、すももを守り続ける和志と、自ら和志の精神世界に入り彼を助け出そうとするすもも。
そして明かされた真実。宝玉は和志の中に眠り、また玲香が死んだ直接の原因が・・・。
そのまま殻に閉じこもっていた和志に対して、ついにすももの想いが解き放たれる――。
次回、二人の関係に決着は着くのか!?