『解かれた魔法 運命の一日』〜第33話〜
投稿者 フォーゲル
「・・・様!!藤林様!!」
私を呼ぶ声がする。
「うっ・・・うん?」
その声に気がついた私はゆっくりと目を開ける。
「藤林様!!大丈夫ですか?」
「さ、沙耶さん?信哉君も?」
目を覚ました私を見てホッとした表情を浮かべる2人。
「どうされたんですか?こんなところで?」
私は頭を整理する。
(確かカズ君を見送った後、綾乃さんの声が聞こえて、その後―――)
私は、思わず周囲の気配を伺った後、沙耶さんに聞く。
「沙耶さん、私の他に若い女性を見なかった?」
「いや、見ていないが?」
その問いには沙耶さんでは無く、信哉君が答える。
(どういうこと?私を殺す訳でも、連れ去るでも無くただ気絶させただけなんて・・・)
「あの、藤林様?」
考え込んだ私に声を掛ける沙耶さん。
「あ、ゴメンね。・・・そういえば2人は何でこんなところに?」
「私達は、伊吹様の姿を探していたんですけど、不意に違和感を感じまして」
「違和感?」
「何て言えばいいんでしょう・・・魔力が大気に満ちていくという感覚を感じたんです。
その時に屋上から一瞬魔力が膨らんだのを感じたので」
その時に、綾乃さんが私を気絶させたのだろう。
私は空を見上げる。
いつの間にか、黒い雲が覆い始めていた。
「藤林様、・・・教えて下さい。一体何が起こってるんですか?伊吹様も何も教えてくれないんです」
「・・・」
思わず黙りこむ私。
教えるのは簡単だけど・・・でもそれは沙耶さん達を巻き込むことになる。
それに―――
『私達の目的のために『式守の秘宝』を利用させて貰おうと思っているだけだ』
「!!」
不意に割り込んで来た声に私達3人は声の方を振り向く。
そこに立っていたのは30代半ば、高い身長、短い髪の男の人だった。
「純聖さん・・・」
私はその人の名を呼ぶ。
「お久しぶりです。渚殿」
うやうやしく頭を下げる純聖さん。
だが、その目には友好的な色は無かった。
「純聖さん、一体何が目的なんですか?」
私は警戒しながら問い掛ける。
「それは私の口から喋ることでは・・・無い!!」
その言葉と共に純聖さんは背中に背負った竹光を振り下ろす!!
刀から生まれた衝撃波が私達を襲う。
「はああああ!!」
私と沙耶さんの間に割って入った信哉君の木刀がその衝撃波を打ち消す。
「ほう、どうやらそなたのマジックワンドも刀の形か?」
感心したように信哉君を見る純聖さん。
“ゴゴゴゴゴゴ・・・・”
地震のような地響きが起こったのはその時だった。
「ほう・・・始まったな」
その言葉に使鬼の杜を見る私。
使鬼の杜からは、禍々しい魔力が感じられ始めた。
「・・・藤林殿」
振り向かずに信哉君が話す。
「ここは、俺と沙耶で食い止める。藤林殿は使鬼の杜へ向ってほしいのだ」
「で、でも・・・」
「伊吹様が俺達には何も話してくれないことから考えると、恐らく俺達には危険なことなのだろう。
でも、伊吹様は吾妻殿や藤林殿とは行動を共にしている。
伊吹様が信頼しているのなら、俺達はその人間の助太刀をしようと決めたのだ。
間接的に、伊吹様を助けることになるだろう?」
「藤林様・・・私からもお願いします」
「・・・分かったわ」
私が頷くのを確認した信哉君は、純聖さんに突っ込む!!
“ガギィィィン!!”
純聖さんのマジックワンドにして竹光『虎徹』(こてつ)と信哉君の『風神雷神』が真っ向からぶつかる。
私は向かい合っている2人の横をすり抜けようとする。
「させぬ!」
純聖さんが私に注意を向けたその瞬間。
「沙耶!!」
その声と共に間合いを取る信哉君。
『幻想詩・第三楽章・天命の矢!!』
沙耶さんの呪文が純聖さんを打ちすえる!
それを横目に見ながら私は屋上を脱出した。
私は走りながら、使鬼の杜を目指していた。
純聖さんの足止めをしてくれている信哉君達を心配しながら。
と、同時に私はもう一つのことが気になっていた。
(カズ君・・・大丈夫かな?)
すももちゃんを追っていったカズ君。
綾乃さん達が考えているのは、おそらく『式守の秘宝』を使っての―――『四神』の暴走。
だけど、小日向君達は『四神』のコントロールはある程度可能のはず。
となると綾乃さん達が狙うのは―――
(・・・やっぱり、カズ君を一人にするべきでは無かったわね)
いくらショックが大きかったとはいえ、あれは私のミスだった。
(カズ君、お願い・・・無事でいて!!)
私がそんなことを考えながら、使鬼の杜を目指していると―――
「渚ちゃん!」
神坂さんと小日向君が私を見つけて走り寄って来る。
見ると2人共、ところどころ制服に焦げ目がついていたりする。
「2人共、ひょっとして・・・」
「ああ。こっちも『風流四家』の人間だと思われる奴に襲われたんだ」
「やっぱり・・・どんな人だった?」
「浅黒い肌で、若い男だったぞ」
「・・・義人さんね」
「やっぱり、『風流四家』の人間なの?」
「ええ・・・」
私達は走りながら使鬼の杜を目指す。
「ところで2人は、どうやって義人さんの攻撃をくぐり抜けたの?」
「・・・杏璃ちゃんが、足止めしてくれてるの」
「柊さんが?」
「ああ、俺達が攻撃されてるところに、突然現れて、
「『ここはあたしが足止めしてあげるから早く行きなさい!』ってな」
「正直、杏璃ちゃんを一人で置いていくのは不安だったんだけど・・・」
神坂さんが心配そうな声で言う。
「どうやら、俺達が何かしているってのは柊達にはバレバレだったみたいだな」
「そうみたいだね」
「でも、だとすると急いでこの状況を何とかしないと」
私は使鬼の杜の方を見る。
ますます、魔力が大気に満ちていくのを、私は感じていた。
信哉君達や柊さんが弱いと言っている訳じゃない。
けど、もし純聖さんや義人さんが、『あの力』を使ったら―――
頭に浮かんだ悪い考えを振り払いながら、私は足を動かし続ける。
「でも、『式守の秘宝』は伊吹と小雪さんが守ってるんだ。大丈夫だろ」
綾乃さん達が何を考えているにしろ、強力な魔力の源である『式守の秘宝』に何らかの影響があるのは間違い無い。
そこで、伊吹ちゃんと高峰先輩は『式守の秘宝』をガードする役目をしていた。
御薙先生を除けば、2人は『瑞穂坂最強のコンビ』と言ってもいいはず。
それでも、私の心には不安が生まれていた。
「ぐ・・・ぐぅっ!!」
私の身体を強力な重力が押し潰す。
「い、伊吹さん・・・だ、大丈夫ですか?」
私と同じ状況におかれている高峰小雪の声が聞こえている。
「だ、大丈夫だ・・・」
そう答えると、私は何とか立ち上がろうとする。
しかし―――
「あら、まだ動けるんですか?仕方ないわね。『ラグディーン』頼んだわよ』
『分かった・・・』
その女が地面につき立てたマジックワンドに指示をする。
その瞬間―――
“ズシンッ”
「ぐ・・・」
更に私の身体にかかる重力が増した。
「伊吹さん!」
高峰小雪の声を聞きながら私はただ、その女―――扇花綾乃をを睨みつけることしか出来なかった。
「『四神』の力を受け継ぐ式守家と高峰家の後継者と言っても、やっぱりこのマジックワンドの力には勝てないのね。
まあ、2人はちょっとそこで黙って見てて貰うだけだから」
「ち、ちょっと待って下さい」
高峰小雪が声を上げたのはその時だった。
「何かしら?」
私達が完全に動けないのをいいことに余裕の表情でこちらを見る扇花綾乃。
「何で、あなたがそのマジックワンドを持っているんですか?」
表情を変えずに私達を見つめる扇花綾乃。
言葉を続ける高峰小雪。
「そのマジックワンドは、10年前ヨーロッパで所在不明になった通称『ラグナ=ワンド』です・・・
それに、貴女のマジックワンドは違うものだったはずです」
私も高峰小雪も魔法使いの名家の出身なので、『風流四家』の一つである扇花家とは付き合いがあった。
もちろん、藤林家とも付き合いがあり、藤林渚とも知り合いだった。
さすがに、瑞穂坂に転校して来たり、吾妻和志の姉だとは予想出来なかったが。
「その通り、このマジックワンドは柾影のものよ」
藤林柾影―――本来なら藤林家の次の後継者になるはずだった男。
本来のマスターがいないにも関わらず、これだけの魔力を発揮するとは・・・
さすが、『神々の黄昏』と呼ばれる魔法使いの世界最終戦争を引き起こしたと言われるだけのことはある。
「綾乃さん・・・あなたは柾影さんが何でこのマジックワンドのマスターになったか知ってるんじゃないんですか?」
「・・・ええ」
高峰小雪の質問に扇花綾乃の表情が曇ったような気がした。
「『あの話』を聞けば、あなた達だって柾影に協力したくなるわよ・・・『魔法を使って』っていうのは皮肉だけどね」
どういう意味だ?
私がそう聞こうとしたその時だった―――
“ガサッ”
不意に誰かが森の枯れ葉を踏みしめる音がした。
私は最初、吾妻和志など『四神』の力を持つ誰かが助けに来たのだと思った。
というのも、無関係の人間を巻き込まないために、使鬼の杜には『神の力』を使える者しか入れないように結界を私と高峰小雪で掛けておいたのだ。
しかし、そこに居たのは、ここにいてはいけない人物だった。
大きなリボンに明るい栗色の髪、私の親友―――
(す、すもも・・・)
もう、どれくらい走ったんでしょう。
『カズ君、私は―――カズ君のことが好きです。弟としてじゃなく一人の男の子として、愛しています』
渚さんの告白現場を目撃したとたん―――
わたしの身体はガクガクと震え出しました。
それに答えて和志くんの口が動きはじめます。
(イヤ・・・イヤだ!!)
その答えを聞きたくなかった。
「す、すもも!?」
和志くんが、わたしに気づきます。
気がつくとわたしは持っていたクッキー缶を落としていました。
どうしていいか分からなくなったわたしは―――
『あ、あの・・・その・・・ゴメンなさい!!』
たまらずに、その場から逃げだしていました。
その後、どこをどう走ったのか覚えていません。
気が付くと、わたしは学園の裏の森の中にいました。
ふと、頬に冷たい感触を感じました。
(わたし―――泣いてる?)
でも、この涙は拭かなきゃいけない涙です。
和志くんが渚さんと幸せになるのなら、わたしは笑って祝福してあげないといけないから―――
なのに―――
(な、涙が止まらないよ・・・)
涙を拭いながら、わたしは走って来た道を戻ろうとします。
その時でした。
“ズシンッ”
森の奥から変な音が聞こえました。
その音が気になったわたしはその音の方に行ってみました。
そして―――
わたしはその光景を呆然と見ていました。
前に、わたしや和志くんの目に現れた女の人が伊吹ちゃんと小雪さんを見て何か喋っていて、そして伊吹ちゃんはその場から動けないみたいでした。
“ガサッ”
わたしが音を立てて枯れ葉を踏んだのはその時でした。
「誰っ!?」
その女の人がわたしの方を見ます。
「なるほど・・・柾影の言う通り、彼女は―――」
「すもも!逃げるのだ!」
その女の人の声を遮るように伊吹ちゃんの声が響きます。
「逃がさないわよ!!」
その人の使った魔法がわたしに向って飛んで来ます。
わたしは動けずに、目を閉じました。
“ズドンォォォォン!!”
しかし、その音はわたしに当たった音ではありませんでした。
「ふう〜何とか間に合ったな」
その声は、ここにいるはずの無い人の声―――
「か、和志くん・・・?」
わたしを抱きかかえるようにして、魔法を使っている和志くんの姿がわたしの目に写りました。
〜第34話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第33話になります。
読んでくれてる人達の最大のツッコミは『渚、連れ去られた訳じゃないのかよ!』かも知れないな(笑)
杏璃や信哉達も話しに絡んで来て、バトル絡みでのストーリーも動き始めたという感じにしてみました。
本来のマスター無しで伊吹と小雪を押さえ込む『ラグディーン』の異様さにも注目してほしいですね。
終わりのすもも視点で切なくなったりして貰えると作者的には嬉しいかなと。
そして、すもものピンチに颯爽と現れた和志など、次回のフリにも期待して頂けると嬉しいです。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
さてさて、面白くなってきましたね〜!
純聖に上条姉妹、義人に杏璃がそれぞれ足止め役を買って出るが、果たしてどれほどもつか・・・。
そして伊吹や小雪をも圧倒する、柾影のマジックワンド――ラグナ=ワンド。
能力は・・・重力、かな。二人のレジストを以ってしても跳ね返すどころか押し込まれているのは、流石としか言いようがありませんね。
そしてそこに迷い込んでしまったすもも。すももを襲う凶弾に、絶妙のタイミングで現れた和志。
秘宝の暴走は食い止められるのか!?次回に期待です。